ひとまず今回は序章です。
序章
私はアリウスで生まれた子供ではなかった。
普通にトリニティの居住区で産まれ、私が産まれた時には両親の関係が良かったこともあって幼馴染と呼べる子が二人いた。
私たちはいつも一緒だった、遊ぶ時もお菓子を食べる時も悪さをして怒られる時もずっと一緒だった。
将来の夢はティーパーティーのトップになること。
パテル、サンクトゥス、フィリウス。
各派閥のトップになれば幼馴染3人で学園の運営を出来る。
何度も何度も口を揃えて語った夢だった。
聖園ミカ、朔月ミハネは私にとっては何よりも大切な名前だった。
3人で買ったお揃いの星型のアクセサリーは今でも大切に持っている。
それが、私にとっては唯一残った二人との絆の証だったから。
5歳の時、私はアリウス自治区の大人に攫われた。
そこから始まったのは過酷な訓練、人を殺す為の技術を教え込まれた。
トリニティは憎むべき敵、ゲヘナは消し去るべき悪。
アリウスの教育方針はそういうものだった。
私が思っていた普通は捨て去らなければ生きていけなかった。
寒い冬空の下で凍えながら過ごすことも少なくなった。
いつか、ミカとミハネが助けに来てくれるとずっと信じていた。
きっと、自分が居なくともあの頃の夢を果たして……いつかこの地獄から救い出してくれると……ずっと思っていた。
「私は聖園ミカ!初めましてだよね?」
「……錠前サオリだ」
だが、あの頃の夢を果たしたミカは私のことを忘れていた。
あの頃と違って帽子を被り、顔の半分を隠すマスクをしていたとしても……私の名前を覚えていてはくれなかったのだ。
彼女はアリウスと手を取り合いたいと言った。
かつて行われたアリウスの追放、数百年という時を経て自分達が憎しみ合う必要はないと。
陽の当たる世界で他のキヴォトスの生徒たちと同じように学べる環境が出来ればいいと。
夢物語だと思った。
けれども、それは紛れもなく幼い頃に叶えたかった夢だった。
だからこそ、私はミカのその夢を叶えたくて……私とは違って穢れのないその手を取ったのだ。
その後も幾度かミカと交流する機会があった。
アリウスとしてはトリニティとのパイプが欲しかった。
それもアリウスの主であるマダムが目的の為にティーパーティーの一員であるミカとの接触を許したからだ。
出来るだけ会話を重ね、彼女の口から様々な情報を聞き出すこと。
スクワッドのリーダーとしてその任務を必ず果たすように言いつけられ、与えられた役割だとしても逢えないかもしれないと思っていた幼馴染と話せることは私にとっては紛れもない大切な時間だった。
ただ、その中で得たトリニティの情報は必ず報告しなければならない。
現在のトリニティの勢力図、ティーパーティーのメンバーにその能力。
その中でトリニティの最強戦力とも呼ばれる人間が数人いることも。
ティーパーティーから聖園ミカ。
救護騎士団から蒼森ミネ。
正義実現委員会から剣先ツルギ。
そして、司法院から朔月ミハネ。
他の生徒たちとは比べ物にならない神秘と戦闘技能。
マダムの計画に不必要になるであろう不穏分子の情報は徹底的に聞き出すように言われ、それを実行してきた。
そして、時間は流れアリウスからトリニティへのスパイとして私の部下……いや、家族の一人がトリニティへと赴くことになった。
白洲アズサ、もっともトリニティらしいその見た目とこのアリウスで育ったとは思えないほどの信念を持つ生徒だった。
「……それじゃあ、アズサを頼む」
「まっかせて☆うんとトリニティの生徒らしく着飾っちゃうんだから!」
「えっと、サオリ……本当に私がいくのか?」
ミカと私を交互に見比べて困惑したような顔を見せる。
「ああ、この任務はお前にしか出来ない。失敗は許されないからちゃんと与えられた役割を果たせ」
アリウスの中では誰が話を聞いているかわからない。
何処にマダムの耳が目があるかわからないから、別れを惜しむようにアズサを抱擁する。
「……サオリ?」
「いいか、アリウスからの指示は私を通して伝えることになるはずだ。だが……アズサ、お前はお前の信念に従って動け。私に敵対することになってもいい、アリウスとトリニティどちらにつくのもお前の自由だ。何か困ったことがあったら司法院の朔月ミハネを頼れ、私の名前を出せば間違いなく力になってくれるはずだ」
ミカは覚えていなかった。
だけど、ミカと話す中でミハネは私を探していることを知った。
私を探しているなら、私が育てたアズサの頼みを無碍にすることはないと確信できる。
耳元で囁いた言葉にアズサはしっかりと頷き、軽く手を振ってミカと共にアリウスから離れていった。
アリウスにとってはトリニティへのスパイ。
だが、私とミカにとっては和平への架け橋。
大人たちへと黙って推し進めていたたった2人だけの秘密は……何処から漏れたのか大人たちへと伝わってしまった。
「……許してください……申し訳ございません……。二度と……二度とこのような事は……。二度と、大人の言葉を破りません……反抗しません……将来に希望を抱かないように努めます……。二度と幸福を望みません……祈りません……。だから、どうか……。どうか、ご慈悲を……」
こんな地獄で、ただ一つの祈りさえ手折られて。
“
今ここにある家族を守ることだけが、大人の言うことを黙々と聞くことだけが自分に許された現実だった。
与えられた憎しみは誰のものなんだ?
この耐え難い苦しみはどうして私たちを蝕むんだ?
こんな世界にどうして生まれてしまったんだ?
全ては虚しい。何処まで行こうとも、全ては虚しいものなのだ。
地獄から掬い上げてくれる神などいない。
ならば、そんな虚しいだけの世界なら。
私たちが生まれてきた意味はいったい何処にあるんだ?
なあ……答えてくれ、教えてくれ。
拙作のサオリは幼少期にミカとミハネがいたことで原作よりもメンタルが安定していました。
それもアリウスの大人にこれ以上ないくらいに折られてアリウスのエージェントに叩き直されましたけどね。
感想と評価是非ともお待ちしてます。