弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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来週からアニメは迷宮編ですね!


第55話 祖母と孫

 宴もたけなわという言葉があるように、ルディとシルフィ姉の結婚式は大いに盛り上がった。気心の知れた人たちと飲んで食べて笑えばそれもそうだ。

 

 とはいえ、ずっとここにいるわけにもいかず、お開きの時間となった。俺としては泊まってもいいのだが、新婚ホヤホヤの夫婦の家にというのはまだ早い気がする。

 

 獣族の先輩2人、バーディガーディ、ザノバ王子とジュリは思いの外すぐ帰るようだ。バーディガーディはともかくザノバ王子なら家に泊まる可能性もあると思っていたが。

 

「泊まりたいなら、私はそれでいいわよ」

 

 どうするか迷っていたところ、静香姉が声をかけてくる。

 

「うーん。2人はダメとは言わないだろうけどさ。静香姉はどうするの? 俺が泊まるって言った場合」

 

「そうね。シルフィさんに申し訳ないし、先に帰らせてもらうわ」

 

 戦闘力皆無の静香姉を一人で帰らせてはダメなような気がする。ガラの悪い連中に捕まってしまうかもしれない。まあ、もしそうなったら、俺の全力を尽くしてそいつらを駆除するだけだが。

 

 どのみちルディに一声かけた方がいいだろう。そう思っていたところ、シルフィ姉が近づいてきた。

 

「ねぇ、レード。ちょっといい?」

 

「どうしたの? シルフィ姉」

 

「エリナリーゼさんのことなんだけど…」

 

 彼女は2階でクリフに慰めてもらってるはずだ。

 

「彼女に話があるのか?」

 

「うん。レードも来て」

 

 俺とシルフィ姉は孫だ。それを分かった以上行かないわけにはいかないだろう。

 

「分かった。俺も行くよ。静香姉、ちょっと待っててもらえるか?」

 

「いってらっしゃい」

 

 彼女に見送られ、俺とシルフィ姉は2階に上がっていった。ちょうどルディがドアを開けたところだった。

 

「えっと、クリフさん。おばあちゃ…エリナリーゼさんと話したいんだけど、いいかな?」

 

 シルフィ姉の声にクリフは少々迷ったような表情だったが、ルディが頷いたのを見て、立ち上がり部屋を出た。

 

「悪いな、クリフ」

 

 すれ違いざまに俺は囁く。

 

「…リーゼを頼んだ」

 

 頼まれてもその責任を果たせられるか俺には自信がないが。まあ、家族だ。どうにかなると思う。ルディもその様子を見て、部屋を出ていく。

 

 泣き腫らしたような目のエリナリーゼさんと俺たち孫の間で沈黙が続く。その沈黙は決して居心地が悪いものではない。エリナリーゼさんのその目が慈悲に溢れているとはっきりわかるからだ。

 

 とはいえ、せっかく時間を作ってもらったのに何もしないでいるというのもどうかと思う。

 

「…積もる話はいろいろあると思うんですけど、まず俺の疑問を解決させてもらってもいいですか?」

 

 エリナリーゼさんが頷く。

 

「どうして俺に先に言ったんですか?」

 

「…シルフィにもいずれ言わなくてはならないというのは分かってましたわ。でも、なぜかと言われたら…。あなたならシルフィにそれとなく伝えてくれると思ったのかもしれませんわね」

 

 正直、俺には重い話なので伝えろと言われても厳しいものがあるが。

 

「私の子どもは産まれて時点で忌避されるものですわ。それによって、迫害もされますし酷い目に遭う。それが宿命なんですわ」

 

「なんでそんな…」

 

「私の呪いが原因ですわ」

 

 エリナリーゼさんにかけられた呪い。それは彼女の生死に関わるものだ。それから逃れるために必死でたくさんの男性と関係を持ってしまっていた。それが彼女が息子や娘、孫たちから恨まれると分かっていたのだ。

 

「ボクやレードのことはすぐ分かったの?」

 

「もちろん。血縁者ははっきり分かりますわ。根拠というものは乏しいですけれど」

 

「なるほど…。それで、感極まって泣いてしまったと」

 

 彼女にはもしかしたらシルフィ姉がルディに婚約を破棄される最悪の未来予想が見えていたかもしれない。もちろん、ルディに限ってそんなことをするはずもないし、俺が全力で止めることになるだろうが。

 

「もう大丈夫だと思うけど、安心してください。ルディなら、絶対に大丈夫です。シルフィ姉を裏切ったりすることはないですよ」

 

 それは自信を持って断言できる。

 

「そうですのね…。良かったですわね、シルフィ」

 

「…うん。ありがとう、おばあちゃん」

 

 シルフィの頭を撫でるエリナリーゼさん。なんというか、その姿は非常に絵になる。

 

「ほら、レードもおいでよ」

 

「俺も?」

 

 なんか割って入るのは申し訳ないような気がするが。

 

「レード」

 

 エリナリーゼさんが優しく呼びかける。それを断れるはずもなく、俺はベッドサイドに腰掛けた。

 

 そして、彼女の手が俺の頭に触れたとき俺は確信した。間違いなく、エリナリーゼさんは俺の祖母だと。

 

(…でもそれだけじゃないな。なんで涙が溢れそうになるんだろう)

 

 その最中、俺の脳裏に蘇るのは2つの忘れられない、忘れてはいけない記憶だった。

 

 1つは前世で自分が死んだとき、家族が俺の手をずっと握ってくれた暖かさとそれを11歳という若さで親に味あわせてしまった申し訳なさ。

 

 もう1つは5年ほど前の両親がこの世を去ったことを告げられたときの悲しさと自分の無力感を思わせる悔しさ。

 

(失ったものも多かったけど…。こうやって家族とまた会えるときが来るとはな)

 

 その瞬間、俺がこの世界で本当に求めていたものが分かった気がした。そんな俺にシルフィ姉が言う。

 

「レード、どうしたの?」

 

「…年を取ると涙脆くなるなって。まだ14だけどさ。それで、エリナリーゼさん。俺からもう1つ聞いてほしいことがあります」

 

 ベッドサイドから降りて言う。

 

「俺には心から愛している相手がいます。その人はルディと同じで、俺がエリナリーゼさんの孫であってもまったく気にしない人です。だから、その、安心してください」

 

 シルフィ姉はエリナリーゼさんの背後で文句を言いたげにこちらを見てくる。とはいえ、いずれは納得する運命なのだから関係ない。

 

「…それであなたは幸せですのね」

 

「ええ。とても」

 

「なら、私は祝福するのみですわ」

 

 そう言ってもらえて心から安心できた。乗り越えなければならない壁はある。だが、それは俺の努力次第だ。

 

「そろそろ戻ろうか。クリフさんも待ってるだろうし」

 

「そうですわね」

 

 こうして俺たち3人は部屋を出る。その空気は外の気温の低さとは裏腹にどこか暖かいような気がした。

 

 アリエル王女一行はすでに帰っていたようだ。なんと、俺たちが話している間、ルディとルーク先輩は決闘していたらしい。

 

「その様子だと、大丈夫だったみたいだな。なんなら、俺ともやるか? いつでも受けて立つぞ?」

 

 ルーク先輩がルディに挑んだ理由はなんとなくだが理解できる。彼はシルフィ姉とともにアリエル王女をずっと守ってきた。俺やルディとは違う特別な絆があるのだ。

 

「さすがにそれは勘弁してくれよ…」

 

「でも、ありがとうルディ」

 

「何が?」

 

「ルーク相手に、手加減してくれて。ルークは弱いから、ルディが本気で相手したら死んじゃうでしょ?」

 

 シルフィ姉はルーク先輩に対しては結構、歯に衣着せぬ物言いをする。俺にもときどきあるが、それは弟であるからだとして、やはりそういうことを言えるくらい3人は気安い相手なのだろう。

 

「そっちは大丈夫だったか?」

 

「うん」

 

 シルフィ姉は微笑んで頷く。

 

「…ところで、私はどうすればいいのかしら」

 

 話がまとまったところで静香姉が聞いてくる。唯一話しやすいルディがルーク先輩と決闘していたのだから、落ち着かなかっただろう。

 

「2人で帰ろうか。なんか今日は静香姉と一緒にいたい気分だ」

 

「…今日はやけに甘えてくるのね」

 

 今日は疲れているし、シルフィ姉もルディと一緒にいたいだろう。

 

「それじゃあ、そろそろ2人も帰るんだね?」

 

 ルディはクリフと話し込んでいる。エリナリーゼさんのことを話しているのだろう。

 

「ああ。ルディにもよろしく言っておいてくれ」

 

 こうして俺と静香姉はグレイラット邸を後にした。

 

 雪の降る道を歩く。すっかり辺りは暗くなっていた。魔法大学の研究室に戻るまでには結構時間がかかりそうだ。何があったかを話すのには十分だろう。

 

 俺たちが2階で話していたことを言い終えたときには大学はもう目の前だった。

 

「さっき俺が静香姉に甘えてたのは、そういうことなのさ」

 

「そう。なら、気が済むまで一緒にいてあげるわ。私からあなたに渡せるものなんてそのくらいしかないし」

 

 俺はすでに静香姉から十分もらっているが。なんなら、一緒にいれることこそが幸せなのだから。

 

「…でも、いつまであなたのそばにいれるのかしら」

 

 舞う雪を眺めながら静香姉は呟く。

 

「…未来を見てもしょうがないさ。どうせ別れの日が来るって分かってるなら、今を幸せに生きるしかない」

 

 俺が死ぬのが先か、静香姉が日本に戻るのが先か、そのどっちかだ。その未来が決まってるならわざわざ悲観する必要もない。

 

「それもそうね。そんなことを言えるあなただからこそ、私は好きになったのかもね」

 

 面と向かってはっきり好きと言われたのは久しぶりだ。静香姉は割と照れるタイプだしな。

 

「この世界にスマホがあったなら、今の言葉録音しておくのにな…」

 

「まったくもう。カッコいいこと言ったと思ったら、すぐそれなんだから」

 

 そう静香姉は、雪を溶かすような暖かい微笑みを浮かべて答えるのだった。

 

 




もうすぐアイシャちゃんとノルンちゃんも登場しますね
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