弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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第52話 ルディの誓い

 俺が起きたとき、部屋には誰もいなかった。ルディとシルフィ姉はもう外に出ているようだ。外もすでに明るいし、むしろ昼の方が近いのかもしれない。

 

(うぅ…。頭、痛えし、なんか周りが臭い…)

 

 ちょくちょく覗いていたルディとシルフィ姉の交わりはまさに圧巻だった。ロマンチックさのかけらもなかったが、シルフィ姉からしてみればそれでも満足だったのだろう。

 

 2人がいないこの部屋に長居は無用なので、俺も自室に一度戻って、静香姉の研究室までワープする。

 

「…おはよ。遅刻よ」

 

 すでに静香姉は着替えているし、魔法陣も書いていた。

 

「ごめん。昨日飲み過ぎちゃって…」

 

 酒だけじゃなくて媚薬も飲んだが。一応、今は時間が経ったからかムラムラしたりはしない。といっても静香姉が脱いだりしたら、薬とか関係なしに元気になるのたが。

 

「そう。誰と?」

 

「ルディとシルフィ姉と3人で」

 

「あの2人とよく飲めるわね…」

 

「いや、そんなに2人もたくさんは飲まないよ」

 

 俺の言葉に静香姉は呆れたように答える。

 

「量じゃなくて、雰囲気よ」

 

 言われてみればそうかもしれない。恋人同士に割って入ったと捉えられてもおかしくはないか。

 

「まったく気にしてなかったなぁ…。そういえば、ルディはまだ来てないよね?」

 

「ええ」

 

「俺もあの2人に倣って、イチャイチャする?」

 

「いっつもしてるでしょ?」

 

 言われてみればそうか。2人でいるときは相当乱れているな。そう思ったところでドアがノックされる。

 

「どうぞー」

 

「なんであなたが言うのよ」

 

「お邪魔します」

 

 入ってきたのは予想通りルディだった。全身から幸せオーラが溢れている気がする。

 

「おはよう、ってもうそんな時間じゃないか」

 

「すまんな、レード。昨日はほったらかしにして」

 

「気にしないでいいよ。俺は俺で普段から楽しんでるから。な? 静香姉」

 

 俺の言葉に静香姉はため息をつく。

 

「とりあえず、今日の分はもう書いてあるから」

 

 ルディにスクロールを手渡す。彼の魔力量なら何枚励起させたところで全然余裕らしい。凄いものだ。

 

「…何も起きず、か」

 

 30枚ほど片付けたところだが、今日もこれといって成果は得られなかった。静香姉は俯いて答える。

 

「そうね。今日も失敗ね」

 

 彼女が精神的に取り乱すことがないのは、俺の存在があるからだろう。もしかしたら、彼女が俺と付き合うことを了承したのは、そういうところで自分の精神を保とうとしていたからかもしれない。

 

「そうだ、ルディ。アリエル王女のところには行ったか?」

 

 シルフィ姉と結ばれたのならば彼女のところにも行かなくてはならないだろう。

 

「いや、まだこれからだよ。レードも行くのか?」

 

「せっかくだし見に行こうかな。2人が結ばれる記念すべき瞬間だしな」

 

「レードがいるなら心強いよ」

 

 俺としては特に何もできることはないと思うが。いや、むしろ余計な口を挟むのは野暮だろう。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

 静香姉に見送られて、俺とルディは生徒会室へ向かった。その道すがらルディが聞く。

 

「ところで、お前とナナホシは結婚しようとは思ったりしないのか?」

 

 俺と静香姉が出会ってから1年以上経つ。他から見ればもうそろそろという感覚もあるのかもしれない。

 

「静香姉は良くも悪くも前世の感覚が抜けてないからね。高校生が弟と結婚するというのに躊躇いがあるんじゃないかな」

 

 転移事件が発生してから5年近く経つ。今更高校生の感覚があるというのはなかなか苦しいが、それを以前口にしたら怒られてしまった。

 

「そんなものなのか…」

 

「でも、ルディたちが本気で結婚するならちょっと気を使っちゃうかもな」

 

「どういう意味だ?」

 

「いくら幼馴染とはいえ、新婚の2人に割って入るのはちょっとね…」

 

 ルディもシルフィ姉も邪魔などとは言わないと思うが、こちらとしては2人の時間に入るのはどこか申し訳なさがある。

 

「俺は別にかまわないよ。また、3人で飲みたくなる日もあるだろうしな」

 

「そのときは静香姉も誘ってみるかな…」

 

 シルフィ姉はいい顔しないかもしれないが。そんなことを考えているうちに生徒会室に着いた。ルディは一呼吸置いたのち、ドアをノックする。ルーク先輩の声が聞こえてきた。

 

「誰だ!」

 

「ルーデウス・グレイラットです。例の件でお話があります」

 

 そういえば、俺は爆睡していたため忘れつつあったが、昼ご飯の時間だったな。慌てて片付けているであろう音が聞こえてくる。

 

「は、入れ!」

 

 ルーク先輩の声に促され中に入る。案の定、食事中だったようだ。アリエル王女の口元にはパンクズが付いていた。それでも高貴に見えるのだから不思議なものだ。

 

「お初にお目にかかります。ルーデウス・グレイラットと申します」

 

「ここは王宮ではありません。私と貴方はお互い生徒同士。顔をお上げください」

 

 ルディの貴族流の挨拶にアリエル王女は言葉をかける。

 

「それで、この学校に雷名を轟かせるルーデウス殿が、本日はいかなご用向きですか?」

 

「すでに、シルフィ…シルフィエットより、色々とお聞きかと思いますが。その件について、少々お話をさせて頂きたいと思い、参じました」

 

 ここから先は俺が口を挟むことはないだろうし、アリエル王女から何か言われることもないだろう。特に何も考えず、ぼんやりと聞き流す。

 

「…俺はシルフィと結婚します!」

 

 どう責任を取るのかという話になり、ルディははっきり言い切った。それを聞いたシルフィ姉の顔は嬉しさと驚きからか真っ赤になる。見てて面白いな。

 

「そうですか…。想像以上の素晴らしい決断です。シルフィエット・グレイラット」

 

「はっ!? え!? グレイラットって、ええ!?」

 

 シルフィ姉は大慌てだ。見ていて面白いが、この場で笑ってしまってはいけない。ケツバットの罰ゲームはないが、普通に場が白けてしまう。

 

「彼はこう言ってますが、あなたはどうなさいますか?」

 

「ボク、いえ私は、今まで通りアリエル様に仕えつつ、ル、ルーデウスの妻として頑張りたいと思いますっ!」

 

 緊張しまくっているらしく、口が上手く動いていない。それでも、シルフィ姉の言葉に躊躇いはなかった。ルディもその様子を見て安心したらしい。

 

「ルーデウスの妻となるならば、今後、男装をする必要はありません。女らしくなさい」

 

「え、でも…」

 

「その代わりルーデウス。あなたの『名』を使わせてもらいます」

 

 ルディはここら辺では有名人だ。力を借りつつ恩を売る。なんともアリエル王女らしい賢い手段だ。

 

 とここで話は俺の方に向けられる。

 

「ところで、レード…」

 

「はい」

 

「あなたはどうするのですか?」

 

 どうするとはどういうことだろうか。急に言われて返答に困る俺にアリエル王女は続ける。

 

「学内では噂になってますよ。『魔剣流のレードに想い人がいる』と。そして、それがサイレントであるということも」

 

 マジか。隠しているつもりはなかったのだが。

 

「ですが、アリエル王女。シルフィ姉が抜けた上、俺までいなくなっては都合が悪いのでは?」

 

「もともとあなたを引き入れたのは、ルーデウス・グレイラットの本性を見極めるため。シルフィと彼が結婚する以上、私があなたを無理に引き留める理由はありません」

 

 そういえば、そうだったか。それに俺はもともとはアリエル王女の陣営ではなくあくまでも協力者だ。ルディもそれに加わった今、無理に残る必要もないのだろう。

 

「ありがたいお言葉ですが、そう簡単にはいかない事情がありまして…」

 

 目の前に大きな障害を乗り越えなくてはならないのだ。

 

「事情とは?」

 

「シルフィ姉が俺とサイレントの関係を認めない、と」

 

「そうなのですか? シルフィ」

 

 アリエル王女の声にシルフィ姉が頷く。

 

「ですが、アリエル王女。深い事情は言えませんが、シルフィ姉がサイレントを憎むのはそれ相応の理由があるのです。なんというか、俺もそれは致し方ないものとは思っているんですが…」

 

「なるほど…。でしたら、私の方からはとやかく言いません」

 

「そうしていただけると助かります」

 

 シルフィ姉が静香姉を許すのに、どのくらいの時間を要するかはわからないが、なるべく早めに済んでほしいものだ。

 

「ともかくルディ、いやお義兄様と呼んだ方がいいか? ご結婚おめでとう」

 

 ルディは恥ずかしそうに頬を掻く。

 

「今まで通りでいいよ。でも、ありがとうな」

 

「ああ。それと、シルフィ姉。ルディと幸せになってくれよ?」

 

「うん! もちろん!」

 

 シルフィ姉は笑顔で頷く。この笑顔を見ていると、彼女が姉でよかったと改めて思わされる。

 

 さて、幸せムードの2人を生徒会室から見送りながら俺は静香姉の研究室へ戻る。

 

(そういえば、俺と静香姉が付き合って1年くらい経つな…。何かプレゼントでも送れたらいいのだが)

 

 何が喜んでもらえるだろうか。彼女が一番望むのは日本への帰還だ。しかし、それは俺には厳しい。何をすれば喜んでもらえるか。それを考えながら廊下を歩くのだった。

 




次回、家探し!?
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