弟転生〜シスコンな彼も本気出す〜   作:黒い柱

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おまたせしました。100話が近づいてきましたね


第95話 考察と仮定

「まあ、ドヤ顔で何していたとか言ってみたけど、結局のところ何もしてなくて引きこもってたってのが現実なんだけどね」

 

 俺は軽く苦笑いしつつ静香姉に言う。

 

「…でも、なんというかあなたらしくないわね。私ならともかくあなたが引きこもるのは」

 

「それは今考えると俺もそう思う。でも、悔しいし認めたくないけど、俺の心は折れてたんだよね」

 

 客観的に見るとなんでそんなことで、と思われるかもしれない。事実、今の俺ですらそう思うし。だが、あの時の誰も助けられなかったという絶望感は間違いなくそこにあった。

 

「…私のせい? 私がレードを危険な場所に行かせたりしたから?」

 

「それは違うよ。俺が自ら選んだんだ。俺があの場にいなかったらルディやおばあちゃんたちがあそこまで傷つくことはなかったのかもしれない。でも、あのときの俺の選択自体に後悔はないよ」

 

 選択した後にもっと上手く立ち回れたのでは、という後悔ならいくらでもあるが。あとはそもそもこの選択をしなきゃいけない状況になったことそのものだ。

 

「…でも、それを引き戻してくれたのはノルンちゃんだった。あの子がいたから、俺はこうして静香姉とまた会えた」

 

 彼女が俺の家のドアを叩かなかったらどうなっていただろうか。こうして静香姉と会うことはなかったかもしれない。

 

「そう…。でも、あなたが傷ついたことには変わりないじゃない。それに私は何も返せてない」

 

「俺が静香姉に求めるものなんてないよ」

 

「あなたならそう言うでしょうね。でも、私は…。私はあなたに守ってもらってばっかりじゃない。今も昔も」

 

 静香姉は目尻に涙を浮かべつつ言う。

 

「そんなの気にしなくていいよ。俺は静香姉に恩返ししてるだけだからさ」

 

「恩返し?」

 

「ああ。静香姉は自分でもわかってないと思うよ。俺が向こうの世界、日本で静香姉の弟としてどれほど幸せに生きていたのか。そして、こうしてまた会えて最高だったか。その感謝をぶつけてるだけなんだよ」

 

 それでも彼女は俯いたままだ。俺はそんな静香姉に最後の一押しをする。

 

「それでも気にするんなら…。その日記を読んで、ルディを助けてくれ。それが直接じゃなくても俺を助けてくれることになるはずだ」

 

 静香姉との会話でオルステッドを倒す突破口を見つけられるかもしれない。彼女は小さく頷き、古びた日記の表紙を撫でた。

 

「この日記…。あなたは信じてるの?」

 

「ああ。ルディを信じてるから…というのももちろんあるけど、俺の考察と未来のルディのことを考えたら見逃せない点があまりにも多すぎてな」

 

 それを静香姉と話し合って、確かめたいのだ。

 

(…もしかしたら、俺がこの世界にいる本当の意味がわかるかもしれないし)

 

 静香姉は俺の手を握って答える。

 

「わかった。ちょっと待ってて。さすがにこの量を数分で読むのは難しいと思うから」

 

 そうして静香姉はページを捲り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…レード、読み終えたわよ」

 

 数時間ほどして、浅い眠りから静香姉の声により俺は起こされる。俺よりも早く読み終える辺り、読書が得意というのは今も昔も変わりないらしい。

 

「すまんな、寝ちゃってた」

 

「構わないわ。あなたも疲れてるでしょうし」

 

 まあ、正直ここ数日の情報の洪水で体はともかく頭は相当疲れているが。それでも、数時間静香姉のそばにいるだけでかなり楽になった気がする。

 

「そうか…。で、まず最初にこの日記を読んでどう思った?」

 

「…そうね。悲惨な話だと思ったけど、ルーデウスのやったこの過去転移っていうのが気になったわね」

 

 やっぱりそこか。俺も過去転移が最大のキーポイントになると思っている。

 

「俺の考察を話す前に質問なんだけど、静香姉はオルステッドのことをどこまで知ってるんだ?」

 

「彼がものすごく強くて七大列強の二位であること、そしてたぶん相当長生きだということ、あとヒトガミを心の底から憎んでること、くらいかしらね」

 

 静香姉が顎に手をあてて答える。俺はそれに頷き返す。

 

「俺が知ってる情報とそこまで差異はないな」

 

「仕方ないわよ。あの人もあまり自分のことを話そうとしないし」

 

 まあ、そもそも旅をしてる状況だと静香姉も聞く余裕もなかっただろう。この世界に降り立ったばかりだし。

 

「…オルステッドを倒す上で彼と以前戦った時のことを考えてみたんだ。そこで、なんか途轍もない違和感みたいなのを感じた」

 

「違和感?」

 

「ああ。オルステッドは初対面のルイジェルドさんやエリスのことを知ってただろ?」

 

「確かそうだったわね。でも、それのどこがおかしいの?」

 

「初対面なのに向こうは知ってるということ自体はおかしい話ではないんだ。他人から聞き得た可能性もあるし。で、オルステッドはルディのことも知っていた。それなのに、俺のことは知らなかった」

 

 俺が龍神の耳に届くほど有名ではなかっただけ。というのも可能性としてはあるが。

 

「俺とルディの最大の共通点はなんだ?」

 

「…一度死んで、この世界に来たこと」

 

「そうだ。オルステッドが知らない人間を転生した人物だと仮定すると、なんで俺のことは知らないのに、ルディのことは知っているのか気になったんだ」

 

 静香姉は眉を顰めて答える。

 

「ただの偶然じゃない?」

 

「それももちろんある。なら別の切り口で考えてみよう。静香姉がこの世界で最初に会った人がオルステッドだったんだよな?」

 

 静香姉は頷く。

 

「それも偶然にしては出来すぎてる気がするんだ。なんで都合良く困ってる静香姉の目の前に最強の男が現れて助けてくれるのかってね。しかも、そのときは言葉も通じないのに」

 

 もしオルステッドが静香姉の前に現れなかったらどうなっていただろうか。想像するのも苦痛な未来があったかもしれない。

 

「…私が転移事件のきっかけだと判断して、様子を確認すべきと思ったからじゃない?」

 

「だとしても、タイミングが良すぎる。まるで、こうなることをわかっていたかのようだ」

 

「…つまり何を言いたいの?」

 

 俺は軽く息を吸って答える。

 

「…オルステッドが俺の存在しない未来から来たかもしれないってことだよ」

 

 静香姉はしばらく黙ったのち答える。

 

「その存在しない未来に私とルーデウスがいるって言いたいの? でも、ありえないわ。そんなこと」

 

「ああ。俺もこの日記を見るまではそう思ってた。あまりにも荒唐無稽だし、なにより静香姉とルディが2人いることになってしまう」

 

 静香姉は頷く。

 

「でも、この日記を見て、そしてルディの話を聞いて思ったんだ。オルステッドは俺のいない未来を経験してきたんじゃないかって」

 

「ルーデウスが過去転移してきたようにオルステッドも過去に戻ってきたのだと?」

 

 ルディと同じメカニズムかどうかはわからない。ただそうだとすると俺たちを殺しかけた彼の強さにも説明がつくのだ。俺たちとは生きてきた年数が違うのだから。

 

「最初、オルステッドが襲ってきたとき、彼はルディがヒトガミの使徒かどうか聞いて襲ってきただろ? もしかして、彼の知る未来でヒトガミに味方したルディがオルステッドと敵対していたのかもしれない」

 

 だとすれば早いうちにその芽を摘もうというのは間違いではない。俺まで巻き込まれる形で殺されてしまったが。

 

「…この世界の軸はオルステッドとヒトガミの対立なんじゃないかって思うんだ。俺やルディ、静香姉はそれを変化させるイレギュラーに近いのかもしれない」

 

 なぜ彼がヒトガミを憎むのかはわからない。だが、何かしらの意味があってこそだ。

 

「…なるほどね。興味深い考えね。私の考えともまた違うけど」

 

「ルディが来てからでもかまわないよ」

 

 彼も眠りについてるだろう。かなり疲れていたようだし、まだ時間もかかりそうだ。

 

「細かいことはルーデウスが来てから話すとして、私から言うことは1つ。オルステッドを殺すというのは反対よ」

 

「それは彼に恩があるからか?」

 

「それもそうだけど…。危険すぎるわ」

 

 静香姉は俯く。ルディとオルステッドが戦って、ルディが死んでしまった場合、彼女が元の世界へ帰るのが困難になりかねないのだ。

 

「オルステッドと協力するのがいいって言うのか?」

 

「ええ。ヒトガミと会ったことはないけれど、少なくともオルステッドの方が信頼できると思う」

 

 俺もそう思う。だが、家族の命運がかかっているルディが納得するとも思えない。

 

「…本来ならヒトガミでもオルステッドでもなく、俺を信じろって言いたいんだけどな」

 

 今の俺の実力ではとてもそんな説得力がない。悔しさで下を向く俺に静香姉が頭を撫でてくれる。

 

「ルーデウスがどうかはともかく…。私はあなたを信じてるわ。オルステッド以上に」

 

「ありがとう。今の俺にはもったいないくらい嬉しい言葉だよ」

 

 そうしたところで部屋のドアがノックされる。ルディが戻ってきたのだろう。

 

「ルーデウスです」

 

「こんな夜更けに来たら、奥さんたちに誤解されるんじゃないの?」

 

「レードもいるみたいだし、大丈夫だろう?」

 

「それもそうね。入ってちょうだい」

 

 ルディの目から見ると、俺と静香姉が同衾しているかのように見えたかもしれない。俺はベッドに腰掛けた。

 

「あなたやレードの話を聞いて私の方もいくつか仮説のようなものが浮かんだわ」

 

「仮説?」

 

「ええ。私がどうしてこの世界に来てしまったのかを」

 

 そうして静香姉は語り始めるのだった。

 

 




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