短かった夏が過ぎ去り、肌寒さを感じさせる秋の季節となった。学園はそわそわしたような雰囲気が漂っている。獣族の発情期が来たのである。
去年までなら見て見ぬふりをできたのだが、今年は生徒会に入ったこともあり、そういうわけにもいかない。一応、生徒会でトップの武闘派とされているらしい俺は決闘の仲裁に幾度となく駆り出させれた。実際、俺が行ったら収まることもあるので、アリエル王女の目利きは間違ってはいないのだろう。
「…不満そうな顔ね」
今日も決闘の仲裁に駆り出させれた俺を静香姉が出迎える。
「喧嘩を見るのが嫌ってのもあるけど、それ以上に静香姉との時間が減るのが精神的にキツい」
「なら、せめてここでは甘えなさいよ」
「ちょっと汗臭いかもだけど」
まあ、最終的にはベッドの上で汗をかくことになるのだが。
「もう一年経つのね」
「ああ。思った以上に早かったな」
なんか長い時間の付き合いがあったような安心感すらある。前世と合わせれば10年を超えているのだから、あながち間違いではないけど。
「で、今日もするの?」
「したいし、その予定なんだけど、一回生徒会室行かなくちゃな…」
「わざわざ来なくてもよかったのに」
「静香姉成分補給だよ。これがないと俺は干からびる」
自分でも何言ってんだと思うが、嘘じゃない。これがないと生きていけないまである。
別れ際に額にキスを落として、生徒会室に向かう。このキスも姉と弟ではなく恋人同士じゃなきゃ受け入れてもらえないだろう。
(…案外静香姉だったらワンチャン受け入れてもらえてたのかな)
当時10歳だった自分が全力で甘えればどこまでできたのだろうか。挑戦する前に離れ離れになってしまったことが心底悔やまれる。
「失礼します」
何気ない想像をしている間に、生徒会室に着いた。中からアリエル王女の声がかけられる。
「どうぞ。外の様子はどうですか?」
「相変わらずですね。シルフィ姉は…」
「今はおそらくルーデウスと一緒にいるかと」
なるほど。それならシルフィ姉は怪我とかはしてないだろう。もっとも怪我を少ししたところで彼女の治癒魔法の技術は高い。自分でどうにかできるだろう。
「ルーデウスで思い出しました。シルフィは正体は言えそうですか?」
「現状厳しいかなと。ですが、俺の方でも打てる手を打つつもりです」
シルフィ姉はルディに対してはあまりに臆病だ。そんなシルフィ姉も可愛いのだが、俺としてもなんとかしてやりたくなってしまう。
「分かりました。それでは、学園内の見廻りも続けてください。仲裁も行ってくれると助かります」
「はい。では、失礼します」
そうして生徒会室を出る。周りを見渡すが、今日は特に何も起こっていないようだ。まあ、毎日そんな問題が起こっても困るが。せっかくだし、シルフィ姉とルディの様子も見にいくか。ちょっとからかってやるのも悪くない。そう思っていた矢先だった。俺に向かって何かが飛んできた。
(…なんだ、これは)
呆然としながら見ると、その何かは気を失った人間だった。それが弾丸のようにこちらに向かって飛んできたのだ。
俺は飛んできた方向に向かう。人が次第に多くなってきており、その中心には怪物と言うべきモノが立っていた。
近づいてくる生徒をバッタバッタと薙ぎ倒していく大男に俺も近づく。
「ちょっといいか…?」
俺は絶賛大暴れの黒い怪物に声をかける。
「ム、貴様は何者だ?」
「一応、この学校で生徒会やらせてもらってるレーディスという者なんだけどさ。これ以上暴れられても困るなぁって」
「順番待ちをしていたところを倒せば、ルーデウス・グレイラットと決闘ができると聞いてな! 片っ端から相手をしていたのだ!」
ここにいる気絶した連中はリニア先輩たちの親玉ともいうべきルディを狙って決闘を申し込もうという人たちのようだ。とはいえ、普通の相手ならルディがやられるわけがない。
「…そういうことか。なら、なおのことここを通すわけにはいかないな」
俺は剣を取り出す。普通の人間ならともかく、目の前にいるのはそれらが束になっても敵わないような化け物だ。そんな奴をルディに近づけるわけにはいかない。
剣を出した俺を見て、化け物に挑もうとしていた人たちはわらわらと離れていく。倒れている連中はそのままだが。踏んづけないように極力気をつけるが、たぶん踏んでしまうだろう。
「気概があるな! 我が名は魔王バーディガーディ!」
「では、改めて。俺の名前はレーディス。名前を先に聞けてよかったよ。殺しはしないが、気を失ってもらったら名前も聞けないからな」
俺の答えにバーディガーディは大きく笑う。
「フハハハハ! 実に良い度胸だ!」
彼の笑いをコングに俺とバーディガーディの戦闘が始まった。先に突っ込んだのは俺だ。
(魔剣流 終炎。これで済めば楽なんだがなぁ)
俺の炎を纏った刃は呆気なく止められてしまっていた。止められたというより、刃が通らなかったのだ。
「いい太刀筋だ! しかし、見かけない技だな」
そして、バーディガーディは俺をぶん投げる。このままだと、壁に叩きつけられてノックアウトだ。
(魔剣流 水斬堅守)
身体を捻り自分の真後ろに水の膜を作る。反動で飛ばされた壁に大きな穴が空いたが、どうにか無傷だ。
(てか、これ生徒会に請求いったりしないよな…)
そんなことを思いながら俺は再び元の場所に戻る。
「アレを喰らって無傷とは! かなり実力があるようだな!」
「こっからは本気でいきまっせ、真っ黒のオッサン」
驚くバーディガーディに軽く笑って答える。とはいえ、初撃を見切られてるというわけで、実力差は見え見えである。しかし、俺だって伊達に日々トレーニングをしていない。その成果を発揮するのは今がまたとないチャンスだ。
俺は近づきながら技を放つ。
(魔剣流 岩蜘蛛の舞)
相手の動きを岩砲弾を避けさせることで誘導し、その後の太刀を避けれない位置で固めるという技だ。どれだけ運動神経や反応が良くても、身体が動かなければ意味はない。この相手は腕が多いので、少々厄介だが。
魔王は俺の剣を止めることはせず、そのまま受け止めていた。彼の腕が切り落とされる。
「いい一撃だな! しかし、ここまでのようだ!」
このまま去ってくれればありがたいが、そういうわけでもないらしい。というか、腕落としたのに、なんで平然としてられるのか。
「レ、レード…?」
バーディガーディの視線の先にいたのは図書館にいるはずのルディだった。俺は剣を下ろしてルディに言う。
「よう、ルディ。バカ強い相手だから気をつけてな」
「え? 俺?」
「さよう! 貴様がルーデウス・グレイラットか! 我がフィアンセ、魔界大帝キシリカより話は聞いておる! 貴様に決闘を申し込む!」
こうして、ルディと魔王バーディガーディの決闘が行われることになった。
「ちょっと待て、レード。話がまったく飲み込めないんだが」
「あとは目の前の魔王と話し合っておいてくれ。一応、人間語は通じるみたいだし」
ということで、俺はシルフィ姉のところへ向かった。
「まったく、レードったら。また何か問題起こしたの? あそこの壁に穴空いてたけど」
確かにアレは半分くらいは俺のせいだ。もう半分は魔王のせいなのだから、金は折半してもらいたいところだが。
「そうなんだけどさ、ところでルディの杖を取ってきてくれないか?」
「レードはルディとあの人と決闘させないために戦ってたんだよね?」
「そうだったんだけど、ルディの方から来てしまったし、ルディに倒してもらってとっとと帰ってもらった方が都合がいいかなって思って」
どう戦うかわからないが、ルディならなんとかしてくれると俺は信じている。
「しょうがないなぁ。決闘が始まらないように引き伸ばしといてよ?」
そうしてシルフィ姉は駆け出して行った。この距離からはルディとバーディガーディの会話は聞こえないが、時おりバーディガーディが笑っているのが分かる。まだ、しばらくは決闘は始まらないだろう。
(しかし、まさかルディが本当に狙いとはな)
時折、ラプラス並みという言葉が聞こえてくる。ルディの魔力量がそのくらいあるらしい。歴史に名を残すような人物と同等かそれ以上の魔力量を持っている辺り、大概チートスペックな幼馴染だ。
そんなことをぼんやり思っていたらシルフィ姉が戻ってきた。魔力付与品でやたら早く走れるシューズを履いているため、すぐに戻ってきた。彼女の普段から着ているマントもその魔力付与品の一つらしい。
息を切らしているシルフィ姉から杖を受け取り構える。なんか、顔を紅潮させてるシルフィ姉を見て、ルディが下心とかを感じてくれればいいが。
俺が変な妄想を浮かべている間にもルディとバーディガーディの対戦がスタートした。
ちょっと中途半端だけど、今回はここまで