お昼に何気なくランキング覗いてたらランキング掲載されていてニヤニヤしながらひっくり返るところでした。
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トリニティ総合学園 合宿所 食堂
「えっ!?それじゃあこのお弁当ってミハネ様が作ってるんですか!?」
「そうだよ、この私の寮にも食事を作ってくれるシェフの方はいるけどお弁当作りは私の趣味でもあるからね。こうしてたまに作ってるんだ」
「それにしてもミハネさんの趣味がお料理とは意外でしたね」
「確かに、 トリニティにはどの施設にも食堂があるし……それに何処でご飯食べても美味しいから自分で作る人なんて滅多にいないかも」
サリナがひとしきり悶絶したあと、全員分のセパレートティーを淹れて食堂へ向かえば思ったよりも補習授業部の面々と馴染んでいるミハネの姿があった。
「ミハネ院長の良いところは人たらしともいえるコミュニケーション能力の高さにありますが……流石にたった10分足らずでここまで馴染みますか?」
「軽く自己紹介してお弁当配ってすぐだったね」
その光景があっという間に脳裏に浮かんでしまったサリナは『まあ、そうでしょうね……』と諦めに近い感情を抱きながら扉を開けてくれていた先生の近くから全員が座っている食卓テーブルへと向かっていく。
「あっ、来たねサリナ。ほら、先生もこっちに座ってサリナのお茶をいただきながらご飯にしよう?」
「実はミハネのご飯は美味しいって司法院の子達が口にしてるのを風の噂で聞いてね。是非とも食べてみたいと思ってたんだ」
トリニティにやって来て数週間経つ先生は当然、司法院の子達とも関わることが多かった。
もちろん補習授業部の顧問として招かれてはいるが、彼女たちが活動を始めるのは放課後からだ。
ならば、通常のカリキュラムを受ける時間内ではシャーレとしての仕事をこなしつつも トリニティの生徒たちとコミュニケーションを取ることも欠かさず行なっていた。
その中で聞いたのが司法院の子達にしか振る舞われることのない司法院長であるミハネから振る舞われるお弁当だった。
基本的に月に一度は必ず食べることが出来るものの、今日のように突発的に作ることも多く、司法院の役割として外回りに出ている子はその一度しか食べられないことも多いというのだ。
「トリニティのシェフの方々からみれば数段劣ってしまいますけどね。私のはあくまで趣味の範囲を出ませんから」
「そんなふうに思ってるのはミハネ院長だけですよ。このトリニティの何処に学園お抱えの総料理長に真っ向から味付けの意見を言いにいく生徒がいるんですか」
「いや、あの時は明らかに味付けおかしかったじゃない。いくらゲヘナ帰りとはいえあんなにしょっぱいの食べられないでしょ」
「ああ……3ヶ月前の……」
「あはは……あれは酷かったですよね……」
「あの時のメニューってなんだったっけ?」
「確か……筑前煮、だったはず。好き嫌いはしない主義だけど、トリニティでの食事に慣れてからのあの塩味は流石に効いた」
それぞれがなんともいえぬ表情に変わる。
トリニティの食事はどちらかといえば薄口に近い。
そこまで極端に薄いわけではないが普通よりも少し薄い程度だ。
それ故に、あまり味の濃い食事を摂ることがない。
そんな中、夕食で出て来たのがあまりにも味の濃い筑前煮だったわけだ。
その日の厨房に立っていた料理人が百鬼夜行の出身でゲヘナへ出張を行って帰って来たばかりで作ったのが筑前煮だったわけだが、本人曰く……つい、ゲヘナと同じ感覚で作ってしまったとのこと。
大半の生徒がなんとか完食したものの、厨房へのクレームが殺到し……対応に困っていたところに追い打ちをかけるようにミハネが料理長に直談判しに行ったのだ。
結果として総料理長が謝罪文を提出する羽目になったのだがそれがきっかけであの日以来、食堂のメニューから筑前煮が消え去ったのは苦い思い出だった。
「私は味の濃い料理も好きだけどね」
「先生はそれこそトリニティの味付けは物足りないのでは?シャーレのオフィスの付近には味の濃い料理のお店がたくさんあるでしょう?」
「まあ、確かにね。でも、トリニティや百鬼夜行の料理の味付けも私は好きだよ。それはそうと……お弁当箱、開けても良いかな?楽しみすぎてちょっと落ち着かなくて」
弁当箱とセパレートティーを前にうずうずしている先生はもしかしたらここにいる誰よりも子供のように見えた。
意外とこの人も普通の人と変わらないんだなとか、司法院の子達がお弁当箱を前にするのと同じ反応をするので思わず微笑んだ。
「ええ、いつまでも話しててもしょうがないですし。せっかくサリナが淹れてくれたセパレートティーも薄くなっちゃいますから、お昼ご飯にしましょうか」
「やった!それじゃあ……遠慮なく……おおっ!!」
「こ、このお弁当箱自体もすごく高級なんじゃないの……?」
「確か1つ4万円前後くらいだったはず。ミハネ院長が気に入ったから司法院の子たちの分と今日みたいな時に使う予備含めて60個くらいあると思う」
「百鬼夜行の漆塗りの木箱ですね。それにしても、なんとも美味しそうです♪」
「凄いな、このクオリティの弁当を買おうと思ったらいくらするのか想像がつかない」
「食欲をそそる香りですよね……ミハネ様、いただきます!」
“いただきます”と各々が手を合わせて食事をはじめた。
ミハネもそれに倣うように食事をはじめて、補習授業部の面々との会話を楽しみつつ賑やかな食事の時間が過ぎていくのだった。
****
食事を終えた補習授業部とミハネだが、食事中にこの合宿所の清掃をしていることを聞いて残りの清掃を手伝うと申し出たのだ。
はじめこそみんな遠慮していたものの合宿所を清掃しないで引き渡したことにも責任はあると言って聞かないミハネに結局補習授業部が折れる形で落ち着いた。
「指揮を執ってたのはサリナ?」
「はい、とはいっても施設内の清掃はほぼ終わっていて残りが……」
「屋外のプール、ですね♡」
「ああ……そういえばアズサちゃんがあるっていってましたね……」
そうしてやって来たのが合宿所の施設の裏手に回ったところにあるプールへとやって来ていた。
「……これ、本当にやるの?」
コハルが思わずそう呟いてしまったのも仕方ないだろう。
見るからに放置されていましたと言わんばかりに伸びきった雑草。
プールサイドにひしめく苔の数々、おまけに水抜きされて久しいプールそのものには落ち葉やら苔やら黒ずみやらで目も当てられない状態になってしまっている。
「あはは、これちゃんとやったらどれくらいかかるんでしょう……?」
「少なくとも2〜3時間は覚悟したほうがよさそう。たくさん食べたし、食後の運動にはもってこいだね」
「えっと、ミハネ院長は着替えとかないですよね?私たちは体操着を着てますけど……」
「まあ、やるっていった以上やるよ。制服も汚れたらクリーニング出せば良いだけの話だしね」
「ふふっ、ミハネさんはやる気ですね♡それに、施設の中も周りの雑草も綺麗にしたのにここだけそのままなんて少し寂しくありませんか?」
「確かに、この大きさだ。きっと使われていた頃はたくさんの人たちの賑やかな声が響き渡っていたことは容易に想像できる」
まるで過去を思うかのように、アズサは瞳を閉じる。
当時使われていたであろうビート板や用具室に放置された浮き輪。
プールサイドに設置された監視台やパラソルにサマーベッド。
使う人がいなくなって久しい物品の数々が、ここがかつて賑わっていた場所であることを如実に語っていた。
「それでも、こんなふうに変わってしまうんだ。『vanitas vanitatum』───それがこの世界の真実」
「……?」
「なに、それ?」
「古い言葉ですね。『
ハナコが、ヒフミがコハルが……アズサがかつて賑わっていたであろうプールを見渡す。
確かに、確かにそうなのだろう。
どれだけ人が溢れていた場所だとしても、どれだけ笑顔が溢れていた場所だとしても───刻の流れとは、とても残酷で、虚しいものである。
───だが、例えそうだとしても。
「例え、どれだけ虚しくて悲しいことでも、それが自分の意思を……目的を諦めることへの理由にはならないよ。それはこの場所が寂れているから2度と賑やかにならないという理由にもね」
アズサの瞳が、大きく見開いた。
それは自身のポリシーに似た考えを持っていたというのも勿論ある。
だが、だがそれ以上に、何かを決めた顔が……誰かを探し求めているような顔が、あまりにも自分の知っている人間に似ていたから。
そういう人間は強いことをアズサは知っている。
自分を
─── 何か困ったことがあったら司法院の朔月ミハネを頼れ。
彼女が何故そう口にしたのはわからないが、その横顔だけでアズサにとってミハネは信用に足る人物だと認識したのだ。
「……そう、だな。うん、そうだ……間違いない」
「だからまずは……此処を綺麗にしちゃおうか!」
「せっかくなので、掃除して水を張ってみんなで遊んじゃいましょう!」
「で、でも!私たちは勉強しに来たのであって……」
「もう午前中も清掃で潰しちゃったんだし、此処掃除し終わったら大して変わんないわよ!ほら!さっさと着替えて此処にまた集合!」
「みんなちゃんと水着に着替えてくるんだよー」
ハナコに、コハルに連れられてアズサとヒフミが合宿所の方へと消えていく、サリナもそれに倣ってミハネと先生に一礼してその場を後にした。
残ったのは体操着姿の先生とそそくさとスラックスの裾を膝の高さまで折り上げて白いワイシャツの袖を邪魔にならない位置まで捲っているミハネのみとなった。
「ちなみにミハネはその格好でやるのかな?」
「はい、そうですけど?」
「えっとその……濡れたりしたら、大変じゃないかな?」
先生の言葉に、ほんの僅かだがミハネの動きが止まった。
何が大変なのだろう、と考えてみても思い当たるのは一つしかない。
「ああ、下着ですか。構いませんよブラジャーが見られるくらい。ショーツが見られるのは流石に嫌ですが、それとも先生は生徒の下着を見て欲情するような方なのですか?」
「そうならないように努めてはいきたいと思ってるよ」
「なるほど、では私が付けているのは水着だと思えば良いんです。最近の水着は可愛らしい物も多いですからね、下着に似た水着だと思ってください」
「暴論だね。まあ、そういうことならそういうことにしておこう。私もあまりミハネのことは見ないように気をつけるね」
「そうしてください、因みに……私の他に浦和さんにも気をつけたほうがいいですよ」
「…………なるほどね」
みんなが着替えてくるまでの十数分の間、散水ホースやデッキブラシをはじめとした掃除道具を準備しながらミハネと先生の2人は和気藹々と雑談を楽しむのだった。
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