俺はルディ、ルイジェルドさん、エリスさんと旅をすることになった。が、最初に感じたのは圧倒的な彼らとの差だった。ルイジェルドさんはともかく、ルディやエリスさんだって冒険者として名を馳せている。俺は経営者としては多少名を挙げてはいるものの、冒険者としては素人もいいところだ。つまり強くても旅のセンスがあるとは言えないというわけだ。
そんな俺にもエリスさんやルイジェルドさんはよくしてくれていた。2人は接近戦が得意、ルディは遠距離戦が中心の戦い方であり、どちらも都合良くこなせる俺の戦い方はちょうど彼らの隙を埋めることができた。といってもそこまでその隙というのも少ないものだが。
王竜王国を経由してシーローンへ向かうとルディは言った。その道中、エリスさんとルイジェルドさんが眠ったのち、俺はルディに聞く。
「…なあ、なんでシーローンに寄るんだ? 真っ直ぐアスラに行かないのか?」
しばらく悩んだのちルディは口を開く。というか、大した質問でもないのだから、適当にはぐらかしてくれても構わないのだが。
「…アイシャとリーリャがいるので」
アイシャちゃんはルディの妹、リーリャさんはその母であったはずだ。
「なんでそこにいると分かる?」
「どうしても、言わなきゃダメか?」
先ほどから歯切れが悪い。そんなに言いたくないことなのだろうか。
「いや、無理にとは言わないけどさ。少なくとも2人の居場所はどこかで聞いたことなんじゃないかなって」
「…ヒトガミという存在から助言を受けたって言ったら信じるか?」
「ヒトガミ? なんなんだ、それは」
「俺だって分からないけどさ、一言で言うなら性悪だな。俺みたいなやつに適当なお告げを言って嘲笑うようなやつだ」
やけに酷い言い草だ。さぞ大変な目に遭わされたのか。
「そいつに言われたってわけか。しっかし、やけに嫌ってるじゃないか。ここまで言うなら会ってみたくなるな」
「あいつを好きなやつなんてこの世にいないだろうよ。会うのはやめとけ。碌なことにならないだろうし」
なら会わないことにするか。といってもいつどこで出くわすのか分からないが。
「しかし、やっぱり羨ましいなぁ。こんな可愛い子を侍らせて。俺には恋人のこの字もないのに」
「レードだって選り好みしなきゃ余裕だと思うけどな。ノルンとか特にそうじゃないか」
確かに俺を慕ってくれる人はいた。が、全員子どもだ。恋人としてじゃなく先生として信頼してくれているだけだ。
「ノルンちゃんは無理でしょ。シルフィ姉とルディが結婚したら、血がしっかり繋がってるしさ」
「そうだ。俺がいなくなってからのシルフィの話をしてくれよ」
こうして俺はシルフィ姉が数年間でどこまで成長したのかを話した。無詠唱で治癒魔法まで使えるのだ。魔力量も俺よりだいぶ高い。次に会ったときに俺があまり成長してないと思われないか不安だ。
「手紙とかも禁止だったんだよな」
「そうだよ。1年に1回くらいは会いたかったんだけどな」
「まあ、そのおかげでエリスさんに集中できたんだからよかったんじゃないか?」
「大変だったけどな。最初の数ヶ月とか特に」
そんなこんなでルディと語り明かしていく。やはり、久しぶりの親友との会話は楽しいものだ。向こうもそう思ってくれてると信じたい。
「あ、そうだ。最後に一ついいか?」
「ん?」
「アイシャと会ったときは俺のことは偽名で呼んでくれると助かる」
「別に構わないが…。それもヒトガミの指示か?」
「従う義理はないんだけどな」
そう言って彼は肩をすくめるのだった。
こうして数日後。シーローン王国に到着した。ルディ曰く、この場所には彼の師匠でもあるロキシーさんがいるらしい。ルディは彼女に手紙を送りたいと言っていた。
デッドエンド+俺の作戦会議が終わったのち、各々自由行動となった。エリスさんとルイジェルドさんはアイシャちゃんたちの情報収集。ルディは手紙を出したのち同じく情報収集である。
俺はかつて仕事を斡旋していた建設会社へ向かう。一度顔を合わせてはいるが、今はミリスにはいないため、生存確認も兼ねて会いに行った方がいいだろう。
「これはこれは、レードさん。お久しぶりです」
従業員が声をかける。彼もまた俺が転移事件後に仕事を斡旋した1人だ。
「せっかくここに来たのだから、社長さんに挨拶でもと思ってね」
通された奥の部屋にいたのは筋骨隆々の男であった。見た目はヤクザのそれである。
「久しぶりだな! レード!」
声も態度も体もやたらとデカい色黒のこの人はガロンという男である。
「お久しぶりです、ガロンさん。ウチが送った人たちはちゃんと戦力になってますか?」
「おお、もちろんだ。あの事件の影響で俺たちのような建設企業は大忙しだからな!」
人が増えれば建物がいる。そのため彼らのような建設企業は稼ぎどきのようだ。ちなみに、その収入の数%は俺に入ってくるようになっている。おかげさまで俺の懐も潤っているのだ。
「そうですか。それで相談なんですが、人探しを頼んでもよろしいでしょうか」
「遠慮なく言ってくれ。どういう人だ?」
「俺と同じ長耳族で、無詠唱で治癒魔法が使える13歳の少女です。出身地はフィットア領ブエナ村。名前はシルフィエット」
俺が言うとガロンは鷹揚に頷く。
「分かった。知り合いにも聞いておこう。お前さんの家族か?」
「姉です。この情報をアスラ王国や王竜王国、ラノア王国にも広めてくれると助かります」
彼は他所の国とも繋がりがある。発信力は俺以上にあるだろう。
「ミリスはいいのか?」
「はい。すでに手を回しておりますので」
「分かった。候補が見つかり次第伝える。この先どこに行くんだ?」
「一度フィットア領に戻りたいと思います。その後はラノア王国にとりあえず向かおうかなと。フィットア領と近いので」
「分かった。そういうことならラノアの知り合いに伝えておこう。まあ、手紙より先にお前さんが来るかも知れんがな」
正直、アスラ王国とラノア王国でどちらに向かうか迷ってはいたが、俺の勘を信じてラノアに向かうことにした。そこにいなきゃまた探さなくてはならないが。
(向こうもその場でじっとしているとは限らないから、途方もない作業だな…)
そんなことを思いながら俺は会社を後にした。このあとはアイシャちゃんたちの情報収集だ。どこへ行こうかと思っていたところ路地裏から声が聞こえた。
「我が名は影月の騎士(シャドームーンナイト)!」
ルディの声だ。俺は路地裏に向かうとそこには赤髪の少女と騎士が数人、そしてルディがいた。
「…何やってんだ?」
「レード、なんでここに?」
「情報収集ついでにうろついてたら、お前の声がしたんだよ。っていうか、この子は…」
目的の少女のアイシャちゃんだ。よく見つけたな。俺が感心していると、王国の騎士らしき人が言う。
「いいか坊主。正義の味方ごっこをするのはいいが、おじさんたちはこれでも王宮の兵士なんだ。彼女が迷子になってたから、迎えにきただけなんだよ」
「彼女の持っていた手紙を破いていたようですが?」
「あ…いろいろあるんだよ、大人には」
はぐらかされたな。しかし、だいたいの事情は飲み込めた。
「だっ、だずげでぐだざい!」
アイシャちゃんが涙ながらにルディに引っ付く。そうすると、しばらく考えたのちルディは無詠唱で岩砲弾を飛ばした。
しかし、騎士は水神流の技で躱し、仲間を呼び始めた。
「逃げますよ!」
「う、うんっ!」
「…いや、マジで何してくれてんの、お前」
騎士連中がこちらにゾロゾロと来る。完全に囲まれてしまったところで、ルディは土槍を作り、まるで大砲のように弾け飛んだ。ドンキーコングのタル大砲か。
「てか、俺を置いてくなよ…」
ジリジリと詰め寄ってくる騎士を前に俺は呟く。こうなったら仕方ない。戦うしかない。
(魔剣流、土煙幻惑)
俺は土魔術で煙を出し、周囲の視界を完全に遮る。そうして闇雲に剣を振り回す彼らのそれを躱して背後を取る。この動き自体はかつてルディに対してしたものと同じものであり、水神流から利用しているものだ。が、土煙で周りが見えない上、動きに緩急をつけることで相手からは目の前にいると思ったら背後を取られてるという状況になる。
とはいえ斬り捨てるわけにはいかないため、片っ端から気絶させることにした。
どうにか路地裏から抜け出せたが、当然彼らは追ってくる。全滅させるわけにはいかないため泥沼を設置して動きを封じたのち、どうにか逃げ延びた。
(結構、初見殺しには使えそうだな。まだ、要研究ではあるが)
こうして窮地を脱した俺はルディたちが待っているであろう宿屋に向かうのだった。
レード曰く魔剣流にはまだ数種類の技があるようです