砂漠を歩き続けて1週間ほどが過ぎた。俺たち3人は、モンスターに襲われるたびに撃退し、少しずつ歩みを進めている。中でもグリフォンという魔獣は強力だった。とはいえ、番の2匹だけならこちらも数で有利だし問題はない。群れで襲われたのなら危うかったかもしれないが。
そして、魔獣地獄を抜けて、どうにかバザールにまで到着した。そこで軽く休んだ後、また1週間ほどかけてようやく迷宮都市ラパンにまで到着したのだ。
「ここがラパンか…」
「どうしますの、ルーデウス」
「そうですね…。まずはギースか父さんを探しましょうか」
おばあちゃんからしてみれば、パウロさんはあまり会いたくない相手かもしれないが。
とりあえず、街の中心にある冒険者ギルドで情報収集をすることになった。ここら辺になると冒険者風の人たちもたくさん歩いている。ギースさんたちがどこにいるのかはわからないが、さすがに数日のうちに見つけることができるだろう。
とりあえず聞き込みをしようかというところで、早速久しぶりに見るサル顔の男の姿が見えた。なにやら獣族の剣士と話し合っている。
「わるいが、他をあたってくれ、俺はまだ死にたくは無いんでな」
「チッ、臆病野郎が! それでよく冒険者なんてやってられんなぁ!」
「…ふん、なんとでもいえ」
獣族の剣士は焦っているらしいギースさんの悪態に振り返ることなく、ギルドから出て行ってしまった。
「ギース!」
おばあちゃんが声をかけると、それに気づいたギースさんが駆け寄ってくる。
「お、おお! エリナリーゼじゃねえか!」
「遅れましたわね」
「お久しぶりです。ギースさん」
彼と会うのは5年ぶりくらいになるか。
「にしても早く来たなぁ…。お前は、レードか? そっちは…」
「絶賛成長期ですからね。2人とも大きくなってますが、俺がレードでこっちはルディですよ」
「ギースさんもお変わりないようでなによりです」
「よせよ。前みたく新入りでいいっての」
ルディとギースさんは確か獣族に一緒に牢屋にぶち込まれた仲だったか。歩きながらおばあちゃんが聞く。
「ゼニスの方はどうなってます?」
「芳しくねぇ。お前らに手紙を出すほどだから、薄々察してくれてると思うが…。パウロも相当参ってるみたいだし、エリナリーゼも先輩も喧嘩みたいなのはやめてくれよ?」
「…約束はできかねますわ」
一番は俺たちが来る頃にはゼニスさんが救出されていて無駄足になってしまうことだったが、そこまで都合良くいかないらしい。おばあちゃんは首を横に振る。
そうして向かった宿の一階にパウロさんの姿はあった。机に突っ伏して顔を見ることはできないが、以前捜索隊の隊長をしていたときと同等かそれ以上の疲労感を後ろ姿だけでも感じることができた。というか、パウロさんだけじゃない。リーリャさんやシェラさんも疲れた表情だ。
「旦那様、ルーデウス様たちがおいでなさいました」
「ん…」
リーリャさんに揺すられてゆっくりと身体を起こす。雰囲気である程度は覚悟していたが、ミリスにいたときと勝るとも劣らないほどの精神状態が見て取れる。
「ルディ…?」
「父さん。お久しぶりです」
そりゃ混乱するのも無理はない。突然息子が目の前に現れたのだから。
「パウロさん。ルディですよ」
「その声はレードか…。なあ、ルディ。ノルンとアイシャは元気にしているか?」
「2人とも元気ですよ。シャリーアで信頼できる人たちに預けてます」
「そっか、さすがルディだ。頼りになるなぁ。あ、お前はどうだ、元気にしてるか」
「そうですね…。まぁ、元気ですよ」
パウロさんは相当追い詰められている。以前は酒に逃げていたが、ゼニスさんの救出活動においてはそれすら避けているのだろう。
「そっか、そりゃいいな、元気なのが一番だもんな」
ふらふらと立ち上がってルディを抱きしめるパウロさん。
「母さんは助けられないし、自分で決めた事も守れねえ。親としてお前にも何一つしてやれねえ。ダメな奴だ」
かつての彼ならともかく、今の姿を見ていたらそう思う者はいないと思うが。
「安心してください。俺が来たからにはもう大丈夫ですから」
「うぅ…。ルディ、お前、本当に大きくなったなぁ」
確かに前パウロさんと会ったときと比べると、だいぶデカくなった気がする。成長期というのは恐ろしいものだ。
「パウロさん、ルディは結婚したんですよ」
「はい。もうすぐ子どもも産まれます」
「……んぁ! 子ども!?」
パウロさんはようやく目を覚ましたようだ。リーリャさんから水を受け取って、一息つく。
「……ルディ、なんでお前、ここにいるんだ?」
「先ほども言いましたが、助けに来ました」
「いや、そういう意味じゃなくてな…。いくらなんでも、早すぎねぇか?」
「少々特殊な移動方法で来ました。説明は帰りにでもゆっくりしましょう」
というか、転移魔法陣は禁術なのだから迂闊に話すのは良くないだろうが…。まあ、パウロさんたちならある程度は信用できる。
「そんなことより、パウロさん。ルディに聞きたいことは山ほどあるでしょう?」
「そうだ。さっき子どもが産まれるとか言ってたよな」
「はい。魔法大学でシルフィと結婚いたしまして」
「シルフィ…。てことは、レード。無事に発見できたのか…」
俺は頷く。まあ、俺がシルフィ姉と再会してからルディと結婚するまでかなり面倒臭かったが。主に、彼女が臆病なせいで。
「はい。いろいろ大変でしたけどね。パウロさんの孫ですよ」
「孫か…。すまなかったな、ルディ。父親になろうっていうやつをこんなところに呼び出してしまって」
パウロさんは頭を下げる。かつて2人が喧嘩した時のように殴り合いになることはなさそうだ。お互いに転移事件を通して成長したのだろう。
「俺の方こそすみません。母さんが見つかってもいないのに自分だけ」
「俺もリーリャを抱いちまったからな。それに関して責めることはできねぇよ。ゼニスを助けるまではって決めてたのに…」
サキュバスに襲われたらしいが、それなら致し方ないだろう。
「それなら俺もお互い様ですよ。レードはほぼ大丈夫だったのに」
まあ、ルディの方もおばあちゃんに手を出してはいないのだから、セーフだろう。とここで、近くの椅子に座っていたおばあちゃんに俺は声をかける。
「おばあちゃん、こっち来てくれないかな」
「…ふん」
眉を顰めながらパウロさんの前に立つ。
「おばあちゃんってことは、お前…」
「はい。俺とシルフィ姉はエリナリーゼさんの孫なんです。まあ、俺もそれを知ったのは結構最近なんですけどね」
「…なんか情報量が多いな」
「で、血縁上は俺とパウロさん、おばあちゃんは血が繋がってるということになったわけじゃないですか。そんな中で、歪みあってるっていうのはどうなのかなって思うんですよ。ただでさえ、協力者を求めなくてはいけないほど難しい状況なんですから」
「父さん。エリナリーゼさんは助けに来てくれたんです。父さんと顔を合わせたくないのを承知の上で。ここは俺の顔に免じて…」
2人で説得してみたが、想像以上に禍根があるのかもしれない。2人は睨み合う。そして数秒が経った。
「あの時は、悪かった!」
パウロさんが土下座したのだ。おばあちゃんは口を尖らせつつ答える。
「…私の方にも、あの時のことは非があったと思いますわ」
「転移からいろいろ気を使わせてしまってすまん」
「別に構いませんわ」
「ありがとう、エリナリーゼ」
「どういたしまして、パウロ」
2人の和解はあっさりしたものだった。時間が経つにつれて解決してくれたのかもしれない。それとも、家族を救おうと必死になるパウロさんの姿がおばあちゃんの心を打ったのだろうか。もしそうだとしたら、一緒に来た甲斐があったというものだ。
「それにしても、安心しましたよ。殴り合いになったりしなくて」
俺はルディの方をチラチラ見ながら言う。
「おい、なんでこっちを見るんだよ」
「だって、そうだろ? 5年前パウロさんをボコボコにしたのは誰だったっけなぁ」
「お前な…」
複雑そうな顔でルディはこちらを見る。そんな俺たちを見てパウロさんがクスクス笑った。
「相変わらず、仲良いんだな。ルディと仲良くしてくれてありがとうな、レード」
「そんなのはお互い様ですよ。ルディが義兄でよかったと心から思います」
今思うとだいぶルディとパウロさんは似てきたな。まあ、性欲が凄まじいというとんでもないところまで似てしまってるような気がするが、シルフィ姉も喜んでいるだろうし気にしなくていいか。
「とりあえず、3人とも来てくれてありがとう。ここからは迷宮の話をすることにしようか」
さあ、ここからが今回の冒険の本番だ。ゼニスさんの救出。それを達成するための重要事項だ。そう気合を入れ直した俺たちが聞いたのは衝撃の情報だった。
今回はここまで。ロキシーさんはまだかなぁ…