ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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どうやら再び二次創作日間の方にお邪魔させていただいてるみたいで慌てふためいております。




第十二節 秘密の会談

 

トリニティ総合学園 補習授業部合宿所 屋外プール

 

時刻は既に23時を回っていた。

深夜のプールに照らされるのは男女2人の陰。

つい数時間前まで賑わっていたプールには不気味なほどの静けさが漂っていた。

 

「やあ、待たせたかな?」

 

「いえ、私もちょうど来たところでした」

 

一度司法院へと帰ってシャワーと着替えを済ませてきたミハネはいつもの司法院の制服であるスーツへとその姿は変わっていた。

アビドスで出会った時に持っていた二丁の銃、そしてあのアビドスで出会った時にはなかった腰の後ろで吊られている漆黒の剣。

 

「ミハネは銃の他に剣も使うんだ?」

 

「ああ……これは実戦で扱うことはほとんどないんです。もし実力を行使することになっても銃だけで事足りますからね」

 

「じゃあ、どうして持ち歩いてるの?」

 

「……そうですね、先生になら話してもいいでしょう」

 

ミハネは1度目を瞑り、すぐに真剣な面持ちで先生に向き合う。

そして、自身の頭上……つまりは彼女のヘイローを指差して口を開いた。

 

「まず大前提として私たちキヴォトスの生徒には『神秘』というものが内包されています。銃弾で撃たれても“痛い”という感覚だけで済むのはこれが起因しているといわれていますね」

 

「神秘……」

 

ミハネの口から出たその単語に、先生は思わず顔を顰める。

先程話題にあがったアビドスの一件、それは先生やアビドスの生徒達にとってはホシノの神秘を巡る戦いでもあったからだ。

 

「勿論、生徒が内包する神秘の強さは星の数ほど存在しますが……明確に私たちが持つ力……その起源というものは存在します。私の場合はそれが顕著にヘイローに現れているんです」

 

「ミハネのヘイロー……天秤の形をしているよね?」

 

ミハネの頭上に浮かぶヘイローは天秤の形を有している。

左右の秤の上にはまるで魔術師の杖のようなものと杖のようでもあり槍のようにも見えるものが乗せられている。

 

「ええ、天秤自体は大した問題ではないんです。その天秤は私自身を表していて、左右にある杖にこそ私に宿る神秘が発露しているんです」

 

そう口にして、ミハネは腰にかけた剣を抜いた。

現れたのは漆黒の西洋剣、ただその刀身には美しい青白い紋様が浮かんでいる。

そしてそれと同時にミハネの頭上のヘイローに変化が起きた。

天秤の秤が杖の方へと傾いたのだ。

 

「……ヘイローが、傾いた?」

 

「ええ、私には二つの神秘が宿っています。こうして剣を抜いた時には左側へ、そしてこの剣を杖に変えた時は右側へ。私が扱える神秘もその傾きによって変化しますね」

 

そう説明しながら、握っていた剣が漆黒の魔槍へと姿を変える。

それと同時にミハネのヘイローが今度は目の前の槍と同じ形の方へと傾いていく。

真剣な話をしている最中だが、先生の視線はミハネのヘイローと槍へと釘付けだった。

 

「ごめん、すごく真剣な話をしているのはわかってるんだけど……抑えられないから一言いいかな?」

 

「……?ええ、もちろん構いませんが」

 

「ほんと!?じゃあ言わせてもらうけど、その槍もミハネのヘイローもカッコいいなぁ!?」

 

男の子(先生)大爆発である。

もともとこの手のギミックというか可変武器というか剣にも槍にも杖にもなる武器なんて先生の大好物のド真ん中である。

更に追い打ちをかけたのがその傾く天秤のヘイロー。

20代も半ばの先生だが、常日頃から生徒たちの多彩なヘイローを見て自分にもカッコイイヘイローが欲しいなどと思っていたところにまさかの天秤の秤が動くミハネのヘイローだった。

 

「いやごめん!気持ち悪いかもしれないけどミハネの武器とヘイローみたいなのが嫌いな男っていないんだよ!」

 

「なるほど……では少し持ってみますか?」

 

「いいの!?!?!?!?」

 

自分の身長を優に超えるその魔槍を先生に差し出せばその瞳をキラキラと輝かせながらまるで子供のような笑顔で手に取った。

 

「さっきの剣の部分は先端に来てるんだね。見れば見るほどすごいなぁ、剣に槍、杖に……形的にはハルバートにも見えるなぁ」

 

下手をするとこのキヴォトスに来て一番テンションが上がっているまである。

彼が集めていたのはこういうギミックのある玩具だったり高級フィギュアだったりするわけだが、目の前に本物があるとくればそれはわからないでもなかった。

かくいうミハネも物心ついた頃には手元にあり、この可変ギミックを知った時には思わずテンションが上がったものだ。

ミハネが幾度かその形を変えたことでその都度、少年のような反応を見せた先生だが、一通り見て満足したのかミハネに槍を返してきた。

 

「うん、ありがとう。久しぶりにここまでテンション上がったよ」

 

「見ればわかります。満足していただけたようで良かったです」

 

「話の腰を折っちゃってごめんね。それでこの槍とミハネのヘイロー。それが密接に関わってるのはわかったけど……神秘を扱うってミハネは言っていたよね?」

 

そう、先生が先程ミハネの言葉で引っかかったのはそこだった。

“神秘を扱う”それは一般の生徒では出来ることではなく、神秘を研究しているゲマトリアが欲しがっている情報でもある。

 

「はい、私に宿っている神秘は二つ。そしてこの神秘を扱う為に私はこの魔槍を基本的には持ち歩いています……具体的にどのようなものかは、見せる機会がない方が良いんですけどね」

 

「ちなみになんだけど、ミハネがそれを使うような事態って……」

 

「身近なことでいえばですが……ミカと本気で戦うことになれば膂力では勝てませんからね。そうなれば私は神秘を使って戦うと思います。もっとも、ミカ自体も自身の神秘を使うことのできる子ですから周囲の無事が保証できませんけど」

 

トリニティ郊外に空いている大きなクレーターを思い出してミハネは思わず身震いしたが、それを先生が知っているはずもなく不思議そうに首を傾げて、ひとまず頷いた。

 

「……まあ、本題はこれではないんです」

 

「あっ、そうだよね。でも、私に取っては生徒のことを知る上でとても大切な知識だったよ。ありがとう」

 

「いえ、近いうちに私がなぜこのようなことを知っているかもゆっくりとお話しできればとは思いますが……今日のところは夜も更けてきましたから本題に入りましょう」

 

「うん、ミハネが話したいのって……補習授業部が設立された意味。“トリニティの裏切り者”について、だよね?」

 

ミハネが一瞬驚いたような顔をしたがすぐに肯定の意思を示すように頷いた。

 

「既に知っていましたか」

 

「うん、ナギサにもし3回試験に落ちたらどうなるか聞きに行った時に、ね」

 

先生の表情に影が落ちる。

トリニティの上層部、つまりティーパーティーから説明を受けた時に司法院からの協力者、サリナがいると聞いた時からその部活の創設にミハネが関わっているのは知っていた。

だからこそ、先生はミハネが補習授業部の退学に同意しているということを信じたくはなかった。

 

「先に言っておけば、私自身も補習授業部の設立に関して同意はしています。補習授業部についての説明を桐藤さんから受けて受理の判子を捺したのは私ですから」

 

「……っ!」

 

「それに、3回落ちた場合の退学についても了承はしています。それについては“トリニティの裏切り者”以前の問題で素行不良という点に於いてのみですけど」

 

「つまり、ミハネ自体は“トリニティの裏切り者”に興味がないってこと?」

 

「いいえ?本当にいるのならばエデン条約締結まで徹底した監視を行います。それに補習授業部に該当する生徒がいるかもしれない、と桐藤さんがいうからこそサリナを此処に出向させています」

 

先生の見ていた補習授業部は落第からの脱出へ向けて必死に向かっていく生徒たちだった。

だからこそ、先生はあの夜にナギサに向けて『自分のやり方で対応する』と啖呵を切ったのだ。

 

「ごめんミハネ……裏切り者探しをしてほしいというなら……」

 

「話は最後まで聞くものですよ?」

 

「うぐ……」

 

断りを入れようとしたその口を、ミハネの細い人差し指が押さえた。

柔らかいその感触が唇から離れたのを少しだけ惜しく思いながらもミハネの言葉を待つ。

 

「司法院からサリナを出向させたのはあくまでも公平性を保つ為。ティーパーティーが彼女たちを学内の権力とシャーレの特殊権力を巻き込んでまで退学に追い込む為だというのなら、私たちは彼女たちだけが不利にならない状況を作り、彼女たちが本当に“裏切り者”であるか見極める為です」

 

「……」

 

「だからこそ、ティーパーティーの判断が正しいのか……それともただの暴走であるのか。自分の目で見極める為に私も今日半日共に過ごしたし、正しい判断が欲しいから私の最も信頼するサリナを補習授業部に付けさせているんです」

 

「そっか、ミハネはどちらの味方でもないんだね」

 

「……気持ちだけならば、あの子達に付きたいとは思います。私が見るだけでもあの子達が“裏切り者”とは思えない。けど……それが私の役割なんです」

 

そこで、一度ミハネの言葉がとまる。

ゆっくりと深呼吸をして、まるで蒼穹をそのまま落とし込んだような瞳が真っ直ぐに、先生の黒曜の瞳を射抜いた。

 

「だから、先生。サリナが信頼する貴方に、私が信用したい貴方だからこそ……補習授業部の子達を、落第以外のより良い結末へ導いて欲しいんです」

 

その言葉は、その言い回しは、何処かで聞いたような錯覚を覚えた。

 

 

─── 私が信じられる大人である、あなたになら。

 

 

─── この捻れて歪んだ終着点とは、また別の結果を……。

 

 

ミハネの姿が、この状況が……いつかの場面に重なった。

場所も何もかも違う、夜のプールと朝焼けの電車内。

自分の目の前にいる少女ですら、全くの別人であるのに。

明確な記憶ではない、ぼんやりと霧がかかったようなそんな記憶であるはずなのに、どうしても目の前の少女とあの少女が重なった。

 

「もちろん、その為に……私は此処にいるんだから」

 

返す言葉など、はじめから一つしかなかった。

生徒からの心からの願いであれば、他でもない“自分”を信頼してくれる目の前の少女の願いであれば……断ることなどあり得なかった。

 

「ありがとうございます。私は立場上、先生だけの味方をすることはできません……もちろんティーパーティーの味方をするつもりも。なので覚えておいてください。私たち司法院は『中立』ではありますが、必要があれば私たちは銃を取り戦うことを選びますので」

 

「……うん、心に留めておくよ」

 

「はい。それじゃあ、今日は解散にしましょうか。先生も明日から引き続き補習授業部とサリナをよろしくお願いしますね」

 

「ミハネこそ、あまり思い詰めないで私に出来ることは少ないかもしれないけど相談して欲しい。私はみんなの先生ではあるけど、ミハネ……君の先生でもあるんだから」

 

「ふふっ、覚えておきます。それじゃあ先生、良い夜を」

 

「ミハネも、今日ははしゃいだからね。ゆっくり休んで」

 

プールから立ち去るミハネを手を振りながら見送り、先生は大きくため息を吐いた。

 

トリニティも一枚岩ではないというのは知っていた。

だが……年相応の輝くような笑顔を見てしまったからにはあの笑顔を曇らせるわけにはいかない。

誰かの味方をするということは、誰かの味方をしないことだと……そんなのわかっている。

 

だとしても……例え、そうなのだとしても。

 

「私は私の手の届く範囲の生徒を明るい道へと導いてみせるさ」

 

あの輝くような星に手が届かなくとも、この地上で煌めく星を導ければそれで良いのだ。

 

 

 




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