弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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お待たせしすぎました


第93話 未来へ

--- レード視点 ---

 

 自分の存在価値。薄暗い部屋の中でそれをひたすらに考え続けた。しかし、考えれば考えるほど見つからなくなっていき、それにより自分が無様に感じてきたのだ。剣も振れない自分は誰も守ることができない。俺の戦い方は魔剣流あってこそのものだ。それがない中途半端な魔法だと静香姉や家族を守ることはできない。

 

 大事な人を命を賭して守ること。それが存在価値だと位置付けたのはいつからだろうか。

 

(静香姉と出会ってから、なのかな…)

 

 それは間違いではないが、そのときからではなくもっと前からあったような気もする。転移事件があったときからか。いや、もっと前だ。

 

(静香姉を失ったあの雨の日か)

 

 彼女がこの世界に転移するきっかけになった日とも言える。俺が今味わってる無力感はそれとどこか似ているのだ。不幸中の幸いか静香姉はまだ生きている。しかし、彼女を自分のせいで失いかけたことに変わりはない。

 

 ドライン病が発覚してからの俺の選択に後悔はない。だが、そもそもこの状況にしたこと自体に大きな後悔があるのだ。それを伝えられることもできず、俺は引きこもるしかなかった。伝えたって誰も理解できるはずもない。

 

 しかし、あの日ドアはノックされた。

 

 それでも俺は最後まで迷っていた。彼女のあの一言が聞こえるまでは。

 

「レード兄、もしかして剣を振れなくなったんでしょう?」

 

 なんでそれを、という疑問と同時にどこか自分の中で諦めに似た感情が芽生えた。

 

(…これは言い逃れできそうもないな)

 

 ここで目を背けてはなんとかなることもならなくなる気がしたのだ。ノルンちゃんだけでなく他の人たちも心配している。そう考えると、このまま引きこもってていいのかと思わざるを得なかった。

 

 部屋が汚いことに若干申し訳なさを感じつつ彼女を中に入れる。座ってしばらくしたのち、彼女に聞く。

 

「どうしてわかったんだ?」

 

 ルディにも静香姉にも伝えてない情報だ。しかし、ノルンちゃんは俺の過去と性格から予想したらしい。

 

(そうか…。わかっちまったのか。付き合い長いもんな)

 

 だとしても、現実は変わらない。その感情を

俺は思わずぶつけてしまっていた。

 

「なんで、なんで1人で立ち上がらなくちゃダメなの」

 

 頼ってもらってないことに悔しさを滲ませながらノルンちゃんが答える。違うのだ。俺だって頼らなかったわけではない。頼ろうにもどう言葉にしていいかわからないのだ。そんなものを誰が信じられるというのか。

 

 その俺の叫びにノルンちゃんは真っ直ぐ俺の目を見つめて答える。

 

「そんなの1つに決まってるよ。…私が、レード兄を大好きだからに決まってるじゃない」

 

 ここまで真っ向から好きだからと言われるのは静香姉以外では初めてかもしれない。だからこそ、その言葉はただの好きとは違う重みのようなものを感じた。

 

 そうして俺は手を差し出した。ノルンちゃんは優しく握り返す。確かな彼女の成長が感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺は日数にしては短かったが、永遠のように感じられた引きこもりからの脱却を果たした。そう言うと、万事解決したかのように思えるが、剣を振れない現実は変わらない。

 

 その打開策を探るべく数日ぶりにグレイラット邸へ赴いた。

 

「…そうですか。そんなことがあったのですね」

 

 最初に相談したのは、ロキシーさんだ。しかし、居間で話しているうちに、俺の姿を見たシルフィ姉とパウロさんも加わっていた。

 

「えっと…。心配かけすぎてごめんなさい」

 

 俺には頭を下げることしかできない。しかし、シルフィ姉は優しく微笑む。

 

「ううん。レードが助けを求めるのって初めてでしょ? だから、なんとかしてあげたいって気持ちの方が強いかな」

 

「ああ。俺は父親代わりとして情けないばっかりで、何一つできちゃいないからな」

 

 パウロさんも頷く。2人にまで心配をかけたことに申し訳ないと思いつつ、今だけはその優しさに甘えさせてもらうことにしよう。

 

「…それでどうすればいいのでしょうか」

 

 ノルンちゃんを含めて4人とも口籠もる。自分でも原因がわかっていないのだから致し方ない。しばらくして、ロキシーさんが口を開く。

 

「…これは1つの提案なんですけど、魔法を使って戦ってみるというのはどうでしょうか」

 

 魔法は問題なく使える。視野があまりに狭くなっていたのだろう、そこまで考えが及ばなかった。

 

「ですが、俺はルディほど魔法の才能はないかと」

 

「ルディは特別です。そもそも無詠唱をあの速さで習得してシルフィとレードさんは才能の塊のようなものかと」

 

 世間一般ではそうかもしれない。無詠唱などこの街にも数えるほどしかいないだろう。

 

「俺もそう思う。ずっと剣を使ってきたんだ。たまには気分転換だと思って魔法に頼るのもいいだろうさ。剣の師匠としての言葉では失格だけどな」

 

 パウロさんもそう言うが、今の俺には魔法でどう戦うのか思いつかない。しかし、それも問題なく感じた。シルフィ姉の優しい視線と手を握り返してくれるノルンちゃんがいるからだ。

 

(それに、昔はともかく今は俺には魔剣流で戦ってきた経験がある。さらに、頼るべき人たちもいるんだ)

 

 それに勝るものはないだろう。そう考えると、今までよりも強くなれそうな気さえしてきた。

 

 と、ここでずっと気になっていたことを口にする。

 

「前から思ってたんだけど…。ルディはどうしたんだ?」

 

 普通なら俺が帰ってきたタイミングで彼女たちと同じように出迎えてくれるはずだ。

 

「ルディなんだけど…。最近書斎にずっと籠ってるんだよね。出てきたと思ったら、なんか難しい表情だし」

 

 ルディの様子がおかしいのは今に始まった話ではないが、難しい顔というのは珍しい。ましてや、それを家族にも話していないのだ。

 

(もしかして、ヒトガミ…?)

 

 ルディが突拍子もない言動をするときにはだいたいあの得体の知れない自称神が関わっている。何を言われたかまでは実際に聞いてみるまでわからないが。

 

「…レード。帰ってたのか」

 

 噂をすれば、ルディが青い顔をして立っていた。

 

「その顔は俺のせい…ってわけじゃなさそうだな」

 

 もちろん最後城で別れた時のことを考えると、多少気にしてるかもしれないが。

 

「言わなきゃいけないんだが、マジでどこから説明すればいいかわからなくてな…」

 

 少し前までまさにその状況だった俺には痛いほどその気持ちがわかる。ルディはしばらく何か考えている様子だったが、俺に近づいて言う。

 

「…いや、レード。この後、少し時間あるか?」

 

 彼の顔が青いことについてだろう。俺の方も事情を説明する必要がある。

 

「わかった。4人とも待っててくれ。ちょっとルディと話してくる」

 

 自分のためにわざわざ場を設けてくれたのに離席するのは申し訳ないが、それほどルディの顔色は悪い。なんなら、引き篭もってたときの俺に匹敵するくらいだ。

 

 彼の書斎に案内され腰掛ける。俺のことを話すべきかと思うが、それどころじゃないのがわかる。

 

「…どこから話すか、お前相手でも難しいな」

 

「俺の予想なんだが、ヒトガミ絡みか?」

 

 ルディは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに納得したようになる。

 

「そういや、前もレードは当ててたな…」

 

「今回ばっかりはさすがに何も想像できないけどな」

 

 相当なことがあったということだけはなんとなく予想できるが。と、ここで俺はルディが何か本のようなものを握りしめるかのように持っていることに気づいた。

 

「それが関係しているのか?」

 

 ボロボロになった見窄らしい本だ。だが、それにまるで大きな秘密があるかのように大事に抱えている。

 

「…あまりにも荒唐無稽な話で信じてもらえるかどうかわからないんだけど」

 

「ルディの様子が変なのはいつものことだけど、今のお前を信じなきゃ幼馴染失格だろうさ」

 

 そうして、俺は迷いながら差し出すルディからそのボロボロの本を受け取る。そこには世界と俺たちの運命を大きく変えるとんでもない未来が書かれているのだった。

 

 

 




ちょっと短めですが、年内に書き上げたので許してください
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