ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

25 / 42
この作品を投稿し始めてはや二十数話、やっと第一章が終わりを迎えました。
次回からは第二章に突入するのもあって戦闘描写なんかも増えてきそうですね。
引き続きご愛読いただけるように努めていきたいと思っています。

それでは本編をどうぞ


第十三節 トリニティの裏切り者

 

合宿の2日目、その日程もコハルの成人向け雑誌の騒動以外は特に何か問題が起こることもなく終わり、各々がシャワーを浴びて就寝の準備へと入っていた。

 

サリナも例に漏れずつい先程シャワーを浴び終えて今は自室として与えられた部屋で今日1日で数回行った模擬試験の答案の中からそれぞれ苦手であろう科目と分野を絞り出している最中だった。

 

「……ヒフミは総合的に出来るけどどれも物足りない感じ。逆にコハルは全部微妙。アズサは古語に関しての点数は少し高いかぁ」

 

もっともヒフミに関しては点数の振れ幅こそ広いものの今日行った模擬試験では一応全部合格の基準値にはいるのだ。

明日の試験では特に苦手な分野を纏めた模擬試験を出すつもりでいる為、こうして今日やった全部の模擬試験の結果を見返しているわけだ。

 

「ハナコぉ……」

 

自分の幼馴染の答案用紙は何処を見てもふざけているようにしか見えなかった。

例えば数学のグラフの問題。

単純に計算をして点を打ち、線をつなげて三角形を作れという初歩的な問題なのにも関わらず馬鹿みたいに難しい計算式を並べた挙句、出来上がったのはハートマークでした、なんて解答をしてくる。

例えば国語の文章の抜き取り問題。

そういうのは大抵、問題文から4〜5行の間から適応するであろう文章を抜き取って解答するのがセオリーではあるが、彼女の場合は作品全文を記憶していて問題用紙に記載されていない部分から抜き取ってくるのだ。

 

そんな解答をほぼ全ての模擬試験でやってくるのだから頭を悩ませるのは仕方ないことだろう。

しかもその全てがあながち間違いではないというか、数式に関しては問題と全く関係ないことを考慮しても正解しているのだからタチが悪い。

 

「やる気がないのは分かるんだけど、もう少し頑張ってもらわないとダメなんだよね」

 

合宿が始まる前の司法院長室でミハネに告げられた真実が頭を過ぎる。

 

『三回の試験に不合格だった場合は補習授業部の生徒達は退学処分になる』

 

もちろん、それはおかしなことだとミハネに反論した。

退学処分に必要な手続きは最低でも1ヶ月以上掛かる面倒な工程を踏まなければならず、ティーパーティーでの申請から司法院での厳重な判断という工程を経てミハネの元へと通されて結果が下る。

そんな、いくら落第から脱却するための試験を落ちたくらいで退学になるなんてあり得ないとミハネを敬愛するサリナらしからぬ意見を述べたのは記憶に新しい。

 

「……エデン条約を破却させようとする裏切者?あの子達が?」

 

サリナが納得できるようにとあの日、ミハネは全てを語ってくれた。

補習授業部はエデン条約を破却させようとする容疑者の集まりであり、そもそも『退学させる為』の部活であること。

ティーパーティーからの特殊な形での部活の創設であり、シャーレの権限を一部組み込むことで面倒な手続きを省いて退学させることができる仕様になっているのだと。

その打診をティーパーティーにされた時、補習授業部のリストを見てその可能性が低いと感じたからこそ、彼女達がただ退学の運命を辿るだけではないようにサリナを此処に出向させたのだと。

 

ティーパーティーに対しては彼女達が裏切者であるか否かをミハネの最も信頼する部下に見極めさせる為、そしてミハネの本心としてはこの様な理不尽な現実に立ち向かうための意思を育てさせるため。

包み隠さずに語ったミハネの瞳がほんの少しだけ揺れていたのは今でも覚えている。

 

ティーパーティーという組織を元からサリナは好んでいなかった。

ミハネと幼馴染であるミカのことは個人的に好んではいるものの司法院という立場からもあの三大派閥の長が取り仕切る生徒会というのがこの上なく気に食わなかった。

 

『この話を聞いたサリナがどう動くか、それはサリナに任せるよ。犯人探しをするのならばそうすればいいし、あの子達を信じ続けるならそうしたらいい。けど……どちらかを選んだ以上、それを貫き通すんだよ?』

 

「わかってます、ミハネ院長。私は……」

 

不意にコンコンッと部屋の扉がノックされる音が響いた。

時間を見れば時刻は22時を回っていて、予定の時間だったかと思い出す。

 

「どうぞ、入ってきて」

 

扉に向かって声をかければ控えめに扉が開いて室内に入ってきたのはヒフミと先生だった。

 

「夜遅くにごめんね」

 

「サリナちゃん、今日もよろしくお願いします」

 

「全然気にしないで。さぁ、明日の段取りを始めよっか」

 

先程まで睨めっこしていた模擬試験の結果とそれぞれの苦手な場所を纏めたデータを持ち出して部屋の中央に設置してある4人用のダイニングテーブルへと向かったのだった。

 

「あ……そうだサリナちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「えっと、ハナコちゃんのことなんですが……」

 

非常に言いにくそうに口を開いたヒフミは、いくら幼馴染とはいえこんなことを聞いてもいいのかと次の言葉を口にできないでいた。

 

「その様子だと、去年のハナコの解答用紙見たでしょ」

 

「えぇと……はい」

 

「去年のハナコの解答用紙……?」

 

「……サリナちゃんと模擬試験の問題を作るにあたって、模範解答を集めている最中に、なんでか束になって保管されているものがあったんです。珍しいから保管されていたのか、理由こそ分かりませんでしたけど……昨年の試験、1年生から3年生までの全ての試験における解答用紙が纏まっていました……どういうわけかその全てを満点で回答した方がいた様でして……」

 

話の流れから察することができたのか、先生は目を見開いて手元にある1人の生徒の解答用紙に視線を落とした。

やけに高度な計算をして不正解を叩き出したり、問題用紙に書き出されていない全く関係ない場所からの引用をしたりと不思議な子だなとは思っていたのだ……

 

「それが……ハナコだった?」

 

「はい、そうでした。ハナコちゃんは去年の1年生の段階で、3年生の秀才クラスでも難しいとされる過程を含めて『全ての試験』で満点を出しています。……完膚なきまでに秀才、と言えるレベルです」

 

「ごめん、ヒフミ。その言葉、絶対にハナコの前では言わないで欲しいんだ。“秀才”って言葉はハナコにとっては褒め言葉じゃなくて呪いみたいなものだから」

 

秀才という評価がヒフミの口から出た瞬間、サリナは思わずそんなことを口走っていた。

去年の表情の消えていく彼女の姿を知っているからこそ、ようやく笑い始めたハナコにその言葉は聞かせたくなかった。

 

「幼馴染の私から見ても今のハナコはこのテストで『遊んでる』ようにしか見えないのは確かなんだ。ヒフミや先生が思っているような『今年になって急に成績が落ちた』訳じゃない。ハナコは合格しようと思えばいつでも満点で合格できるラインに立ってるんだよ」

 

「だったら……どうして……」

 

「それがわかれば、私だって苦労してないんだけど……」

 

「そこを含めて、私たち3人の課題になるのかな」

 

大きくため息を吐いた3人の夜は長い。

ハナコの話題もこのあと少し続いたが、時間が掛かる明日の段取りに舵を切るまではそんなに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

****

 

翌朝、合宿所屋外プール

 

「わぁっ!水が入ってるー!あはっ、此処に水が入ってるのなんて久しぶりに見たなー。もしかしてこれから泳ぐの?それともみんなでプールパーティー?」

 

先生を早朝からメッセージで呼び出した相手は一昨日、補習授業部のみんなとミハネで遊びながらも清掃をして水を張ったプールサイドでその脚をパタパタと水に浸けながらはしゃいでいた。

 

「お待たせ。用件を聞いてもいいかな?」

 

「えへへ。先生は上手くやってるかな、って思って」

 

「ティーパーティーや司法院のお陰でね。ミハネも一昨日来てくれてね。このプールの清掃も手伝ってくれたんだ」

 

「えー!?なにそれ私誘われてなーい!」

 

脚をバタつかせて水が跳ねる。

ちょっとご機嫌斜めです、と感情をそのまま表現するのは彼女のその素直な性格のものだろう。

しかし、すぐにミカはプールを見回し、綺麗に清掃された合宿所の方を見つめる。

 

「にしてもナギちゃん、ずいぶん入れ込んでるみたいだね。こーんな施設まで貸し出しちゃうなんてさー」

 

「それはどうかな。目の上のたんこぶみたいなものかもしれないよ?」

 

「先生も面白いこと言うね?ところで合宿の方はどう?遠いのをいいことに、何か楽しそうなことしたりしてない?例えばみんな水着でプールパーティーとか!」

 

「まあ、それに近いことはしたけど」

 

「何それ!詳しく聞きたいかも!!」

 

まあ、それもさっき口にしたミハネが来た時の話になるのだが、彼女はミハネのことであればなんでも聞きたがるだろうとあの日のことを軽く話してみれば案の定楽しそうに聞いて、楽しそうに笑っていたのだ。

 

「はぁー、おっかしぃー!ミハネちゃんとプールの汚れ落として並走したって先生何者なのー?」

 

涙を堪えながら笑うミカはひとしきり笑ったあと呼吸を整えて「じゃあ、本題に入ろっか」と軽く咳払いをする。

 

「先生さ、ナギちゃんに取引とか提案されなかった?」

 

「……取引?」

 

「うーん、具体的には『トリニティの裏切り者』を探して欲しい、とか?」

 

思わず先生の纏う空気がヒリついたのをミカは感じた。

これは、言葉の選び方を間違えたかな。なんて少し感じたが、それ以上に的確な言葉選びがなかったのも間違いではない。

 

「まぁ、やっぱりそうだよねぇ。ナギちゃんったら、予想通りなんだから。何か詳しい情報とかは?そう言うのは何もなしで、ただ「探して」って言われた感じ?理由とか目的とか、どう言う理由で選ばれたメンバーとかも全くないの?」

 

「───ミカ」

 

「何も教えずに先生にこんな役割押し付けるなんて……」

 

「その提案は、断ったんだ。ミハネにもその話はしたよ」

 

思わずミカが言葉を飲んだ。

思わぬ所から出てきた幼馴染の名前にほんの少しだけミカの瞳が揺れる。

 

「それに、生徒を疑う、疑わない以前に……それは私の役割とは違うからね」

 

「へぇ……?そっかぁ、確かに先生はシャーレの所属だもんね?トリニティとは本来関係のない第三者……なるほどね?まあ、私たちにとってはトリニティが世界の中心みたいな感じだからアレだけど、先生のそれは確かに正しいかもね?」

 

そこまで口にして、ミカは一度言葉を区切る。

そして、すぐにその金の瞳が先生を真っ直ぐに射抜いた。

 

「それじゃあ、先生は誰の味方?もしトリニティの味方じゃないならゲヘナかな?それとも連邦生徒会?ほんの少し前はアビドスやミレニアムにもいたよね?そうでないなら、誰の味方でもない……とか?」

 

それは、きっとミカでなくてもいつか誰かが問うであろうものだった。

先生として誰かの味方をするなら誰かの味方をしないこと。

立場が宙に浮いているような不安定さがあるからこそ誰もが先生がどこの味方をするかわからないという不安がある。

それでも、唯一……その答えを出す言葉があるとするならば。

 

「───私は、生徒達の味方だよ」

 

「…………ぁ、あぁー……。生徒達の味方、かぁ……そっかぁ……それは予想外だったなぁー」

 

視線を彷徨わせて、もう一度先生を見つめたミカは非常に言いにくそうに先生に再び問いかける。

 

「あ、あのさ……っていうことはその……先生は一応、私の味方でもある……って考えてもいいのかな?私も一応この立場とはいえ生徒であることに変わりはないんだけど」

 

「勿論、ミカも大切な生徒だし……私はミカの味方でもあるよ」

 

「わーお……さらっとすごいこと言ってのけるね、先生……でも、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいよね?だってそれは誰の味方でもないって解釈もできる訳だし?」

 

「確かに、誰かの味方をするってことは誰かの味方をしないってことだからね」

 

お互いに矛盾していることを話しているのは理解していた。

それと同時にミカは先生のその在り方は美しいものであるのと同時にその身をいずれ破滅へ導くものであるとそれとなく察してしまった。

その願いは、その理念は、人の身に余るものであると。

 

「まあ、だからそのまま受け取るんじゃなくて。私から先生に取引を提案させてもらおうかなって」

 

「取引?ミカから?」

 

「そう、補習授業部にいる裏切り者が誰なのか、教えてあげる」

 

プールに張られていた水から脚を抜いて、そのまま先生の正面まで歩いてきたミカは万人を魅了するような蠱惑的な笑みを浮かべ、思いもしなかった言葉を口にしたのだ。

 

「ナギちゃんのいうトリニティの裏切り者。今必死になって探してるその相手。実際はもう少し複雑で大きい問題でもあるんだけどね。ただ、このまま先生がナギちゃんに振り回されてるのを見てるのも、ちょっと申し訳ないなって。そもそも先生を補習授業部の担任として招待したのって私だって知ってた?」

 

「ミカが……?」

 

「まぁ、その辺りはどうだっていいよね。難しい政治の話になってくるし、トリニティ外部の先生に話せる内容じゃないしさ」

 

そして先生よりもほんの数歩進んでくるっと右足を軸にして先生の方へと向き直った。

 

「……そうだ、裏切り者の話だったよね?補習授業部にいるトリニティの裏切り者、その子の名前は───」

 

 

───白洲アズサ───

 

 

「アズサが……?」

 

目に見えて先生の瞳に動揺の色が窺えた。

流石に仕方ないかなとミカは肯定をしながらも今度はアズサについての話をするように切り替える

 

「うん、知ってるかもだけどあの子。トリニティ出身の子じゃないんだ。随分と前にトリニティから分かれた、分派……「アリウス分校」の出身の生徒なの。うーん、よく考えると『生徒』って呼んでいいのかもちょっと怪しいけどね。『何かを学ぶ』ということがない生徒のことを生徒って呼べるのかな?」

 

「───このことを私に伝える理由は何?」

 

鋭い漆黒の眼光が、目の前にいる少女を捉える。

本当ならば生徒相手にこのような視線を向けることなど先生として失格だということは理解している。

だが、それでもこの短期間でナギサにミハネとトリニティの上層部の生徒達からの接触と交わしてきた言葉を考えれば彼の視線が鋭くなるのも無理はないというものだろう。

だが、目の前の少女は……聖園ミカはそんな視線を受けて、ほんの少し笑ったのだ。

 

「ふーん?良い眼だね、本当に……期待しちゃう。先生はミハネちゃんと同じタイプの人間っぽいし、あれこれ誤魔化しても仕方なさそうだし……そうだね、端的に言おっか」

 

目の前の少女の圧に思わず先生は背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。

この少女は本当にミハネやナギサに構ってほしくて騒いでいたあの少女なのか分からなくなるほどに。

トリニティ内部で聞いた聖園ミカという少女の人物像を全てとしていたわけではないが、それでもこれ程のプレッシャーを感じさせるような子であるとは思ってもいなかったのだ。

 

「あの子を、守って欲しいの」

 

だが、彼女の口から紡がれた言葉は……彼の想像していたような言葉とはかけ離れたものだった。

 




皆様からの高評価や感想など常にお待ちしております!
作者のモチベーションの維持や作品の投稿頻度にかかわってくるかもしれません!



以下、何もかもうまくいった後の成人済みのif
幼馴染三人で飲み会に参加していた場合。

「うぅ……飲みすぎたぁ……ミハネちゃん、サオリぃ……肩貸してぇ……」

「お前は酒は弱いんだからあれほど飲みすぎるなと……」

「ミハネちゃんもサオリも美味しそうに飲むから……うっぷ、きもちわるい……」

「私もサオリもお酒強いけどそれと同じペースで飲んだらそうもなるよね」

「うぅ……もう絶対やらないぃ……」


尚、これでn回目
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。