ルディとシルフィ姉が結婚することとなった。俺としては祝福する一択だが、ルディは何やら考え込んでいる。
「どうしたんだ? 浮かない顔ってわけじゃないみたいだが、何か困ったことでもあるのか?」
「いや、俺この世界の結婚のシステムってよく分かってなくてさ」
ルディがよく分かっていないのも無理はない。この世界と日本の考え方は根本的に違うしな。ゼニスさんの方は知らないが、パウロさんとリーリャさんは特にそういうことはしていない。まあ、結婚する原因が原因だったからな。
「すまん。俺もいまいち分からないんだよなぁ。正直他人事じゃないだろうし…」
「他人事じゃない?」
「ああ。今はシルフィ姉は認めてくれてないけど、このままおとなしく諦めるつもりは毛頭ないからさ」
静香姉がダメというなら説得方法を考えなくてはならないが。
ともかく解決しなきゃいけないのはルディの方だ。ということで、ザノバ王子やクリフも交えて話し合うことになった。
「結婚ですか?」
ザノバ王子はそういえば既婚者だったな。子どもとその相手を殺してしまった過去があるらしいが。
「余の時は、祝儀品として家畜や兵、食料などを相手の家に贈りましたな」
王子であっても男性が物を贈るのが、この世界の常識らしい。一方クリフは真逆のことを言う。
「ミリスでは逆だな。女の家族が、花嫁に結納品を持たせるんだ」
地域によっても異なるのか。とはいえ、シルフィ姉の家族は俺とエリナリーゼさん(そのことは俺しか知らないが)しかいない。
「で、どうする? ルディ?」
「…僕が誰かと結婚するとして、何が必要になりますかね」
それは物なのか。それとも目に見えない精神的なことなのか。
「まずは、家だな」
「うむ」
家か…。確かに愛の巣は必要だろう。俺の勘だが、シルフィ姉とルディのイチャイチャは相当だ。それこそ寮で夫婦になったら問題が起きるかもしれない。俺みたいにうっかり覗いてしまったりするような。
クリフ曰く、この世界では片方が貴族ではない限り、家を用意するのは男の甲斐性と考えられているようだ。男尊女卑の考え方とも言えるが、こういうところはある意味日本人にも通じるところがあると思う。
(家…。家か…)
そう脳内で反芻させていたところ、何か閃きのようなものが浮かんだ。
「家だっ!」
「びっくりした。急にどうしたんだ?」
驚いたクリフが急に叫んだ俺を見る。
「いや、すまん。ちょっと俺は俺で考えが浮かんでな。ルディの結婚と必ずしも無縁ではないんだけどな」
まあ、こっちはまだ結婚できそうもないが。だが、付き合って1年のプレゼントくらい与えても罰は当たるまい。
(それに静香姉に食べてもらうご飯が冷めてたらもったいないだろうしな)
ここまでいけばわかるだろう。俺が彼女に贈るプレゼントは家だ。静香姉が素直に受け取ってくれるかどうかはわからない。ただ、ご飯で釣れば存外上手くいきそうな気がする。なんだかんだで、前世のときからあの姉は食い意地は結構あるしな。
「というか、ルーデウス、お前、結婚するのか?」
そういえば、ルディは俺以外には伝えていなかったな。
「はい。僕の病気を治してくれた人と」
「なあ、ルディ。別に言っていいんじゃないか? 遅かれ早かれ結婚式とかしそうだし隠す必要もないだろ」
「それはそうなんだが、向こうの都合もあるだろうからな」
現在はシルフィ姉はフィッツ先輩で通っている。迂闊に正体をバラすリスクもあるか。
「もし、相手がミリス教徒なら言ってくれ。略式でも祝詞もあげられるからな」
ルディは頷く。俺が何年後かわからないが、結婚するときはよろしく頼むとしよう。静香姉は当然ミリス教徒ではないが。
「家か…。高いのでしょうね」
俺が以前事務所を買ったときはそうでもなかったような気がするが。
「師匠、金に余裕が無いのでしたら、余が援助いたしますが?」
「いえ…この事でザノバに頼るのも情けない気がします」
「ルディがどのくらいの規模の家を購入するかによるけど、だいたいの家なら買えると思うぞ?」
赤竜討伐などでルディには数年間は遊んで暮らせるくらいの余裕はあるだろうし。
「とにかく明日、町に出て物件を見てきます。もし無理そうなら、お願いするかもしれません」
「無論です。この町で一番大きな家でも購入できる程度には持っているのでご安心を」
ザノバは軽く笑う。さすがは王子だな。というか、この様子だとご祝儀とかも凄そうだな。
こうして、男4人の会議はお開きとなった。ルディは不動産屋に向かうらしい。
「なあ、ルディ。シルフィ姉に話しておこうか? こういうことは2人で決めた方がいいんじゃないか?」
「男の甲斐性っていうのもあるけど、シルフィに頼るというのもなぁ…。護衛の仕事で忙しいだろうし。レードはどういう家がほしいんだ?」
「俺としては厨房がしっかりしてる家がいいな」
あとは転移魔法陣を隠せる場所も必要だな。地下にあったりすれば隠しやすい。
「一緒に行くか?」
「いや、俺は急いでないしな。まあ、何かあったら言ってくれ」
こうして俺はルディと別れた。そうだ、2人が住むであろう家の近くならなおいいな。顔を合わせる機会が増えれば、シルフィ姉と静香姉の和解もしやすくなるかもしれない。
それから数日後、無事にルディの家は完成した。ラノア郊外のシャリーアという場所に住むことになったようだ。俺が家探しに奔走している中、ルディがザノバ王子とクリフを連れて家の下調べをしたところ自動人形なるものを発見したらしいが、特に目立った問題はなく家の改修も無事に完了したようだ。
というわけで、俺のところに一通の招待状が届けられた。
「静香姉も行くよね? シルフィ姉は素直に喜ぶかどうかわからないけど」
俺は研究室で静香姉に聞く。彼女は招待状に目を通しながら頷く。
「そうね。招待されてるからには行かなくちゃならないわね」
「静香姉のことだから辞退するのかと思ったよ。こういうの興味なさげじゃん」
「あなたがいるなら、そうもいかないでしょう。それに、少なからずあの2人には関わりがあるし」
それは未来においての話だろうか。おそらく未来が見えているであろうオルステッドから聞いたのかもしれない。
「それでなんだけど、俺の方からも一つプレゼントがあるんだ」
ちょうどいいタイミングだし、ここで話させてもらう。別にサプライズにする必要はない。
「プレゼント?」
「ああ。家を買おうと思っててさ」
「家…ね」
静香姉は表情を変えずにこちらを見る。
「静香姉に温かい物を食べてもらいたいからね。転移魔法陣がバレてしまわないように、というのもあるけど」
温かい日本食といえば何があるだろうか。麺類があるなら、うどんとかラーメンとかを作ってみるのもいいかもしれない。
「ありがとう、レード。でも、私は日本に帰るのよ…?」
静香姉が複雑な表情なのはそれが理由か。静香姉の本当の家は日本にあるんだしな。
「静香姉のためっていうのはもちろんそうなんだけど、俺のためっていうのもあるんだよ。静香姉がご飯を食べてるときは可愛くて好きだからね」
その言葉に彼女は頬を赤らめる。
「そんなこと言われたら、断れないじゃない…」
言われてみれば、これは口説き文句に近いな。
「とりあえず、2人とも参加ということでいいか? 静香姉、初めて会う人が多いだろうけどみんな優しい人たちだから大丈夫だよ」
静香姉からすれば俺を除けば、知り合いは新婚夫婦ぐらいしかいないしな。
「ええ。レードが言うならそうなのでしょうね」
静香姉は安心したように答える。まあ、彼女なら大丈夫だろう。唯一不安があるとすればシルフィ姉と喧嘩したりしないかどうかだが、それも俺やルディがいるから大丈夫か。
それから数日後、ようやく披露宴当日になった。俺はいつものように研究室から静香姉を出迎える。
「準備できた?」
「ええ。準備といっても、そんなにたいしたことはできてないけど」
俺たちが着ているのは制服だ。民族の差などが出ないようにするための処置らしい。そう考えると、静香姉が制服を開発してくれたのはありがたい。
「…静香姉のおかげだな」
「褒めても何も出ないわよ」
そう言っているものの仮面中は笑顔なのだろう。声のトーンが心なしか明るい。
歩きながら俺は静香姉に聞く。
「…もし、シルフィ姉が認めてくれたらさ、どうする?」
「どうってもしかして結婚ってこと?」
「ああ。まあ、シルフィ姉を説得するのは時間がかかりそうだろうけどな」
時間は十分にある。あとは静香姉がどう考えるかどうかだ。もしかしたら、今日の披露宴で静香姉の方もその気になってくれるかもしれない。そんなことを考えながら俺たちはルディたちの家に向けて歩みを進めるのだった。
てか、この姉と弟は結婚できるんでしょうか