弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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お待たせしました。ようやく物語を進められそうです


第82話 成功と借り

 戦いもこれといってない平和な月日が流れ、季節は冬になった。去年のこの時期はベガリットへの救出活動でめちゃくちゃ忙しかったが、今年は穏やかな冬を過ごせそうだ。卒業式も間近に迫っていた。俺個人はあまり深い関わりがあったわけではないが、リニア先輩とプルセナ先輩が卒業することになる。

 

 そんなことを思ってた矢先、俺は生徒会室へ呼び出された。

 

「そんな顔をするな。何か問題が起きたというわけじゃない」

 

 ルーク先輩が言う。まあ、俺は自分で言うのもなんだが結構わかりやすいところがあるからな。

 

「ならいいんですけどね」

 

 まあ、ヒュドラ討伐以上の難題なんて、早々来ることはないと思うが。そう思いつつ生徒会室に入ると、アリエル王女とシルフィ姉に加えてノルンちゃんの姿があった。

 

「失礼します」

 

「お久しぶりですね。帰還報告以来でしょうか」

 

 アリエル王女はいつものように優雅に言う。

 

「ご心配おかけしましたね」

 

「そのようなことは、こちらの2人に言うのがよろしいかと」

 

 シルフィ姉とノルンちゃんにチラリと目を向ける。シルフィ姉は俺なら大丈夫とか思ってそうだが。

 

「心配してくれていたら嬉しいんですがね。今回の用件はなんでしょうか」

 

「用件、というより頼みに近いでしょうか。また、私たち、というかノルンさんに協力していただきたいのです」

 

「なるほど。わかりました。なんでも致しましょう」

 

 ノルンちゃんに協力ということなら、迷う余地はない。むしろこっちから頼みたいくらいだ。まあ、それはさすがに気持ち悪い気もするが。

 

「せめて内容を聞いてから…」

 

「そうですね。先走りすぎました」

 

 ここでノルンちゃんが口を開く。

 

「えっと、レード兄。実は生徒会に入ろうと思ってて、手伝いとかもいろいろしてるんだけど…」

 

 かなり緊張してるようだ。普段ならともかくみんなの前だとこうなってしまうのもわからなくはない。そんな彼女にシルフィ姉が助け舟を出す。

 

「ボクやアリエル様やルークは来年で卒業でしょ? その前に生徒会に入って頑張りたいんだよ」

 

 そういえば3人は今年で7年生か。シルフィ姉は妊娠した影響で学校にあまり通えてなかったが、それでも成績の良さでなんとか進級できている。卒業後はルディの妻として永久就職することになるのだろう。

 

「そうか。だったら、俺が全力で手伝わせてもらおう」

 

 そう言うと彼女は首を横に振る。

 

「手伝ってもらえるのはありがたいし、嬉しいんだけど、そうじゃないの…。いつまでもレード兄に頼ってばっかりだと、あのときと変わらないし」

 

 あのときというのは、捜索隊にいたときのことだろう。まだノルンちゃんは幼かったし、頼ってばっかりだったのは仕方ないと思うが。それに、手伝うというわけじゃなかったら、俺はどうすればいいのか。

 

 そう思ってた俺にノルンちゃんは続ける。

 

「助けてほしいんじゃなくて、見守っててほしいかな」

 

 そう言われて俺はようやく理解した。今の生徒会の3人は来年にはいなくなっている。その後任としてふさわしい姿を見せたいというわけか。確かに、それなら俺の手伝いはいらないだろう。俺だけに伝えるのではなく、ここで言ったのも、シルフィ姉たちに成長していくところを見てもらいたいからといったところか。

 

「わかった。でも、本当にキツくなってきたら言ってくれよ。いつでも助けるから」

 

「ありがとう、レード兄」

 

 ノルンちゃんは力強く頷く。それを見て確信した。たぶん俺が手を貸す必要はないだろう。

 

「このこと、ルディには何か話したのか?」

 

「それは、まだ。今年の卒業式が終わったら伝えようかな」

 

 まあ、彼がダメと言うとは思えないけどな。俺やシルフィ姉の口添えがあるならなおさらだ。

 

 そんなルディは、卒業式が終わった後、リニア先輩とプルセナ先輩の決闘を見物しており、伝えるチャンスを見事に逃すことになるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。静香姉の研究の方はようやく先に進むことになった。その成果が目の前の100枚近い魔法陣だ。それの完成に向けて集中しすぎた彼女は若干体調を崩しかけたが、そこをフォローするのが俺の役目だ。

 

「それでは、魔力を注入します」

 

 魔法陣に手を置くルディが言う。さすがにこの量の魔法陣を一気に起動させられるのは世界広しといえどもルディくらいしかいないだろう。1枚で相当の魔力を持ってかれるのに、それを一気に100枚以上とは恐るべき魔力量だ。

 

 俺はルディに感心する余裕があるが、静香姉の方はそれどころじゃないだろう。彼女は祈るように、さまざまな色で光る魔法陣を見つめる。

 

 どのくらい経っただろうか。光が強くなったと思ったら収束し、その魔法陣の中心に緑と黒の縞模様の球体があった。スイカだ。

 

「成功…ですね」

 

「やった!」

 

 静香姉が嬉しそうにガッツポーズを見せる。魔力が無事に通り、こうやって物が姿を見せているのだ。成功に違いない。

 

「おめでとう、静香姉」

 

 みんなの前だからか、静香姉はこっちに抱きついたりはしない。まあ、俺としてはそうしてもらってもいいのだが。

 

「ありがとう、レード。…あとでちょっと話があるから残っててもらえる?」

 

 最後の言葉は耳元で告げられた。みんながいなくなった後、愛の告白でもするのだろうか。そんなことしなくても、俺は静香姉が大好きなのだが。

 

 ともかく、無事に成功した実験のお祝いとして宴会が開かれることになった。ルディに予約を任せ、校門で合流する予定だ。

 

「話ってなんだ?」

 

 俺はスイカを木箱にしまいながら聞く。

 

「…あなたには借りしかないわね」

 

「何を今更。そんなのはお互い様じゃない。俺だって静香姉から受け取ったものばかりだ」

 

 今もそうだが、生前まで含めるととんでもない量だ。俺の長い人生と静香姉の体質をもってしても返すのは不可能な量まで増えている。

 

「あなたもそうだけど、ルーデウスもよ」

 

「それは、そうだな。その借りが気になるのか?」

 

 ルディなら気にするなと言いそうだが、静香姉は真面目だからな。

 

「気にならなかったことはないわ。成功したときも失敗したときも手伝ってもらってたもの。だから、その借りの一部を返すわ」

 

「どうやって?」

 

「ルーデウスが召喚魔術を研究してるのは知ってるわよね?」

 

 俺は頷く。まあ、それに関して彼は今のところしっかりした成果を得られていないのが現状だが。

 

「それに詳しい人を紹介しようと思うの」

 

「静香姉より詳しい人がいるのか?」

 

「ええ。私から見れば召喚魔術の師匠のような人かしらね」

 

 静香姉の師匠。オルステッドが一瞬頭を過ぎるが、たぶん彼ではないだろう。オルステッドだとしたら、俺が会ったことのある人だと教えてくれるはずだ。

 

「…なんで俺に先に伝えたんだ?」

 

 ルディにも言うのだったら、別にこの後の宴会の席で言ってもいいと思うのだが。その疑問に静香姉は少し恥ずかしそうに答えた。

 

「それは、レードが私にとって特別だから、かしら。覚悟ができたら、真っ先に伝えたかったのよ」

 

 もしかしたら、前々から伝えたかったのかもしれない。俺が忙しくしていたため、その機会がこれまでなかっただけで。

 

「その人っていったい誰なんだ?」

 

「…甲龍王ペルギウスよ」

 

「甲龍王ペルギウス…」

 

 俺はおうむ返しに呟く。その人物には聞き覚えがあった。昔読んだことのある物語に出てきた人だ。

 

「その人が静香姉の師匠なのか?」

 

 確かラプラス戦役において大きく活躍した英雄の1人だったはず。しかし、それははるか昔の話だ。

 

「ええ。私からも言わなきゃいけないことがいくつかあるし」

 

「どうやって会えるんだ? 魔法陣か?」

 

 静香姉が頷く。転移魔法陣がどこかに隠されているのだろう。

 

「細かいことは行けばわかるわ。とりあえず、宴会に行きましょうか。みんな待ってるでしょうし」

 

 それはそうだ。これ以上待たせるわけにもいかないからな。準備ができた俺たちは宴会へ向かっていった。

 

 メンバーはリニア先輩たち、バーディガーディがいない代わりに、ロキシーさんとノルンちゃんがいる。盛り上がることに変わりはないだろう。

 

(…それにしても、うちの恋人は酒を飲むと面白いな)

 

 テンションが上がって歌ったりと普段と違う表情を見せている。その合間を縫って、俺やノルンちゃんを抱きしめたりもしていた。

 

「ナナホシさん、楽しそうだね」

 

 フルーツジュースを口にしながらノルンちゃんが言う。お酒はルディに止められているようだ。まあ、未成年だし無理もない。

 

「だな。やっぱりみんなが楽しいからな」

 

「レード兄もお酒臭いよ?」

 

 確かに俺も飲んで気分が上がっているかもしれない。

 

「そういえば、ルディに生徒会のことを言うなら今なんじゃないか?」

 

 彼もまたシルフィ姉にお酌されて気分が良くなっている。ちゃんと話せば断ることはしないはずだ。

 

(俺も言おうかって思ったけど、大事なことだからな…)

 

 彼女自身のことは彼女に任せる方がいい。ということで、俺は静香姉のコップにお酒を注ぐのだった。

 

「酔っ払ってると、レードが可愛く見えるわ」

 

「割とお互い様なんだがなぁ…」

 

 そう言いつつ彼女は口移しでお酒を飲ませようとしてくる。ちょっと刺激が強すぎる光景だ。ノルンちゃんがちょうどいないときでよかった。

 

「ねぇ、頭撫でてもらえる?」

 

「わかった。おいで」

 

 猫のように擦り寄ってくる彼女の頭を撫でながら、ちゃんとペルギウスのことを伝えられるのか不安になったが、さすがにルディの前では甘えまくってる姿を見せることはなかった。まあ、解毒魔術を使った後だったが。

 




次回、ペルギウス登場!
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