弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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結構文字数ありますね…


第74話 決着

 炎と風の刃に囲まれる中、俺とヒュドラの第3ラウンドが幕を開けた。第1ラウンドは俺の魔剣流が通じずヒュドラの勝利、第2ラウンドは弱点を突きまくった俺の勝利、といったところだろうか。もちろん、一対一の勝負ではないため、明確に勝敗をつけれるわけではないが。

 

 そんな俺の新技に対してヒュドラはパワーとスピードで対抗してくる。

 

(まあ、完全に見えてんだけどな…)

 

 攻撃のリズムは見えてるし、それを崩してきたところで対応できる集中力が今の俺にはある。よくスポーツ選手がゾーンに入るというのを聞くが、それにやや近い感覚だ。

 

(もっともスポーツみたいな緩いやつじゃなくて一瞬でも気を抜いたらお陀仏の殺し合いなんだけどな。そこで背後を狙ってくるのも丸見えだ)

 

 蛇の頭が俺の死角を捉えてくる。が、今の自分にはどうということはない。豪炎乱舞で切りつけながら軌道をずらした。後ろには目があるわけではないが、自分の感覚が研ぎ澄まされてるからこそできるのだろう。

 

(隙だらけだよ)

 

 攻撃が外れ、無防備に晒される傷だらけの首に終炎を放つ。肉の焼ける焦げ臭い音とともにヒュドラの首が落ちた。

 

「3本目!」

 

 俺は自身が切り落とした首の数を叫ぶ。その声はパウロさんたちにも届いただろう。残された首は太いやつと細いやつの2つとなった。

 

 これで押し切れる。そう思ったとき俺の中で嫌な気配が走った。ゾーンに入ってるからこそ感じられる気配だ。ヒュドラが頭のなくなった首を振り回し始めたのだ。

 

 その苦し紛れの抵抗に巻き込まれそうになった者がいた。ルディだ。

 

「ルディ!」

 

 パウロさんが彼を助けるべく、ルディの元へ突っ込む。

 

(凄まじい足掻きだな…。でも、全部俺の覚醒で捩じ伏せてやるよ)

 

 勢いのある首の動きだ。でも、それすらもコマ送りに近いスローモーションに見える。ということはつまり、俺の防御が間に合うということだ。

 

(…パウロさんも、ルディも、俺の家族には絶対に手を出させん。豪炎乱舞!)

 

 あと少しでパウロさんの命がというところで、俺がまたしても攻撃をずらした。その結果、ヒュドラの首はパウロさんに直撃することはなく、鱗で彼の背中を少し傷つける程度に済んだ。

 

「すまん、レード!」

 

「ルディは!?」

 

 軽傷というわけではないが、意識を刈り取るほどの怪我でもないようだ。転がされたルディに目を向けると、血走ったヒュドラの目に左手を突っ込もうとしていた。

 

「おおおおおおぉぉぉ!」

 

 グチャリという音とともにヒュドラの瞼が落ちる。それはルディの左手が切り落とされるのを意味していた。

 

「ルディ!」

 

 俺が援護すべく駆け寄ろうとした瞬間、彼は右手で岩砲弾を放った。

 

「ロキシィィ!!」

 

 ルディが必死の形相で恩師の名前を叫ぶ。彼女が火魔法を放つのと、俺が終炎でトドメをさすのはほぼ同時だった。ヒュドラの最後の首は再生されることなく、土煙とともにその命を散らしていた。

 

 戦闘に参加してないギースさんを除いて、誰一人怪我しなかった者はいない。特にルディなど左手を失う大怪我だ。しかし、俺たちは勝利したのだ。

 

「…やっべ、限界…」

 

 ずっと限界以上の戦い方をしてきたのだ。体力が続かなくて当然だし、肉体だってそれについていくほどのものじゃないだろう。崩れ落ちそうになる俺を支えてくれたのはパウロさんだ。

 

「すげぇよ、レード…」

 

「でも、ルディは…」

 

「腕はないし、酷い怪我だ。でも、生きてる。それだけで十分じゃねぇか。さ、ゼニスを助けてこんな場所からおさらばしようぜ」

 

 ルディの方は脂汗を額に浮かべながら治癒魔法で左手の傷口を塞いでいた。オルステッドのように神級の治癒魔法が使えるようなら腕を再生させることも可能だろうが、あいにくそれができる者はこの場にはいない。

 

「そう、ですね…」

 

 先ほどから身体が猛烈に重い。疲労困憊という言葉がまさにふさわしい状況だ。

 

「休んでていいぞ? 少なくともこの部屋からこれ以上魔物が出ることはないだろうしな」

 

「でも、ゼニスさんが…」

 

 彼女は意識を失った状態で結晶から出てきた。あらかじめ予想していたように、ガーディアンであるヒュドラが死ぬと結晶化が終わるようだ。

 

「気にすんな。それくらいは任せておけ」

 

「ごめん、なさい…」

 

 なんとか捻り出したその言葉とともに俺の意識は遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時間経っただろうか。俺は心地よい背中の上にいた。

 

「ここは…?」

 

「目を覚ましましたのね」

 

 俺がいたのはおばあちゃんの背中の上だった。ここは迷宮の中だろうか。

 

「ゼニスさんは…?」

 

「まだ意識はありませんけど、無事ですわ。それよりももうちょっと寝ててもかまいませんわよ」

 

「俺、どのくらい寝てた?」

 

「8時間くらいですわ」

 

 となると、まだ5〜6層くらいということか。ふとルディの方を見ると、彼はロキシーさんに支えられて歩いていた。ちなみに、ゼニスさんはタルハンドさんが背負っている。パウロさんは前線で剣を振らなくてはいけないため、荷物は少なめだ。いくらヒュドラほどではないとはいえ魔物はそれなりに出てくるしな。

 

「とりあえず、降りるよ。動きにくいだろ?」

 

「ダメですわ。少なくとも迷宮を出るまでは大人しくしてもらわないといけませんわ」

 

 おばあちゃんははっきり答える。てっきり頷いてくれると思っていたものだが。

 

「大人しくって…。左手なくしたルディですら、歩いてるのに」

 

 未だに背負われている俺に対して答えるのはルディだ。

 

「でも、レードの方がダメージは大きかったぞ? 魔力使いすぎたんじゃね?」

 

 確かにそうかもしれない。だとしてもここまで運んでもらうほどだろうか。そう思いながら身体を持ち上げようとした。

 

(…まったく動かないな)

 

 指先などは動くものの、腕を持ち上げたり足を大きく動かしたりすることはまったくできない。まるで金縛り状態になっているかのようだ。ただの筋肉痛ではないだろう。そもそも筋肉痛なら治癒魔法で治せるしな。

 

「魔力の使いすぎが影響してるのかな」

 

「俺にもわからないけど、とりあえず大人しく背負われとけよ」

 

 ルディは左手を失ったものの、思ったより表情は暗くない。家族全員が揃う瞬間を今か今かと待ち侘びているようだ。

 

(そうか。全員揃うのはほとんど初めてなのか…)

 

 ノルンちゃんとアイシャちゃんが記憶のある時には、ルディはすでに家庭教師になって離れていたからな。そして、それと同時に俺たちの転移事件がようやく終了ということか。そう考えると、込み上げてくるものがある。

 

「…泣いてますの?」

 

 涙を拭こうと腕を上げたいが思うように持ち上がらない。

 

「…見ないでくれよ。あと誰にも言わないでほしい。特に、クリフと静香姉とノルンちゃんには」

 

「クリフには言えませんわね。シルフィはいいんですの?」

 

「シルフィ姉は、気持ちは同じだろうから」

 

 家族というものを大事にしているのは俺もシルフィ姉も同じだ。両親を失ってからその気持ちはさらに強くなった。

 

(でも、こういうのいいな…)

 

 ルディに何かを言われてロキシーさんが顔を赤らめている。おばあちゃんとパウロさんも軽口を叩き合っている。それを見てギースさんとタルハンドさんがカラカラ笑う。気を抜いてはいけないのが迷宮だが、この瞬間は心の底から尊く感じた。

 

 3日が経ち、ようやく迷宮から脱出することができた。行きと違い、帰りは目印も地図もあるし脱出しやすいのだ。その頃になると、俺も動けるようになっていた。

 

(結局なんだったんだろうな、あの症状は…)

 

 少し疑問を感じていたが、とりあえずは魔力的にも体力的にも無理をした反動と思うことにした。

 

「皆様、よくぞご無事で…」

 

 嬉しそうな、泣きそうな顔で出迎えるのは地上で捜索隊の指揮を取っていたリーリャさんだ。

 

「…おう、ただいま」

 

 パウロさんがニカっと笑う。全員が戻ってきた安堵感が宿に広がっていく。荷物を片付けた後、パウロさんは俺とルディに告げる。

 

「ルディ、レード。疲れただろ? お前たちは今日一日ゆっくり休め」

 

「父さん…」

 

 何か言いたげにルディが彼を見る。とはいえ、ルディも疲れているのは事実だ。

 

「俺の方は少し片付けなきゃいけない仕事もあるし、そのあとはみんなで飲み会だ」

 

「飲み会って…。すぐラノアに帰るんじゃないんですか?」

 

「どうせラノアまで長い時間かかるんだ。1日や2日休んだところで変わりゃしねぇよ」

 

 まあ、どのみち転移魔法陣のおかげで多少飲んだりしたところでシルフィ姉の出産には余裕で間に合うだろう。

 

 こうして俺とルディはそれぞれのベットで横になるのだった。とはいえ、俺はおばあちゃんの背中の上でぐっすり眠った後だ。なかなかすぐに寝るというのも難しい。

 

(寝つけないし、なんか飲むか)

 

 ギースさんたちが飲み残した酒が余っているかもしれない。そう思いながらみんなが寝静まった深夜に部屋から出ると、ルディの部屋から声が聞こえた。

 

「…ルディ、まだ起きてますか?」

 

 ロキシーさんの声だ。俺は姿が見えないように気をつけながら聞き耳を立てる。日本の強固な住宅と違って、ここは壁も薄いし声は丸聞こえだ。

 

「師匠。どうしたんですか? みんなで飲んでたのでは?」

 

「そのつもりだったんですけど、潰れてしまう前にルディに伝えなくてはいけないことがあったので」

 

「師匠の話ならなんなりと」

 

 ルディはロキシーさんの話ならいつでも聞く気満々なんだろうな。そう心の中で笑っていると、ロキシーさんが小さな声で続ける。

 

「…迷宮に潜っている間、ずっと考えてました。どうやったらルディにちゃんとお礼ができるのかなって」

 

「お礼なんて、そんな! 師匠を助けるのは当然のことなんです!」

 

「ルディからしたらそう思えるんでしょうか。でも、私としても貰いっぱなしというのはルディの師匠としてのメンツがあるんですよ」

 

「…師匠から貰える物ならなんだって嬉しいですよ?」

 

「ありがたい言葉ですね…。でも、物で返せるほど小さな恩じゃないんです、私にとっては。だから…」

 

「…だから?」

 

 ロキシーさんは覚悟を決めたように続ける。

 

「だから、私が私自身を捧げるしかないんじゃないかな、と…」

 

 毛布や衣服が落ちる音が聞こえた。

 

「し、師匠!?」

 

「…ルディを満足させてあげられるかはわかりませんし、お礼と釣り合ってないのかもしれません。でも、もしそうだったら、ゼニスさんが見つかったお祝いということにでもしておいてください」

 

 再び服を脱ぐ音が聞こえる。なんかシルフィ姉の初夜とシチュエーションが似ている。あのときも俺は聞き耳を立てていたものだ。

 

「…盗み聞きは趣味が悪いですわよ?」

 

 そんな俺に声をかけてくるのはおばあちゃんだ。彼女も飲み足りなかったのだろうか。

 

「おばあちゃん…」

 

「下で飲み直しませんこと? こんなの聞いてて寝れそうもないのでしょう?」

 

 確かに媚薬はないとはいえ、刺激的なシーンは目に毒だ。俺たちは階段を降りて誰もいなくなった暗い待合室に向かった。

 

「飲むのはいいけど、やらないよ?」

 

「クリフに会わせる顔がないですし、そもそも孫では発情できませんわ」

 

 そう答えて彼女は酒瓶を持って笑った。こうして、ようやく来た幸せを噛みしめながら俺とルディの夜は更けていくのだった。

 




こういう幸せな終わり方の迷宮編もありかと。なお、そのあとは修羅場と廃人ゼニスは逃れられない模様()
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