どうにかこうにか兵隊を撒くことに成功したが、心底疲れた。殺さずに片づけるというのは無駄に神経を使うし面倒くさいものだ。
(ったく、ルディの野朗、押しつけやがって…)
最低でも謝ってもらえないと溜飲が降りないな。そう思いながら部屋に戻ると、アイシャちゃんの声が聞こえた。
「兄は紛うことなき変態です!」
「そ、そうか、お兄さんは変態か、そりゃ大変だね、ハハハ…」
兄とは言うまでもなくルディのことだろう。そうだ、ちょうどいいし先ほどの仕返しをしてやるとするか。
「その兄について、俺からも一つエピソードがあるぜ」
「レード兄様!」
アイシャちゃんが笑顔を向ける。彼女と会うのは2年ぶりくらいになるのか。
「久しぶりだね、アイシャちゃん。で、その兄についてなんだけどさ。そいつは俺の姉と仲が良くてさ。あるとき遊んでたら大雨が降ったんだよ。ずぶ濡れで家に帰った2人なんだけど、兄の方は姉に何をしたと思う?」
「何をしたんですか!?」
「脱がせたんだよ。姉の方は必死に抵抗してたっていうのに、無理矢理ね。しかも極めつけは兄の方は姉を男だって思ってたっていうやつ!」
「…やっぱり変態です!」
「だろ?」
そう言いながらルディを見ると、俺をガッツリ睨みつけている。が、ここで俺にキレたらアイシャちゃんに正体がバレるため必死で堪えているようだ。
その姿を見れただけで十分満足だ。
(少しやり過ぎたかな…。いや、それくらいはしていいはずだ)
とまあ茶番はここまでにして。アイシャちゃんがルディの本名について聞く。
「ところで、ナイトさん。本名はなんというんですか?」
「内緒です。巷では『デッドエンドの飼主』と呼ばれてますがね」
ルディが飼主なら俺は何に当たるのだろうか。というか俺は自分の通り名とかまだ聞いたこともないな…。
2人の兄妹がキャッキャしてるなか、俺は
自分の二つ名を考える。といってもこういうのは自分で考えていいものなのかも分からないが。あとでルディに聞いてみるか。
というか、ルディにパンツ大事にするやべー趣味があったのか。常々変態だとは思ってはいたが、これほどまでとは。おそらくロキシーさんのパンツだろう。というか、そうであってほしいまである。これがシルフィ姉のだったら助走つけてぶん殴りかねない。
「では、僕が君の母さんを助け出します」
「え? で、でも…」
「任せてください」
兄としての株を上げたいのだろう。ルディは自信満々に言う。もっとも彼なら城に忍び込んでリーリャさんを助けることなど容易いだろう。そうでなくても、エリスさんやルイジェルドさんもいるわけだし。
「アテはあるのか?」
「それはこれから考えるさ」
その後は彼女に何があったのかを話していた。俺は何度もルディと呼んでしまいそうになったが、どうにか誤魔化した。それからしばらくしているうちにアイシャちゃんは話疲れたのか眠ってしまった。
ルイジェルドさんとエリスさんが戻ってきたのは日が沈んだ頃だった。なんでも奴隷市場で喧嘩に巻き込まれたのだという。2人はリーリャさん救出の話になると城に攻め込むかと気合いを入れていたが、とりあえずはロキシーさんの返事を待つことになった。
そして翌日。昼にルディが兵隊に連れられ、城へ向かうことになった。ロキシーさんからの返事があったらしい。
「1人で大丈夫なのか?」
ルイジェルドさんが心配そうに聞く。なんか問題が起きそうな気配がある。
「大丈夫です。何かあったら飛んで戻ってきますから。任せてください」
そう言って彼は兵隊とともに出て行った。俺たちはアイシャちゃんの護衛役なわけだが、正直過剰戦力だ。
「尾行してきます」
嫌な予感がしていた俺は言う。
「そうだな。エリス、アイシャを頼めるか?」
「分かったわ!」
こうして3人バラバラで行動することになった。俺は何かあったときルディとリーリャさんを救出する役目だ。
(王城の中には入るべきかな…)
ルディがあんまり時間がかかるようならそれも実行しなくてはならない。が、無茶な真似をしたらリーリャさんにも被害が及ぶかもしれないのだ。
彼が城の中へ入って1日が経った。俺は一度城に関して情報収集したのち戻り、再び門の近くに行く。どうしたものかと考えているところ、辺りが騒々しくなった。
(もしかして、アイシャちゃんを探してるのか…?)
それにしてはやる気がない気がするが。無理矢理やらされてるからなのかもしれない。ここにいても状況は変わらないだろう。
(忍びこむか)
俺は忍者でも暗殺者でもないが、見た感じ警備が割と緩めのここなら、リーリャさんとルディを救い出すことくらいなら可能だろう。
(門番は2人、か)
音もなく近づいて気を失わせる。魔剣流を使うまでもない。というか下手に魔剣流を使ったら殺してしまう危険性があるし目立つので迂闊には使えない。
念のため倒した門番から鎧と兜を回収する。あとで必ず返すので見逃してもらいたい。
(探し人はどこですか〜。見つかりやすい人ですか〜なんて)
アイシャちゃんを探すために兵を出しているのか城内はがら空きだ。とりあえず俺は先にリーリャさんを探す。しかし、手がかりがない。これは時間がかかりそうだ。
俺が城内を探索していると、
「ここに放り込んでおけ!」
と声がした。陰から様子を伺うと偉そうな少年がリーリャさんを部屋に閉じ込めるよう指示しているではないか。
思いの外簡単に見つかった。ここに来るまで尾行はバレないし、都合のいいことが多いものだ。こっちが不安になってくる。
王子と思しき人たちが姿を消したのを確認して、俺はその部屋に向かう。ドアには当然鍵がかけられていたが、一太刀で真っ二つにした。
中ではリーリャさんが驚きの表情を浮かべている。そりゃそうだ。王国の兵隊が自分を助けにきたのだから。
「安心してください、リーリャさん。レーディスです。助けに来ました」
「レーディス様…!」
「さあ、ここから抜け出しましょう」
彼女の手枷を外し、外に出る。しかし、ルディはどこに行ったのか。まあ、とりあえずリーリャさんをルイジェルドさんに預けてからもう一度潜入するか。
「ルディの居場所に心当たりはありませんか?」
「地下室に閉じ込められています。結界に閉じ込められているのかと」
結界に閉じ込められているなら、外からぶち破るのは困難か。
「誰がそのようなことを?」
「パックス王子です。私を閉じ込めていたのも彼です」
真っ直ぐルディを助けに行った方がいいかもしれない。ぶっちゃけ俺1人でも王子と兵隊なら倒せるだろうし。
「分かりました。ルディがいるところに案内してください」
こうして俺はリーリャさんの案内で、ルディの閉じ込められている部屋に向かった。しかし、その中ではカオスな光景が広がっていた。
ルディは想定通り結界に閉じ込められていた。しかし、その目の前で先ほど見た王子が頭を割られそうになっているのだ。ヒョロっとした男に。
(…何が起きてんだよ)
「ルーデウス様は、この世界に二つとない素晴らしい人形を作るお方。そんなお方が、パックスの下らぬ復讐に利用されるなど、あってはならぬ事!」
「アアアアァァァ! 割れる、割れる、割れるぅぅ!」
いつか俺がやろうとしたドアタマカチ割りの刑をここで執行しようとしているようだ。
「ジンジャァァァ! 助けろ! 家族がどうなってもいいのか!」
「自分の家族でしたら、昨晩ルイジェルド殿が助けてくださいました」
「なにぃっ!」
なるほど。ルイジェルドさんはそこで行動していたか。俺は小声で聞く。
「リーリャさん、こちらは?」
「第三王子のザノバ様です」
ルディを助けようとしているため、敵ではないように見える。やってることはかなり怖いが。
「わ、分かった。お前の言う通りにしよう!」
「なら、この城に囚われたリーリャの身柄を確保していただきたい」
「無論だ。父上の耳にも入れよう…」
とここで俺が口を挟む。
「それに関してなんですけど、もう助けましたよ」
「レード!?」
「よ、ルディ。思ったより消耗してなくて何よりだ」
ザノバ王子が俺に聞く。
「そなた、何者だ?」
「レーディスと申します。ここにいるルーデウスの救出に来ました」
「なるほど、そういうことならすぐに解放しよう」
ザノバ王子は思いの外寛大なようで、俺が忍び込んだことは不問としてくれた。あとから聞いたが、俺の知らぬ間にルイジェルドさんたちと兵隊の間でさまざまな動きがあったようだ。長くなるので割愛させてもらうが、こうして、ルディとリーリャさんの救出に成功したのだ。
少しというかかなり駆け足でしたが、シーローン編終了です。あんまり目立ってねぇ…