ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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今回はほぼ原作沿いです。
唯一、先生が喋っているっていうくらいですかね。


第一節 ティーパーティー

 

───トリニティ総合学園ティーパーティー専用テラス

そこにはいつものようにミカとナギサが座っておりお茶菓子と紅茶を楽しみながら会話に花を咲かせている……訳ではなかった。

いつもの二人、そして純白の制服に所々に青い意匠が施されたそのコートには連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの所属を意味する腕章が安全ピンで止められている。

 

つまり、シャーレの先生がトリニティに招かれたのだ。

 

カチャリと静寂が支配する室内にティーカップを置く音が鳴る。

なんとも言えぬ緊張感が室内に満ち、招かれた先生は雅さすら感じるナギサの所作に感嘆の感情すら感じていた。

 

「───こんにちは、先生。こうしてお会いするのは初めて、ですね」

 

「そうだね。こちらこそ初めまして、というべきかな?」

 

ティーパーティーの現ホスト、桐藤ナギサ。

そして数ヶ月前にキヴォトスにやってきた先生。

対面に座した二人が良く見える位置にミカは位置取っていた。

先生を招待するならといつもよりも気合を入れてセッティングしたテラスに少し大きめのラウンドテーブルの上には様々な菓子にティーポット。

香りこそ控えめだが一眼見ただけでよく手入れされ愛情を注がれて育ったとわかるほど美しい生花。

理由はなんであれ、学外から客人を迎えるという点でトリニティで最高峰の待遇と言ってもいいこのテラスでの会談。

 

「ひとまず紅茶をどうぞ。客人をもてなすのもホストとしての勤めですので」

 

「そっか、それじゃあいただこうかな」

 

「ええ、是非とも遠慮なさらず」

 

そうしてナギサに差し出された紅茶を洗礼された所作で口にした先生にミカは思わず目を見開いた。

その所作は何処から見ても自分の幼馴染に似た所作であり、幼い頃からずっと近くで見てきたミカはその姿があまりにも重なったのだ。

 

「───では……改めまして、ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します」

 

ナギサが自己紹介を始めたのを横目にミカも紅茶を口にする。

今日もいい出来だ、流石はナギちゃんだなと紅茶の余韻を楽しむ。

ミカと先生の表情から紅茶の出来は良かったのだとほぼ確信したナギサはそのままミカへ向けて軽く手を向け

 

「そしてこちらは聖園ミカさん。私と同じティーパーティーの一員です」

 

ようやく自分の出番が来たかなとミカは軽く先生へと手を振る。

 

「やっほ、先生」

 

あくまで無邪気な少女を繕って、ナギサとミハネに褒められた屈託のない笑顔を浮かべて、第一印象は良い方が絶対にいいだろう。

 

「現在は私達二名がトリニティ生徒会、ティーパーティーで……ミカさん?」

 

「へー、これが噂の先生かぁ。あんまり私達と変わらない感じなんだね?すんすん」

 

それはそれとして、ミカはミハネと同じ紅茶の飲み方をする先生に興味津々だった。

何処となくミハネに似ている雰囲気に匂いを嗅いでみれば嗅ぎ慣れた香水の香りすら漂っている。

 

「へー、ふーん?先生、ここに来る前にミハネちゃんのところに行ったでしょ」

 

「ミカさん……初対面でそういった行動はあまり礼儀がなっていませんよ、愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね」

 

「あー、まあ。それはそうかもね」

 

「まあ、ミカの言ったことも正しいからね。取り敢えずは大丈夫だよ」

 

確かに初対面の人間にすることではなかったなと軽く反省して、ミカは改めて自分の手を先生に差し出した。

 

「ひとまず紅茶の飲み方を教えてもらえるくらいにはミハネちゃんにも気に入られてるみたいだし、これからよろしくってことで!」

 

「うん、こちらこそよろしく」

 

差し出したミカの手を先生は迷うことなく握り返した。

握り返された手に『結構大きさって違うんだ』なんて呑気なことを考えながら先生の顔を見れば表裏のない笑顔を返されてミカは得意の無邪気な笑顔で返した。

 

「…………」

 

「ま、まあ。私がやり始めたことだけど席に戻ろ?ナギちゃんの視線ちょっと怖いしね」

 

危ない、とナギサは思った。

あまりにも自然に、その場の空気を持っていきそうな存在感。

なるほど、これが連邦生徒会長が招いた外部からの大人。

会談の場をこのテラスにして正解だったとナギサは確信した。

先生から私たちを飲み込もうとする気概は一切感じられない。

むしろ、こちらの要望を聴きしっかりと吟味した上で彼のポリシーに触れない限りは協力してくれるだろうという確信すらある。

ひとまずは話を進めよう、ナギサは心を落ち着かせる為に紅茶で喉を潤した。

 

「トリニティ外部の方がティーパーティーに招待されるのは私の知る限りでは先生が初めての方です。トリニティの生徒でもここに招待されるのはなかなか無いことで……」

 

「そうなんだ?なら、光栄なことなんだね?」

 

「ちょっとナギちゃんその言い方いやらしくない?私たちが招待しておいて恩着せがましい感じー」

 

「え……あっ、いやそのような意図はなくて……すみません先生、どうやら私も緊張しているようです」

 

「いや、実際ミハネにも言われてきたからね。最低限の所作は身につけるようにって小一時間マナー講座を受けてきたばかりだから」

 

ここに来る直前まで生徒と先生の立場が逆転していたあのマナー講座を思い出して先生は苦笑する。

確かに、招待したとはいえ超法的機関の大人が来るといえば身構えもするし緊張もするだろうと先生は理解していた。

だが、必要以上に警戒されるのは先生の本意ではない。

それはナギサもわかっているのか何処か先ほどよりも柔らかい空気感を感じられる。

 

「では改めて───先生をこうしてトリニティにお呼びしたのは少々、お願いしたいことがありまして」

 

「お願いごと?わざわざティーパーティーのホストであるナギサから?」

 

「ええ、とても大切なことで」

 

また暗い影を落として真剣な声音で話し始めるナギサと何処か煽るように返答をする先生を見かねて冗談めかすようにミカは口を出した。

 

「おぉ~……ナギちゃん、いきなりだね!?もうちょっとこう、アイスブレイクとか要らないの?小粋な雑談とかは?天気が良いですねとか、昨日は何を食べたのですか、とか、そういうのは挟まないの? ほら、ティーパーティーって基本的には社交界なんだし?」

 

「───ミカさん……?」

 

空気を読めという視線を感じながらそれでもミカは口を止めない。

 

「そんな綺麗な目で睨んでも、これはティーパーティーとしての在り方の問題なんだからダメー!こういうのは、きちんとしないとっ!ミハネちゃんだってナギちゃんのこと苦手なのにそのあたりしっかりしてるじゃん!」

 

「なぁっ!?ミハネさんとの仲はそこまで悪くありません!この間だって私の作ったフルーツをふんだんに使ったロールケーキが美味しかったと褒めてくださったばかりで……それにミカさん、そういった事はあなたがホストになった際に追求して下さい、今は一応私がホストですので、私の方法に従って下さいな」

 

「ぶーぶー」

 

「そのヤジはおやめなさい」

 

やいやいと言い争いを始めるナギサとミカ。

その光景を見て先生は微笑ましいものを見るように見つめている。

 

「まあ、お客様の前でこのような論争をするのはあまり好ましいものではありませんね。それならミカさんのいう通り少しだけ話の方向性を変えましょうか」

 

「えっと、それならトリニティの生徒会長がティーパーティーのトップ……つまりミカとナギサであることは間違い無いんだよね?」

 

「おぉ、先生の方から空気を読んでくれた!ほら、ナギちゃん見た!?これが大人の話術だよ!すごく自然な会話への誘導!」

 

「……はい、仰る通り、私達がトリニティ総合学園の生徒会長“達”です」

 

隣から飛んでくるヤジにはもはや何もいうまいとナギサは諦めてため息をつきながら先生の問いへの回答をする。

 

「生徒会長“達”というのもすこし違和感がありますよね。まず簡単に解説をすればトリニティは代々、複数人で学内の政治を回す役割を担っているんです」

 

「あれ?ナギちゃん無視?幼馴染の私のこと無視してるの?」

 

あくまでミカのヤジも取り敢えずは無視を決め込むことにした。

 

「かつてトリニティ総合学園が生まれる以前、今はだいぶ少なくなってしまいましたが当時はたくさんあった分校……今風に言えば派閥同士の紛争が絶えないことから生まれたのが私たちティーパーティーと先生もご存じの朔月ミハネさんが院長を務める司法院です」

 

「……えっ、本当に無視されてる?流石にちょっと傷ついたかも」

 

あくまで外部の人間である先生がわかりやすいようにナギサはゆっくりとその歴史を語って聞かせる。

 

「パテル、フィリウス、サンクトゥス……それら三つの学園の代表を筆頭にして生まれたのがティーパーティー。そこから和解への道を模索し、生まれたのがこのトリニティ総合学園になります」

 

「うわぁ……これ本気で無視してるよ。嫌がらせだぁ……流石に酷くない?これでももう十年来の幼馴染なんだよ?こんなこと今までに……まあ、そこそこあった気がするけど」

 

ナギサから聞こえてくるトリニティの歴史。

そしてそれに被せるようにミカが次々言葉を被せて行く。

徐々にナギサの額に青筋が浮かんできているようにも感じるが、ミカはナギサの邪魔をすることをやめようとはしない。

いや、そもそもやめるつもりが全くない。

 

「その後からトリニティの生徒会はティーパーティーという名で呼ばれるようになり、三大派閥から選ばれた代表を生徒会長とし、さらにその中から順にその時期の決定権を持つ『ホスト』としての役割を……」

 

遂に泣き真似まで始めたミカは悉くナギサの言葉を遮って───

 

「ああもう五月蝿いですね!!!!」

 

「ひえっ」

 

バンッとこのテラスに相応しくない大きな音が響く。

振動で微かに卓上のティーカップが跳ね、ソーサーとぶつかってカチャンと一際高い音を立てる。

また卓上に並べられていた数々の菓子が数瞬だけ宙に舞い、元の形よりもほんの少し乱雑に皿に着地した。

 

「今、私が説明しているんですよ!?それなのにさっきからずっと!横でぶつぶつと……!どうしても黙れないのなら!」

 

ナギサは自身が気合を入れて巻いてきたフルーツをふんだんに使ったロールケーキの乗った皿を手に取って勢いよく立ち上がる。

 

「その可愛らしくて小さな口に……ロールケーキをぶち込みますよ!?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

遂にキレたナギサと怒らせた本人であるミカ。

そしてナギサの手に乗ったロールケーキを見て『おいしそうだなぁ』と呑気なことを考えている先生。

 

 

真面目に取り繕うとしていたお茶会はナギサにとっては最悪の始まり方をしてしまったのだった。




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