遂に来たぞ、戦闘描写の現れる第二章……!
決して得意というわけではありませんがキャラクターたちを活かせる場の一つとして盛り上げていきたいものですね。
シーン的には前回の続きとなりますがよろしくお願いいたします。
第一証明
「あの子を、守って欲しいの」
目の前に対峙していたあの星を宿した金の瞳が間違いなく強者の圧力をこちらに向けていたのは決して気のせいなどではない。
だが、先程まで感じていたあまりにも大きなプレッシャーは嘘のように霧散していた。
「…………」
「……あー、ごめんね?ちょっと単刀直入すぎたかな?それともちょっと怖がらせちゃった?どちらにしてもナギちゃんの悪い癖が移っちゃったかな。戸惑ってる先生のために、もう少し始めの方から説明してみようかな?」
「そうしてもらえると助かるかな」
まずミカが語ったのはナギサにも語られた基礎的な部分。
パテル、フィリウス、サンクトゥスの三つの分派が トリニティの中心となってこの学園が創設されたということ。
だが、正確には救護騎士団やシスターフッドの前身を含めた大小異なる多数の派閥がいくつもあるのだということ。
その多くの派閥がお互いの派閥を敵視しあって小競り合いを繰り返していてそれを治める為に生まれたのが司法院という中立であり絶対的な裁決権を持った組織であったこと。
そして、当時の司法院長に就任した“朔月アヤハ”……別名を“雨の魔女”と呼ばれていた彼女が今のトリニティを形作った。
「朔月……?」
「そう、朔月。ミハネちゃんのずぅーっと昔のご先祖様だよ。そしてね、その人があの当時ですら一万以上を超える人の前で言ったの『私たちが戦う理由はどこにもない。ここに一つの学園を築こう』って。それから話をしようってなったのが“第一回公会議”なんだ」
「それは……どこかで聞いたことがある」
「そうだよね?その会議を経て生まれたのが、今の私たちがいる“トリニティ総合学園”。今でも分派だった頃の余波がないといえば嘘だけど、時代の流れってところかな?今ではもうそんなこと気にしてない子の方が多いはず」
その後もミカの説明は続く。
しかし、トリニティ総合学園が生まれた“第一回公会議”それは決して円満に話し合いが終わったわけではなかったのだという。
最後まで話し合いに反対し続けた分派があったのだ。
それがミカが先ほど口にしていた“アリウス分派”。
他の派閥の子達となんら変わらない一派閥だったという。
唯一違ったといえば経典関する解釈がほんの少し違っただけでその他は他の派閥との違いなんてほぼなかったのだとか。
だが、結果としてアリウスは連合を作ることに猛反対し……最終的には大きな争いに繋がっていったのだとか。
そうして、大きな力を持ったトリニティはアリウスを攻撃し始めた。
大きな力を持てばその力を試したくなる、それはどんな世界でどんな人間であろうと持つ自然な感情で隠しきれない本能でもあった。
それを試すには、アリウスはちょうどいい
来る日も来る日も、アリウスは徹底的に潰されて……そして、この トリニティの自治区から追放された。
「追放、という形を取ったみたいだけど……本当は当時の司法院長が逃したっていう話もあるみたい。彼女が言い始めたことがきっかけでアリウスが潰されたのは間違いなくて、心を傷付けて、それでももう誰にも潰されない場所に元々は彼女の故郷のあったトリニティの最果ての地に」
「……どうして、そんなことに」
「どうしてだろうね?本当は“仲良くしよう”って話だったのに、それに賛同できないなら潰しちゃえなんてさ、私がいうのもなんだけど短絡的で傲慢だと思わない?」
「……同時に、それを止められる人は居なかったのかな」
「止められないよ。止められなかったからアリウスを逃したんだから」
何処までも冷たい返答だった。
心を抉られるような、そんな話を聞いてしまって。
当時に自分がいたとしても“何か出来たか”といわれれば、それに対する答えは“何もない”というしかないだろう。
宗教の弾圧、というのはどの世界でも恐ろしいものだと先生は知っている。
それに近しいことが行われていたとなれば、それは対象を徹底的に潰すまで終わることがないのは確かなのだろう。
「まあ、そうして表舞台に姿を現さなくなって、今となってはその影すらも薄くなってしまった存在。私たちみたいなトリニティの上層部ですらその分派があったってことしか知らない。それがアリウス分校だよ」
「そして、アズサが……その、アリウス分校の出身……」
「うん。それでね、ここまで話を聞いた先生なら分かるかもなんだけど。この“エデン条約”ってね、さっき話してた“第一回公会議”の再現なの。トリニティとゲヘナ、大きな二つの学園が、これからは仲良くしようねって約束」
「……それ自体が間違いだとは思えないけど、きっとそういう話をしたいんじゃないんだよね?」
ミカがその話をわざわざした事に理由がないなんて思わない。
だって、“第一回公会議”の再現というのならば……その先に見えるのは……
「あはっ、話が早くていいね?先生も怪しいと思わない?ゲヘナとトリニティの武力のを合わせた
「……つまり、エデン条約は武力同盟と言いたいのかい?」
「そうだよ。ゲヘナとトリニティ、このキヴォトスでマンモス校と呼ばれる学校が武力同盟を……よりにもよって連邦生徒会長が行方不明っていう、こんな混迷の時期に。そんな大きな力を使って、ナギちゃんは何をしたいんだろうね?」
───連邦生徒会長に自分がなることも不可能ではない。
───ミレニアムという新しい芽を摘むことだってできる。
───他の学校を攻め落として無理やり統合させることだって可能だろう。
「細かい目的は知らないけどさ……でも、これだけはハッキリ言えるよ。そんなに大きな力を手にしたら、使わずにはいられない。自分の気に入らないもの、目障りなものは排除しようとする。それこそ、昔にトリニティがアリウスにしたみたいにね。またはセイアちゃんみたいに、ね」
「……セイア?」
ついミカが溢してしまったその言葉を先生は聞き逃さなかった。
セイアは体調がすぐれないから入院している、とここに来てすぐにそう伝えられていた。
「ううん、ごめんね。今のは失言だったかな」
「待って、今の流れでの発言は流石に聞き流せない。教えて欲しい、セイアに何があったの?」
「……前にお話しした通りだよ。セイアちゃんは、入院中なの」
「それが本当なら、何処にいるか教えて欲しい」
「うーん、先生は本当に知りたい?この話をしたら、もう私は戻れない。この先の事実を知った先生が、私のことを裏切ったら……私はもうそれでおしまい。それでも、先生は知りたい?」
「裏切るだなんて……」
そんなことない、と口にしようとした先生は彼女の瞳を見て……その言葉の続きを口にすることができなかった。
彼女の目に浮かんでいたのは恐怖と動揺と困惑がごちゃ混ぜになった不安定な色だった。
それでも、そんな感情をこちらに向けていても先に言葉を発したのはミカの方だった。
「……ううん、でも大丈夫だよね。だってさっき、先生は私の味方って言ってくれたもん。もしこれで裏切られたとしても、何て言うのかな……うん、それはそれで悪くないと思うな。えへへっ」
「裏切らないよ。これだけは絶対に約束する……なんだったらミハネの名前に誓ってもいい」
「あははっ!ここに居ないのにミハネちゃんに誓うの?先生ってこのトリニティでミハネちゃんの名前がどれだけ重たいか知ってる?」
「司法院長、トリニティの最高権力者、天秤の守り手、司法の番人……後は」
「雨の魔女の後継者。さっきまでの話を聞いた先生ならこの言葉の重み、理解できるよね?本当に、そんなミハネちゃんの名前に誓える?」
「誓えるよ」
迷いなく、即答した。
例えどんな重荷になろうとも、口にした生徒の名がトリニティという場所でどれだけ重たい意味を持つか事前に理解した上でその名前を出したのだから。
「……そっか、じゃあ教えてあげる。セイアちゃんは入院中なんかじゃないよ。ヘイローを壊されたの」
「…………っ!?」
「冗談じゃないよ。本当のこと。去年セイアちゃんは何者かの手によって唐突に襲撃された。対外的には「入院中」って事になってるけど……そっちの方が真実、私たちティーパーティーを除けば……このことは誰も知らない」
「犯人は……」
「捕まってないよ。それに、そんなこと何処にも言えるわけない。知ってるのは本当に私とナギちゃんだけ。まあ、うん。そういう事なんだよね」
動揺が隠しきれないのをミカも見抜いているのか、そのことをあまり喋るのが状況的に良くないのを理解しているのか、彼女はすぐに元の話題の方へと戻し始めた。
「まあ、話を戻すとね。“白洲アズサ”あの子をトリニティに連れてきたのは私なの」
「ミカが……?」
「うん、生徒名簿とかその辺りの書類を全部捏造してあの子を入学させたの。あっ、どうしてそんなことしたのって顔してるね?まあ、細かいことを省いて言っちゃえば、私はアリウスと和解したかったから」
ミカの中にある根底の願い。
幼い頃にしたトリニティを自分たちで変えるという3人の夢。
今は2人になってしまったが、それでもその根底の願いは変わらなかったのだ。
「確かに、アリウスは今でもトリニティのことを憎んでると思う。でもさ、今から仲良くするのってそんなに難しいことかな?普通に授業を受けて、みんなでお茶会して、放課後にスイーツ巡りしたりして……そんな当たり前でありきたりなことすら、私たちは本当に望めないと思う?」
「互いを知らなければ、知ろうとしなければ話は始まらない。だから、アズサをこのトリニティに入学させたってこと?」
「そう、あの子にはトリニティとアリウスの“和解の象徴”になって欲しかったの。エデン条約が締結されたら、この話は本当に手がつけられなくなる……ううん、酷い言い方をすればもう2度と可能性がないの。だからどうにか実現させたかった」
自分のやっていることがこの学園にとってマイナスになるかもしれないことはわかっている。
そもそもアズサを入学させるにあたって行った書類捏造だって本来ならば司法院で裁かれるような案件なのは間違いない。
バレたらミハネを悲しませて、彼女に自分を裁かせるという心の傷を負わせる事だって重々理解していた。
「アリウスの生徒が……トリニティでもちゃんと暮らしていけて、幸せになれるんだって……みんなに証明してみせたかった。でも、そんな中ナギちゃんがトリニティに“裏切り者”がいるって言い出して」
「それで集められたのが補習授業部……」
「……ナギちゃんがどうしてそんなことを考え始めたのかは分からない。私が動いてる間に、何かやらかしちゃったのかもしれない。それで、ナギちゃんは条約の邪魔をさせまいととして、補習授業部を作ったの」
そこまで聞いて、先生は思わず頭を抱えそうになった。
結局のところ、始まりはただの善意だったのだ。
ナギサのエデン条約、ミカのアリウスとの和解。
ただ、このトリニティという箱庭が彼女たちに判断を誤らせたというだけで。
「君たちは……どうしてもっと相談をしようと思わないんだ」
「まあ、そう思うよね。ここがトリニティじゃなかったら私だってそうしてたと思う」
不用意な発言と、少しでも怪しい行動を取れば全てひっくり返される悪質なトリニティに於る社会性質。
過去にはたった1人の生徒を自害まで追い込んだ強烈な迫害を行ったという記録もあると聞いたこともあった。
「まあ、先生のことだから補習授業部の子達がどういう基準で集められたかは聞いてるよね?」
「ナギサからもらった書類に記載されてたからね。それぞれの問題点もサリナと話しながら解決していこうとは思っているところだよ」
「そっか、もういるかどうかなんて話じゃないのはわかってるよね?ナギちゃんにとっては“裏切り者”は存在するって確定路線の現実問題になってるんだよね……ってこれが私が話せる今の状況の全部かな。本当に、私が知ってるのは今ので全部」
「……裏切り者、ね」
「“裏切り者”っていう言葉が何を指すのか。それを多少はっきりさせた上でならちゃんと答えは出せるの。ナギちゃんは今もきっと『自分たちを、トリニティを騙そうとしてる者がいる』って思ってる。誰かがスパイなんじゃないかって」
数日前の夜、陽の落ちたテラスでの会話での彼女の言葉を思い出す。
『先生を、トリニティを騙そうとしている者がいます。平和を破壊しようとするテロリストです。私たちだけではなく、キヴォトス全体の平和を、自分たちの利益と天秤にかけようとしているのです』
そうだ、まさに今ミカが言っていたことと合致する。
細部こそ違えども彼女が口にしていたのはまさにそういうことだろう。
「そういう意味ではいうなら“白洲アズサ”ちゃんが該当するよね?経歴を捏造してこの学園にいるんだから。でも、それをいうなら捏造した本人である私も“裏切り者”って事になる。私はエデン条約に賛成の立場じゃないから」
「“裏切り者”っていうのがそもそも不透明で不明確なものともいえるってこと?」
「まあそうなんだけど、別の視点から見れば……そうだなぁミハネちゃんみたいな中立を貫こうとしてる組織の立場から観ればの話なんだけど。“トリニティの裏切り者”はナギちゃんって言うことも出来るでしょ?これまでなんとか調和を保ててたトリニティを、
「……厄介な事になってきたね」
「まあ、この辺りは私の独走的な考えでしかないんだけどね。だから、最終的にはちゃんと先生が決めて?白洲アズサを守るのか、裏切り者を見つけるのか……ナギちゃんを信じるのか。それとも、私を信じるのか」
必要なのは経験ではなく、選択。
どこかで聞いた言葉が頭の中を過ぎる。
誰を信じるのか、誰を信じないのか。
誰の味方になって誰の敵になるのか。
自分に与えられた選択肢などその程度しかないのだとしても。
「ミカは……それだけで大丈夫?」
「ん?もしかして私のこと心配してくれてる?あはっ!本当に優しいね先生は。うーん、ミハネちゃんがいなかったらちょっと勘違いしちゃってたかも?」
「心配はするさ。さっきも言ったけれど、ミカも私の大切な生徒なんだから」
「ふふっ、そう言うところだよ先生?でも、うん……大丈夫だよ。私ってこう見えても結構強いんだから♪」
一昨日の夜にミハネが全力を出す相手がいるなら、ミカを相手取るときだと口にしていたのを思い出して思わず苦笑いをしてしまう。
「……いや、パワー的な話じゃなくて」
「あははっ!わかってるって!まあでも、今日はこんなところかな。先生とこうしてお話しできて、私は楽しかったよ。またね。先生」
そうして笑いながら手に靴とソックスを持ったままプールを出て行ったミカを先生は見送った。
ナギサから聞いた話、ミカから聞いた話、ミハネから聞いた話。
どれか一つの情報を信じ込むわけではなくしっかりとその言葉を整理した上で自分の行動は決めなければならない。
ただ、一つ言えることがあるとすれば。
最終的にみんなが笑える終わりをこの身を賭してでも目指すだけなのだ。
人物紹介
朔月アヤハ
トリニティ総合学園が成立するきっかけとなった司法院に於る初代司法院長。
自分に宿る神秘の研究を好んで行っていた事と、出身地が年中雨の降る寒い土地から来ていたこともあってついた異名が“雨の魔女”。
後のトリニティ自治区において『もっともめでたい日』になるはずだった“第一回公会議”にてアリウスの弾圧を止められなかった事を嘆き、後悔して、最後は自分の故郷に逃す事しかできなかった。
ミハネが持つ魔槍は彼女が製造した解析不能のオーバーテクノロジーの結晶である
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