Ex.episode 朔月ミハネお誕生日話
司法院での仕事をこなして、気がつけば日付が変わる直前になっていた。
5月7日、それはミハネの誕生日でもある。
たまたま土曜日でもあってサリナやリンネの気遣いもあって明日は休んでほしいと言われているため、明日は1日フリーなのだが……
「……それにしても書類が終わらない。私の決裁も必要なものが多いのは仕方ないにしてもなんで今日に限ってこんなに多いんだ」
時刻は23:56分、最早この時間まで仕事していることになんの違和感も抵抗もないのが司法院のこの役割に染まり切ってしまったと言うべきか。
元より書類仕事は嫌いではないし活字を読むことはむしろ好きだ。
1人の空間で文字を読んでいる時はたとえ仕事であろうとも落ち着くとさえ言える。
だが、まあ……廊下から聞こえてくる足音がどんどん大きくなってきて扉の前に止まったのを感じて一体誰なのかなんて予想はついているが……気がつかないふりをしていたほうがいいのだろうか。
どうせ0時になった途端扉を開けてくるに違いないと思いつつ残りの1分少しを扉に視線を向けたまま待機してみる。
カチッと室内の時計が0時を指し示す。
それと同時にカチャッと扉が開いてやっぱりというべきか見慣れた幼馴染の姿が現れる。
「お邪魔しまーす!って、あれ?ミハネちゃんずっとこっち見てたの!?」
「そうだよ、扉の前で足音が止まったからね。どうせなら見つめて待ってようかなって」
「そっかぁ……でもいいんだー!ミハネちゃんお誕生日おめでと!」
「うん、ありがとうミカ。取り敢えずいつも通りに座っててよ。夜遅いからハーブティーと軽くつまめるクッキーでも持ってくるよ」
「えっ!?あっ……待って待って!ミハネちゃんへのプレゼント以外にクッキーも買ってきたの!」
パタパタと急いで個包装されたクッキーを取り出して机の上に並べる。見たところジャムが軽くのったクッキーのようだった。
そして包装から買ってきた店は『
「……あそこのクッキーなら、予定は変更だね。ミルクティー淹れてくるよ」
「うん!私はこのまま準備しておくね!」
ミカがクッキーをお皿に並べている間にミハネも給湯室でミルクティーを用意する。
何度も作り慣れた工程だから無駄なく適温を保ちながら軽く蒸らす。
この間にティーポットを温めておいてティーストレーナーをセットしておく。
「こんな時間にミカと一緒にいるなんて久しぶりかも」
心は若干あがり気味。
いつもよりも少し気分がいいこの状況で軽くステップを踏んでみたりして。
「あっ、もういいかな。それじゃあこれをストレーナーを経由してポットに汲んで……」
全てポットに入れ終わったらティーカップとポットをお盆に乗せてミカの元へと戻る。
机の上には綺麗に並べられたクッキーとその机の前にちょこんと待っているミカがいた。
「お待たせ、ロイヤルミルクティーになったけどいいよね?」
「うん、全然おっけー☆」
「はい、これミカの分ね」
カップにミルクティーを注ぎ、ソーサーの上に乗せたままミカの前に出す。
自分の分も注いで自分の席の側に置けば深夜のティータイムの準備は完璧だ。
「なんか、久しぶりだよね。こうして2人でこんな時間にいるのって」
「そうだね、少なくとも司法院になってからはなかったかな」
「昔はミハネちゃんの書斎に入り浸ってたんだけどなぁ」
「だからミカのために椅子だって買ったでしょう?」
実家にある自分の書斎。
幼い頃に本が好きだからと父親に用意してもらって、そこからは蔵書が増えていくにつれて自分で資金を出して増築していった最早小さな図書館とでも言えるほどまでの大きさに変わってしまった書斎だが、そこにはミカも入り浸っていたこともあって彼女用の椅子やブランケットをはじめとした小物もかなり揃っている。
「そういえば明日はミカの誕生日でしょう?何か食べたいものは?」
「あー、それならミハネちゃんのビーフシチューか食べたいかも」
「わかった、それなら用意して待っているね」
「あと、お願いなんだけど……ミハネちゃんの書斎で食べたいなって」
「……書斎って、実家の?いいけど夕方以降になるよ?」
「うん、それでも全然大丈夫。どうせ日中は学校でのパーティーに出ないとだし」
憂鬱げにそう告げるミカに思わず苦笑する。
ミハネたちのような立場もあって家柄もいいご令嬢は学園から誕生パーティーの打診がくる。
今年はミハネは断ることでことなきを得たが、生徒会ともなればそれを断ることなどほぼ不可能だろう。
何しろ前例がないのもあるし、百合園さんや桐藤さんだってそう言う場には必ず出席していたし、サクラコやミネといった立場のある彼女たちも必ずその打診は受けていたのだから。
「ミハネちゃんは断ったんでしょー?すごいよね、それを受理しちゃう学園も学園だけどさ?」
「もとより去年の段階である程度権力のある親を持つ娘たちに顔合わせはしたし、今年はそういう子が多いわけではないから。それに普段のことを考えるとパーティーどころじゃないよ」
「ん〜、そっかぁ。じゃあ今年はミハネちゃんのドレス姿はお預けかあ」
「次に着るのは年末かな。そもそもあんまり着たいわけじゃないからいいけど」
「私は見たいの!」
「じゃあ年末まで我慢してね」
クッキーを一つ口に入れて一息つく。
甘さが控えめなクッキーの上に乗った苺のジャムの風味が合わさってついさっきまで使っていた頭に程よい糖分が得られているような感覚すら感じる。
ミルクティー続けてミルクティーを飲み、ミルクの優しい甘さと茶葉の風味を楽しみながら視線をミカの隣にある包みへと向けた。
「今年は……大きいね」
「あっ、そうなの!今までミハネちゃんにはたくさんプレゼントあげてきたけどそろそろプライベート用のカバンが買い替えどきかなって」
ミカがその大きな包みを机の上に乗せてミハネの方へと寄せてくる。
手に取ってみればそこそこの重量がありいくらカバンとはいえよく此処まで持ってきたなと感心する。
「開けても……?」
「うん!気に入ってくれると嬉しいんだけど……」
綺麗に梱包された包みをひらけば出てきたのは二つのブランドバッグの箱が現れる。
一つは大きめのものでそれこそ外へ出かける時のもの、そしてもう一つはパーティーバッグで有名なブランドのものだった。
「……だからパーティーのことで不貞腐れていたのか」
「うっ……ミハネちゃんのお誕生日パーティーもあると思ってたから、無いって聞いたの昨日だし……買って用意してたの先週だったし……それにお揃いのやつ買ったから一緒に持って行きたくて……」
「なるほど、どうりで少し棘のある言い方だと思った」
箱を開けて中身を見れば司法院に入ってからは暗めのドレスを着ていたこともあってパーティーバッグ自体も暗めのブルーだ。
所々に瞳の色のスカイブルーが見えていたり、いつもミカから貰うプレゼントにはついている羽をあしらったアクセサリがついていたりと彼女らしいプレゼントだった。
こっちが暗めの色なら、バッグの色は白だろうか。
もう一つの大きな箱を開けると案の定入っていたのは少し大きめのトートバッグだった。
素材はレザー製で高級感のあるその見た目から人気が高いものだったはずだと記憶していた。
そしてこちらにも例に漏れず羽をあしらったアクセサリが付いていて思わず頬が緩む。
「ありがとうミカ、大切に使わせてもらうね」
「えへへ、どういたしまして!今度それ持ったファッションでお出かけ行こうね!」
「もちろん、必ず時間を作るよ」
開封した箱をそっと戻して自分の隣へと置く。
時計を見れば時刻はもう1時を回っていた。
「……この後はどうするの?自室に戻るつもり?」
「うーん、一応ね。ちょっと夜更かししちゃってるから寝る前にもう一回シャワー浴びて肌のお手入れしてから寝る感じかなー」
「私もこれから自分の寮へ戻るからどうせなら泊まってきなさい。パテルの寮は私の寮よりも遠いでしょう」
「えっ!いいの!?やった!!」
パタパタと無意識に動いているミカの翼を見て素直に嬉しいんだなと認識して微笑んだ。
仕事はどのみち陽が登ったらまたやらなければいけないんだし、今日はもう帰っても問題ないだろう。
ミルクティーを飲み切って決裁を終えた書類を纏めてサリナの机の上に置いておく。
クッキーの乗ったお皿に乾燥しないように処置を施して2人分のティーカップを給湯室に置いておく。
「私のパジャマってミハネちゃんの部屋にあったよね?」
「そうだね、5着くらいはあったはずだよ」
「久しぶりに一緒にお風呂入る?」
「いいね、帰ったらお湯貯めて2人で入ろっか」
ミカからもらった箱を手に2人で司法院長室を出る。
そういえば今日は休日でもあったな、なんて思い出して書類仕事をするのは週明けになることもなんとなく思い出した。
それでも今ある書類は終わらせておきたいし、昼からやれば夕方には余裕で間に合うだろう。
深夜にミカと談笑しながら歩くなんて久しぶりだなと気持ちをほんの少しだけ昂らせながら2人でミハネの寮へと戻っていくのだった。
まだまだ、夜は長い。
しかし、久しぶりに幼馴染同士で時間を忘れて楽しい夜を過ごしたのだった。
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「ミハネちゃん、この評価ってしたほうがいいの?」
「すると作者さんが喜ぶんだって、オットセイの真似とかするらしいよ」
「……えぇ?誰も見てないのに?」
「誰も見てないのに」