弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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第86話 魔大陸へ

 魔大陸への出発決定から数日が経った。静香姉の体調に異常はなく、俺たちは荷造りを進めていく。もっとも俺の場合、荷造り以上に自分の体調を心配しなくてはならないが。実際、起き上がってから頭痛を始めとする不調はかなり強くなっている。

 

(戦闘がなかったとしてもこれは厳しそうだな…)

 

 俺が強がったところで、何人かにはバレてしまっているようだ。その一人がノルンちゃんである。ルディと共にグレイラット家へ出発の挨拶をしたとき彼女は心配そうに聞いてきた。

 

「レード兄…。また無理してるでしょ」

 

 鋭い彼女からの言葉に俺は苦笑いするしかない。

 

「バレた? 付き合い長いから仕方ないか」

 

 彼女とも10年近い付き合いだ。別れてた期間もそれなりにあったが。

 

「言わないだけでシルフィ姉さんも気づいていると思うけどね…」

 

 またしても心配をかけてしまった。彼女には頭が上がらない。

 

「止めるのか? ノルンちゃんに頼まれてもそれは…」

 

 俺が続けようとしたところで、ノルンちゃんは首を横に振る。

 

「レード兄が決めたことなんだから今更私が何か言うこともないよ。行くななんて言える立場じゃないし。でも、一つだけ約束してくれる?」

 

「もちろん、ノルンちゃんの頼みなら何なりと」

 

「絶対に無事に帰ってきて」

 

 真剣な眼差しで告げる彼女にどこかありがたさを感じる。こうも自分を心配してくれる人がいてくれるとは。

 

「約束、か…」

 

「うん。レード兄が守るのが苦手な約束」

 

「ゼニスさんたちはちゃんと約束通り連れて帰ってきただろ?」

 

「でも、レード兄、嘘つくの得意じゃん」

 

 そう言われれば返す言葉もない。これまで何度嘘ついてきたか数えられないくらいだ。それでも俺を許してくれるノルンちゃんには敵わないな。

 

「まあ、たぶん大丈夫さ。ルディが俺が何かあったらただじゃおかないだろうからな。もちろん、俺も破る気は毛頭ないけど」

 

 そう言って俺は軽く彼女の頭を撫でる。たとえ戦うことがあったとしても、ルディのように腕を落としてしまってもいけない。ノルンちゃんが微笑む姿も見れなくなってしまうだろうし。

 

(まあ、無事に帰ってくるってのは約束したから、違えるつもりはないけどな)

 

 改めてそう誓い、出発の日を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備がようやく整った俺たちは、空中城塞の地下に向かっている。魔大陸に向かう転移魔法陣はそこにあるらしい。なんとペルギウスはキシリカの位置をだいたいなら把握しているとのことだ。

 

「ただ、見当違いである可能性もあると」

 

 案内してくれたシルヴァリルが付け加える。ルディ曰く、魔界大帝キシリカ・キシリスはかなり自由に動く、いわゆる行動が予想しにくいタイプらしい。博識なペルギウスとはいえ、どこまで信用できるかはわからない。

 

 しかし、藁にもすがる思いなのはこちらだ。とりあえず魔法陣に乗って俺たちは暗い部屋へと転移した。カビの臭さと埃に目が染みそうになる。とりあえず手分けして出口を探すことにした。

 

 おばあちゃんが壁の向こうの空間を見つけて、ルディがザノバに壁を破壊するよう指示した。ザノバはそのフィジカルで簡単に壁を破壊する。大穴が空いた先には暗い部屋があり、ルディが光の精霊のスクロールを用いて灯を灯す。

 

 照らされた足元には多くの白骨死体が落ちていた。その腕には錆びた手錠がつけられており、ここは昔は牢獄だったらしい。

 

(いったい何年前まで使われてたんだろうか…)

 

 こんな状況だと、この転移魔法陣を頻繁に使うわけではないだろうし、静香姉の作った地図にも当然記載されてないだろう。

 

 死体に手を合わせ、その先の階段を登っていく。ザノバとルディが重い土が蓋をしていた扉を開くと、赤茶色の大地が広がっていた。

 

「ここが魔大陸か…」

 

 ルディからある程度話には聞いてはいたが、これぞ異世界という雰囲気だ。とはいえ、体調の悪い今の俺に感動する余裕はない。

 

「魔大陸には危険な生物がたくさんいます。気をつけてください」

 

 ルディが言う。幼かった彼とエリスはよく生きて踏破できたものだ。保護者のルイジェルドさんがいたとはいえ、彼らの生存能力には驚かされる。

 

「周囲に魔物はいませんわね。大丈夫ですわよ」

 

 先導しているおばあちゃんが言う。彼女の索敵センサーにはベガリット大陸でもその先の迷宮でも助けられたものだ。

 

 俺たちは斜面を登ると、その先は大きく凹んでいた。まるで隕石が落ちたあとのクレーターのようだ。

 

「ここが例の街か…。ルディとおばあちゃんは来たことがあるんだよな?」

 

 俺の言葉にルディは苦々しい表情で頷く。

 

「ああ。正直いい思い出はないけどな。まさかこんな形でまた来ることになるとは思ってもいなかったよ」

 

 細かくは知らないが、かつてルディたちのパーティである『デッドエンド』はこのリカリスの街でトラブルを起こしてしまったらしい。今はその原因の1つだったルイジェルドさんもいないので、それを今更蒸し返されることもないと思うが。

 

 一方のおばあちゃんの方もトラブルを起こしていたようだ。その証拠に街の門番などからおばあちゃんのことを意識したらしい確認が行われていた。彼女の場合は呪いの影響もあるから、おそらく男絡みの問題だろう。夫であるクリフの名誉のためにも深くは突っ込まない方がいい。

 

 さて、俺たちはしばらく歩いて街の冒険者ギルドに着いた。このギルドもだが、街全体の雰囲気はシャリーアとあまり変わらない。人族が多い中央大陸と違って、種族がいろいろいるところだけが違うくらいか。

 

「まずは、情報収集ですね」

 

 換金とキシリカ捜索の依頼を提出したのち、ルディが言う。俺のツテがあれば楽なのだが、あいにく魔大陸には知り合いがいない。

 

「…レードは先に休んでていいぞ」

 

 俺がどうするべきか考えていると、ルディが言う。

 

「いや、でも…」

 

「気づいてないのか? お前、顔色悪すぎるぞ」

 

 そんなに悪いのだろうか。頭痛は確かにずっと続いているが。他のメンバーもルディの言葉に頷く。気休めに治癒魔法を唱えてみたが、あまり効き目はない。というか、むしろ悪化してしまう感じすらある。

 

 まあ、俺の体調を無視しても魔神語がほとんど喋れない俺が戦力になるとは思えない。

 

「つっても休んでも回復しそうにないからな…」

 

 休んで回復するようなら、万全な状態で魔大陸に向かえてるはずなのだ。つまり、これは単なる体調の問題ではないのだろう。

 

 とはいえ、ルディたちと一緒に動き回るほどの余裕はない。なので、俺はギルド内で待機することにした。都合よく仮眠室のようなものが空いていたので、お金を支払ってそこで横になる。

 

「あまり気に病むことはありませんわよ」

 

 ベッドに腰を下ろす俺に告げるのはおばあちゃんだ。

 

「この期に及んで自分が捜索に参加できないのが悔しいけどね…」

 

「レードの力が必要なときはそのうち来ますわ。それまでに体調を戻してくださいまし」

 

 そう言い残しておばあちゃんは出て行った。俺も目を閉じる。まあ、どうせ治らないと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が目を覚ましたのは自身の空腹からだった。半日近く寝ていたらしく腹が減るのも当然だ。問題の体調はというと、寝たからといってまったく良くなるということもなく相変わらずだ。

 

(とりあえず、ルディたちはどこに行ったのかな)

 

 目眩を感じながら立ち上がる。とりあえず腹の中に何かを入れねば。

 

 出店で何か食べようとしていたところで、俺は何やら騒がしい姿を見かける。

 

「お、ルディ。その汚い乞食は知り合いか?」

 

 見るからに汚い子どものような姿がそこにはあった。どういうわけかクリフからもらった焼き鳥を凄まじい勢いで食べている。

 

「えっと、レード…。彼女がその…」

 

「妾の名はキシリカ・キシリス! 人呼んで、魔・界・大・帝!」

 

 ルディがため息をついて頷く。正直信じがたいが、彼女で間違いないようだ。魔界大帝などという大層な名前を持っているのだから、ペルギウスのように王座でふんぞり返ってるイメージがあったが。

 

「して、クリフ・グリモル! なんでも望みを言うがよい!」

 

「な、なら、ドライン病の治療法を教えてほしい」

 

「ほう。ドライン病か。久しぶりに聞いたのう。あんなものソーカス草を茶にして飲めばすぐに出ていくわい」

 

 ここに来て決定的な情報が得られた。キシリカによると最初に発見された場所ははるか昔になくなったらしいが、魔王の城で栽培が行われているとのことだ。その1つに目の前のキシリカ城もあるのだという。

 

 キシリカの発見や治療法を知ってたことといい、ここまでこちらにあまりに都合の良い流れが来ている。何かとんでもないことが起きそうな嫌な予感がするが。

 

「では、キシリカ様。なにとぞ、そのソーカス茶を少し分けていただけないでしょうか」

 

「よかろう! しかし、一つ問題があってな」

 

「問題?」

 

「うむ。今、キシリカ城には、嫌な奴がきておってな。頭は悪いが、ちょいと厄介な相手での、妾もそいつから半年も前から逃げ回って…あ」

 

 キシリカの言葉で振り返ると辺りを黒い鎧を身に纏った兵士たちが立っていた。だいたい30人くらいはいるだろうか。自分1人ならともかく他のメンバーもいる以上、見るからに強そうな兵士を倒すのはリスクが大きすぎる。俺はその嫌な予感がさっそく当たったことにため息をつくのだった。

 




次回、アトーフェ登場!
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