いろいろあったものの、リーリャさんとルディの救出には成功した。ルイジェルドさんが裏で兵士の人質として囚われていた家族の解放に尽力していたようだ。そう考えると俺がわざわざ城に忍び込まなくても、ルイジェルドさんとザノバ王子の2人がいれば解決できたかもしれないな。
ちなみに事件の責任を取らされるような形で、ザノバ王子は留学、パックス王子は国外追放という形になった。ザノバ王子の方はなぜか師匠となったルディを異常なほどに慕っていたが。
アイシャちゃんとリーリャさんとはシーローン王国で別れることになる。どのくらいの期間か分からないが、パウロさんたちと一緒に過ごしてもらうのだ。
ルディとの別れの挨拶を済ます直前、俺は彼女に言う。
「アイシャちゃん、ミリスに行ったらパウロさんによろしく伝えといてくれる? あと、飲んだくれて仕事サボらないようにって」
「分かりました!」
「それとノルンちゃん、君の姉とも仲良くするんだよ。もちろん、無理にとは言わないけど、なるべくね」
「はい! レード兄様もお気をつけて!」
そう言ってルディの元へ向かって行く。
「リーリャさんもお気をつけて」
「はい。何から何までありがとうございます」
「お礼はルディに言ってやってください。俺は何もしてませんから」
実際、今回俺はあんまり役には立たなかった。ルイジェルドさんが裏で動いてなかったら、無理矢理2人を連れ帰ってシーローンから逃げるってやり方も取れたが、冷静になって考えればリスクが大きすぎる。
「それでも、助けてくださったのはお2人ですから」
「…こちらこそ」
俺は頭を下げて馬車に乗り込む。エリスさんは寂しそうにルディとアイシャちゃんたちを眺めていた。
「少し寂しい?」
「少しね。それにあの人に任せても大丈夫か、不安だわ」
「パウロさんはあれで普段は頼りになるから…」
なるよね? また、ミリスでヤケ酒したりしてないよね? 自分で言ってて不安になってきた。
「連れて行ってもよかったんじゃないかしら」
戻ってきたルディにエリスさんが言う。
「いや、あれでいいんだ。アイシャにはまだ早すぎる」
まあ、生きてさえいればこの先会うこともあるだろうからな。それがなるべく近い未来でお互いに健やかであることを祈る限りだ。まあ、俺は長耳族だから、長生きできるだろうけど。
俺たちはこうしてシーローン王国を後にした。
さて、ここからは少し自分のことについて話そう。魔剣流もルディのアドバイスをもらいながら少しずつ成長させているが、やはりルイジェルドさんとの訓練が一番練習になる。
(魔剣流、風斬剣)
風斬剣は自分が出した斬撃を風魔術でコントロールして相手の見えない死角から切りつける技だ。風魔術と北神流の組み合わせに近いと思う。
が、ルイジェルドさんには通じなかった。なんと彼は槍で突いて、俺の斬撃を破壊したのだ。そしてその勢いで俺を吹っ飛ばした。
「悪くはない手だが、斬撃がまだ弱い。それが封じられたときの戦術も考えて戦え」
「…ありがとうございます」
口があまり上手い方ではないが、彼の教えはかなりためになる。俺は休憩のため、少し離れたところに座る。
「次は私よ!」
今度はエリスさんが前に出る。ルイジェルドさんはめちゃくちゃタフなため連戦など、どんとこいだ。もっとも俺もエリスさんもまだ子どもだからというのもあるだろうが。
(一つの技で戦うっていうのも厳しいな…)
せっかく複数の技を魔剣流で作ったのだから組み合わせて戦いたい。しかし、加減を間違えると魔力切れを起こして戦場でダウンだ。
そのことをルディに伝えると、彼は難しい顔をした。
「でも、レードはその年にしては魔法を使いこなせてると思うよ」
「水聖級魔術師にそれを言われるのは複雑だよ」
「それもそうか。ところで、レードはなんで魔術と剣術を組み合わせようと思ったんだ?」
「俺はお前たちみたいに何か一つが天才ってわけじゃないんだよ。ルディみたいに無尽蔵な魔力量もエリスさんみたいな剣術の腕もない。だから、自分のできるすべてを組み合わせて戦いたいっていうのが俺の考え」
すべてができる万能な存在。それが俺の理想だ。例えばルディが魔術が100点、剣術が60点だとしたら俺はどちらも80点を目指そうとしてるのだ。
「魔力量を増やすのなら、昔も言ったと思うけど、数をするのが一番だよ。子どものうちは伸ばしやすいと思う。シルフィもそうだったし」
なら、このまま魔剣流を使い続けるというのが一番か。その中でも技と技を組み合わせるコツを考えなければ。だが、俺にしか使えない技のためルディにもアドバイスは難しいだろう。
「ルディが前言ってた、複合魔法っていうのはどうやってるの?」
「無詠唱で2つの魔術を使うんだよ」
かつてお湯を出したときは火と水の魔術を同時に使っていた。そんなことができれば戦闘の幅が広がるだろう。
「ただ、無詠唱ですら精一杯だったからなぁ…」
「レードは無理にやらなくていいんじゃないか? 剣もあるだろ?」
「まあ、それもそうか。話は変わるけどさ、ルディはフィットア領に着いたらそのあとはどうするんだ?」
俺が聞くとルディはルイジェルドさんと戦うエリスさんを見据えて言う。
「エリスを無事に送り届けてから考えればいいさ。お前は?」
「シルフィ姉の手がかりを探しにラノアにでも行くかな。そこで得られなかったらまたそのとき考える」
もっともそんなに期待はしてない。ただ、条件はかなり絞り込めているから、可能性はあるだろう。
ここで俺はエリスさんと交代し、ルイジェルドさんの元へ向かう。そのときだった。
「エリス。お前は今日から戦士を名乗ってもいい」
「…それって」
「一人前だ」
途中から旅に加わった俺はエリスさんがどれほど頑張っていたのかを断片的にしか知らない。それでも、彼女は頑張っていた。圧倒的実力のルイジェルドさんに食らいついて、剣を振り続けていた。指にタコができるほど頑張る彼女は俺から見ても戦士そのものだ。
「で、でもルイジェルド、まだ全然あなたに勝てないのだけど?」
「問題ない。お前はすでに戦士としては申し分ない力を持っている」
ルディも彼女の元へ向かう。
「おめでとうございます」
俺は頭を下げた。ルディは調子に乗って、エリスさんの胸をつまんでぶん殴られていたが。
「お前はどうするのだ、レード」
「…俺には戦士の肩書きは重すぎますよ。魔剣流の可能性は探ってみたいですが」
これはある種の知的好奇心だ。誰かに教えてもいいが、理解してもらえるかも分からない。
「そうか。励め」
ルイジェルドさんは言葉少なに答える。しかし、その表情はどこか嬉しげだった。やっぱり一番弟子の成長が喜ばしいのだろう。
こうして俺たちは赤竜の下顎へ到達した。フィットア領もそう遠くはない。故郷に心躍らせている俺たちだったが、そこで災厄とぶつかることとなる。
それは良くも悪くも俺たちの未来を変えていくものとなる。
次回。あの男が登場