原作が絡んでくるとやはり少し文章は長めになりそうですね。
感想、読ませていただいて更新日に必ず返信させていただきます。
感想と高評価がかなり励みになるので是非ともよろしくお願いします。
痛いほどの沈黙を経て、ひとまず冷静を取り戻したナギサと流石にやりすぎたかと若干の反省を見せたミカ。
ミカの口に捩じ込もうと手に持ったロールケーキを切り分けて配膳されたフルーツたっぷりのそれを美味しそうに頬張る先生となかなかに混沌とした空気感が漂うなかナギサが仕切り直すように小さく咳ばらいをする。
「……ひとまず、お見苦しいところをお見せしてしまいましたが本題に入らせてもらおうと思います。とはいえ、そこまで難しいことではありません、先生にはとある部活の顧問になってもらいたいのです」
「補習授業部って言ってね、ちょっと成績に問題のある子達を集めた部活が少し前に新設されることが決まったんだー」
「補習授業部、ね」
単語の並び的にもあまりいい印象は浮かばなかった。
成績不振者とはいえ、わざわざ部活にして括る必要があるのかと若干訝しんだが、先生個人として学校の運営方針自体に口出しをするつもりは始めからない。
生徒が決めたこと、やりたいこと、それを最大限手助けをしつつ、誤った道に進みそうになった場合にその道を正すために口を出しその道を正しい道へと戻す。
その手段がたとえその生徒と敵対することになろうとも誤った道には進ませないというのが先生の“教育方針”だった。
「ええ、名前からある程度想像できるかと思いますが、落第の危機に迫っている我が校の生徒を救っていただきたいのです。そうですね……外部の学校のように言うのならば『担任の先生』と言ったところでしょうか」
「でもこれって先生にとっては簡単なことかもしれないけど私たちにとっては結構大事なことなんだー」
先程までの無邪気、と表すにはすこし行き過ぎていたような態度からは考えられないほど落ち着いた態度のミカに少し驚きながら先生は頷いた。
「トリニティ総合学園は、昔からキヴォトス内の数ある学校の中でも文武両道を掲げる歴史と伝統が息づく学園です。だと言うのにあろうことかこの時期に成績が振るわない生徒がなんと“4人”もいらっしゃいまして」
「私たちとしても結構困ったタイミングで……っていうかエデン条約が迫ってるから学内も結構バタバタしててね?あの子達の件もなんとかしなきゃいけないんだけど、人手も時間も全然足りなくて……」
まるで身内の恥を語るように苦笑いでそう口にしていたミカだが、先ほどのナギサのようにガタッと急に立ち上がり先生の方へとその金色の瞳を向ける。
「そこで見つけたの!新聞に載ってたシャーレの活躍ぶりを!ネコ探し、街の掃除、不良の制圧から宅配便の配達まで!まるで八面六臂の大活躍!このシャーレにならこの面倒ごとも預けられそうだなって!」
「なるほど……?」
「……面倒ごとなんて言ってはいけませんよ、ミカさん」
「ま、まあでも、ある意味本当のことでもあるし……」
だが、実際先日のアビドスでの一件以来やっていることは先程ミカが言った通りほぼ便利屋のようなものだった。
「……それに、“先生”なんでしょ?今はみんなBDで学習する時代だし、学校の職員とか、教授ならまだしも“先生”って概念自体がすごく珍しいんだよね」
まるで歌うように、しかし、先生の瞳の奥をまっすぐに見つめるように真正面からミカは先生にとって最も大切な言葉を口にした。
「先の道を生きると書いて“先生”……つまり、『導いてくれる役割』ってことだよね?尊敬の対象、あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く。補習授業部の顧問として、これほどピッタリな人選ってなくない?」
「そうだね、君の言う通りだ」
「……噂では、「尊敬」という言葉が合うかどうかは、意見が割れているそうですが……」
「あー、そうだったね。報告書によって全然違うっていうか……まあ、これは先生の名誉のために何も言わないでおくね?」
思わず先生の目線が泳いだ。
大方、先日のアビドスの一件で起きたイオリの足を舐めたことについてだろう。
どうにも思い当たる節が若干多くて困りものだが、ここであまり動揺してもいい印象は与えられないだろう。
「私のところにもその類のゴシップは耳に入ってくるよ。やれ生徒の足を舐めただの、領収書の整理を他校の生徒に任せてるだの、散財して生徒に怒られてるだの」
「え、ええ。」
全て図星である。
なんなら全て真実であると言っても過言ではない、というよりも純度100%のまごう事なき真実ど真ん中である。
「でも、私とこの十数分過ごして、そのようなことをする人間に見えるかい?私のモットーはね、『自分で見聞きしたことを何よりも大切にする』ことなんだよ。何処から沸いたかわからないような噂話だけで人を評価するのは“先生”として失格だからね」
「それもそうですよね。なにより、“先生”としての在り方を語られては私たちもただの噂話で先生を評価するわけにもいきません」
「わかってくれてよかった。それに、ナギサやミカだって生徒会長として……そんな噂話通りの人間に大切な生徒を預けられないだろう?」
「ええ、本当に。後は貴方がミカさんの言った通り尊敬に値するような方であることを願うばかりですが」
なんとか切り抜けた。
内心でほっとため息をつき、脱線した話を戻そうと口を開きかけた時、先生と同じように思っていたのか先に口を開いたのはミカだった。
「とっ、とにかく!今はちょっと忙しいこともあって、ぜひ先生にこの子達を引き受けて欲しいの!」
「もう少々説明いたしますと……この補習授業部は常設されているものではなく、特殊な事態に応じて設立し、救済が必要な生徒達を加入させるものです。少々特殊な形ではありますが、急ぎということもあり、シャーレの超法規的な権限をお借りしつつ、と言った形でですね」
なるほどな、と先生は納得した。
つまりは『強制的な生徒の編入』が可能なのはこのキヴォトスに置いて連邦捜査部S.C.H.A.L.Eにおいて他にない。
成績の振るわない生徒を補習させるための組織に編入させるために自身が招かれたのだとここでようやく理解した。
「色々とややこしいですが、本質はあくまで『成績の振るわない生徒を救済すること』にあります。だからこそ、こう言った特殊な形での創設が許されたわけですが……如何でしょう、先生?助けが必要な生徒達に、手を差し伸べていただけませんか?」
「私に出来ることであれば、喜んで」
即答だった。
もとより断るつもりなど毛頭なかったが今受けた説明以上の意味が例えあったとしても、自分のやることなどこのキヴォトスに来た時から決まっている。
「ふふ、断られるとは思っていませんでしたが、ここまで即答されてしまうと先生が心配になってしまいますね」
「もちろん社会的に問題があったりするような事なら断るとも。ただ、これはそう言う話じゃないんだろう?」
まるで確認をとるような問いかけだなとミカは感じた。
この人は底なしの善人なのだろうとナギサは微笑んだ。
本来の目的を隠したことに申し訳ないとは思いながらナギサは自身の手元に置いていたファイルを先生に差し出す。
「ええ、それでは先生にはこちらを。今回の補習授業部に参加するメンバーと今回先生の補佐をしてくださる生徒の情報が記載されています。先生にはこの後、その生徒と合流するために司法院へ赴いていただくことになりますが……」
チラッとナギサの視線がミカに向く。
一瞬どうしたのだろうと首を傾げたが、すぐにその意図を理解したようにミカはニッコリと笑った。
「司法院までの案内だね、オッケー!ミハネちゃんのところに行くなら私に任せてよ☆」
「ミカはティーパーティーなのに司法院に詳しいのかい?」
素朴な質問だった。
司法院はその性質上、他の派閥や政治組織に与することはないとここに来るまでの事前調査で得ていた情報なのだが、どうもその情報と今の状態が一致しない。
「……ミカさんは司法院長のミハネさんとは幼馴染ですので」
「私とナギちゃんも幼馴染なんだけどね。私とミハネちゃんは生まれた時から一緒だったから」
「なるほどね、そういうことなら案内してもらおうかな」
話はまとまった。
だが、すぐに司法院へ向かうわけでもなく折角だからと雑談を交えたお茶会を1時間ほど楽しんだ後、ミカの案内で司法院寮……つまりはミハネに与えられた個人寮にミカと先生は赴いたのだった。
****
唐突だが、トリニティの最高権力者達にはそれなりの自由と特権が与えられている。
その一つが屋敷一つを自身の寮として与えられるというものだ。
使い方は自由でミカやナギサのように自分の邸宅として使っているものがほとんどだが、ミハネの場合は少し違った。
「これから向かうのは司法院の子達が出入りしてる場所だけど、正式に司法院に与えられた部室、というかお屋敷じゃないんだ」
「……?どういうこと?」
「私たちトリニティの最高権力者、まあありていに言えば各派閥の首長だったりミハネちゃんみたいな大きな権力を持つ生徒には普通の生徒よりも結構な特権が与えられていてね?そのうちの一つがお屋敷一つを個人の寮として貰えることなんだけど」
トリニティの学内に入った時外れの方に学生寮とは他に大きな屋敷がいくつかあったなとなんとなく思い出した。
「その様子だとなんとなくわかってるっぽいね?そのうちの一つがミハネちゃんの寮なんだけど、ミハネちゃんの司法院は学校の中にある部室、聴聞会を行う時に使われる裁判所を所有してて、更にミハネちゃんの所有する個人寮を司法院の子達が生活する寮としても使ってるんだけど……基本的にミハネちゃん達って学校の中にある部室を使わないでこっちで仕事してるんだよね」
「……なるほど?そして、ミカのいう通りならここがその寮になるってこと?」
目の前に現れた一際大きな屋敷を見て恐る恐る先生がミカに問いかければ、ミカは何食わぬ顔で「そうだよ」と頷いた。
「私の住んでるお屋敷も結構大きいけど、流石にここまで大きくないんだよね。司法院ってトリニティに於いては生徒会であるティーパーティーよりも強い権力持ってるから仕方ないんだけどさぁ」
「ミカは大きいお屋敷のほうがいいのかい?」
「そんなわけないじゃん!この大きいお屋敷なんてミハネちゃんの部屋まで行くのにすごい時間かかるんだから!ミレニアムみたいな先進技術を取り入れるような校風じゃないから、階段を使わないと次の階に行けないし、廊下も信じられないくらい長いし、おまけに扉も全部同じような感じだし……」
ぶつぶつと文句を垂れ流すミカは「昔はこんなことしなくてよかったのにね」と小さく最後に呟いて大きく伸びをした。
「まあ、こんなこと言ってても仕方ないよね!ミハネちゃんとサリナちゃんが待ってるだろうし早く行こ!」
ミカに手を引かれて先生はミハネの個人寮、司法院生が公私を過ごしている屋敷の中に入っていくのだった。
まず寮の中に入ってすぐにエントランスで受付の子に顔を合わせ、ミカがミハネの客人として先生を連れてきたことを伝えるとそのまま通された。
次にミハネの執務室があるという3階の最奥へ向かうために階段を10分ほどかけて登り切り、ミカに指差された方に視線を向ければこれまた50メートルほどの距離を歩かなければならなかった。
扉の前にやっと辿り着いたと思えば扉の横には『司法院長室』と大きく彫られた木札が掛けられている。
「……ここまで来てなんだけど結構緊張するね」
「えー?そうかなぁ?先生はこう言う雰囲気のところ苦手なタイプ?」
「私もミカくらいの頃はやんちゃして先生と校長先生に怒られたものさ」
「なにそれー、それはそれで今度聞かせてね?」
戯けるようにミカは先生の隣から扉の前へと移動してそのまま一回だけノックして返事を待たずして扉を開けた。
「ミハネちゃーん!可愛い幼馴染が遊びに来たよー!!」
「ミカァ!!!せめてノックの返事を待ってから入りなさいと何回言えば……!」
「……えっと、ミハネ院長、どうやらシャーレの先生も一緒みたいです」
もはや反射で対応してしまったミハネと苦笑いのサリナ。
気まずそうにミカの後ろに立っている先生といつも通りほぼ自分の指定席となっている椅子に座り込んだミカ。
「…………」
「…………」
「……とりあえずお茶とお菓子用意してきますね」
「あっ、サリナちゃん!私、この間のミルクティー飲みたい!」
なんともいえぬ沈黙が先生とミハネの間に流れ、お茶とお菓子を用意するために消えて行ったサリナとそれについて行ったミカ。
「……ひとまずお掛けになってください」
「……あ、うん。それじゃあお言葉に甘えて」
お互いに向かい合うように応接用の席に座る。
ミハネはミカとサリナが向かっていった給湯室へと視線を向けて、すぐに微笑みながら先生へと視線を戻す。
「ミカの相手は疲れたでしょう」
「いいや、そんなことはないさ。生徒達は元気なら元気なだけいい」
「そう言ってくれる人はなかなか少ないんですよ。大体が苦笑や嘲笑をするような人ばかりですから。それに、どうやら付け焼き刃のティーパーティーでのマナーもなんとかなったみたいだ」
「あはは、それこそミカには一目で見破られたけどね。お陰で恥をかかずに済んだよ」
二人が戻ってくるまでトークがないのもなんだと優しい瞳でミカの方を見つめ始めたミハネに先生は口を開いた。
「ミカはミハネとは幼馴染なんだよね?」
「そうですね、私とミカ、そしてもう一人いるんですが生憎と幼い頃に行方不明になってしまって」
「……ごめん、不謹慎なことを聞いたね」
「いえ、私はその行方不明になった幼馴染を探すためにこのトリニティで権力のある立場に立ったといっても過言じゃないですから。それに、大切な人を守るためにも必要な力です」
「そう考えられる人は多くないよ。私が持つシャーレとしての権力も、そういう風に使いたいと思っているからね」
「先生なら出来るでしょう。先日のアビドスでの件もその後は大活躍をして解決の糸口へと導いたとか」
アビドスで射撃演習をすると聞いた時は何事かと思ったし、ヒフミがナギサに提案してそれを可決したと後になって聞いたときは若干頭が痛くなったものだが、それはそれでいい方に向かったのなら特段気にするようなことでもないだろう。
「それにどうやら先生はミカにも好かれているようですし、これならうちからサリナを出向させるのにも安心できます」
「えっとサリナっていうのはさっきの子だよね?」
「ええ、蒼崎サリナ。トリニティの二学年の子で私の右腕……つまりこの司法院の副院長になりますね。先生は生徒の名前を全員覚えていらっしゃるみたいなのでご存じのことと思いますが」
「そんな子が私の補佐をしてくれるの?」
先生のそんな素朴な問い。
ただ成績不振の子達のための補習なら司法院の副院長がわざわざ出向してくる必要などないだろう。
だが、ミハネは何か意味を持たせるように大きく頷いた。
「今回の補習授業部はおそらく先生が聞いたであろう事よりももっと大きな意味があります。私から理由は語れませんが、先生ならその意味を知っても尚、彼女達の為に走り続けてくれると信じてますから」
「随分と評価をしてくれているんだね」
「信じますよ。だって貴方は“先生”でしょう?なら、私たちにまずは信じさせてくださいな」
「殺し文句だね。期待を裏切らないように努力しなければならないな。それに、ミカにも同じことを言われたよ」
つい1時間と少し前のことを思い出して思わず笑った。
流石は幼馴染だなと、ミカとナギサとは少し違う関係性なのも頷けた。
あちらはどちらかといえばミカがひたすらにナギサのことを揶揄っているような関係だが……こちらはどちらかといえば幼馴染というより……そうだ、姉妹と言った方が近いのかもしれない。
「ふふっ、ミカはこの数ヶ月で変わりましたからね。天真爛漫で自由気儘な性格は変わりそうにもないけれど……そこは変わらなくてもいいところだから」
「ミハネはミカのことが好きなんだね」
「それはもう、今の私にとってミカは一番大切な人ですから。本人には恥ずかしくてとてもじゃないけど言えませんけどね」
ミハネが軽く笑って見せれば先生も笑って返した。
そんなやりとりをしている間にミカとサリナが奥の給湯室から戻ってきて用意してきたお菓子とミルクティーを並べてくれる。
「二人ともなんだか楽しそうだったね!何話してたの?」
「ミカと一緒で疲れたでしょって話」
「えー!?何それひどくない!?」
自然とミハネの隣に座るミカを見て先生は本当に姉妹みたいだなと感じながら近くにいた少女へと視線を移す。
互いに会釈をして、サリナはミハネに言われた通りに上座の方にある椅子へと座った。
「雑談からしてもいいんですが、私と先生はだいぶお話を出来たので……本題に入りましょうか。それでは、司法院長……朔月ミハネ、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生へ改めてご挨拶申し上げます」
「此方こそ、丁寧な自己紹介をありがとう。それじゃあ話し合いを始めようか」
ティーパーティーとの会談、その後1時間と経たずに司法院長との会談が幕を開けたのだった。
生徒プロフィール
蒼崎サリナ
年齢16歳
身長154cm
cv 悠木碧
容姿
ナチュラルブラウンの髪をゆるふわ系のミディアムヘア
茶色の瞳に整った形の顔立ちをしている
司法院の制服として漆黒のスーツに天秤の刺繍の入った黒いケープコートを着用している。
武器 アストライア(PGM ヘカートⅡ)
本作の準主人公であり、司法院の副院長を務める生徒。
ミハネからは次期司法院長としての見聞を広げるためにいわばトリニティの縮図とも言える補習授業部へ先生の補佐という立場で出向を命じられる。
本人曰く、自分は『ミハネに憧れているだけの一般生徒』という認識らしいが副院長としての彼女を慕うものは多く彼女の一声で司法院の生徒全員が一斉に行動を始めるほどのカリスマ性を有している。
また彼女の使用する対物ライフル、ヘカートⅡ『アストライア』は彼女の敬愛するミハネを連想させるように神話に語られる天秤を手にした有翼の女神であるアストライアからそのまま引用してきたらしい。