フィッツ先輩がシルフィ姉だと発覚してから数日。俺の生活の変化は…。実際にはほとんどなかった。長年の悩みが消えたというのはありがたいが、その程度だ。
というわけで俺は今日も生徒会室へ足を運ぶ。
「…なあ、シルフィ、レード」
ルーク先輩がおもむろに口を開く。
「どうしたんですか?」
「俺からごちゃごちゃ言いたくはないけどな。2人とも距離が近すぎやしないか?」
ルーク先輩は貴族生まれだから、一般の兄弟姉妹に関してはご存知ないようだ。
「貴族は知りませんが、普通の家庭ならこんなものですよ。そりゃ若干近いかもしれませんが…」
「レードはまだしもシルフィは外でそんなだらしない顔をするなよ。アリエル様の評判に関わる」
「む…。ボクがそんなミスすると思ってるのか、ルークは。あ、レード。その卵焼きもらっていい?」
「うん、どうぞ」
肩の荷が降りたここ最近の俺は姉の分の昼ご飯も作っているのだ。剣と同じで定期的にトレーニングしないと、これも鈍る。いつか旅をするかもしれないし、そのときに野垂れ死ぬわけにはいかない。断じて餌付けしてるわけではない。シルフィ姉は可愛いが、そういうつもりはないのだ。
「うーん、美味しい! ボクもいろいろ教えてもらってたのに、自信なくしちゃうなぁ」
「気に入ってもらってよかったよ。アリエル様もどうですか? 一口」
俺が弁当箱を差し出すとアリエル王女は嬉しそうに目を細める。
「良いのですか? それではいただきましょうか」
「アリエル様まで…」
ルーク先輩はため息をつく。
「ルークも食べたらどうですか? 美味しいですわよ。それに、シルフィはこれまで頑張ってくれましたからね、これくらいのご褒美はあってもいいでしょう」
シルフィ姉より俺の方がご褒美をもらってる感があるが。
「それに…。この2人を眺めるのも眼福ですわ…」
うっとりしたような表情でアリエル王女が言う。そうだ、この先輩は、王女はアスラ貴族なのだ。シルフィ姉曰く、いろいろと性癖に問題があるとのことだ。細かく聞こうと思ったが、なぜか教えてもらえなかった。
「ねぇ、レード。授業出なくて大丈夫なの?」
「うん。今は授業よりシルフィ姉と一緒にいたいから」
「そこまで一緒にいたいなら、私たちの陣営に入りませんか?」
アリエル王女がさりげなく勧誘する。下心とかないよね?
「嬉しい申し出ですけど、俺にそんな影響力も能力もありませんよ?」
「それでもかまいません。それに、あなたにとってもシルフィと一緒にいることができる時間が増えるのですから、悪いこととは思いませんが」
確かに魅力的な提案だ。だが、シルフィ姉の時間を奪ってしまっては申し訳ない。それに、自分に役割が全うできる自信が正直ない。
「それに関しては今は返答を差し控えさせてもらうことはできますか?」
「もちろん、急いでとは言いません。理由を聞いても?」
「俺はシルフィ姉を見つけること以外にもいくつか目的があって入学しました。それを達成した上で考えさせていただく、というのでもよいでしょうか」
「分かりました。それではいずれ改めて聞かせてもらうとしましょう」
まあ、その目的の一つは婚活なわけだが。しかし、そっちの目的に関しては進捗は芳しくない。そもそも特別生ということもあって、リヴィン家の双子以外で話しかけてくれる人もいないのだ。クリフやザノバ王子とは何度か話すことがあるが、その程度だ。
(…さすがにこのままだと寂しいな)
まあ、避けられる理由に心当たりはある。ここまで生徒会室に入り浸っていたら、ヤバいやつだと思われても仕方ない。もっともシルフィ姉と一緒にいれるなら、ここじゃなくてもいいのだが。
そんなことを考えてたら、昼休みは終了となった。俺はこのあとの予定は特にないが、先輩たちは授業がある。
「ごめんね、レード。そろそろ行かなくちゃ」
「じゃあ、俺もぼちぼち外で運動してくるわ」
こうして俺は生徒会室を後にした。
俺が向かったのは中庭だ。休み時間は人で溢れるため、剣を振るわけにはいかないが、それが終わればがら空きだ。魔剣流の練習をするのにちょうどいい。
(しかし、対戦相手というか練習相手がいないと、強くなってるのか実感が湧かないな…)
旅をしてるときはエリスやルイジェルドさんが相手をしてくれたが、2人くらい強い人たちがここに何人いるだろうか。ザノバ王子は肉体的には神子なだけあってかなり強いが、魔術への耐性はあまりないとのことだ。下手にやって怪我させるというのも申し訳ないし。
(こういうときにルディがいてくれたら、かなり助かるんだが)
彼は俺と同じ日本から来た転生者だ。俺が知らない漫画やラノベをモデルにした技とかの開発を手伝ってくれるかもしれない。
俺は汗を袖で拭きながらベンチに腰掛ける。数年前より魔力量はだいぶ増えてきたが、連続で使い続けるのはなかなか難しい。
「…本当に強くなったね、レード」
いつのまにか授業を終えたのであろうシルフィ姉が横にいた。気づいたら数時間経っていたのだ。
「シルフィ姉。授業は?」
「もう今日は終わったよ。練習、付き合おうか?」
「怪我させたくないんだけど…」
「大丈夫。治癒魔術も使えるし」
まあ、魔剣流使わなきゃいいか。いや、それだとシルフィ姉のこと、舐めてるみたいに思われかねない。
悩む俺に天啓が降ってきた。
(そうか。攻撃しなきゃいいんだ…)
水魔術を利用した防御技をやってみようか。初使用で上手くいくかは分からないが、風魔術で斬撃をコントロールできるなら、水魔術で似たようなことができるのではないか。
「分かった。それじゃやろうか」
俺が立ち上がるとシルフィ姉も杖を取る。彼女の杖は昔から同じだ。ルディに昔もらった杖を大事に使い続けている。彼が見たら大いに喜ぶだろう。
俺も土魔術で剣を作る。自分で作った剣の方が魔力の通りがいいのだ。あくまで気のせいというレベルだが。
数メートルほど離れて向き合う。シルフィ姉が無詠唱で風魔法を使ってきた。
「爆音衝撃波!(ソニックブーム)」
いきなり上級風魔術か。遠慮しないな。避けてもいいが俺はあえて剣を振る。剣先から水弾が出て、それは空気を割くように俺を守ってくれる。
(一応、足元にもやっておくか)
足が吹っ飛ばされるのはごめん被りたいので、2つ同じものを配置する。どちらもシルフィ姉の風魔術の威力を弱め消し去った。
「…凄い。どうやったの、それ」
「水魔術と剣神流の合わせ技だよ。防御技もそろそろ考えたいと思ってたからちょうどよかった」
「真似したいけど、できないなぁ。剣にはそこまで自信ないし」
「シルフィ姉も強くなったな。大変だったんだね」
「アリエル様は暗殺者に狙われたりしてたからね」
この年で暗殺者を撃退できるとは凄いものだ。もっともルディと別れたときに暴走したときもパウロさんにヤバい魔術ぶつけようとした辺り、素質は昔からあったともいえるが。
さて、せっかく作った魔術に名前をつけるか。「水斬堅守」とかどうだろうか。俺のネーミングセンスは若干厨二病の気があるが、この世界に染まって来たとも言えるだろう。
「それじゃ帰ろっか」
「アリエル様のところに戻らなくていいのか?」
「うん。弟と過ごす時間を大事にしなさいって。それに今日はどっちみちルークの日だったからね」
そういうことならお言葉に甘えさせてもらうことにしよう。そう思って下校していたそのときだった。とんでもない咆哮が俺の前から聞こえてきた。
「レード殿ぉぉぉ!!!」
目の前に走り込んできたのは滝のような涙を流すザノバ王子であった。
「ザノバ王子!? どうしたんですか?」
「これをどうにかしていただけませぬか!」
ザノバ王子が小さな木箱から取り出したのはバラバラになった何かだった。それを見たシルフィ姉が呟く。
「これって、確かルディが作ってた…」
「ロキシー殿の人形でございます! これが師匠にバレたら…」
それを言ってザノバ王子は青くなる。彼のロキシーさんへの愛、人形への愛は相当なものだし怒り狂うだろうな。そして、怒り狂ったら何をするか分からない。
(といってもどうすれば…)
しかし、目の前で泣くザノバ王子を放置するのも忍びない。シーローン王国ではルディを助けてもらった恩もある。自分も策を捻り出すとしようか。
ザノバ王子書いてて面白い