ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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11000PVを突破してテンションが高くなっている作者です。
皆さんのおかげで作品を描くモチベーションが維持されてるので感謝が絶えません。




第三節 見送り

 

「話し合いをしましょう……と口にしたばかりですが正式な自己紹介はまだでしたね。サリナ」

 

「はい、トリニティ総合学園司法院副院長、蒼崎サリナ。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生へ謹んでご挨拶申し上げます」

 

「此方こそよろしくねサリナ」

 

お互いに立ち上がり先生から差し出された手をサリナが握り返し、軽く会釈して椅子に座り直した。

 

「まずは桐藤さんから聞いているかもしれませんが先生はこれから補習授業部の顧問となっていただきます。ですが、通常の業務もこなしながらたった四人のために時間を割くのもなかなか骨が折れるでしょう」

 

「その辺りは否定しないけれど、でもトリニティの上層部の子を私の補佐につける必要はあるのかな?」

 

「そうですね……これは私の贔屓目なのですが、サリナは私の右腕を務められるくらい優秀な子です。ですがなにぶん、私の傍以外の場所を知らないので……来年はこの子が司法院長になるのはほぼ間違いないのもあって一種の社会勉強も兼ねているんです」

 

「ミハネちゃんの傍から離れないなんて流石に幼馴染の私でも妬いちゃうよね」

 

「そ、そんな。恐れ多いですミカ様……」

 

ミハネの隣で若干不貞腐れるミカとそんなミカを見て慌てるサリナ。

普段は仲のいい二人を見ている分そのやり取りが冗談混じりなのはすぐに理解できたからミハネは軽く笑って話を続ける。

 

「二年に上がってからは成績は常に首席、素行も司法院の副院長を務めていることから信用していただけると思います。それに、彼女の狙撃能力はトリニティの中でも随一といえる実力も持ち合わせていますから」

 

「あの、ミハネ院長……私の評価は嬉しいのですが少しばかり過剰かと……」

 

「まあでも実際ミハネちゃんが言った通りでね。この時期の二年生で次の首長がほぼ内定してるのって司法院のサリナちゃんだけなんだよね。パテル分派(うち)も次の子は誰にするかまだ決まってないしさ」

 

「それだけ優秀な子ってことなんだね」

 

「ええ……それ故に、信頼して先生に預けるんです」

 

自身の前に用意されたティーカップに口をつけて、ミハネは先生を正面から見つめる。

 

「私の推測ではこの補習授業部はすぐに補習要項を満たせる、とは思っていません。ティーパーティーの求める基準、それが決して低いとは考えていないので」

 

「それなら長期間サリナを借りてしまうことになるけど、ミハネや司法院は困らないのかな?」

 

「問題ありません、サリナには彼女しかできない仕事もしながら先生の補佐も行ってもらう予定なので」

 

「先生の補佐とはいっても私の役割は模擬試験の採点や勉強を教えるくらいしかないですからね。普段の業務からは外れることにもなってますし、そこまで負担はかからないようにしていただいてます」

 

「そういうことなら、私からはこれ以上言うことはないね」

 

サリナが直接来るということに先生は何か意味があるのだろうと理解はしていたが、ここでいくらカマをかけようときっとこの子達の口からそれが出てくることはないだろうと悟り、これ以上の駆け引きは必要ないと理解して話を切り上げた。

 

「理解していただけたようでなによりです。先生にはこの後補習授業部の生徒達と顔を合わせて今日、又は明日から活動を開始していただきますが……サリナは本日から補習授業部への出向となります」

 

「うん、わかったよ。それじゃあ……改めてよろしくね、サリナ」

 

「はい……私の方こそ短い間ですがよろしくお願い致します、先生」

 

ほんの数分にしか満たない会話だったが補習授業部について少しでも情報が欲しかった先生と決して口を割くつもりはなかったミハネの会話はひとまずは先生とサリナが互いに手を取ったことで終わりを迎えた。

 

「……お話は終わった?ミハネちゃんも先生もよくそんな堅苦しい会話をすらすら出来るよね」

 

「ミカもちゃんとこういうことできた方がいいよ。ここのところすごくやる気を出してるのは偉いと思うけど」

 

「注意するのか褒めるのかどっちかにしてよねー。サリナちゃんなんて私のこと褒めてくれたことしかないのに」

 

「私が褒めてばかりじゃないのはミカがすぐに調子に乗るからでしょう。首長としての素質は十分あるのについ最近までやる気すら出さなかったんだから小言も多くなってても仕方ないと思わないの?」

 

「うぇ……また始まった……」

 

サリナにとってはもはやいつも通りの光景で先生にとっては仲のいい幼馴染とのやりとりのように映った。

小言を口にするミハネは真剣そのものだが、小言を言われているミカ自体もどこか満更でもないような顔をしているのだから。

 

 

 

 

 

 

****

 

先生がナギサから受け取っていたファイルを持って退出したことでサリナもミハネに向き合って出向の為の挨拶をしなければと立ち上がる。

 

「それではミハネ院長、本日の放課後より先生の補佐に移ります。私の業務自体はタブレット端末に送っていただければいつも通り処理しますので」

 

「うん、ひとまずサリナも頑張ってね。何かあれば私に連絡してくれてもいいし、何もなくても顔を見せにきてくれてもいいから」

 

「なにももう司法院に来ないわけでもないですし、補習授業部の業務が終わればここに戻ってきますから」

 

まるで他校に転校してしまう子を見送るような雰囲気すら感じさせるミハネにほんの少しだけ笑って見せたが、それ以上にミハネが自分を見る目が普段よりも真剣なことに気がついた。

 

「今回の経験はきっとサリナのためになる。周りに流されないで、自分自身で見て、聴いて、考えて……信じたいもの信じたいこと、それを貫き通すための意思を身につけておいで」

 

ミハネにとって、補習授業部にサリナを送り込むのはただの出向とは意味合いが変わってきている。

エデン条約の成就、そのために『トリニティの裏切り者』を見つけ出すための部活だということは彼女には教えていない。

だが、サリナが自分自身で補習授業部の子達と関わり、彼女の信じる正義と真実を見抜く力を得られることを心の底から願っているのだ。

 

「ミハネ院長、いったい何を……?」

 

「詳しいことはもし一度目の試験が不合格になった時に」

 

「……わかりました。ミハネ院長の真意は私にはまだわかりませんが、それでも貴女の右腕として……司法院の副院長として恥じぬ働きをしてきます」

 

「ええ、それに補習授業部にはサリナの友人もいますからね」

 

ピシリとサリナの動きが止まった。

つい今まで胸を張って仕事をしてきますと口にしていたのにまさか自分の友人がメンバーにいるとは思っていなかったのだ。

 

「メンバーのことは言ってなかったけど、阿慈谷さんと浦和さん。まあ……選抜の理由は試験日にバックれたことと明らかに遊んでるとしか思えない答案用紙の提出、純粋に素行不良っていうのもあるけどね」

 

「あー……えっと……つまり友人の不始末は自分でつけろと」

 

「そこまでは言わないけど、うん……私や桐藤さんがミカのやらかしたことの後始末するのと同じかな」

 

「つまりそういうことじゃないですか!」

 

ミハネが苦笑いして口にしたことと自分が問いかけたことの何が違うのだろうと思わず突っ込めば今までミハネの隣で黙って聞いていたミカが大きく声を上げた。

 

「それ以前にその言い方って私にすごく失礼だと思わない!?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ねえ嘘でしょ。ミハネちゃんはともかくサリナちゃんまで黙らないでよ」

 

そんなやりとりもしばらくは出来ないのだと三人が三人とも思った。

パテル分派の首長という立場のあるミカとは本来なら接点を持つことの出来ないサリナは、司法院の副院長として、なにより彼女の幼馴染であるミハネの補佐についていたことでミカとよく関わり、友人と呼べる間柄になることができていると自負している。

実際、興味のない人間をとことんどうでもいいと思っていた以前のミカから名前を覚えられ気さくに話しかけられていたのだからその認識は間違いではないのだ。

 

だからこそ、サリナはミカとのやりとりを好んでいたし、ミカもサリナと話すのは好んで行っていた。

 

ミハネとミカがそれぞれ何かしらの思惑を抱えていることはなんとなく察していた。

それにティーパーティー内であってもナギサとミカでエデン条約にとっての考えが違うということも立場上理解はしていたのだ。

きっと今回の自分の出向もエデン条約絡みの事なのだろうとなんとなく察することはできているからこそ、サリナはまたこんな時間が過ごせればいいなと心の底から望んでいるのだ。

 

「ふーんだ。サリナちゃんはミハネちゃんの味方だもんね!私の味方はここにいないんだー!」

 

「サリナはうちの子だからね。それは私の味方でしょうよ」

 

目に見えて不貞腐れてますといったミカの態度もミハネが呆れたような表情をするのも、そんな光景を見ることがサリナにとって大切な日常なのだ。

 

「まあいいや、いつものことだし。とにかく頑張ってねサリナちゃん。私もたまにサリナちゃんの顔見にいくかもだし」

 

「それは視察という形になるのでは……?」

 

「んー、まあそういう事になるのかな?ミハネちゃんが伝えてない以上私から何かいうことってできないしね」

 

怒られちゃうし、と軽く舌を出して笑うミカは隣のミハネにジト目で見られていることに気がついて「あ、あはは……」と何も言えなくなってしまっていた。

 

「ひとまず、必要な場合はいつも通りの権力をそのまま使ってもいいし、その場合は後ででもいいから私に報告してね」

 

「はい、それでは蒼崎サリナ。補習授業部に出向して参ります!」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

「いってらっしゃーい!」

 

事前にまとめていた荷物を手に持って退出していくサリナを見送って、ミハネは自身の椅子に沈み込むように座った。

 

「サリナちゃんが心配?」

 

「桐藤さんが何をしてくるかわからない以上、心配なのは変わらないよ」

 

「……今のナギちゃん、すごく疑心暗鬼に駆られてるからね。一回目が落ちたら合宿開始、二回目と三回目で試験会場が変えられることも考えた方がいいと思う」

 

「本気であの子達を退学にさせるつもりなんだね」

 

「……うん、間違いなく本気だと思うよ」

 

大きなため息が一つ落ちて、室内に沈黙が流れる。

エデン条約に関しては一枚岩でないことはミハネも理解していた。

それぞれの思惑があるし、ミカのように乗り気でない生徒も実際かなり多い。

 

だからこそ『トリニティの裏切り者』が本当にいるのか、それを見極めさせるためにサリナを送り込んだのだ。

もちろん、サリナに口にしたあらゆる面で成長してきてほしいという思いは本物ではあるのだが……

 

「いまから真実を話さなきゃいけない日が憂鬱だよ」

 

「サリナちゃんすごく悲しむ顔すると思うな」

 

「余計なこと言わないでよね。わかってるから憂鬱なんだよ」

 

どうか、ナギサが提示した試験の突破が一度目で終わりますようにとミハネは願うばかりだった。

 

 

 




次話から補習授業部編がスタートします。
本作の主人公であるミハネ院長はしばらくお休みしていただいて準主人公であるサリナちゃんが次回からメインで動くこととなります。
名前が救護騎士団のあの子に酷似していることからややこしいと思いますがちゃんと認知していただけるように活かしていければなと思います。


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