お陰で作者のモチベは鰻登りです。
補習授業部の面々がプールサイドに戻ってくると、そこにはデッキブラシを手にプールの中を駆け回る先生とミハネの姿があった。
最も、その光景だけならばまだ補習授業部の皆んなも“先に始めていたんだな”と納得できていただろう。
だが、目の前に広がっている光景はいったいなんなのだろうか。
「はあぁぁぁぁああ!!」
「やあぁぁああああ!!」
物凄い速度でプール内をデッキブラシで磨き上げながら駆け抜けるミハネと先生、それも……このキヴォトスの人間でない先生がミハネと並走しながらミハネに勝るとも劣らない速度で的確に汚れを落としながら疾走している。
「やりますね先生……!私と同等の速度でこうまで綺麗に磨き上げてくるとは!」
「ミハネもなかなかやるね、正直な所ここまで掃除が得意だとは思わなかったよ!」
どこかおかしいその様子を着替えて来た5人が呆けた瞳で眺めていた。
見たところ2人が駆け抜けたところはプールの1/5といったところだろうか、だが……それにしてもおかしいだろう。
自分たちが着替えて戻ってくるまでに清掃用具を準備していたであろうことは容易に想像できる。
現にプールサイドには散水ホースや人数分のデッキブラシをはじめとした清掃用具が綺麗に並べられているのだから。
それで何故プール内を爆走しながら競争まがいのことをはじめているのだろうか。
「───何をやっているんでしょうか、先生とミハネ院長は……」
「あ、あはは……何やら楽しそうですし、それでいいのでは?」
「一切無駄のない綺麗なコーナリングだ。それに見たところ汚れの落とし損ないも見当たらない……司法院長は掃除一つとっても完璧か」
「確かにミハネ様はなんでも出来そうだけど……あれはおかしいと思う」
「“みなさんに早く楽しんでほしいから”と準備を終えてすぐにプール内に飛び込んで行ったまでは良かったんですけどね……気がついたら競争が始まってて……」
いち早く着替えを済ませて戻って来たハナコが何故こうなったかの一部始終を伝えると全員がなんともいえぬ表情になった。
「まあ、あのお二人ならそういう考えも理解はできますが……」
サリナの尊敬するミハネという人物は可愛い後輩たちのためになる事ならば全力でこなして喜ばせようとする人柄だ。
そして先生は自分の生徒の為ならば自分に出来ることを全力で行うという人なのは此処にいる全員が知っている事だった。
先生とミハネは似ているのだろう。
ただ、その対象の範囲が違うというだけで。
「何はともあれ、これでみんなびしょびしょになっても構わないという事ですね♡」
「うん、問題ない」
「まあ、一応そうなりますね……」
「さあ、それじゃあ私たちも先生とミハネ院長に合流して───」
「待って待って待って!?!?」
全員がブラシや散水ホースを片手に2人に合流しようとしたところをコハルがストップをかけた。
何かおかしいところなどあっただろうか、と首を傾げたのはハナコ。
ズンズンとコハルがハナコとの距離を一気に詰めて彼女の眼前に立ちはだかる。
そう、何を隠そうハナコは体操服から制服に着替えて来たのである。
大事な事だからもう一度伝えるが……
彼女1人だけ制服を着込んでいるのである!
「コハルちゃん、どうしましたか?」
「あんた掃除の時は水着で、どうして今度は制服なの!?本当にバカなの!?濡れても良い服ってあんたいってたじゃない!!」
「えぇ、ですからこれが濡れても良い服ですよ?」
「は、はぁ!?!?!?」
制服を見せつけるように軽く一回転して見せたハナコにコハルはパンク寸前の頭で、それでもなんとか口を返した。
「もうあんたが何いってるのかわかんない!!制服が濡れても良いの!?」
それはそうだろう、普通濡れて良い服装と指定されて制服を着てくる人などこのトリニティに於いてほぼ……いやキヴォトス全域でみたとしても100%に近い数いないはずだ。
視界の端で今も尚、先生と並走しているミハネは今回は兎も角として事前に濡れても良い服装に着替えよ、といわれて制服を着てくるなど普通の観点から見ればあり得ないだろう。
「なるほど……ですが、コハルちゃん。これは各々の美学の問題かもしれません」
「えっ……美学?」
面白そうにコハルを見ていたハナコだが、その表情を急に真剣なものに変え、唐突にそう言い出したのだ。
「水着と制服……濡れた時により『イイ感じ』になるのはどっちでしょうか?」
「───は?良い感じ……?急になんのこと言ってるのか全然わかんないんだけど!」
「ふむ、ではサリナちゃん。ミハネさんの姿を見て……水着と制服なら……どちらが『イイ感じ』に見えますか?」
「そんなの制服姿に決まってる!!!!!」
即答だった。
現にサリナの目の前を走り抜けていったミハネの白いワイシャツは彼女の汗で若干透けはじめていて黒い下着が見えはじめているのだ。
一つ補足しておくことがあるとすれば、彼女はミハネの右腕である前に1人の生徒としてミハネ自身が最推しの人間である。
普段の思考ならそれとない返事を返すか軽くあしらう程度で済ませるはずだが、何せハナコの聞き方が悪かった。
「あんたはあんたで何言ってんのよ!!」
「あ、あはは……」
もちろん、ミハネが水着姿であったならサリナの答えは反転していたであろうが……それを込みでサリナに聞いたのだから流石は幼馴染といったところだろう。
「まあ、半分は冗談だとして……制服の中にはちゃんとお小遣いで買ったビキニを着ているんです♡」
「え、えっ……?」
「先程、コハルちゃんに『水着の着用禁止』を言い渡されてしまいましたし……確かにこの場合はスクール水着が鉄板なのは間違いないのですが……今日はこれで許してもらえますか?」
ハナコがその短いスカートを少し上げれば彼女の私物らしい水着が確かに着用されていた。
それなら、いいかとコハルは納得しかけたが……それなら別に制服を上に着てくる必要はあったのだろうか、コハルは訝しんだ。
「それに……スクール水着は今洗濯中でして、これがダメとなると私、下にはなにも……」
「わあぁぁ!?!?わかったから!だから脱ごうとしないで!?もうそれでいいから!!!!!」
「ふふっ……ではそういうことで♪」
制服の下に着ているビキニの紐に手をかけたところでコハルが慌てて制止した。
ハナコ的にはそのまま引っ張ってしまっても良かったが、どちらにしても許可が出たのならそれで良かった。
改めてデッキブラシを手に取って、水がいつでも出せるようになっているホースを手に取り、彼女はいつになく楽しそうな笑顔で声を上げた。
「それでは、お掃除を始めましょうか!」
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結局のところ、なんだかんだ遊びながら行ったプール掃除は水を張り終わったのは陽が落ち、夜の帳が下りた頃だった。
補習授業部も先生もミハネも、普段の煩わしい日常を忘れられるほどに大いにはしゃぎ、年相応の少女たちのように笑った。
すっかり暗くなってしまったプールサイドをナイターでプールを運用するためのライトが照らし、確かにまだ蒸し暑い外気を誤魔化すようにプールに脚を入れて涼んでいた。
「下江さんも流石に疲れたかな」
「う……んん……ミハネ、様……ただ、ちょっと……疲れた、だけで……」
「うふふ、たくさん遊びましたからね。疲れてしまうのも仕方ないです」
ハナコの肩にもたれかかりこっくんこっくんと船を漕ぐコハルを見ながら補習授業部の皆は微笑む。
それぞれが、このように己の立場を忘れて遊べる機会などこの先を見てもどれだけあるかわからないほど遊んだ。
デッキブラシ掛けで競争を行い、手に持ったホースで水を掛け合って笑い合い、清掃を終えてからは何処からか取り出した水鉄砲でミニ対抗戦なんかが始まったりして。
「これで、明日からは気兼ねなく勉強に向き合えますね」
「うん、今日の楽しかった思い出があれば……どんなことにだって立ち向かえそう」
「みんなで合格したらまた此処で遊びましょうね!」
「それなら、まずはティーパーティーに申請しないとだね。施設の貸し出しは司法院じゃなくてティーパーティーの管轄だし」
各々が思い思いに楽しんだ今日を振り返る。
なんてことない……普通の学生のように楽しめたことが何よりも大切なことでもあるように。
「…………」
「……ミハネ?」
「先生、少しお時間いただけますか?」
「もちろん」
今日一日、先生と過ごしてミハネの中に存在していた先生への苦手意識はかなり薄れていた。
サリナが先生に向けて信頼の眼差しを向けていたのはもちろん大きいが、それでも本気で生徒たちと向き合い、全力で一緒に楽しんだ彼を見てこの人は“
生徒に寄り添い、生徒のために全力を尽くすこの人になら信頼して
何はともあれ、まずは消灯の時間を迎えた後にまたこのプールサイドで待ち合わせということになった。
生徒マテリアル
朔月ミハネ。
生い立ち:
トリニティ自治領内における大企業『朔月グループ』の令嬢
また同じく大企業の『聖園化粧品』の令嬢である聖園ミカとは幼馴染の関係でもある。
性格:
公の場では基本的に敬語を使用しており、目上の人間にはそれなりの態度を持って接することを心掛けている。
親しい友人や自分の属する司法院の後輩達と共にいる時は穏やかな表情をもって接しているようだ。
また、特別親しい人間のみ名前で呼ぶことが多く、それ以外の人や嫌いな人は基本苗字呼びをする。
人間関係:
基本的には学内、学外に顔が広い。
その立場上ミハネは各組織、各学校のトップ層との交流が多い。
好きなもの
ミカ、サオリ、司法院の後輩たち、料理。
嫌いなもの
百合園セイア、私欲の為に人を貶める大人。
作品に対しての感想や高評価も常時お待ちしております。