結婚式から数日後。ルディ主催のサプライズ誕生日パーティーに向けて俺は頭を悩ませていた。ノルンちゃんへの誕生日プレゼントが決まらないのだ。
自分の中でアイシャちゃんの方は早々に決まった。あとは他の面々と被らないことを期待するのみだ。だが、ノルンちゃんの方はなかなか難しい。
「早く決めないと、間に合わないわよ」
そう言ってくるのは静香姉だ。
「…マジで決められないんだよ」
「あの子なら何をあげても喜んでくれると思うけど?」
「そこが問題なんだよなぁ…」
何を渡しても喜んでもらえると薄々思ってるからこそ、悩んでしまう。下手なものを渡して微妙な空気になってしまうのも嫌だ。
「ルーデウスたちはなんて?」
「アイツはシルフィ姉やロキシーさんと寝ることで頭がいっぱいだからなぁ…」
3人でしたいと言い出してた彼はどうにかおばあちゃんの力を借りて、2人と今頃イチャイチャしているのだろう。それに彼に聞いたところで、「お前の方が詳しいだろ」と言われてしまうのがオチだ。確かに付き合いはルディより長いからあながち間違いではないが。
今思えば、誕生日プレゼントで常に頭を悩ませてる気がする。シルフィ姉の10歳のときの誕生日もそうだった。あのときは指輪をプレゼントしたような気がする。
(…今回もその系統で攻めてみるか)
無難と言ってしまえばその通りだが、致し方ない。決まらずに残念がらせるよりよほどマシだ。あとは具体的に何を渡すかだ。そう思っていたところ、ドアがノックされた。
「レード。時間ある?」
そこにいたのは、ルディでもノルンちゃんでもなくシルフィ姉だった。
「珍しいね、シルフィ姉がここに一人で来るのは」
静香姉とはいろいろあったからか、未だに思うところがあるようだ。普段ならルディと一緒に来るのがほとんどなのだが。
「今度の誕生日会で相談があってね。ちょっと、レードを借りるね、ナナホシ」
「分かったわ。なんなら、今日は連れて帰ってもいいわよ」
「それじゃそうさせてもらおうかな」
2人の姉の間で俺の処遇が決まっているが、こちらは口出しはできない。弟は姉には敵わないからな。
こうして久しぶりにシルフィ姉と帰ることになった。姉と2人での帰路というのも久しぶりだ。普段はノルンちゃんかルディがいるし、なんなら転移魔法陣を使うから帰り道というものすらないときがある。
「…それにしてもこの前はお楽しみだったね」
「うん。最高だったなぁ…」
シルフィ姉はうっとりしたような表情で呟く。姉と弟でこういう話題をするのは自分でもどうかと思うが、3人での情事に思いを馳せている彼女にはそれを考える余裕はないようだ。
「さぞルディは凄かったんだろうな」
「…ボクもロキシーもめちゃくちゃになっちゃったよ」
どうめちゃくちゃになったのかは、飲みの席でルディに話してもらうことにしよう。
「そういえば、レードはさ。誕生日プレゼントは決めたの?」
「ガラリと話を変えてきたな。シルフィ姉にプレゼントしたみたいな感じでいこうかなって思ってる」
「ボク?」
「ああ。アイシャちゃんにはエプロン、ノルンちゃんにはネックレスとかどうかなって」
アイシャちゃんは実用的な物の方が喜ぶだろうし、ノルンちゃんは俺からならよほどの物じゃなきゃ大丈夫だろうと予想はできる。だからこその選択だ。
「レードらしいね。これから買いに行くの?」
まだ本番までには数日はある。ラノアにあるものだったら準備できるだろう。
「ああ。他にできることは何かあるか?」
「そうだなぁ。もう一つお願いとしては、料理とかの準備を手伝ってほしいかな。2人にバレないように」
シルフィ姉が話したところによると、準備を進めている間にルディとロキシーさんが妹2人を連れ出すらしい。パウロさんは不慣れだし、リーリャさんと2人でやると間に合わないかもしれないという判断だろう。
「そういうことなら分かった。手伝わせてもらうよ」
まあ、ノルンちゃんにはロキシーさんと仲良くやってほしいというのがあるのかもしれない。
「正直、ノルンちゃんもだけど、レードもなんだよね。まあ、これはレードが何かできるとは思えないけど」
ロキシーさんとのことだろう。自分で言うのもなんだが、まあまあデカい借りを作ってしまったからな。かといってそれを自分の方からどうこうできるわけでもないし、したくはないのだが。
とにかく俺とシルフィ姉はその足で雑貨屋に向かい、プレゼントに良さそうなものを見繕ってきた。前回と違い、今回はちゃんと女性目線のアドバイスもある。あとは物が2人に喜んでもらえるかだ。
そして当日。予定通り、ルディが3人を呼び出す。といっても俺はその場にいるつもりはない。ノルンちゃんに一緒に行こうと言われたら断れる気がしないからな。
4人が出て行ったのを確認したところで俺と静香姉はグレイラット邸へ向かう。
「お待たせ、2人とも」
それを出迎えてくれるのはシルフィ姉だ。
「しかし、怪しまれなかったか? アイシャちゃんとか勘がいいから気づかれそうな気がするが」
「うーん、たぶん大丈夫だと思う」
なんなら気づいていても気づかないフリをしてる可能性すらありそうだ。
「ねぇ、私はどうすればいいのかしら。あんまり、料理とかは期待できないと思うけど…」
静香姉がおずおずと聞く。
「ルーシーの面倒を見てもらいたいかな。今はパウロさんに見てもらってるけど、一応」
リビングではパウロさんが猛烈な勢いでルーシーちゃんを可愛がっている。その様はノルンちゃんとアイシャちゃんが生まれたときを彷彿とさせるくらいだ。
静香姉は緊張したような面持ちでルーシーちゃんの方へ向かっていった。パウロさんとなんの会話をするのだろうか。そう思いつつ俺の方も準備を進める。
俺のメインの仕事は料理だ。誕生日といえばケーキというのはこの世界においても異論はないらしい。とはいえ、俺もケーキを作るのはさすがに初めてだ。シルフィ姉の助手ということになった。
「アスラ王国だとこういうのはよく食べたのか?」
「そうだね。アリエル様とよく食べたよ」
懐かしそうな表情でシルフィ姉が言う。あのときはシルフィ姉は一人で転移していたからな。さぞ心細い思いをしただろう。それこそ俺がもっと早く見つけられてればと思ってしまう。
「…ごめん。俺がシルフィ姉をもっと早く見つけられてれば」
「あのときはボクだって周りにバレないように隠してたから仕方ないよ。それにレードも必死に探してくれてたんでしょ? ノルンちゃんから聞いたよ」
「今考えても大変だったからな、あのときは。でも、まさかラノアにいるとはな」
もしもあのとき俺がラノアに行かず、アスラに行く決断をしていたらどうなっただろうか。シルフィ姉との再会はもっと先になったことだろう。まあ、ゼニスさんの救出には参加するだろうから、ルディとシルフィ姉が結婚してることはわかるが。
「ボクもびっくりしたよ。さすがに入学してくるとは思わなかったし。でも、あのときは本当に嬉しかったなぁ…」
「そう言ってもらえると弟冥利に尽きるよ」
それから今に至るまでがなかなかに大変だったわけだが。懐かしさに思いを馳せながら手伝っていると、いつのまにかフルーツケーキや美味しそうな料理が出来上がっていた。
(シルフィ姉といると時間が経つのが早いな…)
祝う準備は万端だし、そろそろ出かけていた4人も帰ってくる頃合いだろう。そう思っていた矢先だった。
「ただいまー」
帰りの挨拶をしてきた4人に返ってきたのはいつもの「おかえり」ではなかった。
「おめでとう!」
声が重なり、拍手が響き渡る。アイシャちゃんは一瞬訝しむような様子だったが、リビングに入ってすぐに何があったか察したようだ。ノルンちゃんはまだ混乱しているようだが。
そんな2人をルディが椅子へ誘導する。全員が座ったところでルディが乾杯の挨拶をした。シルフィ姉とロキシーさんは昼間に取り寄せたプレゼントをテーブルの下から出す。俺やパウロさんもそれに続いた。
「10歳の誕生日。おめでとう!」
「おめでとうございます」
アイシャちゃんもさすがにプレゼントが貰えるとまでは思ってなかったようだ。2人とも驚きと嬉しさが混ざったような表情で受け取る。
「アイシャ、ノルン。今まで祝ってあげられなくてごめんな。俺からもプレゼントだ」
パウロさんが目を真っ赤に腫らした様子で手渡す。早くも感極まってしまったようだ。俺は苦笑いしながらそれに続く。
「泣くの早すぎですよ、パウロさん。これは2人に。どうぞ」
「レード兄ありがとう!」
ノルンちゃんが俺に抱きつく。一方、アイシャちゃんは俺に驚いて聞き返す。
「ノルン姉だけじゃなくて、私にも…?」
「そりゃもちろん。ここでノルンちゃんだけに渡すのもおかしいし」
確かに俺とノルンちゃんは相当仲が良いと思うが、さすがにそこまで贔屓するつもりはないからな。2人とも俺にとって大事な家族であることに変わりはない。
リーリャさんからも受け取り、プレゼントを開けた2人は嬉しさを爆発させる。その様子をゼニスさんが微かに笑みを浮かべているような気がした。
その後、パーティーは終始楽しく進んでいった。ケーキを食べ終えた後、俺の隣に座っていたロキシーさんが小さく呟いた。
「レードさんにもお礼を言わなくてはなりませんね。ありがとうございます」
シルフィ姉とルディから結婚祝いを受け取っていた彼女は涙を流していた。
「俺は何も渡せてませんよ?」
「レードさんが繋ぎ止めてくれたからこそ私はルディと結婚できたんです。そうでなくても、この幸せな場を作ったのは、レードさんなんですから」
確かに俺がいなかったら、と思わなくもない。ゼニスさんは記憶を失くしてしまっているが、先のヒュドラとの戦いでも誰かが死んでしまっていてもおかしくはなかった。そう考えると、それだけで努力してきた意味があったものだ。
「でも、私からは何も返せるものがなくて申し訳ないくらいです」
「それなんですけどね、今すぐ返す必要はありませんよ」
「ですが…」
「俺もロキシーさんも種族柄寿命は長い。今じゃなくてもあなたの力を借りなくてはいけない時がくるはずです。そのときにちょっと利子つけて返してもらえればいいんです」
まあ、利子つきというのもなかなかがめつい気がするが。これで彼女の申し訳なさが減ってくれればありがたい。
この先、本当にロキシーさんに俺は助けてもらう時が来るのだが、その未来を知らない俺たちは幸せな時間を噛み締めていくのだった。
マジでモチベをください。アニメ3期まだっすか()