入学決定となり一カ月後。俺は荷物をまとめて寮に向かった。リヴィン家の双子もしっかり試験に合格し入学ということになった。俺は特別生ということもあり、一人部屋ということになったが。
(思えば、今まで誰かしらと一緒に生活してきたから、一人部屋というのは斬新だな…)
ミリスではノルンちゃんやパウロさん、旅をしているときはルディやエリス、ルイジェルドさん、ラノアではリヴィン家と誰かしらと寝食をともにした。後輩が入ってきたらここに誰かを歓迎するのもいいかもしれない。
制服は学生服に似ている。俺はこういうのにも憧れがあったため、着てるだけで気分か浮つくのを感じた。
そうして俺は入学式へ赴く。意外にもこういうのはちゃんとしているらしく、やや寒い校庭に集まることになった。どこの世界でも校長の話は長いらしい。が、真面目に聞いている人とそうじゃない人はだいたい半々くらいだ。
校長曰く、魔術の新たな進化が重要とのことだ。まあ、あながち間違いではない。どうにもこの世界は剣術が魔術より重要視されがちだ。魔法大学なのだから、そういうところは喜ばしくないだろう。
校長の話が終わり、ジーナス教頭の言葉で、
「続きまして、生徒会長より新入生への言葉」
壇上に上がるのは、絶世の美女というべきお嬢様だ。この大学では貴族も多数いるため、こういう方も少なからずいるだろう。敵に回すことのないよう気をつけなければ。
彼女が連れているのは2人の少年。片方はどことなくパウロさんに似ている気がする。グレイラット家の血はまあまあ広いから血縁者かもしれない。
「あちらが僕が資料で受け取った方と同じ人物だよ」
隣にいるアーノスくんが俺にだけ聞こえる声で呟く。白髪の長耳族の美少年だ。辺りの声からフィッツという名前が聞こえてくる。目元はサングラスで隠れており見えない。しかし、俺は雰囲気で確信した。
(あの子…。シルフィ姉じゃね?)
緑髪から白髪になっていたり、フィッツという名を名乗っているという矛盾点はある。しかし、ラノアにいる14歳の長耳族が彼女だけなら、シルフィ姉の可能性は極めて高い。
生徒会長であるアリエル王女の言葉そっちのけでフィッツと呼ばれている少年を眺める。しかし、見れば見るほどシルフィ姉なのだ。声が聞ければより確信が深まるが…。
「私が聞いてこようか?」
レフィアちゃんが小声で言う。
「いや、それには及ばない。あとで俺の方から確認を取る」
「分かった」
向こうは俺に気づいただろうか。特別生は良くも悪くも目立つだろうから、あらかじめ誰が入ってきたとか知っているかもしれない。その場合、彼がシルフィ姉だったらなんのアクションもないのが不思議だが。
俺がフィッツ先輩をぼんやり眺めているうちにいつの間にか入学式はお開きとなった。
入学式が終わり、俺は特別生の教室へ向かう。一般生の双子とはここでお別れとなる。
「それじゃあ、お気をつけて」
「2人もみんなと仲良くね」
気をつけて、と言われてもそこまで不安になる必要はないだろう。化け物が出てくるわけでもあるまいし。しかし、仮に担当教授がオルステッドだったら即刻退学届を提出させてもらうことになりそうだ。
今期の特別生は俺を含めて3人いるらしい。ちなみに合計で6人しかいないらしく、俺はともかく全員癖者揃いとのことだ。
(特別生に関しても、あらかじめ調べておくべきだったな…)
自分が選ばれることは予想してなかったため、時間が足りなかった。それに、所詮は人間だし、と気を抜いていたのもある。
中に入るとすでに4人が席についていた。その中で見覚えのある姿を発見したので声をかける。
「もしかして、ザノバ王子?」
ルディに縋りついて人形について熱弁していた彼だ。どういうわけかルディと師弟関係を結んだと聞いていたが。
「そなたは…。もしかして、レード殿!」
よかった、覚えていてくれたらしい。
「お久しぶりです。ザノバ王子は新入生なのですか?」
「はい。レード殿がいるということはルーデウス殿も…」
「すみません。居場所すら分からないです」
俺の言葉にザノバ王子はガックリ肩を落とす。ごめんね、期待させて…。というか、ルディはどこに行ったのか。ゼニスさんを探しているとは思うが、連絡1つ寄越してくれないのは不安だ。
「でも、まあ、ルディなら大丈夫ですよ。俺の魔術の師匠が易々と死ぬとは思えません」
シルフィ姉とゼニスさんの捜索が終わったらルディを探すのもいいかもしれない。
「でしょうな。ルーデウス殿の、師匠のためならば、余が馳せ参じる所存です」
凄まじい熱量の師匠愛を語るザノバ王子に対し、別の人から声がかかる。
「うっさいニャ」
獣族の少女だ。ルディが前言っていたドルディア族という種族だろう。もしかしたら、ルディと大森林で面識があるかもしれない。
「お騒がせして申し訳ありません。不躾ですが、ルーデウス・グレイラットという方をご存知ではありませんか?」
「知らないニャ。というか、あんたは誰ニャ?」
「申し遅れました。レーディスと申します。レードとお呼びください」
「あちしはリニア。ここの4年生ニャ。大森林ドルディアの里の戦士長ギュエスの娘だニャ」
先輩か。4年前にここに入学してるのなら2、3年前に大森林にいたルディのことを知らなくても致し方ないか。
「そういうリニアも大概うるさいの」
リニアの横から肉を齧っている少女が口を挟む。こちらも獣族らしい。
「これは失礼。お名前を聞いても?」
「プルセナ。リニアとだいたい同じなの」
同じということはこちらも先輩か。大森林の族長候補2人にシーローン国王子。これはジーナス教頭が癖が強いと言うのもわかる気がする。
「レードって、あのレードか?」
後ろにいた黒髪の少年から声をかけられる。
「はい。一応、名前はレーディスなんですけど、レードの方が浸透してますね…」
「ミリスの連中ならお前のことを知らない者はいないくらい有名だ。しかし、なぜここに? 旅をしてたのでは?」
「訳ありまして入学することになりまして。それに教壇に立つ人物に学歴がないのはいただけないでしょう? お名前を伺っても?」
「クリフ・グリモル。天才魔術師だ」
自分で天才と言っちゃう辺り、癖強感が出てるが、その名前には聞き覚えがあった。
「もしかして、教皇の孫でしょうか?」
「ああ。お前は貴族連中からしょっちゅう睨まれてたよな」
どことなく同情の色がある。まあ、あのときは襲撃もあったし本当に大変だった。
「クリフさんは先輩ですか?」
「いや、1年で、同級生だ。だから、敬語じゃなくてもいい」
天才と自分で言っちゃう辺り、引っかかるところがあるが、性格的には悪い人ではないらしい。まあ、ザノバ王子共々仲良くするとしよう。
「そういえばもう一人はどうしたんでしょう」
新入生が俺とクリフ、ザノバ王子で、先輩がリニアさん、プルセナさんときたらあと一人先輩がいるはずなのだが。
それに答えたのはリニアさんたちだ。
「サイレントは来ないニャ」
「朝礼を免除されてるの」
2年生だというサイレントは相当凄い人らしい。あとから聞いたが、この制服や学校の学食もサイレントと呼ばれる人物の功績だとか。というか、一学生がそんなことできる辺り、特別生の中でも桁違いに癖強なのかもしれない。
朝礼という名の自己紹介タイムを終えたのち、各々授業に向かう。ちなみに俺は免除されているため、一限は空いている。のんびり過ごすのもいいが、確認すべきこともある。ひとまずはあのフィッツと呼ばれる少年に接触するとするか。
なんかクリフと仲良くなりそう