弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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アニメは佳境を迎えましたね


第54話 披露宴

 俺と静香姉がグレイラット邸に向けて動いたのは、披露宴の30分ほど前だった。

 

「静香姉、緊張してる?」

 

 建物が見えてきたところで俺が聞く。

 

「少しね。普段会わない人たちが多いだろうし。こういう席って参加したことないから」

 

「それもそうか。それに、この世界だとちょっと違ったりしてるもんな」

 

 そもそも15歳で結婚できること自体が相当おかしいが。あ、でも日本だったら妊娠は少なくとも可能なんだっけか。

 

 そんなことを思いつつ静香姉の左手を握っていると、いつの間にかグレイラット邸に到着していた。俺は改修されてすっかり綺麗になったドアをノックする。

 

「この度はご結婚おめでとうございます」

 

 一応、俺は頭を下げる。幼馴染と姉とはいえこのくらいの礼儀は必要だ。祝福してるのは事実だしな。

 

 ルディも頷いてくれる。

 

「こちらこそお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます。…このくらいでいいか?」

 

「ああ。乗ってくれてありがとうな。時間は大丈夫だったか?」

 

 間に合うように研究室を出たつもりだが。

 

「ほぼピッタリだ。それよりも、ナナホシが来たのが意外だったな…」

 

「レードの立場もあるでしょうし…」

 

 静香姉は小声で答える。それでもシルフィ姉には思うところはあるみたいだが。

 

「とりあえず、中に入ってもいいか? ここだと寒くて敵わないしな」

 

「それもそうか。ようこそ、新グレイラット邸へ」

 

 ルディに案内され、中に入る。すでにザノバ王子とジュリ、リニア先輩たち、そしてアリエル王女たちと結構揃っていた。

 

(あとは、クリフとエリナリーゼさんか)

 

 クリフは来ないことはないだろうし、エリナリーゼさんだって今日はシルフィ姉の結婚式だ。孫の結婚式を見ないわけにはいかないだろう。

 

 静香姉とルディはなにやら日本語で話している。楽しそうに話しているのを邪魔するのもアレなので、俺は厨房にいるシルフィ姉のところに向かう。

 

「結婚おめでとう、シルフィ姉。何か手伝おうか?」

 

「ありがと、レード。向こうで待ってくれててもいいのに…」

 

「何か手伝えることはないかなって思って。シルフィ姉、忙しそうだし今日くらいは弟に甘えてよ」

 

「まったくもう。そんなこと言ったって、例の件は認めるつもりはないからね? とりあえず、そこの野菜切ってもらえる?」

 

 今回は作戦とかそういうのではなく、シンプルな善意だ。もちろん、静香姉のことは認めてほしいのが本音だが、人の結婚式でそれを言うのもなんか違うしな。それに、結婚祝いというものをこれといって準備できなかったし、手伝いくらいはしたい。

 

「OK。任せて」

 

 サクサク野菜を切る俺にシルフィ姉が言う。

 

「レード、料理上手くなったね、本当…」

 

「まあね。捜索隊にいたときはパウロさんやノルンちゃんにご飯作ってたりしたし。でも、シルフィ姉もさすがの腕前だね」

 

 ブエナ村でリーリャさんに鍛えられたのもあって、主婦としては百点満点だ。ルディは良い奥さんをもらったものだと身内贔屓を抜きにしても思う。

 

「シルフィ姉も大きくなったな…」

 

 なんかどこか感慨深い。祝いの席なのに、目頭が熱くなってきてしまった。家族が嫁に行くというのはこういう感覚なのか。

 

「レード、泣いてるの?」

 

「…玉ねぎが目に染みるだけだよ」

 

「そっか…。ありがとうね、レード」

 

 鼻を啜って俺は答える。

 

「姉を手伝うのは当然だろ」

 

「もちろん、それもありがたいんだけど、それだけじゃなくてさ…。今までっていう意味だよ」

 

 今まで、か。俺はシルフィ姉と一緒にいない期間は長かった。転移事件で大変なときに彼女を支えてくれたのはアリエル王女とルーク先輩だ。俺にその感謝を受け取るのは少し申し訳ない気がする。

 

「今までって、俺は何もできてなかったじゃないか」

 

「ううん。ルディから聞いたよ。レードはボクをずっと探しててくれたんだって」

 

「そりゃ家族として当然だよ。父さんと母さんには会えないんだ。必死にもなるさ」

 

 もし、シルフィ姉が助かってなかったら、アリエル王女が保護していなかったら、俺は死んでいたかもしれない。まあ、全力でルディや静香姉は止めるかもしれないが、俺は廃人同様になっていただろう。

 

「それでいいんだよ。だから、その感謝」

 

 お礼を言いたいのはこっちの方だ。そう思いながら上を見て、涙を誤魔化す。料理はほとんど出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後、クリフやエリナリーゼさんも来た。バーディガーディは招待状を受け取ったようだが、千年単位で生きる彼のことだ。時間通りに来るかどうかはわからないらしい。

 

 ルディがシルフィ姉の横に立ち、乾杯の音頭を取る。どこか緊張した面持ちだ。

 

「こほん。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。改めて宣言致しますが、私ルーデウスと、こちら…」

 

 言葉を続けようとしたそのときだ。バカでかい笑い声が響き渡った。

 

「フハハハハ! そこで我輩がババンと登場である!」

 

 遅刻するに違いないと言われていた不死魔王バーディガーディの登場である。全員が呆気に取られていたが、彼の登場でルディの緊張はほぐれたらしい。堅苦しい挨拶をすっ飛ばして続ける。

 

「俺は、シルフィとやっていく。何かあったら力になってくれ。よろしく」

 

「よし、若き二人の行く末に、乾杯である!」

 

「乾杯!」

 

 みんなが笑顔で酒盃を持ち上げたのだった。

 

 さあ、シルフィ姉が80%、俺が20%くらいを担当した料理の出来はなんとも好評だった。静香姉はポテトチップスをチラチラ見ている。

 

「…食べたいのか?」

 

 俺は皿を運んでやった。静香姉はリスのように頬張る。うわ、うちの彼女、可愛いな。

 

「久しぶりに食べるのもあって、美味しいわね。向こうの世界のやつとちょっと違うけど」

 

 向こうとは使ってる芋も油も違うからな。それでも、完成度は高い。この味なら日本でも売れるのではないだろうか。

 

「来てよかっただろ?」

 

「…そうね」

 

 辺りの空気は和気藹々そのものだ。そこに静香姉だけ仲間はずれというのは、どこか申し訳ない。

 

「そろそろ2人に挨拶に行こうか」

 

 静香姉が頷く。ちょうどリニア先輩とプルセナ先輩の挨拶が終わったところだ。

 

「改めておめでとう、2人とも」

 

「…おめでとう」

 

 静香姉は小声だ。シルフィ姉に対してはまだ居心地の悪さを感じているようだ。

 

「ありがとう、レード、ナナホシ」

 

「まあ、なんかあったら言ってくれ。いや、なんもなくても俺は絡んでいきそうだな」

 

「レードならありえそうだね」

 

 シルフィ姉も笑う。

 

「あと、ナナホシさん。ちょっといい…?」

 

 挨拶して去ろうとしていた静香姉が振り返る。

 

「何?」

 

「この前はああ言ったけど、レードと一緒でもいいから、またここにおいでよ。なんか避けられてるみたいなのは、ちょっと嫌だし…」

 

 バツが悪いのはシルフィ姉も同じなようだ。2人が仲良くしてもらえれば俺としてもありがたい。

 

「そうだ、静香姉。さっきルディから聞いたんだが、ここには風呂があるみたいだぞ。せっかくだし、今度借りたらどうだ?」

 

 まあ、俺の家にもいつか設置するつもりだが。やっぱり日本人には風呂がないとな。

 

「…なら、借りさせてもらおうかしら」

 

「2人で来いよ。歓迎する」

 

 ルディもにこやかに頷いてくれた。そんな中、後ろから近づいてきたのはクリフとエリナリーゼさんだ。

 

 クリフは2人に祝詞を上げ、エリナリーゼさんはルディと軽く挨拶を交わす。それまでは大丈夫だったが、シルフィ姉に向き直ったとき彼女の目から涙が溢れていた。

 

「シルフィエットさん。おめでとうございます。

貴方の幸福を心より…こころより…おいわ…いわ…」

 

 シルフィ姉も崩れ落ちるエリナリーゼさんを見返す。

 

「ご、ごめんなさい。わたくしとした事が…」

 

「もしかして、エリナリーゼさんってボクのおばあちゃん、ですか?」

 

 クリフもルディもエリナリーゼさん自身も驚いたような表情だ。

 

「気づいてたのか、シルフィ姉」

 

「うん。もしかして、レードも…?」

 

「ああ。この前教えてもらったばっかりだけどな」

 

 エリナリーゼさんは呪いのせいで多くの人と関係を持っていた。そんな人が自分の祖母だなんて明かしたくはないのだろう。ましてや、相手は新婚だ。そのせいで結婚を反対されたという事例もあったのだろう。

 

 エリナリーゼさんは嗚咽とともに泣き続ける。

 

「クリフ先輩。エリナリーゼさんを2階で休ませてあげてください」

 

「そ、そうだな。分かった」

 

 エリナリーゼさんはクリフに手を引かれ、2階に上がっていった。

 

「…てか、俺がシルフィ姉の弟だっていうのも言ってなかったな」

 

 場の緊張をほぐすべく、俺が呟いた。

 

「今更感がすごいな」

 

 ルディが軽く笑って答える。なんていうかみんなに言うタイミングを逃したのだ。シルフィ姉って呼んでも、みんな気にしなさそうだしな。

 




追いつきそうで追いつかない…
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