「───ここ、みたいですね」
十分も歩けば辿り着いたのは先ほどから進路を向けた正義実現委員会本部、このトリニティに置いて警察組織の役割を持つ彼女たちが活動するこの建物は何処となく威圧感すら放っているような気がしていた。
「あ、あぅ……あんまり此処には来たくないんですが」
「まあ、一般の生徒からすればそうだよね」
「そんなものなのかな……まあいいや。ほら、行こう?」
若干引き気味な先生とヒフミを後に、慣れた様子で堂々と正実の本部へと立ち入っていくサリナに続くように2人も本部の中へと入っていくのだった。
建物に入り、暫く歩けば目的の生徒がいるであろう部屋の前に辿り着いた。
何処か怖気付いていたようなヒフミだが、自分の役割でビクビクしてばかりではいられないと覚悟を決めてほんの少し上擦った声で扉を開いた。
「えっと、失礼します。どなたか……いらっしゃいますか?」
室内に誰かいないかとぐるりと視線を回せば、受付と思われるカウンターには小柄な桃色の髪の少女が扉を押し開け何処か挙動不審とも言えるヒフミを見つめていた。
「あっ、こんにちは」
「……何?」
ヒフミのなんてことない返事に桃色の少女、コハルはぶっきらぼうに答えた。
「うぅ……えっと、すごく警戒されてるみたいなんですけど……私、何かしてしまいましたかね?」
「……多分、人見知りなんじゃないかな?」
「だ、誰が人見知りよ!!」
先生がおそらくそうだろうと思って口にした言葉にコハルはデスクを叩きつけながら立ち上がった。
「た、ただ単純に知らない相手だったから警戒してるってだけなんだけど!?」
「それを人見知りって言うんだと思うな私は」
「うぐっ!?」
真正面から図星を突かれ思わず言葉に詰まるコハル。
まるで思ったことをそのまま口にしているような彼女に思わず苦笑いしながらも先生は周囲を見渡した。
目的の生徒らしい子は“目の前の子”以外に此処には見当たらないが……
「そ、それで正義実現委員会に何の用!?」
「えぇと、実は探してる方がいて……」
「はあ!?何それ!正義実現委員会に人探しの依頼をしに来たってこと!?私たちのことボランティア団体かなんかだと勘違いしてるの!?そんなに暇じゃないんだけど!」
「い、いえ!そういうわけではなく……此処に閉じ込められてるって聞いて……」
「閉じ込め……はぁ?」
「ですからえっと、その……よくないことをした子が此処に……」
「え、それって……」
コハルがやっとヒフミの口にしていることの意味を理解しその視線を奥の扉の方へと向けた瞬間。
「それってこの子のことでしょ」
奥の部屋からサリナとどういうわけか学校指定のスクール水着を着た少女が堂々と……もう一度言うが堂々と歩いてきていたのだ。
まさにトリニティの生徒に相応しい風格と品格を備えている桜色の少女は大切なことだからもう一度言うがスクール水着で現れたのだ。
「こんにちは、私のことをお探しでしたか?」
「はあ!?!?」
「え?えっ!?!?」
「ほう……」
「まあ、そうなるよね普通」
友人の奇行にはもう慣れたとあくまで自然なサリナを除いた3人の反応はそれぞれだった。
純粋に『どうして水着を着た生徒が此処にいるのか』と問いただしたいヒフミ、『どうしてこの女が此処にいるのか』という表情のコハル、そしてシンプルにハナコのスタイルに感嘆の声をあげた先生。
「2年の浦和ハナコ、私の幼馴染でトリニティの問題児」
「あらあら、幼馴染をそんな雑に紹介をするなんて私のサリナちゃんは司法院で礼節をなくしてしまったんですか?」
「え?なに、喧嘩売ってたりする??今の私、ミハネ院長いないから加減とかそういうの一切ないけど????」
「ちょ、ちょっと待って!何であんたが此処にいるのよ!牢屋の鍵だってちゃんと……それに何で司法院が」
「かかってなかったよ。だから私がこうして連れて来れたわけで……それに私は先生の付き添い。ハナコを迎えに来たのと……」
「ま、まあちょっと落ち着いて話そうか」
サリナとコハルが言い合いになりそうなところを何とか先生が割って入り取り敢えず自己紹介をしようと話の舵を切り直した。
「……大人の男性、ということは噂に聞くシャーレの先生ですね。私に用があるとのことでしたがどのようなご用件で?」
「聞いてるとは思うけど部活のことでね」
「部活、というと補習授業部の……?」
「そう、担当顧問……有体に言えば担任の先生になったんだ」
「あらあら、それは」
「ちょっと待って!その格好で出歩かないでよ!ちょっとぉ!?」
何を思ったかそのまま歩き出したハナコの腕をコハルはギリギリと掴んで離さない。
このまま部屋を出れば再び正義実現委員会に捕えられる。
それに、捕えた生徒が逃げ出して総本山の中を徘徊してたなどと噂が立てば今代の正義実現委員会の恥もいいところだ。
しかも、その相手がスクール水着で徘徊する女生徒など尚更だろう。
だが、当の本人はこの上なく不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……?何か問題でもありますか?下江さん?」
「問題しかないでしょ!?何で学校の中を水着で徘徊してるのよ!?」
「ですが、学校の敷地内であるプールでは皆さん普通に水着になられますよね? ここもあくまで学校の敷地内で、これも学校指定の水着です……あ、もしかして下江さんは、プールでは水着を着ないタイプですか?」
「えっ、はぁ!?!?」
「そうでしたか、下江さんは全裸で泳ぐのがお好きなんですね、流石は正義実現委員会、そういった分野まで網羅されているなんて」
「ばっ───」
言い返す暇を与えない言葉のマシンガンが次々とコハルに突き刺さる。
ただの屁理屈と言えばそれまでだが、意味のわからないほどのトンデモ理論で危うく全裸族にされかけたコハルはその猫のような瞳孔を縦長にして顔を真っ赤にして怒り狂った。
「馬鹿じゃないの!?着るに決まってるでしょ!?そんな……そんな変態みたいなことするわけ……!」
「それにしても裸こそが正義とは……かなり前衛的ですね、あまり考えたことはありませんでしたが、なるほど、試してみるのもまた一興というものですか───」
もうその一枚しかないという水着に手をかけて肩に掛かっているそれを下ろそうとしたところでその手に別の手が重なった。
「ハナコ、下江さんの反応が面白いのは同意するし、できるならまだ見てたい感じはあったけど……此処、正義実現委員会の総本山だし、一応司法院の副院長である私もいるんだよね。あと、気にしてなかったかもだけど男性である先生もいるんだけど」
「……それもそうですね。少し気持ちが昂ってしまいました♡それでは私も着替えてきますので、それでは先生……また後で会いましょう」
「あっ、うん。また後でね」
ニコニコと手を振って先ほどまでいた部屋へと戻っていくハナコを見送ってサリナを含む他の3人は何とも言えない空気感になっていた。
「なんなのよ!何なのよあいつ!ちょっと!アンタの友達ならちゃんと手綱握ってなさいよ!」
「ハナコの奇行は私にも推測できないというか、ぶっちゃけると今年から始まったことだからどうにもならないというか」
どうしてそうなったのかは推測できるが、露出はどうかと思うとサリナは思った。
まあ、ヒフミのペロロ狂いも落第の危機に陥るほどでなければ構わないんだけどなどと思いつつ、深くため息をついた。
「取り敢えず次の子に会いに行こうか、次の子の名前は……」
「えっと、白洲アズサさん……ですね!」
「───ただいま戻りました」
「任務完了です!現行犯で白洲アズサさんを確保しました!」
「───は?今なんて?」
思わずいつぞやのミハネと同じ反応をしたサリナ。
ミハネから聞いていたがどうしてこう問題児ばかりなのかと頭を抱えそうになるがそれはそれとして連れられてきた少女の姿を見てまた大きくため息をついた。
「あ……ハスミ先輩にマシロ」
「コハルさん、お疲れ様です……ってあれ?」
「先生に……サリナさん?」
コハルとヒフミの視線が入室してきた2人に向き、また同時にサリナと先生も2人へと顔を向けた。
「珍しいですねサリナさん、ついに正義実現委員会に入部してくれる気になりましたか?」
「ハスミ先輩、それはミハネ院長と正式にお話ししていただければ……それに私は先生の補佐をするために補習授業部に出向という形になってまして」
「何度も言いますが、私が先に目をかけていたんですよ?それにしても副院長たるサリナが直々に出向ですか。ミハネさんは何を考えているんでしょうね」
「ミハネ院長の真意は私にはまだ掴めませんが……いずれ掴めればとは思っていますけれど」
マシロと先生が話に花を咲かせている間にいつものやり取りが行われる。
ハスミとしては入学当初から正義実現委員会に勧誘したいと思っていた命中率100%のエーススナイパー。
気がつけば司法院にあっさりと入部してしまい、ずるずると1年経過してしまった今、彼女はすっかり時期司法院長と期待される副院長の座に着いてしまった。
それでも未練がましく彼女にそんなことを口にするのはサリナがハスミに会うたびに礼儀正しく、それでいて友人として接してくれるからでもあった。
「近いうち、またスイーツでも食べに行きましょう」
「それは是非、ですがハスミ先輩。風の噂でダイエットを始めたと聞きましたが?」
「───ま、まぁ……それは……そうなのですが」
「ふふっ、冗談です。司法院と補習授業部の業務の間でもよければご一緒いたしますよ」
「まったく、サリナくらいですよ。私にそのようなことを言うのは」
それはそうだろう、トリニティを取り締まる組織のナンバー2を相手にそんな軽口を叩くものなどそうそう現れるわけがない。
しかし、サリナは彼女の後輩であっても司法院の副院長でもある。
「まあ、それははそれとして……」
「惜しかった。弾丸さえ足りてれば、もう少し道連れにできたのに」
よっぽど大暴れしていたのかハスミが何ともいえない表情で連れてきたアズサを見つめていた。
「もういい、好きにして。ただ、拷問に耐える訓練は受けてるから、私の口を割るのは簡単じゃないよ」
ガスマスクをつけているからか『フシュー、フシュー』となんとも締まらない呼吸音を繰り返している。
“そんなことしないよ”と先生が彼女に告げて、そのまま事情をハスミに説明し始めた。
「なるほど、お話は理解しました。先生が、補習授業部の担任の先生になられると……残念です、できればお手伝いしたかったのですが」
「ハスミの気持ちだけでも嬉しいよ。でも、サリナが手伝ってくれるからね。流石に司法院と正義実現委員会の副院長を2人とも借りてしまうのはトリニティにケンカを売ってるようなものだしね」
「ふふっ、それもそうですね。サリナは正義実現委員会の私から見ても優秀ですから必ず先生のお力になれるでしょう」
「そうだね、ミハネにも太鼓判を押されていたよ。ところで、あの2人連れて行っていいかな?」
先生が含んだ2人とはいわずもがな今捉えられてきたアズサと着替えをとりに向かったハナコのことだった。
だが、ハスミが先生に答えを返す前に喰ってかかるようにコハルが食い気味に声を上げた。
「はぁ!?ダメに決まってるでしょう!?絶対ダメ!凶悪犯なのよ!?」
「コハル、先生はシャーレの方として、ティーパーティーの要請を受けてこちらにいらしたのです。規定の上ではなんの問題もありません。補習授業部の顧問、担任の先生となるのですから」
「え、えぇ……まあでも、先輩がそう言うなら……」
しかし、威勢良く放った言葉はハスミが諭すように口にした正論を受けて縮こまってしまったがすぐに先ほどまでの威勢を取り戻して再び大きな声をあげた。
「ふ、ふん!まあでも良いザマよ!こっちは凶悪犯達と一緒に居なくて済むし、そもそも補習授業部だなんて!恥ずかしい!」
「…………」
「あははっ!良いんじゃない、悪党と変態の組み合わせ!そこに「バカ」の称号なんて、私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」
「ふーん、なるほどねぇ……じゃあその羞恥心で死んでみよっか」
「……へ?」
「……ふぅ」
「あぅ……」
結果を知っているからこそ余計なことを口にしなければ良いのにとため息をついたハスミともともとここにきた時点で目的の人物を1人見つけていたヒフミ、そしてその様子を先生は困ったような顔で見守っていた。
そして有無を言わせぬ圧力を振り撒きながら、サリナはその手に持った書類を目の前にいたコハルに差し出した。
「これ、何かわかる?」
「……えっと、補習授業部の名簿……?」
「そう、おめでとう下江コハルさん。君が補習授業部最後の1人だ」
「えっ……私?」
「そうだね、一応選定された理由だけど。3回連続で赤点を叩き出したことで留年目前。補足事項として成績が向上するまで、正義実現委員会には復帰できないものとする。だそうですよ」
「……まあ、そういうことです。頑張ってくださいね、コハル」
放課後の正義実現委員会の一室に、悲痛な叫びが木霊するのだった。
感想&高評価心の底からお待ちしてます。
作者が飛び跳ねて喜んで泣きながら次話投稿につながりますのでよろしくお願いします。