弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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ついにフィットア領到着


第20話 旅の終わり

 耳元で声が聞こえる。聞き覚えがある声だ。

 

「…ード! レード!」

 

 あれほど大きな穴を腹に開けたんだ。生きているはずがない。ただ、ルディを守って死にたかったが、2人揃って天国行きになってしまうとは。

 

 しかし、その割には感覚がリアルだ。以前死んだときも似たような感じだった。まあ、気づいたら母親の胸の上だったが。思い切って目を開けてみる。ルディの泣きそうな顔とエリスさんの安心したような顔が映り込んでいた。

 

「…死んで、ない?」

 

 痛みは確かにある。だが、身体をなぜか動かせるのだ。恐る恐る俺は手を持ち上げてみる。幽霊となってすり抜ける、みたいなのを想定していたが、そんなことはなくルディの頬に当たった。その指先に涙が伝う。

 

「ルディ、泣いてんのか?」

 

「…当たり前だ。お前が死んだらシルフィに顔向けできない。てか、それ以前に俺が悲しい」

 

 俺は身体を起こす。あちこちが痛いが耐えられないこともない。

 

「そう言ってもらってよかったよ。ルディも無事でなにより。ていうか、なんで生きてんの?」

 

 ルディも俺も死んでもおかしくない一撃を食らったはずだったが。

 

「オルステッドっていうのが治癒魔術で2人を治療したのよ」

 

 エリスさんが答えてくれる。殺した敵をわざわざ蘇生させるとは訳の分からないことをするものだ。

 

「…そうか。すまないルディ、エリスさん。2人を守れなかった」

 

 俺は最後まで立っていた。が、あのとき身体を動かせなかったのは俺の実力不足だ。ルディを逃すくらいのことができればよかったのだが…。

 

「それはお互い様だよ。でも、レードが無事で、本当に良かった…」

 

 彼は再び俺に抱きつく。こういうところはノルンちゃんに少し似てるなぁ。そんな俺たちをエリスさんとルイジェルドさんが暖かな目で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤龍の下顎を抜けて数日。ルディはエリスさんをくっつけながら新たな魔術を練習していた。

 

「何してるの、ルーデウス」

 

「オルステッドの魔術を打ち消す魔術を真似しようと思いましてね」

 

 乱魔、といったか。あれは俺の風魔術もルディの魔術も消していた。あんなことをされたら魔術を使う者は手出しができなくなる。

 

「そんなんできるのか?」

 

「今、練習中だよ。シーローンのときの結界のときといい、この前のオルステッドのときといい魔術を封じられる場面が最近多かったからね」

 

 面白いことを考えるものだ。だが、これも魔剣流に活かせるかもしれない。まあ、どう活かすとかはまったく思い浮かばないが。

 

「…なんで、ルーデウスはそんなに強いの?」

 

「エリスの方が強いと思いますが」

 

「そんなことはないわよ。レードは最後まで立ってたし」

 

 あのとき俺は奇跡的に踏ん張れてたが、今考えてもなぜ立ててたのかが分からない。間違いなく致命傷だったし、もう一度再現しろと言われても無理だろう。ただ、俺が強くなるためのヒントはそこにあるような気がする。少なくともあのときの俺は明らかに普段と違った。

 

「エリスさん、この前のこと、気にしてます?」

 

「…ええ」

 

 あんな化け物とやり合ったら死んでないだけ十分だと思うが。4人いて全員生き残っただけ合格点だ。そんな俺の考えをルディが代弁してくれる。

 

「相手が悪かったんですよ。あれは仕方がありません」

 

「…でも」

 

「エリスさんは強いですし、間違いなく強くなれますよ」

 

「レードから言われても嫌味にしか聞こえないわよ」

 

 俺だって魔剣流が封じられたとき何もできなかった。エリスさんとそう差はない。

 

「ギレーヌもルイジェルドもよく言ってるでしょう」

 

 ルディも続けてくれる。しかし、エリスさんは納得いかないようだ。

 

「どうして、2人ともそう簡単に言えるの? 死ぬところだったのに」

 

「次は死にたくないですからね」

 

「ルディを、エリスさんを守れるくらいにはなりたいからですね。でも、少なくともあの男に次はないですよ」

 

 俺とルディでは答えが違った。思わず苦笑いしてしまう。

 

「エリスにはともかく、俺も当てはまるのか?」

 

「そりゃそうだ。今も昔も俺にとってルディはめちゃくちゃ大事な人で愛しい幼馴染だからな」

 

「…そういうのは俺じゃなくて将来出会う愛すべき相手に言ってやればいいのに」

 

 確かにこういう言い方だと、俺が男もイケるみたいになってしまうな。まあ、こんなこと言える男はルディ以外、出てこなさそうではあるが。そう考えると俺が運命の人に出会うのは遠く感じて少し虚しい。

 

 そんな俺たちの話をエリスさんは難しい顔でルディに甘えながら聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからまた1ヶ月後。ついに馬車はフィットア領に着いた。俺は昔来たときから何もないことを知っていたため大したダメージはないが、ルディとエリスさんは明らかにショックを受けていた。

 

 そんな中、難民キャンプにあと少しで着くというところでルイジェルドさんが馬車を止めた。

 

「どうしたんですか?」

 

「俺はここで別れる」

 

 ルディとエリスさんは慌てて馬車から飛び降りる。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! せめて1日くらい休んだら、いや街の中までは一緒に入ったらどうですか?」

 

「そうよ、だって…」

 

「ここには戦士しかいない。お守りは必要あるまい」

 

 その声にルディたちは黙り込む。ルイジェルドさんはもともと2人のお守りをしてフィットア領まで連れ帰るのが役割だ。それを果たしたからこの場を去ろうというのだろう。

 

 ルディとエリスさんはルイジェルドさんに涙を流しながら別れの言葉を並べる。俺は3人がどんな旅をしてきたのか聞いた話でしか知らない。ただ間違いなく彼らには確かな絆が存在したのだ。そこに自分が割り込む余地はないだろう。そんなことを思って少し離れたところから眺めていると、ルイジェルドさんは俺の方に近づいて言う。

 

「俺はレードのことを、2人のことほどは知らない。だから間違っていることがあるかもしれん。それなら聞かなかったことにしてくれ」

 

 俺はルイジェルドさんを真っ直ぐ見て頷く。

 

「お前の戦い方は新しいし、可能性の塊だ。それを磨くことを怠るな。どんな流派も磨かれることで発展してきた。強くなりたいなら、驕ることなく励め」

 

 そう言って俺の銀色の頭を撫でてくれる。

 

「…ありがとうございます。でも、生きていれば、また絶対会えますよ。ルイジェルドさんも俺も少々寿命が長いみたいなので」

 

 俺は照れ隠しに笑う。ルイジェルドさんも釣られたように笑った。

 

「ああ。では、また会おう」

 

 彼は手を振って去っていった。俺たちはその後ろ姿が見えなくなるまで眺めていた。こうして、俺たちの旅は終わりを告げた。

 




これからどうしたものか。予定が定まらないなぁ…
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