自分が異世界に転生してから早くも3年半が経った。この頃にもなれば言葉も完全に理解できるようになったし、舌足らずではあるかもしれないが、喋れるようにもなった。
そしていつものように朝、父親に言う。
「お父さん、少しトレーニングしてきます」
「気をつけていってらっしゃい」
俺が最近やってるのは基本的な筋トレだ。ランニングや腕立て、腹筋などである。最近は落ちてる木の枝を使って素振りもしている。
(たかが剣道の真似事かもしれないけど、最低限は振れるようになってないとな…)
前世から剣道をやってたみたいなチート設定があればよかったが、あいにくそういうのがないほど病弱な子だったので、記憶を使った見よう見まねである。それでも足捌きはそれなりにものになってる気がする。まあ、走り込みなどがしっかりしてるのもあるからだろうが。
素振りが30回を超えたときである。一息つこうとしたところで、空に違和感を感じた。
(あんな雨雲…。さっきまであったか?)
巨大な雨雲が少し離れたところを覆っているのが見えた。誰かが魔術でも使ったのだろうか、それにしてはしっかりした雨雲である。ていうか、天候を操れるとか魔術というのは便利だな。
好奇心に駆られて走り出した先には男の子と少女がずぶ濡れ状態で立っていた。
「おめでとうございます。これであなたは水聖級です」
少女が自分と年齢の変わらなさそうな少年に言う。確か彼女の名前はロキシーさんだったか。グレイラット家で家庭教師をしていると聞いたことがある。
「あなたは…。ロールズさんのところの…」
俺に気づいたロキシーさんが言う。
「レーディスです。レードと呼んでください。そちらは…?」
「ルディです。ルーデウス・グレイラットですよ」
ロキシーさんがそう言ったのちルーデウスが頭を下げる。
「さっきの雨雲、ルーデウスくんが?」
彼は少し緊張したような表情で頷く。そりゃそうだよな。初めて会う子どもにフレンドリーに話しかけられたら緊張もするだろう。
(水聖級って言ってたか? 水聖級魔術師ってことだとすれば、この年齢でそうなれるものなのか…?)
ここで俺は思い切って言う。
「ロキシーさん、少し彼と話したいことがあるので借りてよろしいですか?」
「私はかまいませんが、ルディはいいのですか?」
「僕も大丈夫です。あそこの木の影に行きましょうか」
こうして2人で話せる距離になった。
「ごめんね。ルーデウスくん。この焦げた木も君が?」
俺がなぜか焦げた木を触りながら聞く。雷にでも打たれたのだろうか。
「それはロキシー先生だよ」
「そっか。水聖級って言ってたけど魔術師ってことだよね?」
「まあ、一応…」
ルーデウスくんは緊張というより、なんだお前みたいな顔でこちらを見る。
「優秀なんだね、ルーデウスくんは」
「僕なんてまだまだですよ。師匠には遠く及びません」
「またまたご謙遜を。5歳とかそこいらであそこまで魔術を使える子どもはそういないでしょう」
「…レードと話してて思ったんですけど、やけに大人びてますね」
その声に俺は軽く笑う。
「そう言われてみればそうだね。これでも4歳なんだけどな。で、質問なんだけど、ルーデウスくんって俺と同じ年齢じゃないでしょ?」
「…どういう意味ですか?」
「ありていにいえばもともとはこの世界の人間じゃないんじゃない?ってこと」
ルーデウスくんが心底驚いたような表情でこちらを見る。
「なんで、分かったんですか?」
「さっきも言ったけど、優秀すぎるからだよ。一般的な5歳児と比べて能力が高すぎる。まあ、でも安心して。俺もそうだし」
「レードも?」
「うん。俺も人生2周目。ルーデウスくんと比較したらそこまで優秀じゃないけどね」
彼は魔術師としてとても優秀なんだろう。もともと天才的なのか、それともロキシーさんの教えで爆発的に伸びたのか分からないが。
「レードは何歳? 元の年齢と合わせれば」
「11+4の15歳。ルーデウスくんは?」
「39歳。だいぶ年下だなぁ…」
34歳とかなら人生経験も豊富だろうし、子どもとさして差がない俺より優秀なのも頷ける。
「俺が敬語になるべきだったかなぁ」
「そこは気にしなくていいよ。それにしてもレードはなんでここに?」
「なんかものすごい雨雲がトレーニング中に見えたから、好奇心に駆られて」
「こんなところで同郷の人に出会えるとはなぁ…」
2人で話していたところ、馬を連れたロキシーさんがこちらに来た。
「ずいぶん話し込んでますね」
「ロキシーさんがルーデウスくんを育てたんですか?」
「育てたのはパウロさんたちですけどね。一応魔術の家庭教師はさせていただきました」
「さっきの魔術、凄いですね」
「凄いのはルディですよ。私の自慢の弟子です」
ロキシーさんが胸を張って言う。
「ありがとうございます、先生。でも、先生の教えの賜物ですよ」
2人で褒め合っている彼らを見て、やっぱり天才は違うんだなと痛感する。ただ、この2人と一緒にいれば俺もどこまで天才に近づけるのか試せる気がする。それ以上にルーデウスくんという同郷がいるのが心強い。
「ルーデウスくん、俺と友達になってくれませんか?」
「えっと…。なんかプロポーズみたいだね」
そう苦笑いしながらもルーデウスくんは俺が差し出した手を握り返してくれた。良かった、これでボッチ回避は成功だ。まあ、シルフィ姉がいるからボッチにはなり得ないとは思うが。
「よかったですね、ルディ。友達もできて」
「はい。これも含めて師匠のおかげです。師匠がここに連れ出してきてくれたからですよ」
「ロキシーさんもどうですか?」
俺が聞くと残念そうに首を横に振る。
「ありがたい申し出ですが、私は役目を済ませたので、明日にはここを去るつもりでいます。代わりにルディのそばにいてあげてください」
俺じゃロキシーさんの代わりになるかどうかは分からないが、そういうことなら仕方ない。ルーデウスくんと一緒にいるなら、また会う機会もあるかもしれない。
こうしてルーデウスくん、いや今後はルディと呼ばせてもらおう。俺にはルディという幼馴染ができた。
姉の出番がない…
次回からあるのかな?