シルフィ姉の10歳の誕生日に贈った指輪を、彼女は大いに喜んでくれた。さて、次に誕生日を迎えるのはルディだ。姉は木彫りのペンダントを贈るようだ。父も昔、祖母からもらったとのことだ。
さて、俺はどうするか。ルディは俺より稼いでいるため、何かを買うというのは喜んでもらえるかどうか分からない。というのも、自分で稼げている彼は街で買うこともできるだろう。かといって彼は作れるものも多い。土魔術でフィギュアを量産することもできるとのことだ。
俺も何度かシルフィ姉のフィギュアを作ろうとしてみたが、
(…パッと見は悪くないんだけど、なんか物足りないんだよなぁ)
ルディが作った物と比較して躍動感というのが足りないのだ。彼の作った物は今にも動き出しそうなイメージをもたせる。それに対して俺のは、あくまで似てるだけという感じだ。
(この手の美的センスやっぱりないかなぁ。そもそも土魔術のセンスも俺はそこまでないし)
そう思って作り直そうとしていたところシルフィ姉が声をかけてきた。
「これって、もしかしてレードが?」
「ああ。ルディに倣って作ってみたんだけど、あいつほど上手くは作れそうもないな」
「なんか恥ずかしいな…」
確かに自分の人形を見られたら、恥ずかしいと思われても仕方ないか。
「うーん、ルディが好きなものを掛け合わせたつもりなんだけどなぁ」
「好きなもの?」
「ああ。あいつって人形作りも趣味じゃん? で、ルディが好きなのはシルフィ姉じゃん? だから、好きなものを作ってもらったら喜ぶんじゃないかなと」
美味いものと美味いものを混ぜ合わせれば美味しくなるとは限らない料理と違って、彼なら気に入ってもらえると思ったが。
(そうだ、ルディ本人も作ってみるか)
シルフィ姉1人だとどこか物足りないし、2人でいてくれる方がなお嬉しいだろう。俺の記憶にあるルディは数年前のものだが、まあどうにかなると思う。
こうして俺はルディとシルフィ姉の人形を贈ることにした。
その日はルディの誕生日から数日が経ったときだった。俺はいつも通りパウロさんとの訓練を終えて、ノルンちゃんに魔法を教えていた。
「魔力の流れを考える…って言っても分かりにくいよね」
無詠唱の基礎となる部分を言ったが、正直これは俺も理解していない点が多い。
「うーん、分かんない」
「だよなぁ。俺だって難しかったし」
無詠唱の修得には1年近い時間を要した。シルフィ姉はすぐにできるようになったのに、ここまで差がついていたことで、俺は少し凹んだ。
「まあ、今できなくてもいいよ。それじゃ、パウロさんのところに行こっか」
「うん!」
俺はノルンちゃんを抱き上げる。もう彼女はだいぶ歩けるようになっているのだが、俺と会うたびに抱っこを要求してくる。可愛い妹分のためなら喜んで、といったところだ。
ちなみに、アイシャちゃんはシルフィ姉に懐いている気がする。一緒にリーリャさんから家事の指導を受けているというのが大きいか。
(やっぱりこの世界の顔面偏差値バグってるだろ…)
今まで出会った人、全員が可愛かったり美人だったりカッコよかったりする。俺ですら前世のときより顔はいい。もちろん、性格も良い人しかいないわけだが。
「パウロさん、お待たせしました」
俺は2階から1階に降りて言う。ノルンちゃんはうつらうつらしている。
「おう。相変わらずノルンはレードにべったりだな」
「妬きます?」
「9歳のガキに嫉妬はしねぇよ」
ここでゼニスさんが言う。
「でも、パウロったらこの前、俺にもうちょっと懐いてほしいとか言ってなかったかしら?」
「なっ、それは言うなって!」
「…なんかすみませんね」
俺は笑いながら言う。愛娘を取られたら、そう思われても仕方ないか。ゼニスさんも釣られたように笑う。
「それで、レードくん。魔法の方はどんな感じ?」
「優秀ですよ、2人とも。俺が凹みそうになるくらいには」
俺の声になぜかパウロさんが胸を張る。
「そりゃそうだろう。俺とゼニスとリーリャの娘たちだしな」
「パウロは何もしてないでしょう」
さすがに剣術を教えるのはまだ早いため、今のところパウロさんには出番がない。
「シルフィ姉は、ご迷惑かけてませんか?」
「ええ! とても助かってるわ。ルディも喜ぶでしょうね」
「ならよかったです。正直、パウロさんに強制的に別れさせられたときはヤバいと思ってましたが、大丈夫でしたね」
「ルディが積まれているとき、俺に魔術撃ってきたけどな。あのときは危なかったな」
すぐに立ち直ったと聞いたが、そんなことがあったとは。
「それはすみません。まあ、あのときだけなんで許してもらえると助かります」
今考えるとあの無理矢理な作戦は成功だったと思う。少し前の甘えたがりのシルフィ姉はあれはあれで可愛かったが、ずっとそうしているわけにもいかないだろう。
「レードもだいぶ剣術が上手くなったし、卒業も近いかもなぁ…」
としみじみしたように呟くパウロさん。
「まだ早いですよ」
「そうでもないさ。お前くらいの年でどっかに弟子入りして剣術を極めるってやつも結構いるしな」
ぶっちゃけ俺は剣だけを極めるというつもりはない。最低限、自分と周りの人間が幸せに生きれるだけの力があればいいのだ。
「まあ、まだシルフィ姉も心配ですし」
俺までいなくなったらと考えると、嫌な予感がする。
「まあ、お前がそう思うならそれでいいか」
「はい。それにまだノルンちゃんにもアイシャちゃんにも教えることはたくさんありますし」
「なあ、そのことなんだけど、俺にもノルンを抱っこさせてくれ」
「やっぱり妬いてません?」
それにゼニスさんが笑いながら言う。
「娘は大きくなると父親との接触を嫌がるから、今のうちに抱いておいた方がいいって言ったのよ」
なるほど。確かに静香姉も中学生の頃には父親との接触を嫌がってた気がする。シルフィ姉もいずれそうなるのか。あの子ならそんなふうにならなそうな気がするが。
「分かりました。よっこいしょ」
俺はノルンちゃんを渡すべく腰を上げる。普段から鍛えているため、これくらいは余裕だ。なんならアイシャちゃんも一緒に運ぶことだってできるだろう。
そうして、パウロさんが受け取った瞬間だった。白い光とともにすべてが消え去った。
弟の運命はいかに