俺が四年生に進級してからまた4ヶ月が経った。ラノアで迎える5度目の夏である。ルディは相変わらず家族にゾッコンだが、俺は俺で静香姉にのめり込んでいる。まあ、それは数年前から変わらないことではあるが。
そんな中、クリフとおばあちゃんの結婚式が行われることになった。両者ともに関わりのある俺や静香姉はもちろん参列することになった。
「改めておめでとう、2人とも」
式が行われる直前、きっちりした純白の衣装に身を包んだ2人に声をかける。2人揃って緊張した表情だ。
「ありがとう、レード。でも、君には感謝しなくちゃな。リーゼは言ってたよ。自分たちが無事に帰って来れたのはレードのおかげだって」
おばあちゃんも頷く。クリフから手放しに褒められるとどこか照れ臭い。
「俺一人の成果じゃないんだけどな。それでも、2人が幸せでよかったよ」
「紹介してくれたルーデウスにも感謝しなくてはなりませんわね」
ここで俺はルディが最近しょうもないことで悩んでいたことを思い出した。
「そういえばルディなんだけど、アイツもなんか相談があるらしいよ。あとで聞いてやってくれ」
ルディは少し前にシルフィ姉とロキシーさんの3人でそういうことをしたいと話していた。俺からすれば、ルディが頼めば2人は快く受け入れてくれるだろうと思っているが、彼には彼の躊躇いや不安があるらしい。とはいえ、俺がどうこうできそうもないし、これはおばあちゃんたちに任せることにした。
2人と話してからしばらくして結婚式が始まった。最前列に座るのはおばあちゃんの肉親である俺とシルフィ姉だ。その後ろの席にはルディやロキシーさん、静香姉が続いている。
「…綺麗だね、おばあちゃん」
シルフィ姉が小さく呟く。
「だな。シルフィ姉も似合ってるよ」
そう返した俺にシルフィ姉は苦笑いで答える。
「そういうのはナナホシに言ってあげた方がいいんじゃないの?」
「素面じゃ恥ずかしくてとても言えそうにないな。普段から可愛いとか綺麗とかは言ってるけど、マジで綺麗だとどう言葉にしていいか分からなくなる」
今度の飲み会で言ってあげることにしよう。静香姉もまた普段は着ない美しいドレスに身を包んでいる。彼女はレンタルでいいと言っていたが、次このような機会がいつ訪れるかわからないし、お金は十分にある。しっかり1着買っておいた。
ようやく準備が整い、神父が祝詞を読み上げ始めた。とはいえ、内容は日本で何回か参加したことのある結婚式と似ている部分も多い。新郎と新婦が互いの愛をみんなの前で誓い合うのだ。ただこれはミリス教の結婚式のパターンであって、それ以外の宗教だとかなり変わっているらしい。特にミリス教は一夫一妻制の意識が強いらしいからな。教皇の孫であるクリフなら尚更だ。
それがあってか参列しているロキシーさんとパウロさんは若干バツが悪そうな表情をしている。まあ、クリフはミリス教を無理に押し付けるようなことはしないし、そこまで気にすることはないと思うが。
おばあちゃんがクリフの額に誓いのキスをする。俺は覚えていないがこの行為にもミリス教の逸話が含まれているという。
「神よ! 二人に永遠の愛と、永久の繁栄を与えたまえ!」
そう高らかに神父が声を上げると錫杖から眩い光が放たれ、それが教会全体を包んでゆく。なんとも幻想的な雰囲気だ。その中心にいる新郎新婦はなおのこと美しく見えた。
こうして結婚式は無事に終わった。前世の日本の結婚式と決定的に違うのは、このあとの二次会や披露宴というのが存在しないところだ。愛を誓い合うのみということもあって非常にスムーズに進んだ気がする。
静香姉に声をかけようと思ったが、彼女はすでにクリフたちのところに向かっていた。魔法陣に関していろいろ話があるのだろう。おばあちゃんの呪いに関しても無関係ではないしな。ルディたちの方も夫婦同士で楽しそうに話している。
そんな中、手持ち無沙汰な俺を呼ぶ声が後ろから聞こえた。
「レード兄。ちょっといい?」
俺をレード兄と呼ぶのはノルンちゃんしかいない。さっきまでアイシャちゃんと話していたが、彼女がリーリャさんのところに行ったので、俺に話しかけたのだろう。
「どうしたの? ノルンちゃん」
「…なんていうか、レード兄。その格好似合ってるよって言おうと思って」
「ノルンちゃんこそ。綺麗だよ」
俺はそんなに似合ってるだろうか。着慣れない礼服に身を包んでいるが、静香姉やシルフィ姉には馬子にも衣装といった感じで揶揄われた。静香姉の方は照れ隠し、シルフィ姉の方はルディにゾッコンなのだから仕方ない。
「…ありがと。それでね、レード兄に相談があるんだけどいい?」
「もちろん。ノルンちゃんのためならマナタイトヒュドラだって狩ってくるよ」
俺が息巻くとノルンちゃんは吹き出すように軽く笑った。
「そんな無茶しなくても、もっと簡単なことだから大丈夫だよ。レード兄に剣の稽古をつけてもらいたいなって思って…」
確かノルンちゃんは今パウロさんとルディの2人とトレーニングを受けているはずだが。彼らとはそこまで仲が悪いというわけでもなく、むしろ良好な関係を築けているはずだ。
「俺の剣術か…。普通のやつならパウロさんたちに教えてもらえばいいだろうし、そういうんじゃないんだよな?」
「うん。あの魔法と剣を融合するみたいなやつ、挑戦してみたいなって…」
「ぶっちゃけたこと言うと、あんまりアレはおすすめしない。普通の剣術からしてみれば邪道もいいところだしな。それを真似して変な癖がつくかもしれないし」
ノルンちゃんは少し残念そうに頷く。
「あと俺も正直言って教えられる自信がない。もちろん、普通の魔法や剣ならいくらでも教えられるが、アレは別だ。今まで教えてきた人で完璧に使いこなせる人は見たことがない。つまり、それは俺に教える能力が足りてないということだ」
そもそも無詠唱魔術が前提の時点で難易度設定がおかしいのもあるが。
「それでもノルンちゃんが構わないなら、いいけど…」
その声に迷うことなく彼女は頷く。
「もちろん。お願いします、レード先生!」
「分かった。ただ、一応、安全のためパウロさんやルディがいる前でのトレーニングになるけど、それでも構わないか?」
「うん。レード兄が先生になってくれるなら、それで十分だよ」
ここまで言われたなら俺も期待に応えなくてはならないな。どうにかして怪我が少なくなるように工夫しなくてはな。まあ、ルディたちもそこら辺はどうにかしてくれるだろう。
「ただ、本当に習得できるかは期待しないでくれよ?」
「うん。私もアイシャや兄さんみたいに優秀じゃないし。私からすればレード兄と一緒にいたいなって思って…」
確かに、今は一緒に過ごす時間がそこまで長くないかもしれない。俺は静香姉といる時間がかなり長いし、ノルンちゃんは寮生活だ。捜索隊にいたときと比べたら、だいぶ短くなっていると思う。
「あの2人は天才だから気にしなくていいよ。俺だって兄弟姉妹が優秀だと劣等感があるのはわかる」
「レード兄はめちゃくちゃ強いと思うけど…」
「でも、それはただの努力で身につけたものでしかない。ルディたちはしなくても優秀なんだから、天才なんだよ。シルフィ姉や静香姉もそっち側だと思う」
静香姉の魔法陣にはどれだけ俺が勉強を重ねたって追いつける気がしないしな。シルフィ姉に関してはどこがというより本能に近い。弟は姉には勝てないのだ。
「でも、レード兄はカッコいいよ?」
「ありがと。ノルンちゃんからそれを言ってもらえると嬉しいよ」
ここで俺は抱っこして欲しそうな顔をしていたノルンちゃんを抱き上げる。問題なく持ち上がるが、成長期というのは恐ろしい。半年ほどで俺の知ってる重さではなくなっていた。
「大きくなったね、ノルンちゃん」
「でしょ? でも、レード兄にはずっと甘えちゃうかも」
「それを少しでもルディに向けてあげると、たぶんすごく喜ぶと思うよ」
そう言うとノルンちゃんは小さく舌を出して苦笑いする。
「レード! ちょっと来てくれないか?」
噂のルディから声がかけられた。俺はノルンちゃんを下ろす。
「パウロさんのところに行ってきなよ」
「うん。兄さんによろしく伝えてて」
小走りでノルンちゃんはパウロさんの元へと向かっていった。俺はルディ夫婦のところへ行く。
「どうしたんだ、ルディ」
「レードに1つ頼みがあってな。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」
「内容を聞くまでもなくOKだよ」
「いや、内容は聞いてくれよ」
クスクス笑った彼が語るところによると、ノルンちゃんとアイシャちゃんにサプライズパーティーを計画しているらしい。
「そうか、あの子たちもそろそろ10歳になるのか…」
俺の成人の誕生日祝いはあったのに、2人の10歳の誕生日に何もないのはおかしい。パウロさんもいるし、盛大にお祝いすることにしよう。
「ああ。話が早くて助かる」
「俺には2人にバレないようにしてほしいんだな?」
「レードは特にノルンと距離が近いからな。嫉妬するくらいには」
以前、ミリスにルディが来たときはガチの嫉妬の目で恐ろしかったからな。今はだいぶそれも緩くなってはいるが。たぶん諦めたのだろう。
ともかく披露宴がない代わりに新たなパーティーが開かれることが決定したのだ。
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