俺とルディはロキシーさん公認の友達になった。が、今までとやることがこれといって変わるというわけではない。強いて言うなら、ルディに俺のトレーニングを見てもらうくらいか。
「…凄いね、レードは」
「そう? ルディに言ってもらえるのは嬉しいな」
「俺にはそういう足捌きはできないからさ」
木の枝を振り回す俺を見て言う。
「それはそうとルディは何してるの? もしかして魔術のトレーニング?」
「それもしたいところだけど、とりあえずここら辺の地理を理解しようかなと。身の回りのことを知っておくのは損じゃないだろうし」
ここで俺は素振りを止めて休憩代わりにルディとブラブラ歩く。
「レードは剣が上手いみたいだし、父さんに見てもらうのもいいかもしれないな」
「パウロさん? そういえば騎士だったっけ」
「うん。俺よりも基礎ができてるから教え甲斐がありそうな気がする」
そんな高く評価してもらえるのは嬉しいものだ。自然と頬が緩む。が、それもすぐ消えることになってしまった。
「魔族は村にいんなよなー」
その子どもの声が聞こえたからだ。何人かの子どもが泥を投げつけている。
「あっちいけよなー!」
「くらえー!」
「よっしゃめいちゅーぅ!」
俺の知っている魔族というのはこの世に1人しかいない。その1人もすでに村から去っている。だとすれば、誰に対してそんなことを言っているのか。
泥を投げかけられているのはシルフィ姉だった。それに気づいた瞬間、俺の中の何かが切れた気がして、駆け出していた。
そしてシルフィ姉に投げかけられる泥球を手持ちの木の枝で叩き落とした。
「レ、レード…?」
シルフィ姉が少し驚いたようにこちらを見る。それと同時にルディが魔術で作ったであろう泥球をリーダー格っぽい少年の顔面にぶつける。
「いいコントロールじゃん、ルディ。もしかして前世は野球選手か何か?」
「やってないよ、そんなの」
そして少年たちの非難が俺たちに向く。
「邪魔すんなよ!」
「魔族の味方すんのかよ!」
やかましい声が響く。それに対してルディが高々と言う。
「魔族の味方じゃありません。弱い者の味方です」
そう言い放ったところで、彼らはごちゃごちゃ喚いている。やれ、騎士の息子がなんだ、やれ、魔族の味方がなんだと。
「ルディ、こいつらの頭カチ割ってもいい? もう俺、割と我慢の限界なんだけどな」
「…それはやめなさい」
ルディに嗜められたのでド頭カチ割りの刑はなしになったが、少しくらいお灸を据えてもいいだろう。
俺は木の枝を振り上げて、威嚇する。頭カチ割りではなくあくまで寸止めだ。
「死なないタイプの頭カチ割りィィィ!」
俺が叫んで振りかぶった瞬間、
「やめて! レード!」
背後からシルフィ姉の声が聞こえた。俺は振り上げた腕を止める。
「…姉に免じて許してやる。二度とこんな真似すんな」
俺は怒りをどうにか鎮めながら告げる。少年たちは捨て台詞をごちゃごちゃ言いながら去っていった。俺がどうにかこうにか怒りを抑えていると、ルディは、
「君、大丈夫? 荷物は無事?」
と問いかける。姉はたしか父に弁当を届けに行ってたようだ。
「う、うん…。大丈夫。レードは? 怪我はない?」
「俺は大丈夫。ルディも怪我はなさそうだね」
3人揃って無事を確認したところで、ルディが魔法でお湯を出してくれて、俺とシルフィ姉にぶっかけた。俺は少し跳ね返りの泥がついた程度だが、シルフィ姉はガッツリ汚れている。
一通り洗い終わったところで、ルディが言う。
「君ね、ああいうやつらはちゃんとやり返してやらないとつけ上がるよ」
「勝てないよ…」
「心配するな、ルディ。俺がなんとかするさ」
「違うよ。それだとレードに頼りきりになるし、抵抗する意思を示すことが大事なんだよ」
「む、確かにそうか…」
俺はぶっちゃけシルフィがここまで酷いいじめに遭っていたことは知らなかった。とはいえ、今後もつきっきりというのはやり過ぎかもしれない。
「いつもはもっとおっきな子もいるし、痛いのは嫌だよ…」
髪色のせいでここまでいじめられることが俺は正直許せない。怒りをふつふつと滾らせていると、ルディが
「よし、じゃあ行こうか」
とシルフィ姉に言う。
「ど、どこに…?」
「君を送り届けるよ。さっきの奴らが戻ってくるかもしれないし」
もしかしてルディには天性のナンパの才能があるかもしれない。シルフィ姉は動揺しているものの、嫌がってはいないようだ。
「…なんで、守ってくれたの? レードはともかく君も…」
「弱い者の味方をしろと父様に言われてるんだ」
「でも、他の子に仲間外れにされるかも…」
そうシルフィ姉が言うと、ルディはニッコリ笑った。
「なら、そのときは君が一緒に遊んでくれよ。今日から君は友達さ。な、レード」
「あー、少し前から言おうと思ってたんだけどさ。俺は弟なんだよね」
話を振られた俺はそう答える。それを聞いたルディの顔は驚きに変わる。
「弟? この子の?」
「うん。俺はこの子、シルフィの弟なんだよ」
そういえばシルフィ姉のこと、もしかして男だと思ってるんじゃないだろうか。まあ、そんなことさすがにないだろうし、あったとしてもそれはそれで面白そうだから黙っておくか。
こうして、シルフィ姉は無事に父さんにお弁当を届けるのだった。
ルディが父さんとの挨拶を済ませたのち、3人で遊ぼうということになった。
「さて、何して遊ぼうか」
「わかんない…。友達と遊んだことないし…」
ルディも頷く。
「俺もこの前まで引きこもってたし、どんな遊びをしたものかなぁ…」
そう言いつつ俺を見る。
「俺もトレーニング以外で外には出ないから、急には出てこないな…」
まあ、そのトレーニングに占める時間がかなり長いのだが。おかげさまでだいぶ体力もついてきた気がする。
「あ、そうだ。さっきのあれ、教えて」
シルフィ姉が思い出したかのように聞く。
「さっきのあれ?」
ルディに対して、シルフィ姉が目を輝かして言う。
「うん。手から、あったかいお水がざばーって出るのと、暖かい風が、ぶわーって出るの」
ざばーっとかぶわーっとかみたいな語彙が合わさってめちゃくちゃ可愛いんだが。こんな可愛い姉の弟でいいんですか?
「俺も教えてほしいな。魔術も使えないと芸がないし」
ルディは少し考えたのち答える。
「誰でもできるようになるよ…たぶん」
こうして魔術を教えてもらいながら、3人で遊ぶことになったのだ。ちなみに、シルフィ姉が姉であること、女の子であるということは未だに伝えていない。賢いルディならそのうち気づくだろう。
ここから弟のスペックが少しずつ上がっていきます