ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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今回でこの作品に必要なオリジナルキャラクターが出揃いました。
主人公である朔月ミハネ。
ミハネの右腕である蒼崎サリナ。
サリナの相棒である篠崎リンネ。
そして今回からパテル分派の副首長として紗倉アリサが登場します。

因みにですが司法院のロゴを制作しました。
あらすじに置いてありますのでよければ是非ご覧いただければ


第二証明 捻れて歪んだ決意

 

 

トリニティ総合学園 司法院長室。

 

その日はミハネの姿は個人寮の執務室ではなく学園に与えられた本来の司法院棟の執務室にあった。

そしてその部屋の応接用の椅子にはもはや定位置と言わんばかりに彼女の幼馴染のミカの姿もあった。

 

「補習授業部の子たち、なんだか順調みたいだよ?」

 

「いいじゃない。次の試験で合格できるならそれで」

 

手元の書類に視線を落としてスラスラとペンを走らせる。

手際よく処理した書類が可決不可欠と分けられた書類の束に積まれていく。

 

「サリナ、書類を持って行って……って居ないのか」

 

「私が持って行ってあげよっか?」

 

「大丈夫、自分で持って行くから」

 

つい、いつもの癖でサリナに頼っていた癖が抜けずに声をかけてから彼女がいない事に気がつく。

内心早く帰ってこないかなと思いつつも書類の内容を考えればミカに頼むことも出来ずに自分で裁決を終えた書類の束を裁決済みのケースの中へと仕舞い込む。

あとで他の子がこれを取りに来て各部活ごとに分配したあと届けてくれる手筈になっている。

 

「お仕事終わった?」

 

「今日の分はね。そういうミカの方は終わったからここにいるんだよね?」

 

「パテルのお仕事なんて大したことないからね。私がやればいいのはほんの少しだけだし、今日はアリサちゃんが回してくれてるかな」

 

「…………ミカ?」

 

「あー、わかってるよぉ。あとでちゃんとそっちにも行くから」

 

頬を膨らませながら拗ねるような仕草をとったミカの隣に座ってミハネは小言を言ったもののこのところのミカの変化を喜ばしく思っていた。

実際のところ、ここ最近のミカから自分の分派の生徒の名前が出てくることが多くなっている。

紗倉アリサというのはミカの所属するパテル分派、その副首長に当たる生徒になる。

昨年、ミカがパテル分派の首長として就任してから副首長を指名していなかったことから長いこと不在のままの席であったが、どうやらミカのお眼鏡になかったらしくほんの1週間ほど前に副首長として任命されて、ミハネの所にも挨拶に来たのだ。

 

「まあでも、アリサちゃんが副首長になってから派閥の運営はしやすいんだよね。ミハネちゃんが言ってた名前と特技を一致させるっていうのは確かに役に立ったかも」

 

「言ったでしょ、それが出来れば組織の運営はしやすくなるって」

 

「あの子、本当に優秀でさぁ。なのに驕らないっていうか何か出来たら『ミカ様、ミカ様』って笑顔で駆け寄ってきちゃって。なんだか、ミハネちゃんがサリナちゃん可愛がるのもわかるっていうか」

 

「まあ、あの子確かに可愛いよね。うちのサリナにも引けを取らないっていうのは納得出来る」

 

「あとは他の派閥の子を話す時だけあり得ないくらい怖い顔になるのさえなんとかなれば完璧かな」

 

一度だけ連れて行ったティーパーティーの席でナギサ相手に終始笑顔なのにも関わらず何処か影の落ちたあの表情を思い出してミカは思わず身震いした。

ミハネに挨拶に来た時には自然な笑みとどこか緊張したような声音だったのは一体なんの差があったのだろうかと今になって思う。

 

「近いうち、サリナにも合わせたいと思ってる。来年のティーパーティー候補と司法院長候補なら知り合っておいて損はない」

 

「そうだね。補習授業部の一件が終わったら合わせてみようよ」

 

2人にとってはお気に入りの後輩で来年のことを見据えればここで顔合わせをしておく事に異論はなかった。

そうでなくても司法院長に選別されるためにはティーパーティーからの指名も必要な事であるため、どのみち必要な過程でもある。

 

「……そういえば昨日、補習授業部の合宿所に行ったでしょ」

 

「んー?どうして知ってるの?」

 

「他の子が教えてくれたよ。合宿所からミカ様が出てきたところを見たって。何しに行ってたの?」

 

「別にー?先生に補習授業部はどう?って聞きに行っただけ」

 

「本当に?そんな事でミカが動くなんて思えないんだけど?」

 

「本当だってば。トリニティに先生を呼んだのは私なんだし、様子くらい見に行っても不思議じゃないじゃん」

 

実際のところはそれ以外のことばかりを話していた訳だが、ミカがその事実をミハネにいえるわけもなく、ミハネもそれ以上喋るつもりがないなら追求するつもりもなかった。

ミカがこのエデン条約において、何か動いているのはミハネとて気がついている。

しかし、それがどんなことであれミハネにはことが事が起きてからしか対応することが出来ない。

 

「まあ、そういう事にしておいてあげる」

 

「もしかして疑ってるのかな?可愛い幼馴染だよ?」

 

「可愛い幼馴染だから、変な方に突っ走っていかないか心配してるの。ただでさえ、こうって決めたら周りが見えなくなるんだから」

 

「ふふ、ミハネちゃんは私から目を離せないね?」

 

「本当にね、だから私の目が届く範囲にいてよね」

 

肩が触れ合うほどの距離で、ミハネはそのままミカの頭に自分の頭をコツンとぶつけた。

 

「もしかして、少し眠たい?」

 

「ちょっとだけね。最近忙しかったから」

 

補習授業部の件もそうだが、此処のところはどういうわけか書類仕事が日に日に増加してきている。

どうでもいい案件ばかりだが、毎日数十件と数が増えてくると流石のミハネも話が変わってくる。

サリナが居なくても回せないような組織運営はしていないが、これみよがしに仕事が増えてくるのはどこか作為的なものでも感じてしまいそうになっていた。

 

「いいよ、私の肩貸してあげるから。それとも膝の上で寝る?」

 

「ちょっと横になりたいかも、膝貸してもらえる?」

 

「もちろん、ミハネちゃんにならいくらでも」

 

「じゃあ、ちょっとだけ……」

 

ぽふっ、とミカのスカートの上にミハネの頭が乗る。

普段なら仮眠室に向かうと口にする彼女がこんなになっているのだから疲労の蓄積は相当のものだったのだろう。

すうすう、とすぐに小さな寝息をたてた幼馴染の少女の頭をゆっくりと撫でる。

 

「本当に、可愛い寝顔。このまま食べちゃいたいくらい」

 

幼い頃から、自分を守ってくれた大切な幼馴染。

どんな時だって自分の味方で、どんな時だって自分を助けてくれた。

ミカにとってミハネという少女は幼馴染であり、姉のような存在であり、正義の味方であり、ヒーローでもあるのだ。

世界で一番大切で大好きな幼馴染を、今度は自分が喜ばせてあげたいと思う。

エデン条約における自分の立ち位置は、ナギサの探している“裏切り者”の方の立場であることは明確だ。

“ゲヘナが死ぬほど嫌い”というのは変わらないが、“幼馴染探しの為の道具”が欲しいという感情の方に天秤が傾いているのも、ミカ自身がよくわかっている。

アリウスとの和解、それが本当に出来るとは……あの一件があってから到底思っていない。

あの錠前サオリとももう暫く連絡すらとっていないし、顔も合わせていない。

他の連絡役の子とは食糧や弾丸などの物資を渡す時に顔を合わせているが、アリウスの接点なんて今はそれだけだ。

 

「……ミカ…」

 

「もう、夢の中でも私に逢いたいの?ほーんと、かわいいんだから」

 

自分の膝で眠る彼女がたまらなく愛おしくて、起こさないように優しく、優しく頭を撫で続ける。

滅多にこういう姿を見せないからこそ、存分に堪能してやろうと意気込んだのだが……

 

「…………いかないで、さおり……」

 

「……え?」

 

ミハネの口から出た言葉に、ミカの手が止まった。

ミハネは今、間違いなく“サオリ”と口にした。

そしてミカはその名前に該当する人物を1人しか知らなかった。

 

「錠前、サオリ……?」

 

頭の中で、何かが繋がった感覚があった。

サオリと会うたびに感じていた異様なまでの既視感。

自分と話す時の少しだけ楽しげな声のトーン。

そして、ミハネの名前を聞いた時に少しだけ見開いたあの瞳。

そういえば、“あの子”の髪の色はサオリと酷似していた。

そういえば、“あの子”の瞳の色はサオリと酷似していた。

声変わりがあったとはいえ、あの少し低い声は聞き覚えがあった。

 

自分はあのアリウスであった時、なんと言っただろうか。

 

『私は聖園ミカ!初めましてだよね?』

 

あの時、サオリはどんな顔をしていただろうか。

 

「───あ…………私、なんてことしちゃったんだろう……」

 

咄嗟に自分の持つスマホからまだサオリと連絡をとっていた時のアドレスに連絡を送ろうとして、その手が止まる。

 

“アリウスでは情報の漏洩対策のために定期的に通信端末が変わるんだ”

 

最後にサオリと連絡をとってからすでに半年以上が経過している。

自分がいま、サオリ本人と連絡を取ることはおろか……会うことすらできないのだ。

 

『例えば私や桐藤さんがミカみたいに人の顔覚えるのが苦手でミカの名前忘れてたりしたら嫌でしょ?』

 

いつか、ミハネに言われた言葉を思い出した。

自分が、パテル分派の子達の名前と顔、能力を全て一致させる為のきっかけになった言葉。

その問いかけに自分は『耐えられない』と返したことも覚えている。

なら、自分がサオリにしたことは……いったいなんなのだろうか。

 

「……謝らなくちゃ。ちゃんと謝って、でも……セイアちゃんはアリウスのせいで……」

 

ミカの中で、アリウスという存在自体が今は許せないものになっている。

それでも、そこのエリート部隊である錠前サオリは自分とミハネが探していた3人目の幼馴染でもある。

なら、自分はどうしたらいいのだろうか。

アリウスは自分にとって存在が許せなくとも幼馴染を探す為の道具だ。

そのために、“この先”の計画だって計画して具体的な作戦だって決定している。

 

それを止めることは、もはや出来ない。

ならば、計画通りに進めてアリウスとのパイプを維持したままサオリとまた逢える機会を作るしかない。

 

結局、やることは変わらない。

自分はミハネを裏切り、ナギサを裏切り、それでも目的は達成できる。

その道の果てがどうなっていたって、サオリがミハネの元に帰ってくるならなんだっていいじゃないか。

 

ティーパーティーの立場だって、その為に得たものなんだから目的が達成できるなら捨てたって構わない。

例えミハネが悲しんで泣いてしまっても、自分よりも要領の良かった“あの子”が帰ってくるのなら喜んでくれるだろう。

 

その後に、アリウスは消せばいい。

サオリが帰ってくるのなら、あとは全部いらない。

アリウスは許せなくてもサオリ1人ならなんとか許せるだろう。

自分の持つ力なら自治区ごと吹き飛ばしておしまいだ。

 

「……なぁんだ。簡単なことじゃんね」

 

サオリは引きずってでも取り戻す。

自分たちからサオリを“奪った”。

このトリニティからセイアを“奪った”。

そんな場所なら潰してしまって構わないだろう。

至極簡単な話だったわけだ。

 

「先生にはああ言っちゃったけど、結局私も“トリニティの生徒”ってわけ」

 

幼い頃はそんな学園を変えたいと願った。

朔月家と交流があったからこそアリウスの結末を知っていてアリウスが暖かい陽の元で過ごせるようになればと幼少の頃から思ってきた。

けれど、自分から大切なものを2つも奪ったとあれば話は別だろう。

 

「……利用できるだけ利用して、最後はボロ雑巾みたいに捨ててあげる」

 

もう引き返せない。

もう引き返さない。

例え、膝の上で眠る幼馴染と敵対したとしても……もう止まるという選択肢は存在しないのだから。




人物紹介。
紗倉アリサ
cv.茅野愛衣
パテル分派の副首長に任命された少女。
ミカのことを心の差から慕っており、他のパテルの生徒から見ても犬の耳と尻尾を幻視するほどのなつきっぷりとのこと。
しかし、敬愛するミカであるからこそ彼女が間違ったことをすればそれを間違いと言及することのできるトリニティにおいては珍しい生徒の1人でもある。
他の分派の生徒のことを貶している節があり、ミカにとってはそれが悩みの種でもあるようだ。
また、司法院の院長であるミハネには尊敬に近い感情を持っており、その原因がミカが自分たちの名前を覚える原因が彼女にあることを理解しているからである。

容姿としては2ndPVに出てた黒髪の子の隣にいるトリニティモブちゃん。
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