アニメ第二クールが最高すぎる!
「向こうの世界における、死ぬ前の俺の姉ってわけだ」
さあ、ついに言ってしまった。が、不思議と心は落ち着いている。まあ、慌てる必要もないが。
「…ルーデウス君」
シルフィ姉はなぜかルディに声をかける。
「どうしたんですか、フィッツ先輩」
「ちょっと外に出ててくれないかな? 2人に話があるんだ」
それは困る。ルディに出て行ってもらったら、俺が作戦を立てた意味が半減してしまう。
「ちょ、フィッツ先輩…」
「レードは黙ってて。今はルーデウス君と話してるんだよ」
シルフィ姉は思いの外、強い口調だ。もしかして、俺の作戦を勘づいているのか。さすがにそれは難しいと思うが…。
「僕は出て行った方がいいんでしょうか…」
「うん。ボクにはその方がありがたいな。ダメ、かな?」
「フィッツ先輩のおっしゃることなら、何かしらの考えがあってのことでしょう。何かあれば呼んでください」
ルディはあっさり引き下がってしまった。俺も引き止めたいが、シルフィ姉がこちらを睨んできたことにより黙らされる。怖いというわけではないが、なんというか底知れぬ圧があるのだ。
ルディが部屋を出てからしばらく経ったのち、シルフィ姉が静かに聞く。
「…ねぇ、レード。さっき言った話は本当なの?」
「ああ。証明はいらないだろ? さっき俺たち3人が話していた言語が何よりの証拠だ」
「2人が付き合ってるっていうのは?」
「それも事実だ。な? 静香姉?」
「…そうね」
彼女は居心地が悪そうに答える。
「ふぅん、そうなんだ。ねぇ、なんでこんなことしたの?」
その言い方だと、俺が仕組んだ状況に気づいている可能性がある。
「…こんなこととは?」
「レードがボクのことを考えてやってるってことはわかってるよ。でも、これはあんまりじゃないか」
「そのことの謝罪は後でするとして。シルフィ姉が怒ってる理由は他にもあるだろ?」
俺の言葉にシルフィ姉が詰め寄る。
「さっき言ってたことなんだけどさ。レードが別の世界でサイレントの弟で、それがボクの親を殺した原因で、なのにレードは彼女と付き合ってるってのは本当なんだよね?」
「…ああ」
自分で言ったことだし、誤魔化しも効かないだろう。
「だったら、ボクは2人を、いやサイレントを許せないかもしれない」
目線が静香姉に向けられる。彼女はとても居心地が悪そうだ。無理もない。ここまで憎悪の視線を向けられることなど、なかなかないしな。
「本当だったら、さっきみたいに魔術をぶつけて、お父さんやお母さんが味わったみたいな地獄を見せてやりたいよ。でも、それはできないんだ」
「…俺がいるからか?」
「うん。間違いなくレードが悲しむって分かってるから」
そう思って踏み止まってくれているのは本当にありがたい。相手が相手なら絶縁を言い渡されても文句は言えない状況だし、俺だって静香姉を守るためとはいえシルフィ姉に刃は向けたくない。
「でもね、ボクが譲歩できるのはここまでだよ。2人の交際を認めるわけにはいかない」
はっきりとした拒絶だ。これをどうやってこじ開けるか。
「別にレードが誰を好きなろうと、ボクとしては気にならないんだ。でも、サイレントだけはダメだよ…」
そう語るシルフィ姉の目からは涙が零れ落ちる。静かな部屋にシルフィ姉の嗚咽が響いていた。
(…ここが1つの分岐点なのかもしれないな)
ここで、シルフィ姉の指示に従えば、彼女は満足してくれるだろう。だが、それで本当にいいのだろうか。1年前、もうこの手を離さないと誓った静香姉の手を簡単に離してしまうことになる。
「…シルフィ姉。ごめん」
「レード…」
「俺はシルフィ姉の言うことには従うし、理想になれるよう努力してきたつもりだ。でも、俺としてもこれだけは譲れないんだ」
そう言う俺に掴みかかる。
「ふざけないでよ! なら、ボクが納得できる理由を話してよ!」
「そんなもんねぇよ! 好きだ、大事だって気持ちをそんな簡単に説明できるかよ! シルフィ姉だって、ルディに対してそう思ってるだろ!」
声を張り上げるシルフィ姉に、俺も思わず大きな声で応戦する。
「ボクのことは関係ないだろ!」
「いーや、関係あるね。俺がこんな回りくどい作戦をやる羽目になったのは、元を辿ればシルフィ姉のためだ。そりゃ俺にもルディにも都合のいいタイミングだったってのもある。けど、シルフィ姉のことを思って、俺も静香姉も苦しいのを承知でこの作戦にしたんだよ」
それを聞いたシルフィ姉は俺の肩を掴んでいた手を力なく下す。
「想像してみろよ。ルディとシルフィ姉が付き合うのを、俺やアリエル王女辺りに絶対ダメだって言われるのを。そんなん受け入れられるか?」
もちろん俺はシルフィ姉とルディが結婚するのは大賛成だ。しかし、今回は最も納得させやすいカードとしてこれを切らせてもらう。
「それは…」
「無理だろ? 同じことだって言われるのは癪かもしれないけど、そういうことなんだよ」
俺の答えにシルフィ姉はため息をつく。
「…今すぐ認めることはできない。でも、レードが本音で答えてくれたことに免じて、さっき言った絶対っていうのは撤回するよ」
俺が内心ホッとしているところで、静香姉が呟く。
「…あの状況から、よく持ち直したわね。正直、別れ話は覚悟してたわ」
「俺もだよ。何度ダメと思ったか」
正直、どの魔物や化け物と戦うより精神的には苦しかった。相手がこの世界で唯一の肉親なのだから当然だ。
「言っておくけど、まだ認めるわけではないからね」
静香姉を睨みながら答える。
「…それで構わないわ。ね?」
「ああ。話がまとまったところで、ルディを呼び戻そうか」
そうしたところでシルフィ姉は部屋を一度出て行った。
「あなたたちはやっぱり姉と弟なのね」
「そうか? それを言うなら静香姉と俺もそれに当てはまるだろ?」
「さっき言い合ってる姿はそっくりだったわ。あなたのやり方は最低だったけど、根っこの部分ではそっくりなのね」
俺としては自覚はないが。静香姉が言うならその通りなのだろう。
それから数秒後、ルディが戻ってきた。
「えっと…。話は済みましたか?」
「ええ。それじゃ、転移事件についてなんだけど、はっきり言って今のところはわかっていないことだらけよ」
「そうなんですか?」
「ええ。誰が、なんの目的で、そしてあの大災害がなぜ生じたのか。その辺は誰もわかってないわ。オルステッドですらね」
俺の方はなんとなく推測というのはある。しかし、それは俺が転生した理由でしかなく、静香姉の転移事件には関連性を見出せないのだ。
「でも、研究を進めていけば、転移事件の真相に近づくかもしれないわ。その道を進むためにあなたの魔力が必要なのよ」
「レードでは、ダメなんですか? 俺じゃなきゃダメな理由とかってあるんですか?」
「ああ。残念ながら、俺じゃ魔力量が足りないみたいだ。細かいことに関しては後日説明があると思うが」
俺でも魔法陣をいくつか励起させることなら問題なくできる。だが、それの規模が大きくなればなるほど足りなくなってくる。
「わかりました。ナナホシさん。今日の所は俺も整理しきれていないので、後日、また改めて伺います。具体的な手伝いの内容は、その時にで」
ルディが告げる。静香姉も頷いたところで、今度こそお開きとなった。シルフィ姉とともに彼は出て行った。
「…疲れたな。やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな」
座り込んだ俺が呟く。
「お疲れ様。でも、本当に良かったの?」
「何が?」
「あなたとシルフィの関係が悪くなったんじゃないかなって」
「それは大丈夫だよ」
俺は軽く笑う。あのくらいのことで、シルフィ姉が俺のことを嫌いになるなんてありえないのだ。
「似たもの同士っていうのは、たぶんシルフィ姉も分かってくれてるだろうからさ」
俺が気づいているなら向こうもそのうち気づくだろう。
「あとは、あの2人だな…」
「まだ何かするつもりなの?」
悪知恵を回すつもりだと思われているのだろうか。
「…いや。俺がしくじった以上、これ以上手を出す理由はないし、撤退だな。あとはあの2人の勇気に任せるとしよう」
俺の感覚だが、2人が結ばれるのは時間の問題だ。遅くとも今年の冬が終わるまでには、すべて解決しているだろう。というか、そうであってほしい。
「…難しい話はこれまでにしよう」
そう言って俺は静香姉を抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこだ。
「ちょっ! 急にやめてよ」
「続きはベットの上で、とはならないかい?」
そんな俺に静香姉は仕方なさそうに笑う。
「あなたが言わなきゃ、私から言うつもりだったわ」
「そりゃちょうどいい」
そうして過ごした彼女との時間は、精神的な疲労があった分、かなり甘く濃く感じた。これがあればどんな困難も乗り越えられると感じるくらいには。
ルディとシルフィは秒読みです