ルディの入学試験が終わり、一ヵ月が過ぎた。その間、俺もシルフィ姉も彼への接触はなかった。そもそも向こうは俺のことを認知しているだろうか。ジーナス教頭が話さなかった可能性もある。
そんな俺は久しぶりに寮から登校している。普段は俺の部屋と静香姉の研究室直通の転移魔法陣を利用しているが、たまには外を出歩くのも悪くない。
(そういえば、今日は入学式だったか)
アリエル王女によると、俺は出ても出なくてもどちらでもいいとのことだ。というのは、俺は生徒会ではあるが、アリエル王女の陣営に所属しているわけではない曖昧なポジションだからとのことだ。まあ、入学式に出なくてもそのあとあるホームルームには出なくてはならないが。
(てか、どんな顔してルディに会えばいいんだろう…)
シルフィ姉のように10年会っていない幼馴染だったら感動的な再会を演出できる。だが、俺の場合はたったの2年だ。俺からしてみれば結構長く感じたが、向こうはそうじゃないかもしれない。中途半端に間が空いた分、コミュニケーションの取り方が難しい。その上、シルフィ姉のことを話してはならないのだ。
迷っているうちに特別生の教室に着いた。まだホームルームが始まるまでには少しばかり時間がある。しかし、教室からは声が聞こえている。
「噂をすれば、ですな」
ルディと話していたらしいザノバ王子がこちらを見る。
「レード…」
2年ぶりに会うルディは驚いたような呆気に取られたような表情でこちらを見て近づく。
「久しぶりだな、ルディ」
「どうしてお前、ここに…」
「話せば長くなるけど、俺も特別生としてここに通ってるんだよ」
長くなるとは言ったが、思ったより長くない気もしなくもない。なにせ魔法大学に入学してからやったことといえば、2人の姉を発見して片方とやりまくったことくらいだ。自信もって話していいかわからない。
「そういえば、何を話してたんだ?」
「軽く自己紹介を済ませただけさ。あと一人の特別生って…」
「ああ。サイレント先輩のことか? ルディもそのうち会うことになると思うよ」
俺としては静香姉と呼んでもいいが、本人から他の人と話すときはサイレントと呼べと言われている。本名が知れ渡るのはあまり好みではないらしい。
「レードは知り合いなのか?」
「まあ、いろいろとな。それに関してもまたそのうち話すさ」
そんな俺たちの会話にクリフが口を挟んできた。
「レード、彼が噂のルーデウスでいいんだよな?」
「ああ。間違いないよ」
「ルーデウス・グレイラットと申します。以後お見知りおきを」
「クリフ・グリモル。天才魔術師だ」
自分で天才と言ってしまうあたりルディも俺も若干引いてるが、攻撃魔術7種を上級まで習得している実績は天才のそれだ。俺だってまだ魔術は中級止まりのものも多い。それに驚いたのはルディも同じだったらしい。
「僕は攻撃魔術四種の上級を取得するのに2年掛かりました。先輩は凄いですね」
「…チッ、調子に乗るなよ」
と舌打ちとともに睨みつける。というか、俺が10年近くかかっても習得できていないものがある上級を2年で習得するルディも大概おかしいと思うが。
「お前は剣術も使うんだろ?」
「レードには遠く及びませんがね…。誰から聞いたんですか?」
「エリスさんだ」
もしかしてミリスにいたとき2人は会ったのだろうか。デッドエンドがミリスにいた時間はあまり長くなかったはずだが。
「彼女もこの学校に?」
「は? いるわけないだろ?」
まあ、確かにエリスに学校は似合わない。剣の聖地で修行してるとかの方がよっぽど似合う。
「えっっと…。僕に関して他になんか言ってました?」
「小さいって言ってたな」
「そうですか…。小さいと…」
なぜかルディが表情を暗くする。おそらくアソコが小さいと言ったのではなく、背が低いと言ったつもりだと思うが。
(もしかして俺も静香姉からそう思われてないかな…)
だとしたらショックだ。こればっかりはトレーニングを積んだところで大きくなるとも思えないし。
「まあ、クリフ。ルディも気にしてるようだし、あんまり言ってあげるなよ」
「それはどうだか」
「彼女と別れて2年、それなりに成長しましたから」
「ん? エリスさんと別れたのか?」
「…別れてないよな?」
いや確かにルディからしてみればフラれたように思えるかもしれない。
「えっと…」
「ふん、まあいい。どのみち、お前なんかじゃエリスさんとは釣り合わないからな!」
それに対して俺はクリフの頭に軽くチョップを落とす。
「何するんだ、レード!」
「クリフ、さすがにそれは言い過ぎだよ。いくらルディが気に食わないからって」
彼は俺の声にフンとまた鼻を鳴らして自分の席に戻って行った。
「すまん、ルディ。普段はあんなやつじゃないんだけどな…。それでなんだけど、このあと時間あるか? 2人で確認したいことがある」
「いいけど、お前は大丈夫なのか? 授業とか」
ルディも俺も都合よく免除されている。まあ、どのみち今日取っている授業はなかったが。
「ああ。ついでに学校を案内してやるよ」
この学園は広いので俺も行ったことがない場所が結構あるが。
その後、ザノバ王子やクリフといった同級生は授業に向かうことになった。俺は廊下を歩きながらルディに話す。
「…で、この2年間どこで何してたんだ?」
「母様をずっと探してたんだ。結果はダメだったけど」
まあ、想像はしていた。俺やパウロさんたちが必死になって探してもまだ見つかっていないのだ。そう簡単に見つかるとも思えない。
「なるほど。けど、どうして大学に? 推薦状が来たからってだけじゃないよな?」
「…レードには話してもいいかもな」
そうして彼は自身が女性に対するトラウマによりEDになったこと、ヒトガミのそれが治るというお告げに従い大学に入学したことを話した。
(…ほぼ毎日静香姉とヤリまくってるとはとても言えないな)
幼馴染の俺が今の彼にそれを言うのは喧嘩売ってるようなものだ。そして、彼の話を聞いているうちに図書館に着いた。
「表向きは転移事件についての研究だけどな」
「そうか…。そのヒトガミは俺についてなんか話してたか?」
「あ、そういえば一言あったな。『あんまり変なことしたら、消すよ』って伝えてって言われたな」
消すとは物騒な。ただ、面識がないしあまり恐怖は感じないが。
「じゃあ『やれるもんならやってみろ』とでも伝えてて。覚えてればでいいけど」
「覚えてたらな。それで、レードは何してたんだ? シルフィの手がかりはあったか?」
弟の俺に聞くとなるとそうなるよな。ただ素直に発見しましたと言うわけにはいかない。
「いや、まだだ…。そろそろ動くべきだとは思ってるんだけどな。ルディは転移事件のことを調べるんだろ? 本持ってきてやろうか?」
「ああ、そうだな」
俺もこの図書館をあまりたくさん利用したことはないが。ちなみにここにはかつて俺が出版した教科書もちゃんと置いてある。なんか自分の書いたものをこういうところで見かけるのはどこかむず痒い。
「あっ!」
2人で本を探してる矢先、聞き覚えのある声が聞こえてきた。シルフィ姉だ。ルディは頭を下げる。
「先日は申し訳ありませんでした。僕の浅はかな行動で先輩の顔を潰すような事になってしまいました」
「うぇぁ!? …い、いいよ、頭を上げて。レードも来てたんだね」
「シ…フィッツ先輩、こんにちは。ルディ、気にしなくても彼は優しいし、許してくれると思うよ」
畏まるルディに声をかける。というか、危うくシルフィ姉と呼んでしまうところだった。普段ならスムーズにフィッツ先輩と呼べるのだが、どうもこの3人でいるとブエナ村にいた頃が思い起こされるようだ。
「えっと、ルーデウス君? 君はここで何を?」
「転移事件について調べようかと」
ルディはかつて魔大陸に飛ばされたことを話す。3年も帰還するまでに時間がかかったことを考えると、静香姉が原因の1つであるとは言いにくい。
「もしかして、それを調べるために大学に?」
「そうです。フィッツ先輩はここで何を?」
「資料を運ぶところだったんだ。ボクはもう行くよ。暇ならレードも手伝って」
「俺ですか? 別にいいですけど…。すまんな、ルディ。指名が入ったから出て行くわ」
見た感じ1人で運ぶのが難しいような荷物じゃないと思うが。
「ああ。それじゃあ、また」
出て行こうとしたシルフィ姉が振り返って言う。
「あ、そうだ。転移についてならアニマス著の『転移の迷宮探索記』を読むといいよ。物語形式だけど、分かりやすく書いてあるから」
シルフィ姉はそれで転移事件について知ったという。あれならルディでも理解できるだろう。
そして、荷物を片方持って図書館を出る。
「やっぱり、カッコよかったなぁ…」
「ご機嫌だね、フィッツ先輩。で、正体は言えそう?」
「まだ、それは無理かな…」
まあ、会って初日で言えるようだったら、この前言っているだろう。
「俺もなんとかサポートするよ。足引っ張らないように気をつける」
「よろしくね、レード」
荷物を生徒会室に届けたあと、その足で静香姉の研究室に向かう。ここの転移魔法陣を使えば、夕方女子寮の前を通らなくてもいいのはありがたい。まあ、通ったところで問題を起こさなければ大丈夫だとは思うが。
やっぱりルディが来るとテンポがいいな