弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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ついに転移事件発生


第二章 転移事件編
第9話 転移


 気がつくと真っ白な光に包まれていた。

 

 最初は誰かがエゲツないパワーの魔法をかけたのかとでも思っていたが、自分が住んでいる村にここまでの魔法が使える人間はいない。おそらくルディですら無理だろう。

 

(理由は分からないけど…。こんな何もないところにいる辺り死んで天国に行ったって考えてもおかしくはないな)

 

 せっかく転生して9歳まで生きたのに、前回死んだときの年齢まで届かないのか。そう思っていたが、左手に暖かさを感じた。

 

 ノルンちゃんの手を握っていたのだ。しかもパウロさんも一緒にいた。

 

(俺一人が死ぬならともかく、2人とも連れていくのは違うだろ…)

 

 俺だって死に慣れてるわけではないが、ノルンちゃんに至ってはまだ3歳だ。天国に行く年齢ではないだろう。

 

「…なんだこりゃ」

 

 パウロさんが呟く。俺だって何が起きたかさっぱりわからない。

 

「…ここは、どこなんです?」

 

 事態を飲み込めてないらしいパウロさんは黙ったままだ。まあ、俺も飲み込めてないが。

 

「…おとうさん?」

 

 ノルンちゃんの不安そうな声も聞こえる。それを減らそうかというようにパウロさんが彼女を抱き上げる。

 

「大丈夫だ」

 

 ここまで話してておそらく天国ではないと思いつつあった。死んだという実感がなさすぎるのだ。となると、どこかに飛ばされたか。いくら魔法があるとはいえ、そんなことは可能なのか。

 

「ねぇ、お父さん」

 

「大丈夫だ、ノルン。すぐに家に戻ろう」

 

 右手でノルンちゃんを抱いて、もう片方の手で俺の左手を握る。俺もそれに応えるようにギュッと握り返した。

 

 こうして歩いていながらパウロさんが俺に聞く。

 

「レード。お前はお金は持ってるか?」

 

「お小遣い程度なら」

 

 俺が持ってるのは巾着に入った僅かな金と普段から使っている短めの剣のみだ。土魔法を使えば自分で剣を生み出すこともできるが、俺の魔力では鋼を使った刃物には劣るためあまり使わない。

 

「今からギルドに行くんだが、こういうときに備えていくらかお金は持ってる方がいい」

 

「行き先、分かるんですか?」

 

「ああ。昔行ったことのある場所だからな」

 

「ギルドに行ってどうするんです? 情報収集ですか?」

 

「それをしてもいいんだが、先に依頼を受けて馬を借りる」

 

「依頼を?」

 

「ああ。けど、こなすつもりはない。その馬でフィットア領に行くつもりだ」

 

 なるほど。そういう目標か。そう決めてからのパウロさんの動きは早かった。すぐさまギルドに赴き、無償で馬を借りる。俺とノルンちゃんを乗せてフィットア領を目指すことになった。

 

「あんまり不安そうな顔するなよ。数日あれば帰れるさ」

 

 パウロさんはそう言ってくれるが、俺の嫌な予感は消えない。俺たちはまだいい。転移した先が安全な場所だったから。ただ、魔大陸や迷宮に転移してしまった人間もいるに違いない。それが自分の家族やグレイラット家だったら…。そう考えると、胸が苦しくなる。

 

「すみません」

 

「気にするな。俺だって何が起きたかいまだに分かってないからな。けど、あんまりノルンを不安にはさせるな」

 

 確かに。だが、自分には何ができるだろうか。そう思いながら俺たちは馬に揺られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動して数日経ったときだった。ノルンちゃんが体調を崩しているのに気がついた。

 

「パウロさん、一度休みましょう」

 

「早くゼニスたちのところに戻らなくては…」

 

 相当焦っている。こんな状況で冷静な判断が下せる方がおかしいのだ。

 

「お気持ちはわかりますが、ノルンちゃんが熱っぽいです」

 

「…治癒魔法でどうにかできないか?」

 

「ごめんなさい、俺の治癒魔法じゃ一瞬良くなったとしても、すぐぶり返すと思います」

 

 そうなるくらいならしばらく休んで、体調を回復させた方がいいだろう。俺やパウロさんだって疲れてないわけではないし。

 

 それを分かっていたのか、パウロさんは馬を宿屋の方に向けて動かした。ノルンちゃんは俺の腕の中でグッタリしている。慣れない乗馬での旅での疲労が積み重なったのだろう。

 

 宿屋に着いて、彼女をベッドに寝かせたのち近くの椅子に俺もパウロさんも座る。

 

「なあ、レード。落ち着いたところで、何があったか、互いに思うところを話すか」

 

「そうですね。とはいえ、確証はないですが」

 

 パウロさんが語ったのは迷宮内で発生している転移の罠というやつだ。仲間と離れ離れになり飢え死にしたり魔物に襲われたりするパーティーは少なくないらしい。

 

「それが、起こったっていうんですか」

 

 迷宮内で発生したならともかくグレイラット家のリビングになんでそんなものが仕込まれているのか。

 

「俺だって信じたくはないさ。そもそもあんな罠は誰かが仕込もうとしてもできるもんじゃないしな」

 

「…パウロさんを憎んでいる誰かが仕掛けた可能性は?」

 

 俺の質問にパウロさんは苦笑いする。

 

「多すぎて数えきれないくらいだよ。多少の労力があっても俺に復讐したいと思う人間はいるだろうな」

 

 そこまでのことをするとは何をしたんだ、俺の師匠は。

 

「なるほど。そうだとしても俺たちを巻き込むのは理解できませんね。それに転移させたとしてもこうして戻ってこられる辺り、何かメリットがあるようには思えない」

 

「俺、ではなくてゼニスたちに何かするつもりなのかもな」

 

 その方が精神的なダメージは大きいだろう。とはいえ、俺も不安で仕方ない。

 

「シルフィが心配か?」

 

「はい。彼女に何かあったら俺は…」

 

「大丈夫だ。家でレードの帰りを待ってるさ」

 

 家族に何かあったら大変なことになるのはお互いさまのようだ。

 

「…食えるものを探してくる。ノルンを見ていてくれ」

 

 しばらくの沈黙の後、パウロさんは部屋の外へ出て行った。

 

 俺はさっきグレイラット家がバラバラに転移した可能性を口にしなかった。ただでさえ悪い精神状態の自分たちをこれ以上追い込みたくはなかったからだ。

 

(現実逃避だけど、仕方ないよな。どのみちフィットア領に戻れば何が起きたのかはっきりするだろうし)

 

 俺が思考の海に沈んでいると、ノルンちゃんが小さく声を出す。

 

「おとうさんは…?」

 

「パウロさんはご飯を探してるよ。すぐ戻ってくると思うから大丈夫。体調はどう?」

 

「よくない、かも」

 

 そりゃそうだ。慣れないところに突然放り出され、家族と離れ離れになっているわけだ。3歳の子どもには重すぎる。俺だって中身が20歳じゃなきゃ耐えれてないだろう。

 

「そっか…。もうしばらく寝ててもいいよ?」

 

 俺がそう言うと、ノルンちゃんは俺に抱きついたまま眠りについた。その表情は先ほどベッドで寝ているときより微かに良くなってるような気がする。

 

(ルディには悪いけど、非常事態だ。しばらくはできてるかどうか分からないお兄ちゃんムーブさせてもらうぞ…)

 

 そんなことを思いながら、彼女の頭を撫で続けた。しかし、しばらくしてフィットア領でとんでもないことが起きていることを知ることになる。

 

 

 

 

 




ルディと会ったらどうなるんだろ、これ…
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