弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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そろそろ泥沼編も終盤かな


第58話 2人の妹

 宴会が終わったのは、静香姉が完全に潰れたときだった。彼女はリニア先輩たちが連れて帰ってお泊まり会をするらしい。俺も参加したいのがやまやまだが、女子寮に入ることはできないし、たまには同性の友達と仲良くすることも必要だろう。

 

「なあ、ルディ。今夜、お前の家に行ってもいいか?」

 

「なんだ? ナナホシを2人に取られて寂しくなったのか?」

 

 それも事実だ。恥ずかしいから言えないけどな。

 

「3人で飲み直さないかって思って。ダメか?」

 

「いや、もちろん大丈夫さ」

 

 ルディからしてみれば、酒の勢いに任せてシルフィ姉とイチャイチャしたかったのかもしれない。まあ、俺がいてもやることをやるだろうが。

 

 ルディは潰れてしまっているシルフィ姉を背負う。彼女はルディにしがみつき甘えているが、弟の前だ。自重してほしい。半眠りの状態で言われるのは酷かもしれないが。

 

「重くないか? 俺が背負ってもいいけど」

 

「それはそれでなんか悔しいから、大丈夫だ」

 

 シルフィ姉を離したくないということか。雪道を歩きながらルディが言う。まあ、シルフィ姉は心配しなくても軽い。なんなら、もうちょっと食べた方がいいと思うくらいだ。俺の恋人を見習って食べてほしい。いや、そこまでは食べなくていいか。

 

「…誰かいないか?」

 

「ああ」

 

 グレイラット邸の玄関付近から声が聞こえる。近所の子どもたちがいたずらしているのかと思ったが、それにしては聞き覚えのある声だ。ルディの背から降りたシルフィ姉に解毒してもらい、アルコールを飛ばす。

 

「…あ」

 

「お兄ちゃん!」

 

 そこにいたのはノルンちゃんとアイシャちゃん、ルディの2人の妹だった。2人は分厚い防寒具に身を包んでいる。

 

「お兄ちゃん! 会いたかった!」

 

 アイシャちゃんがルディに抱きつく。俺も今度シルフィ姉にこういうことしてみようか。…フィジカル的に厳しいか。

 

「レード兄!」

 

 花が咲くような笑顔を俺に向けたのはノルンちゃんだ。俺は頭を撫でる。

 

「久しぶり。背、高くなったな」

 

「えへへ」

 

 ルディを見たときは苦々しい表情だったのに、俺の姿を見たときにギュッと抱きついてきた。可愛いんだけど、ルディが凄い表情でこっちを見てるな。

 

「もしかして、お酒飲んでたの?」

 

「一応解毒かけたんだけど、まだ酒臭いか。ちょっと祝い事があってね。2人はどうやってここまで来たんだ?」

 

 比較的安全な中央大陸だって、護衛が相当腕利きじゃないと厳しいだろう。そんな俺の疑問はすぐに解決した。

 

「久しぶりだな、ルーデウス、レード」

 

 槍を担いだ戦士、ルイジェルドさんがいたのだ。彼以上に子どもの護衛にふさわしい人はいないだろう。

 

「お久しぶりです。ルイジェルドさん」

 

 ルディが頭を下げる。2年以上一緒に旅をしていた相手だ。いろいろ感慨深いところもあるのだろう。ルディより付き合いの短い俺ですら懐かしさを感じるし。

 

「冒険者ギルドで結婚したという情報を聞いたが…。エリスではないのだな」

 

 ルイジェルドさんからすればそういう感覚にもなるか。あのときルディとエリスはカップルにしか見えなかったし。

 

 シルフィ姉は驚きつつもペコリと頭を下げた。

 

「あの、ルディ。とりあえず入ってもらったら?」

 

「ああ、そうだな。入ってくれ」

 

 ルディが3人を案内する。ノルンちゃんはしれっと俺の手を握っていた。可愛いものだ。

 

 全員が荷物を置いて一息ついたところで、ルディがシルフィ姉と2人の妹をお風呂へ促した。長旅の疲れもあるだろう。2人は迷いなくシルフィ姉についていった。

 

「…ルイジェルドさんは入らないんですか?」

 

「ああ。明日には発たなくてはならないしな」

 

 彼も忙しいのだろう。ルディも無理に引き留めることはしなかった。

 

「そうですか。ルディとの思い出話に花を咲かす前に、俺のことについて改めて説明させてもらっていいですか?」

 

 ルイジェルドさんは頷く。

 

「俺はルディの妻である、シルフィ姉の弟なんです。ルディから見れば義弟ということになります」

 

「…姉を見つけられたのだな」

 

「はい。いろいろな偶然が重なる結果でしたが」

 

 今考えても相当運が良かったと思う。これも俺というシスコンが為せる技なのかもしれない。

 

 ルディとルイジェルドさんが話している間、俺はノルンちゃんたちの荷物を部屋に運び込む。俺がいない方が2人も話しやすいだろう。

 

 しばらくしてお風呂に入っていたシルフィ姉たちが出てきた。2人はパジャマに身を包んでいるが、なんとも眠そうにしている。

 

「2人は覚えててくれたのかい?」

 

「アイシャちゃんはね。むしろ、よく気づいてくれたよ」

 

 かつてのシルフィ姉とは髪の色も違うのだ。ノルンちゃんが気づいていなくても無理はない。

 

「ルイジェルドさんに挨拶してきなよ。2人は空いてる部屋に寝かせてくるから」

 

 シルフィ姉は頷いてリビングへ向かっていった。俺は普段自分が泊まってるときに使っている部屋に向かう。ちなみに、そこで静香姉とやったりはしていない。断じてしていない。

 

「お風呂、どうだった?」

 

「気持ち良かったです、レード様!」

 

 アイシャちゃんが嬉しそうに言う。アイシャちゃんもルディほどじゃないが、俺に懐いてくれていて嬉しい限りだ。ノルンちゃんは相変わらず黙って俺の手を握ったままだ。

 

「ノルンちゃん、疲れてる? まあ、そりゃそうだよね。長旅だったわけだし」

 

「疲れてないわけじゃないけど…。レード兄に会えたのが嬉しくて、なんて言えばいいか分からなくて…」

 

 距離感を測りかねているというわけか。俺も多少気持ちはわかる。ラノアでシルフィ姉や静香姉と再会したときは似たような気持ちだったからな。

 

「そういうことか。今まで通りに接してくれていいよ。ルディに甘えられない分、俺に甘えてくれよ。…なんてこと言ったらまたあいつに睨まれちゃうだろうけどね」

 

「じゃあ、遠慮なく…」

 

 ノルンちゃんが両手を広げる。これは抱っこの合図だ。存分に甘えるつもりらしい。

 

「よいしょ」

 

 俺はノルンちゃんを抱き上げる。もちろん余裕で持ち上げられるが、以前より重くなったような気がする。ちゃんと成長しているようでなによりだ。

 

 アイシャちゃんは俺にくっつくことはないようだ。彼女にしてみればルディの方がいいのだろう。

 

「レード兄。ここまで何してたの?」

 

 部屋についてノルンちゃんが聞く。ここまでというと、別れてからの数年間のことだろう。

 

「結構長くなるから、限界だったら寝ちゃってもいいよ?」

 

 一晩で話せるボリュームじゃないしな。とりあえず俺はベッドに座り話すことにした。まあ、俺の予想通り、ラノアに着いたところら辺で2人揃って寝息を立て始めたが。

 

(おやすみ、2人とも)

 

 そんな寝顔を見ていたらこちらもなんだか眠くなってきた。ここ最近は静香姉の研究の手伝いでだいぶ疲れも溜まってたしな。俺もそのまま寝落ちしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたときアイシャちゃんの姿はなかった。一方、ノルンちゃんは未だにぐっすり眠っている。そんな彼女の頭を軽く撫でてあげた。

 

「…そろそろ起きるとするか」

 

 ゆっくり立ち上がると、目を覚ましたらしいノルンちゃんは寝ぼけ眼でこちらを見た。

 

「…あれ、レード兄…? ここは…」

 

「おはよう、ノルンちゃん。ここはルディの家だよ」

 

「あ、私たちラノアまで来て…」

 

 どうやら目が覚めたようだ。しかし、なぜか慌てた様子で立ち上がる。

 

「レ、レード兄! ちょっと部屋から出てて!」

 

 もしかして、俺が気に触ることをしたのか、何をそんなに動揺しているのだろうか…。よくわからないが、とりあえず俺は彼女の指示に従い、部屋を後にした。

 

 キッチンではいつものようにシルフィ姉が朝食の準備をしてくれている。

 

「おはよう、シルフィ姉。手伝うよ」

 

「おはよ、レード。アイシャちゃんもいるし、座ってて大丈夫だよ?」

 

 アイシャちゃんはリーリャさんからメイドとしての英才教育を受けているらしく、俺よりかなり手際がいい。そりゃリストラされるわけだ。

 

「そういえば、さっきノルンちゃんに追い出されたんだよな…。なんか悪いことしちゃったかな…」

 

 俺の疑問にシルフィ姉はため息をついた。

 

「…レードはもうちょっと乙女心を勉強した方がいいよ」

 

 アイシャちゃんも苦笑いを浮かべるばかりだ。乙女心を勉強しろと言われても、大学でも学べないし、静香姉に聞いたところで鼻で笑われるだけだろう。

 

 乙女心について考えているとノルンちゃんが降りてきて、ルディとルイジェルドさんも外から戻ってきた。2人は剣のトレーニングでもしていたのだろうか。

 

 朝食を食べ終えたところでルイジェルドさんが出発することになった。もうちょっとゆっくりしてもらってもいいのだが、向こうとしても長居すると行きにくくなるのかもしれない。俺たちは街の出口までは見送ることにした。

 

「では、元気でな」

 

 かつてフィットア領で別れを告げたときと同じように彼は去ろうとする。ルディも別に引き止めたりもしない。が、ノルンちゃんがここで声を上げた。

 

「わ、私も、一緒にいきたいですっ…!」

 

 彼女の目には涙が溢れている。その様子を見て、俺は数年前のことを思い出した。ミリスで別れたときもこんな顔をしていたし、今考えると酷なことをしてしまったな。

 

「これからは俺ではなく、ルーデウスを頼れ」

 

「でも、だって! あいつはお父さんを!」

 

「すんだ事だ。奴も反省している。お前の父もな。奴の苦労は旅の途中で聞かせたとおりだ。お前も納得していただろう」

 

「でも、昨日も酔っ払ってたし、前に見た時と隣にいる女の人も違うし! 信じられない!」

 

 酔っ払っていたのは俺も同じなんだけどな。

 

「…ルディをどうしても信用できないって言うなら、俺に頼ってくれないかな? と言ってもできることもそんなにない気がするけど」

 

「レード兄…」

 

 ルイジェルドさんは苦笑いしながらこちらを見る。

 

「すまんな、レード」

 

「お気になさらず。どうにかしてみせますよ」

 

 具体的にどうするのか考えていないが、俺も軽く笑って答えた。そして、ルイジェルドさんはシルフィ姉の方を向いた。

 

「シルフィエット。ルーデウスとともに2人を頼む」

 

「は、はい!」

 

「ではな、また会おう」

 

 こうしてルイジェルドさんはラノアを後にした。かつて見た広いその背中を思い返させながら。

 




ルイジェルドさんって書くの難しい…
まあ、もうしばらく出ることはないだろうけど
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