ロキシーさんの救出から3日が経った。もう少し休む期間を伸ばしてもいいような気がするが、あまり迷宮から離れていると次に挑むときにトラウマになってしまって何もできなくなってしまうとのことだ。ちなみにその休んでいる3日の間、ルディはロキシーさんと彼の持ってきた探索記を読んでいた。
(それにしても、2人とも距離が近いな…)
パウロさんたちは微笑ましく思っているだろうが、俺としては胃が痛くなるような思いだ。おばあちゃんも止める様子が見られないし。
とはいえ、迷宮内だとルディの士気が上がっているのはありがたいし、ロキシーさんと連携することで魔獣の討伐も最初に潜ったときよりもスムーズだ。
「魔力切れが近いみたいです。休憩をお願いします」
三階層を進んでいるところでロキシーさんが言う。まあ、彼女は『氷結領域』という水魔術の大技を連発しているし致し方ない。魔力量が少ないというわけではないが、ラプラスクラスだというルディと比較するのは酷だろう。
「なんか前より進みやすいな」
「そうですね、パウロさん。ロキシーさんがいることでルディにも余裕ができたように見えます」
2人は肩を寄せ合って寝ている。まるで恋人のようだ。スマホがあればこの状態を撮ってシルフィ姉に転送するか迷ってしまいそうだ。
「おばあちゃんは大丈夫ですか?」
「ええ。でも、攻撃面ではだいぶあなたに頼ってしまってますわね…」
「全然大丈夫だよ。もっと頼ってほしいくらい」
パウロさんがいるとはいえ、このパーティは火力不足が否めない。俺はそれを補うのがメインの仕事だ。おばあちゃんには敵の足止めという大事な役割がある。
数時間ほどの休憩の後、俺たちは第四階層の魔法陣を発見した。全員で第三階層を一通り探して、ゼニスさんの姿がないことを改めて確認し魔法陣に乗った。
そうして遺跡のような気配のある第四階層に到着した俺たちは雰囲気を確かめて一度戻ることになった。この先どんな敵がいるのかもわからない以上、少しずつ進んでいくという判断だ。
少し歩いたところで鎧を着たアンデットが3体こちらに向かってくる。アーマードウォリアーと呼ばれているらしい。ルディが岩砲弾を放つべく杖を構える。
「アーマードウォリアーは水神流のカウンターが飛んでくるので魔術は危ないです」
それを止めるのはロキシーさんだ。どうしてアンデットなのに剣術の技が使えるのだろう。死んだ人間の技術を盗んでいるというのか。
そんな俺の疑問をよそにルディが素早く泥沼を敷く。もともとそこまで動きの早い相手ではないが、これで足止めとしては十分だ。俺たち前衛は武器を構えて迎え撃つ。パウロさんが右、おばあちゃんが左、俺が中央というフォーメーションだ。
さすがに4本も腕があると普通の人間と同じ戦い方はできない。
(ただまあ、6本腕がある魔王と比べたら霞んじまうわな…)
終炎で腕2本を素早く切り落とす。それと同時に背中から剣が向かってくるが、それは想定内だ。水流堅守で防ぐ。
(バランス、崩れたところで、おやすみなさいだ)
そこからは全身を細切れにするまでに時間はかからなかった。このくらいの相手にほとんど苦戦しないということは自分も少しは実力が上がってきたのだろうか。
パウロさんも1分かかることもなく敵を倒していた。おばあちゃんは相性が良くないのか、やや攻撃を抑え込まれていたが、ルディとロキシーさんの強烈な援護でダメージなく倒すことができた。
「…私の攻撃だと決定力に欠けますわね」
おばあちゃんが少し悔しそうに呟く。
「なら、俺にある程度任せてもらってもかまわないよ。後ろにルディもいるし」
「そうですわね。私もパウロみたいにカッコつけたかったのかもしれませんわね」
苦笑いしながらおばあちゃんが見た先には、ルディに強くなったと褒められてニヤけ顔を浮かべるパウロさんがいた。まあ、実際強くなってるわけだから、それが嬉しくもあるのだろう。
「気持ち悪いですわよ、パウロ」
「おい、言うなよ。そういうのは」
「やっぱりパウロさんはパウロさんですねぇ。でも、その顔はルディに似てて、いいと思いますよ」
「祖母と孫揃って好き放題、言いやがって…」
それでも嬉しかったらしいパウロさんは、このあともアーマードウォリアーを何匹か倒して帰還を宣言した。装備の点検もしなくてはいけないし、何事も慎重に進めなくてはならないのだ。特に今回はロキシーさんのようなことも起きたわけだし。
各々買い出しを済ませて宿に戻る。みんないろいろと高い買い物を済ませていたが、俺とパウロさんはこれといって何かを買うことはなかった。パウロさんの剣は通用していたし、俺の魔剣流に至っては剣の云々で左右されるものじゃないしな。なんなら、手元に剣がなくても土魔術で作った剣で対応することだってできる。
買い物とミーティングを終わらせたあとは各々自由行動だ。どうしようかと思っていたところ、ルディに酒を飲まないかと誘われた。
「いいのか?」
「ああ。久しぶりに飲みたいと思ってな」
ロキシーさんも席に着いているようだ。
「私もレードさんの話を聞きたいですね」
「話すことといってもそんなにないと思いますが」
俺がどういう人かはある程度パウロさんやルディ辺りから聞いているだろう。
「それでも、またブエナ村で会った3人と再会できた記念に、だよ」
そうか、俺が家族以外で初めて会った人はこの2人だったな。ルディの方はずっと幼馴染だけど、ロキシーさんはそうじゃないのだ。
「そうですねぇ。今考えると、本当に濃い人生でしたからねぇ…」
特に転移事件が起きてからは次の日に何が起きるかすらわからない予想外が連続した毎日だった。
「パウロさんからはレードのおかげだ、という言葉をよく耳にしましたよ」
「それはありがたい話です。俺としては必死になってただけなんですけどね」
今考えると、あのときは両親は死んでシルフィ姉も行方不明になったままだ。年齢も幼かったこともあって、一番余裕がなかった時期だろう。
「レードはシャリーアに移ってからもいろいろ手伝ってくれましたからね」
ルディが嬉しそうに言う。そうだろうか。むしろ俺の方がルディに助けてもらっていることが多い気がするが。
話を聞いていたところ、ロキシーさんと俺はほぼ入れ違いのような形だったらしい。もし、俺がルディたちに着いて行かない選択をしていたら、彼女と再会することはできていたかもしれない。そうなると、俺はノルンちゃんやアイシャちゃんの護衛を務める可能性もあったのだろうか。
そんなことをぼんやり考えているとロキシーさんは眠そうな目をしていた。あんまりお酒には強くないのだろうか。しばらくして潰れてしまったロキシーさんを寝床にルディが運んでいく。
「しかし、ルディ。お前、本当にロキシーさんのことが好きなんだなぁ…」
「人生を変えてくれた恩師だからな」
彼は前世で何かがあって、そこから救ってくれたのが、このロキシーさんのようだ。
「まあ、俺も人のことはあんまり言えないな。俺もルディとシルフィ姉と出会って人生が変わったわけだし」
「そうなのか?」
「そりゃそうさ。2人がいなかったらどうなっていたか想像することすら難しいくらいにはな」
ここでルディはロキシーさんをベッドの上に下ろして、毛布をかけてあげた。
「なあ、レード」
「ん?」
「いつか、俺のことを全部話すよ」
「いつかと言わず、今からでもかまわないけど?」
そう言うと苦笑いして彼は答える。
「それもいいかもしれないけど、とりあえずは明日もあるしな」
まだゼニスさんを見つけることもできていないのだ。別に焦ることもないか。
(…でも、こういうのが案外死亡フラグになったりするかもしれないんだよなぁ)
そのまま言えずじまいで涙を流す展開にはしたくないのだが。まあ、そんなクソ展開を却下するために俺がいるのだ。何としてでも全員無事に最後の家族を救い出さなくては。
こうして夜が明けた翌日。再び迷宮に向かった俺たちは四階層と五階層を呆気なく踏破した。ルディの持ってきた本に加え、ロキシーさんが加わったことでパーティに安定感が生まれてきたのだ。だが、この迷宮の脅威が牙を剥くのはここからだった。
次回からヒュドラか…!