弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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遅くなりました


第32話 夏休み

 シルフィ姉の発言をヒントに自分がすべきことは決まった。俺の正体を素直に告げることだ。ただ、ここからの問題はいつどのようにして伝えるか、である。

 

 結局言うタイミングを掴めず、あっという間に一ヶ月が過ぎてしまった。季節は初夏から本格的な夏が始まっている。ラノアは割と季節がはっきりしており、夏はそうでもないが冬はとことん冷える。防寒必須の地域だ。とはいえ、夏は夏でちゃんと暑い日もある。

 

「サイレント先輩、暑くないんですか?」

 

「…暑いわよ。ていうか、なんで普通にいるのよ」

 

「ここ、日に当たらなくて涼しいと思ったので」

 

 静香姉は煩わしそうに言うが、追い出そうとしない辺り、受け入れてもらえてると勝手に判断している。

 

「あなた、暇なの? 最近、ここにばっかりいるけど」

 

「暇じゃないと言ったら嘘になりますね。俺はある目的のためにここに来ていて、それの半分は達成できたので、ちょっと休憩でもしようかなと」

 

「そう。でも、毎回料理持ってきてくれるじゃない」

 

「一人じゃ食べきれないんで。あと、俺も誰かと食べた方が楽しいですし」

 

 ちなみに今日俺が作ったのは、素麺だ。この世界で麺を探すのは非常に大変だったが、たまには麺類も食べたくなる。どうにか入手できたので作ってみた。

 

「というか、この部屋キッチンとかないんですか?」

 

「必要ないわ。というか、ここで料理しないでくれる?」

 

「いちいち厨房まで行ってたら面倒じゃないですか。水道とかコンロはなくてもいいので、せめて綺麗な机とまな板用意してもらえますか」

 

「だから、ここで料理しないでってば」

 

 そう文句を言いながらも、美味しそうに素麺をかき込む。こういう顔を見せられると、また何かしら作ってあげたくなってしまうのだ。

 

 一通り食事を終えたところで、俺が聞く。

 

「ちょっとどこかに涼みに行きませんか?」

 

「どこにそんな場所があるのよ。というか、喋ってる暇があったら、その魔法陣に魔力通してもらえる?」

 

 静香姉が作っている、この魔法陣は思いの外魔力を吸い込むのだ。俺もそれなりに魔力量には自信があるが、20枚そこらが限界だろう。普段は魔剣流のトレーニングもあるため、10枚で留めているが。

 

 しかしながら、こうして魔力を通すも結果はいつも失敗である。静香姉曰く、進展がないのはある意味当然とのことだ。召喚魔法に疎い自分にはよく分からないが、少なくとも簡単なことではないことだけは分かった。

 

「…たまには気分転換とかしたくならないんですか?」

 

「…そんなことして無駄に時間を使ったって帰るのが遅くなるだけよ」

 

「誤差みたいなものだと思いますがね。それにずっとここに缶詰めだとかえって効率は悪いと思いますよ。シンプルに疲れますし」

 

 俺が言うと、静香姉は苛立った様子で舌打ちする。

 

「で、行くあてはあるのかしら?」

 

「それは2人で歩きながらでも考えましょう」

 

「…結局、何も考えてないんじゃない」

 

 そう言いつつも筆を置いて立ち上がって支度をし始める。ようやく乗り気になってくれたようだ。前世でも結構頑固なところがあったから、それすらも懐かしく感じる。

 

 黙って歩くのもなんなので、俺から声をかける。

 

「サイレント先輩は日本で会いたい人って誰なんですか? 家族とかはそりゃ分かるんですけど」

 

「そうね。喧嘩別れしちゃった友達とかかしらね。どうしたのよ、急に」

 

「普通に先輩のことを知りたいなって思っただけです。下心とかはないですよ」

 

 俺が笑うと、静香姉は睨みつける。

 

「むしろ下心しかないじゃないの」

 

「バレちゃいましたか。で、先輩には兄弟とか姉妹とかはいるんですか?」

 

「ええ。弟が一人。年の差は6つくらいだったかしら」

 

 自分のことを言われ、少しテンションが上がる。

 

「どういう人なんです?」

 

「一言で言うなら穏やかな人だったわね…」

 

 こうして、彼女は俺のことを話し始めた。いかんせん経験したことなので、初めて聞く振りをするのが大変だった。

 

「仲良かったんですね…」

 

「そうね。だからこそ早く帰りたい、いや帰らなくちゃいけないのよ」

 

 この状況で自分が死んで転生したと伝えるのはさすがに無理があるな。どうにかしないと。

 

「ところで、あなたの家族は?」

 

「姉がいますね。親はもういなくなりましたけど」

 

「それって、日本? それともここで?」

 

 どっちにも姉はいたが、ここはシルフィ姉のことを言わせてもらおう。もちろんここで静香姉のことを言うべきかもしれないが、なぜかビビってしまった。度胸がないと言われたらその通りすぎてぐうの音も出ない。

 

「ここの世界で、ですね。親が転移事件に巻き込まれていなくなったので、2人きりです」

 

 俺の勘だが、静香姉がこの転移事件のきっかけではないかと睨んでいる。特にこれといった根拠はないが、転移事件の話をするたびにどこか彼女の表情が暗くなるのだ。

 

「まあ、もう3年も経ちますから、悲しくないと言えば嘘になりますけど、だいぶ落ち着いてきましたね」

 

 両親には育ててもらった恩もあるし、感謝もしている。家族がいなくなった喪失感というものもあった。ただ、9年しか親子との関係ではなかった上、俺は死を一度経験している。どうしても数年経てば実感というものは薄くなってしまう。さらにいえば目の前の人は一度死んで会えなくなったと思った姉だ。

 

「…その割に平気そうね」

 

「まあ、あれは誰が悪いとか言ってもしょうがないので。俺が死んでる可能性だってありましたし」

 

 俺はあのときたまたまパウロさんのそばにいたから助かったというだけだ。そう考えると、生きてるだけよかったと思うことはあっても、誰かを憎むことはできない。

 

 こうして話しているうちに大学の敷地の外に出た。静香姉は相変わらずあの仮面をつけている。俺はそこまで気にしないが、この世界では日本人の顔は珍しい。何か厄介ごとに巻き込まれないようにするための措置だろう。

 

(俺としては顔くらい見せてほしいんだけどな)

 

「で、どこに向かうつもりかしら? この世界にショッピングモールで涼むみたいなことはできないわよ」

 

 確かに室内より暑い。その証拠に歩いている人は多くはない。しかし、しばらく歩いていると水音が聞こえた。

 

「あそこの河川敷に行きませんか? やっぱり水辺だと涼しい気がします」

 

 静香姉も異論はないのか頷き、河川敷に向かう。日本の川とは違って汚れていない。なんというかとても澄んでいるのだ。それに加えて穏やかな風が吹いており、涼しさを求めて何人か子供たちもいる。

 

「…綺麗ね」

 

「先輩もお綺麗ですよ」

 

「そういうお世辞は結構よ」

 

 割と本心で言ったのに、軽くあしらわれてしまった。

 

「涼みに来て正解でしたね。魚も結構多いし、今度は行くときは釣竿でも持ってこようかな」

 

「もしかして魚料理?」

 

「はい。先輩と一緒に食べたいなと思いまして」

 

「楽しみだわ」

 

 この姉は意外と食べるのだ。今日作った素麺も俺とほぼ同じ量を食べていた。普段から頭を使う分、消費エネルギーが多いのだろう。その割にあまり太ってはおらず、食べたものがどこに行っているのか気になる。

 

 こうして涼んでいると、近くの橋の上に見覚えのある白髪が見えた。もしかしてと思い眺めていると、目線がこっちに向けられた。

 

(…シルフィ姉も涼みに来たのかな)

 

 俺がぼんやり思っていると、彼女が橋を渡り駆け寄ってくる。

 

「…誰?」

 

「先程話した姉ですよ」

 

「姉? 兄のように見えるけど」

 

 外に出るときはフィッツ先輩の姿だ。しかも、声を発さないから兄と思われても仕方ないのか。

 

「レード?」

 

「フィッツ先輩。先輩も涼みに?」

 

「うん。隣の人は? どういう関係?」

 

 そう言われて口籠もる。冷静に考えると、俺と静香姉はどういう関係なのだろうか。姉とは到底言えないし、どう説明したものか。

 

 しばらく考えたのち、天啓が降ってきた。

 

「ミリスで教えていた子の一人のサイレント先輩だよ。今となっては学年が上になったけど」

 

 俺の答えに怪訝そうに言う。

 

「ふぅん。とりあえず、そういうことならそれでいいけどさ…。レードはその伸ばした鼻の下をなんとかした方がいいよ」

 

 なぜか拗ねたようにそう言い残して彼女は去っていった。伝え方が良くなかったか。彼女の

姿が見えなくなったところで静香姉が言う。

 

「よくそんな息を吐くように嘘をつけるわね。後で拗れても知らないわよ」

 

「どう説明していいか分からなかったので。それとフィッツ先輩が俺の姉というのは内緒にしてもらえませんか?」

 

「言う相手もいないから、別に構わないけど」

 

 姉の人間関係がとても寂しいことを聞かされたな。まあ、口を滑らすこともないだろう。

 

「姉から愛されてるのね、あなたは」

 

「まあ、唯一の肉親ですからね。先輩だってそうでしょう? 世界を超えてでも戻ろうと思うくらいなんですから」

 

「そうね。でも、あなたは…」

 

 そう言った瞬間、強い風が吹き抜けた。俺はあえて聞こえなかった振りをするが、難聴系主人公でもないし、その続きの言葉ははっきりと聞こえていた。

 

「あなたは、ときどき弟のように見えるわ」

 

「…何か言いました?」

 

「何も。そろそろ戻りましょうか」

 

 涼しさを堪能した俺たちは研究室に戻るのだった。歩きながら考える。静香姉も薄々、俺が弟であることを気づいているのではないのかと。もちろん、それに甘えて伝えないなんてことはしないが。

 

 




もうちょっと投稿ペースを上げたいけど…
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