ルディとパウロさんが和解してから、数日が経った。ここ最近のやる気のなさが嘘のようにパウロさんは隊長として働きまくっている。ルディに良いところを見せたいのだろう。
俺の仕事はだいぶ減ってきたため、トレーニングに励むことができた。が、なかなか思う通りにはいかない。普通の剣術と違って剣を振るというより、それを実戦で活かす方が大事だからだ。
(人攫いや貴族の私兵と戦うことはあるけど、ぶっちゃけあの辺が相手だと魔術がなくても勝てるしな…)
ちなみに俺は魔術と剣術の組み合わせた攻撃を魔剣流と呼ぶことにした。もちろん、剣術の三大流派と比較したら歴史もないし、使い手も今のところ俺しかいないから勝手に名づけただけだ。
「で、ルディ。なんかちょうどいいトレーニングとかあったりするかな?」
俺は隣にいるルディに歩きながら聞く。今日、俺たちはパウロさんやノルンちゃんの4人でご飯を食べるということになっている。俺はルディを迎えに行く役割を担ったのだ。
「ルイジェルドさんに鍛えてもらうのはどうだ? レードも強いっていうのは知ってるだろ?」
「それができるならありがたい話だけど、もうすぐ出て行くんだろ?」
「レードも来ればいい。父様も働けてるわけだしさ」
確かに隊長としての俺の仕事はほぼなくなり、青空教室も無理してするほどのものでもない。それにパウロさんもダメとは言わないだろう。しかし、俺の懸念点は別のところにあった。
「それはそうなんだけどさ…」
「ノルンのことが心配か?」
俺は頷く。
「父様もいるし、団員の人たちもいるから大丈夫だと思うけど」
「身の安全はな。でも、精神的には大丈夫じゃないかもしれないだろ。あと、俺的にもあの子と会えなくなるのは…」
強くなりたいと頭では思っているのに、こういうところで迷いが生まれるのはまだまだ未熟ということなのだろう。
「…昔の俺とシルフィみたいだな」
「依存してるように見えるか?」
「俺たちのときよりだいぶマシだけどな」
そういえばルディはシルフィ姉の大学のお金まで稼ごうとしてたな。
「どう言えばいいかな。泣かれたら断れる自信がない」
「それでも話すしかないさ」
そうして俺たちはパウロさんたちが待つ料亭に着いた。結局、良い案は出なかったが。
「お待たせしました、父様」
「そんなに待ってないから、大丈夫だ」
「家族水入らずのはずなのに、俺が参加してよかったでしょうか?」
「ノルンも参加してほしいって言ってたしな」
パウロさんが言うとノルンちゃんが俺の方へ駆け寄ってきた。
「お待たせ、ノルンちゃん」
彼女を抱き上げて俺は言う。
「レード兄、ありがとう!」
にこやかな彼女の横にいるルディからなんらかの威圧感を感じる。あの、お兄さん? 怖いんですが。
それを見ていたパウロさんが声をかける。
「ノルン、ルディにも挨拶しなさい。あとルディは嫉妬するな。レードがビビってるだろ」
「やだ。お父さんを殴る人とご飯食べたくない」
「父様…。それは、無理です」
ノルンちゃんとルディからは拒絶の一言。ノルンちゃんは可愛いからいいけど、ルディのそれはマジで怖いからやめてほしいのだが。将来、グレイラット家の敷居を跨ぐなとか言い始めないか心配だ。
「こら、そんなこと言っちゃダメだろ。お父さんだって、悪いことをしたら殴られるんだ」
「お父さん、悪くないもん」
と俺にしがみつく。
「レード…。覚悟はできてるか?」
「落ち着け、ルディ。大人気ないぞ」
嫉妬の視線を飛ばしまくるルディに言う。てか、シルフィ姉のこと考えたらお互い様だからな?
とりあえず目の前の妹の方をなんとかするか。兄の方はあとで話し合えばいい。
「…ノルンちゃんも機嫌なおしてもらえないか?」
「レード兄の頼みでも、それは無理」
どことなく兄と妹だからか、似てるところがある気がする。ていうか、ノルンちゃんが俺のことを呼ぶたびにルディから圧を感じてヤバいんだが。
パウロさんも説得しようとしたが、それを止めたのはルディだ。
「父様、仕方ありません。ノルンはまだ幼いですし、それに、もし、僕が逆の立場だったら、父親をぶん殴った奴を許したりはしませんから」
「たった2人の兄妹かもしれないんだ。仲良くしないと…」
「父様、そんな不吉なこと言わないでください」
「3人とも生きてますよ。絶対」
話が終わったところで俺たちは店に入った。一年くらい前にこの店では食べたことがあるが、相変わらず美味しかった。ルディは普段はあまり美味しくない魔獣の肉ばかり食ってるらしく、とくに美味しそうに食べていた。
一通り料理を食べ終わりお腹も膨れてきたところで俺は思い切ってパウロさんとノルンちゃんに聞く。
「パウロさん、ノルンちゃん。俺がルディと一緒に行きたいって言ったらどうします?」
「どうしますって言われてもな…。急にどうしたんだ?」
「このままここにいても俺は成長できない気がしたんです。自分が作ろうとしてる技も上手くいかなくなってきましたし」
パウロさんは複雑な表情で答える。
「俺は構わないが、ノルンは…」
彼女は目に涙を溜めてこちらを見る。
「レード兄、行っちゃうの?」
「大丈夫だ。もっと強くなって、また、必ず会えるよ」
「レード兄は十分強いもん!」
「ルディを見て、俺は一緒に頑張りたいと、まだまだ弱いって思えたんだ。俺のわがままを許してくれ」
彼女の顔を見てると、その気が抜けてくるような気がしたので俺は無理矢理目を逸らした。
「行かないでよ…」
涙でぐちゃぐちゃになってるその顔をパウロさんが拭う。そうして数分ほど経ち、泣き疲れたノルンちゃんは船を漕ぎ始めた。
「それでも、意思は変わらないか?」
「はい、変わりません」
「…分かった。ルディ、レードを任せた」
「もちろん。と言っても鍛えるのはルイジェルドさんでしょうけど」
「魔術についてもルディに教わりたいことはたくさんあるんだ。よろしく頼むよ」
こうして俺はルディたちと一緒に旅をすることが決定した。ノルンちゃんは大泣きだったが、このままだとあの日のシルフィ姉とルディのような関係になっていたと思う。パウロさんがしっかり働けてるときに決断ができてよかった。
そうして1週間後。ついにミリス神聖国から経つときがやってきた。俺は馬車に乗る前にノルンちゃんに言う。
「絶対、また会える。だから、そのときまでパウロさんの言うことをしっかり聞くんだよ」
彼女は涙で目を腫らしていたが、頷いてくれた。
「よし、それなら大丈夫だ。これ以上、ここにいると未練が出てくるからもう乗るね」
最後に頭を軽く撫でて馬車に乗り込む。と、その前にパウロさんにも挨拶をする。
「…世話になりました、師匠」
「ミリスに来てからはどっちかっていうと、俺の方が世話になってたさ。ノルンは任せろ」
「それを聞けて安心しました。今度会うときはみんなで飲みましょう」
「そうだな」
2人で笑い合って今度こそ乗り込む。俺ももしかしたら泣いていたかもしれない。それを振り払うようにすでに別れの挨拶を済ませたルディに言う。
「すまない、待たせた」
「もういいのか? もうちょっと…」
「いや、大丈夫だ。これ以上ここにいたら動けなくなる」
「…そうか」
こうして俺は後ろ髪を引かれながらもミリス神聖国を後にした。
ここからルイジェルドとエリスも活躍します