この辺りは基本原作沿いに進んでいく予定ですのでご了承ください。
エデン条約二章の後半からは大幅に物語が動いてミハネ院長がメインのお話にお戻る予定なのでそこまではしばらくお待ちください。
トリニティ総合学園別館『合宿所』
「ようやく着きましたね、ここが私たちの……」
「はい、合宿の場所です。ようやく着きましたね、ふぅ……」
第一次試験を合格できなかった補習授業部のメンバーと本格的にこちらでの業務を行うことになったサリナ、そして付きっきりで合宿に参加することになった先生は本校舎からそれなりに距離のある別館へと足を運んでいた。
「しばらく使われていない別館の建物と聞いていたので、冷たい床で裸になって寝ないといけないのかと勘違いしていましたが……広いですし、きちんとしてますし、可愛いベッドもあって何よりです」
「この別館の合宿所は元々、他の学園との交流会とか中等部の子達が高等部へ合宿に来る際に使われてたものだからね。設備とかその辺りはしっかりしてるはずだよ」
「なるほど……それならみんなで寝られそうですね、裸で♡」
「さっきからなんでちょいちょい“裸”を強調するの!?それにベッドの数もちゃんとあるんだから、みんなで寝る必要ないでしょ!?」
「せっかくの合宿ですし、そういうお勉強も必要ではないでしょうか?」
「ダメ!エッチなのは禁止!死刑!」
部屋を見渡して、最早考えるまでもなくつらつらとそんな言葉が出てくるハナコに先生とサリナは苦笑した。
「まあ、ハナコが死刑かどうかは置いといて一先ず1週間は此処で寝食を共にするんだし仲良くしようね」
「あはは……って、あれ?アズサちゃんは?」
「あら、先ほどまでは一緒にいたんですが……」
部屋の中を見回してもアズサの姿がどこにも見当たらない。
全員でこの合宿所に入ってきて真っ直ぐにこの部屋へ向かってきたはずなのだが、室内だけでなく窓の外にすら彼女の姿は見当たらない。
いよいよ、探しに行かなければならないか、と思ったところで部屋の入り口にアズサの姿が現れた。
「偵察完了だ」
「て、偵察……?」
「うん、トリニティの本校舎からはかなり離れてるし、流石に狙撃の可能性はなさそう。それに、外への入り口が二つだけというのも気に入った。いざという時は片方の入り口を塞いで、襲撃者たちを一階の体育館に誘導した上での殲滅戦が有効になるかな」
「……なるほど、私は狙撃専門だからそこまで考えた事はなかったけど、そういう作戦の取り方もできるわけか」
「そうだね……まあ、他にもいくつかセキュリティ上の脆弱性も確認できたけど、改修すれば問題ない範囲だ」
具体的にどこかというのはサリナが持っていた合宿所の見取り図に印をつけながら次々と指摘していく。
それに加えてサリナが得意とする狙撃を行えるポイントさえ数箇所確認してきたというのだからアズサの作戦立案に関する専門性はかなりのものだった。
「え、えっと……」
「それから、ここが兵舎……いや、居住区か。……うん、綺麗で良いところだ。こんな施設を使わずに放置していたなんて……無駄遣いもいいところだ」
「あのぉ……アズサちゃん?私たちはここに戦いをしにきたのではなく、勉強をしにきたんですよ?」
「うん、分かってる。1週間の集中訓練だろう?外出禁止、自由時間は皆無、24時間一挙手一投足まで油断をする事は許されないハードなトレーニング」
「そ、そこまではないと思いますが……ないですよね?」
「それに、きちんと準備もしてきた」
そうしてアズサの背から下ろされたのは小柄な彼女が背負うには少し大きめの鞄、中から出てきたのは着替えをはじめとする品々が展開されていく。
「体操着や細かい着替え、衛生面の歯ブラシや歯磨き粉、石鹸、非常食、毛布に水筒……」
「流石はアズサちゃん、用意周到ですね」
「当然だ、徹底した準備こそ成功への糸口だから」
そうして得意げに胸を張るアズサ。
誰もがそれは戦闘への心掛けであって、勉強への対策ではないのでは?とは思ったがそのほかにも鞄の中からは筆記用具や教材も出てきたことからちゃんと合宿で扱う道具も持ってきていたことに安堵する。
「うふふっ。みんなで一緒に食欲を満たし、睡眠欲を満たし、そしてみんなが欲する目標へと向かって脇目も降らず手を動かす……いいですね、合宿」
その言葉には、他の皆が思っているよりも……彼女にとっては万感の思いが詰まった言葉でもあった。
「こんな状況だけど、楽しみかな?合宿」
「ええ、それにサリナちゃんもいますから。本当に楽しみなんです」
そして、サリナも……ハナコにとって、幼馴染にとって政治や派閥との関係のないこの合宿が楽しめるものになれば良いなと、自身の立場を忘れるほどに……心の底から思うのだ。
「あっ、でも任務は確実に遂行する。きちんと勉強をして、第二次特別学力試験にはどうにか合格する。その目標のためにここに来たし……みんなに、迷惑はかけたくない」
「アズサちゃん……」
「大丈夫、万が一の敵襲に備えて対人地雷とクレイモアも用意してきた。あとは
「あ、アズサちゃん!ですからそういうのは……!」
「まあ、備えあれば憂いなしともいうしね。アズサがもしものために準備してきたのなら私たちは何も言わないよ」
「せ、先生……」
ガックリと項垂れるヒフミをさておき、話は次の段階へ進んでいく。
まずはこの合宿における目的、二次試験までの1週間をこの合宿所で過ごして試験対策を行うこと。
食料は事前にティーパーティーだけでなく司法院からも届けられていたことから食べることには困らないし衣類に関してはここに来るまでに全員がそれぞれ持ってきている。
それに合宿所の設備も掃除をすれば十分に使えるみたいだった。
「そういえば外にプールもあった。しばらく使われてないようだったけど」
「あ、そうなんですね。それに私たちがここにいる間、先生とサリナちゃんもずっと一緒にいてくれる予定ですので、何があっても大丈夫だと思います!」
「うん、私にできることならなんでも言ってね」
「司法院の仕事はここでも出来るものを回してもらってるし、私のことも頼ってくれれば力になるよ」
「ありがとうございます!えっと通路を挟んで向かい側と隣に部屋がもう一つづつあるのですが、先生は……」
ずい、ずいっとハナコが先生とサリナの背後に近づいて行ったのをコハルは見逃さなかった。
「ダメっ!!絶対ダメ!!同衾とかエッチじゃん!!!死刑!!!」
「えっと、コハルちゃん?私まだ何も言ってないのですが……」
「何を言い出すかなんてだいたいわかるわよ!ダメったらダメ!そういう事はさせないんだから!!」
「うーん、コハルちゃんは厳しいですねぇ」
「私は先生もここで構わないけど?ベッドも余ってるし、無駄に部屋をいくつも使う必要もない」
「まあ、私は向かいの部屋を使わせてもらうよ。みんなで交流を深めておいて、何かあったら呼んでくれれば良いからね」
生徒の寝顔を見れないのは残念だが、これは流石にモラル的に危ない。
下手をすれば社会的に死にかねない事を犯すのは先生とて流石に怯んだ。
「それじゃあこの部屋は私たち5人で使うことになりそうですね」
それなら今いる部屋は生徒5人でと話がまとまりかけた時、サリナはそれにストップをかけた。
「……あっ、申し訳ないんだけど私は隣の部屋使わせてもらって良いかな?」
「え?それは構いませんけど……私たちと一緒は嫌でしたか……?」
「そんなまさか、純粋に司法院の業務もあるからってだけだよ。それがなかったら全然みんなと一緒の部屋でいいし」
主にリモートでのデスクワークを夜中にこなせば日中はみんなの勉強を見ることができるから、という理由なのだがそれをいって仕舞えば気を遣われかねないため適当にはぐらかす事を選んだ。
それに……サリナ個人としては昨晩ミハネから聞いた事を先生にも相談して方針を決めたいというのもあった。
「なるほど……では、いったんそういう事で。そうしたら荷物を片付けて早速お勉強を……」
「あら、でもその前にやることがあると思いませんか?ヒフミちゃん?」
「えっ……?」
「……っ!?」
「なるほど、敵襲を想定してのトラップの設置を?」
「みんなとの交流会かな?」
「仲を深めるならまずは食事会……?」
「先生とサリナちゃんの案も魅力的なのですが、そうではなく……お掃除、ですよ♡」
各々がほぼ自分のやりたい事を列挙していく中、ハナコはそれでも少し苦笑いをした後にまずはやらなければいけない事の優先順位はこれだろうと提案をした。
「お掃除、ですか?」
「はい。管理されていた建物とはいえ、長い間使われていなかったこともあって、埃なども多いように見えませんか?このままここで過ごすというのも健康に悪そうですし、今日はまずお掃除から始めて、気持ちの良い環境で勉強を始めるというのはいかがでしょう?」
「確かに一理どころか百理あるかも。埃の乗った教室で勉強するなんて私も流石に嫌だし、賛成かな」
「言われてみればそうですよね。まずは身の回りの整理整頓から始めるのは定石ですし、そうでないと途中で気になってしまいますし……」
実際、ハナコに言われて部屋の節々をみれば確かに目に見える埃が降り積もっている。
今やらなければ後々気になるのは目に見えていることだし、今日一日かけてこの合宿所を掃除してしまうのも理にかなっていた。
「うん、衛生面は大切。実際、戦場でもすごく士気に関わりやすい部分だ」
「お、お掃除?えっと、まあ、普通のお掃除なら……」
「普通じゃないお掃除があるような言い方だね、先生ちょっと気になるかな」
「なっ、なんでもないから!?」
「それにハナコちゃんのいうとおりかもしれませんね。今私たちに求められてるのは一夜漬けのような突貫作業ではなく長距離走のようにしっかりペースを守って勉強を行なっていくことですし……うん、それではまず、大掃除から始めるとしましょう!」
「よし、それじゃあ補習授業部、大掃除作戦開始だね」
「それでは汚れても良い服に着替えてから、10分後に建物の前に集合としましょう!」
それぞれが着替えるために散っていき、それに連なるようにサリナと先生も部屋を後にする。
「サリナも高そうなスーツだしちゃんと着替えるんだよ?」
「確かに司法院の制服は少しお値段が跳ねますからね。防刃防弾仕様ですし……先生のスーツとコートは……」
「私のは連邦生徒会から支給されてる物なんだけどね。全部10着ずつくらい持ってはいるんだけど……防御力的には心許ないかも」
「先生さえ良ければ司法院お抱えのお店で一式見繕いましょうか?危険な場所に赴くことの多い先生ですし、被弾することはないに越したことはありませんが、もしもの時のことを考えれば安い物ですよ?」
「そうだね、お金は私のほうで払うから発注してもらうのも悪くないかもしれないね」
「それならよかったです。あとで時間のある時にサイズの採寸をさせて下さいね。では、私も体操着に着替えるので」
「うん、それじゃあまたあとでね」
そうしてお互い部屋の前で別れ……
10分後……
男性であることもあり、こんなこともあろうかと事前にD.U地区で購入していたスポーツウェアに着替えて生徒達が来るのを待っていた。
「先生!お待たせしました!」
「おお、体操着も似合ってるね」
「あはは、ありがとうございます。服装から入るのも大事ですし、汚れてもすぐに洗えますからね」
「……で、私は何をやれば良いの?」
「あっ、コハルちゃんも早かったですね」
「みんなお待たせ」
「アズサちゃんも……ってどうして銃を?」
「肌身離さず持ってないと銃の意味がない。襲撃はいつ来るかわからないんだし」
「それは、確かに、そうなのかもしれませんが……」
次々と合流していく補習授業部のメンバーは全員が全員学校指定の体操着、ジャージを着用してきたわけだが……
「お待たせしました、みなさん早かったですね?」
その中で、普通に体操服を着てくるわけないのが浦和ハナコだった。
なにしろその姿は学校指定のスクール水着、いつぞやに正義実現委員会の本部で見た時と同じ格好をしてきたのだ。
「アウトーーーーーー!!!」
これには流石にコハルが吼えた。
そもそもその格好で徘徊していたから捕まった事を忘れたのかといわんばかりの咆哮にハナコは思わず首を傾げる。
「あら?」
「なんで掃除するのに水着なの!?バカなの!?バカなんでしょ!?バーカ!」
「みんな集まってるみたいだね、それになんだか賑やかだし、私が最後…………うん、私が最後みたいだね」
遅れてやってきたサリナは水着姿のハナコを見た瞬間目を逸らした。
何も見てないし、何も変なことはない。
うん、確かにみんな汚れても良いであろう姿なことは変わらないだろう。
「ちょっと!?ハナコの幼馴染なんでしょ!?なんとかしてよ!」
「えっ?あー……いや、ちょっと……無理かな?」
「うふふ♡動きやすくて、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で───」
「そういう問題じゃないでしょ!?水着はプールで着るものなの!っていうか、だっ、誰かに見られたらどうするの!?」
「誰かも何も、ここには私たちしかいませんよ……?」
「と、とにかくダメ!アウトったらアウト!あんたはもう水着の着用禁止!」
「あら……それはそれで……まあ……」
「取り敢えず、体操着持ってきてるんだから着替えてきなよ」
「……そこまで言われて仕舞えば仕方ありませんね」
ちょっとショックです、といわんばかりに哀愁漂う背中を見せながら合宿所に戻ったハナコはそのあときちんと体操服姿で戻ってきた。
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