さて、歩きながらルディと話していたが、その間に今後シルフィ姉がどうしていくのか俺はぼんやり予想していた。
(おそらくアリエル王女やルーク先輩から何かしらのアドバイスを受けるだろうな。性的な考え方がぶっ飛んでるアスラ貴族のことだ。なんかとんでもない提案をされそうで少し不安だな…)
黙って歩く俺にルディが聞く。
「レード? どうしたんだ?」
「なあ、ルディ。シルフィ姉がどれだけ不審な行動を取っても許してやってくれよ?」
「不審な行動って言われてもな…」
「たぶん今、アリエル王女とルーク先輩から何かしらのアドバイスを受けてるはずだ。だから、日本出身のルディが受け入れられないかもしれないことがあると思ってる」
彼らはアスラ貴族だ。どんな提案をされるかわかったものではない。
「そういうことか。なら、レードもその場にいてくれないか?」
「え?」
俺の頭は真っ白になる。不審なだけならまだいいが、下手したらルディを無理矢理襲えというアドバイスを受けてるかもしれないんだぞ。いくら俺でもそんな状況に割って入るのはキツイって。
とはいえ、そんなことを言うこともできずに。
「ルディがいいなら、それでもいいけどさ…」
「たまには3人で話し合いたいんだよ。今度は幼馴染3人でな」
半ば押されるような形で決定してしまった。まあ、いざとなったら俺がこっそり退出してしまえばいいか。幸い俺とルディの部屋は近いし。
「何か飲みたいものとかあるか? そういえばルディは成人したんだったな」
そのお祝いを兼ねてもいいかもしれない。何かプレゼントでもしたいところだが、すぐには思い浮かばない。
「年下にプレゼントを求めるのはなぁ…」
「1つしか変わらないから年下って感じがしないんだよな」
前世を含めた年齢的にはルディが49歳、俺が25歳だったはずだから、親子ほどの差があるが。
しばらく考えたのち、ルディが言う。
「…なら、シルフィで」
「え?」
「お前の姉を俺にくださいっていうことさ」
「…そんなことでいいのか?」
シルフィ姉なら、俺が何を言わなくても喜んで嫁に行くだろう。
「ああ。本来なら、親に頭を下げて頼むべきかもしれないが…」
今となっては俺の肉親は姉と祖母だけだもんな。もっともエリナリーゼさんは俺の知らない異兄弟を作っているかもしれないが。
「その返事は、当日にさせてもらうことにしようか。シルフィ姉がいた方が都合がいいだろうしな」
「そうだな」
そうして、ルディは自分の部屋へと戻っていった。俺も軽く準備をした方がいいか。
(…そうだ。酒があるなら、つまみもいるだろうな)
とりあえずありあわせのもので何か美味しいやつを作るか。思い立った俺は厨房へ向かうことにした。その最中、シルフィ姉と会った。
「あ、レード」
「シルフィ姉。2人からはなんて?」
「それなんだけど…」
シルフィ姉は俺の耳元で小さな声で言う。
「お酒と媚薬で…」
「それってもしかして今日じゃないよね?」
シルフィ姉は頷く。これはヤバい。嫌な予感しかない。とはいえ、一度ルディにああ言った手前、断るというのは申し訳ないが。
「どうしたの、レード」
「ルディから3人で飲まないかって誘われててさ…」
「うーん。レードがいたら、ちょっと飲みにくいかも」
「だよなぁ…」
2人のことは大好きだ。でも、その2人が大人の階段を登るところを見たいかどうかって聞かれると答えにくい。
「いや、俺が媚薬を飲まないように気をつければいい話だ」
媚薬はシルフィ姉が持っている。よもや俺に飲ませたりはしないだろう。万が一飲んでしまったら、速攻で自室に戻り静香姉の研究室にワープするか。そのあとのことはそのときになったら考えればいい。
「分かった。ボクも気をつけるね。レードはどこに?」
酔ったらそれどころじゃないかもしれないが。
「酒の席なのに、つまみがないのはおかしいだろ? せっかくだから、何か作って持っていこうと思ってね」
「手伝おうか?」
「いや、大丈夫。シルフィ姉はそれ以上に心の準備があるだろ?」
「そっか。それじゃ、ルディの部屋で」
「ああ」
そうして別れて2時間後。程よく暗くなったところでルディの部屋へ向かうのだった。
俺が作ったのは、肉と野菜を適当に炒めたやつだ。これが2人の口に合うかはわからないが、パウロさんが酒を飲んでいるときにはこれをよく食べていた。
ルディの部屋にはまだシルフィ姉は来ていなかった。
「お待たせ、ルディ。シルフィ姉はたぶんもう少し後から来るんじゃないかな?」
ここまで来て、ビビって来れないということはさすがにないだろう。
「そうか。いい匂いだな」
俺の手元の肉野菜炒めを見て言う。
「お腹は空かせてきたかい? ルディの口に合うかはわからないけど…」
味付けは前世のものと似せてみたが、材料がだいぶ違うからな。ルディもボレアス家で美味しいものをたくさん食べてきたため、舌は肥えているだろう。
俺は椅子に座って、ルディが用意した皿に取り分ける。ちなみにこの皿もルディの土魔術で用意されたもののようだ。
「よくできてるなぁ…。人形のときといい、器用なものだ」
「レードも練習すればすぐできるようになるさ」
小さく魔力をコントロールするのは、一筋縄ではいかない。皿はシンプルな作りだから、俺でも頑張ればいけるかもしれないが、人形みたいな精巧なものは一生かけても作れない気がする。
「味はどうだ? 米がないのは物足りないかもしれないが…」
「いや、美味しいよ。これならお酒にも合うだろうな」
「ルディは飲んだことは?」
「ないよ。レードもないだろ?」
実は俺は結構飲んだことがある。いろんな人の付き合いで飲まざるをえない展開というのがあるのだ。
「普段はほどほどにしか飲まないけどな。あんまり飲んだくれてノルンちゃんに酒臭いとか言われるの嫌だったし」
「…そんな昔から飲んでるのかよ」
この世界には未成年飲酒の法律とかないからな。というか、そもそも成人年齢自体が15歳だ。
そう思ったところで、ドアがノックされた。
「はい、フィッツ先輩、どうぞ入ってください」
リラックスしていたルディがドアを開けたそのときあからさまに固くなる。シルフィ姉だって分かってるのに緊張しすぎだ。
「えっと、泊まりに来ました」
「…まあ、座れよ」
シルフィ姉はサングラスを外し、椅子に腰掛ける。
「レードも来てたんだ」
「ああ。お酒は用意してあるかい?」
俺に促されて、シルフィ姉はナッツのおつまみと高そうなお酒を取り出す。それを見たルディも素早くコップを用意した。
「ずいぶん強そうなお酒だな」
「うん。よくわからないんだけど、高そうなのを用意したんだ」
「シルフィ姉はお酒とか大丈夫なの?」
「飲んだことないからわからないや。ルディもでしょ?」
「ああ。とりあえず乾杯といこうか」
こうした場合、乾杯の音頭は誰が取るべきだろうか。俺がコップを持ったまま固まっていると、シルフィ姉が言う。
「幼馴染3人の再会に乾杯!」
「それと2人の結婚に乾杯!」
シルフィ姉に呼応する形で俺も言う。ルディもしばらくして、
「…俺たち3人の未来に乾杯!」
と恥ずかしそうに答えた。そしてコップに口をつける。
(結構辛いな、これ…)
久しぶりに飲む酒の味に舌を痺れさせていると、シルフィ姉が激しく咳き込んだ。
「大丈夫か? やっぱり割った方がいいんじゃないか?」
ルディがシルフィ姉のコップにお湯を注ぐ。
「レードは平気そうだね」
「2人よりかは飲み慣れてるだろうからな。それでも、これは辛いと思ったけど。それにしても、その魔術は懐かしいな」
「そうだね。ボクとルディが最初に仲良くなったのもお湯がきっかけだったね」
「そういえばそんなこともあったな。混合魔術を無詠唱で使ったっけ」
3人でブエナ村の話に花を咲かせる。もうブエナ村はなくなってしまったが、あのときの2年間は一生忘れることはないだろう。唯一無二の幼馴染と出会えたことに心から感謝しなくてはいけないな。
そこそこ飲んだところでシルフィ姉が小瓶を取り出す。
「それは?」
「えっと、ルディのアレに聞くっていう薬なんだけど」
「どこかで見たことがあるな」
「うん。飲んでみてほしいんだ」
小瓶を俺から遠ざけるようにルディに渡す。彼は三分の二ほどをお酒と混ぜて飲んだ。
「き、効いてきたら、が、我慢しなくていいからね」
シルフィ姉が上着を脱ぐ。いや、脱がなくても効くだろうし、そもそも寒いだろ。まあ、これからベッドの上で熱い夜を過ごすみたいだから問題ないのか。
緊張を誤魔化すようにシルフィ姉はコップにお酒と薬を混ぜて飲む。
「レードは飲まないのか?」
「なんで俺が飲むんだよ」
この場で発情しろというのはちょっとキツい。シルフィ姉はお酒をさらに注ぐ。
「あんまりハイペースで飲むと気持ち悪くなるかもしれない」
「うん。そのときは解毒をかけてもらうよ」
「俺もそうしようかな」
酔った2人の介抱をしなくてはならないのか。薬を飲んだ以上、そんなことをする必要もなさそうだが。
俺も飲み直そうとコップを手に取る。そして、口をつける。
「あ、ちょっと待って!」
叫んだのはシルフィ姉だ。もしかして、これは彼女のものだったか。
「あ、すまん。勝手に飲んで。間違えたわ」
「間違えたことは別にいいんだけど、それまだ薬が…」
俺としたことがうっかり媚薬入りのお酒を飲んでしまったようだ。吐き出すわけにもいかないし、どうしたものか。
「…ちょっとくらいなら大丈夫だと思う」
「そう、だよね」
シルフィ姉の頬はすでに赤く染まっていて、どことなく色っぽい。お酒のせいもあるが、間違いなくそれだけじゃない。
そんな状態なのはルディも一緒だ。というか、シルフィ姉と同じかそれ以上に色っぽい。もともと彼はパウロさんの息子なだけあってイケメンだし、そんな彼の息が荒くなっている。
「…シルフィ」
ルディがシルフィ姉の腕を掴む。彼女はそれを振り解くことなく答える。
「が、我慢できない?」
ルディが頷く。そして、シルフィ姉は小さな声で言う。
「じゃ、じゃあ、どうぞ。お召し上がりください」
本当に小さな声だったが、同じ部屋にいる俺にもはっきり聞こえた。そして、すぐさま彼女はベッドに押し倒される。
その後は圧巻だった。ルディとシルフィ姉の嬌声が響き渡る。ここらで俺はお暇しよう。そう思っていたときだった。
(うぅっ…。身体が熱い)
風邪を引いたわけでもないし、お酒を少し飲んだくらいでそうなるとも思わない。間違いなくあの媚薬だ。俺は少量しか飲んでないのに、こんなに効き目があるとは。
(静香姉は…。さすがにもう寝てるか)
今から叩き起こして行為に及んだら、さすがに怒られるし、嫌われてしまうだろう。そう考えた俺は悶々とした気持ちを抑え込んで股を押さえるように座り込んだ。こうなったらこのまま寝落ちするしかない。2人の声をBGMにしていたが、ちょっと溢れてくるものがあった。
ぐっすり寝てる静香姉の部屋にワープする展開も考えていましたが、さすがにそれは酷すぎるので、却下しました