ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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お久しぶりです。
まさに2週間ぶりの投稿となりました。
物語に大きな進歩はありませんが今回はリンネが登場する回になってます。


第三証明 それは嵐のように

 

「ふーん、ここがサリナちゃんが出向してるっていう補習授業部の合宿所かぁ。何年も使われてないって聞いてたけど結構綺麗なんだね」

 

補習授業部の合宿所、この建物の前にサリナと同じ司法院の制服を着た少女……彼女の相棒である篠崎リンネの姿があった。

 

「リンネさん、時間的には授業をしている頃かと思うんですけど。入っていっても大丈夫でしょうか?」

 

そして、その隣には小さな紙袋を持ったシスター服の少女。

彼女の身につけるベールはその特徴的ともいえる大きな耳を象っていてベールから覗くオレンジの髪はほんの少し風に揺られている。

ほんの少しだけ彼女よりも頭の位置の高いリンネの顔を見上げる碧眼はほんの少しの不安の色を覗かせていた。

 

「大丈夫でしょ。それに授業中っていうならマリーちゃんだってその授業を受けてるはずの時間にこんなところまで来てる訳だし」

 

「そ、それを突かれると少し困ってしまいますが……」

 

「ま、気にしなくていいんじゃないかな?私もマリーちゃんもちゃんとお仕事で来てるんだから」

 

「それはそうなんですけど。あっ、待ってください!」

 

合宿所の前で施設に入るのを躊躇っていたマリーを置いてそのまま歩いていくリンネを慌ててマリーが追いかける。

外観だけではなく施設の中まできっちりと清掃が行き届いていることに感心しながらリンネとマリーは廊下を進んでいたのだが……

 

「待って、その足元の線は踏んだらダメだよ」

 

「えっ?」

 

慌てて足元に張られている透明な糸を凝視してその先に置かれている爆弾を見て彼女は慌ててその場から飛び退いた。

 

「どうして合宿所の中にトラップなんてあるんですか……」

 

「見たところ同じようなトラップがたくさん仕掛けられてる。私から離れないようにしてね」

 

「は、はい」

 

リンネは自身の立つ場所から目的の教室までの道に仕掛けられているであろう数々のトラップを見通して感嘆の声を上げた。

見ただけでも恐らく催涙爆弾の類いが複数にワイヤーを使った足を止めるためのタイプ、それを天井に繋げて吊し上げるものなど見ただけでも多岐に渡る。

サリナのサポートをメインとするリンネからしてみてもトラップの完成度は非常に高いものであった。

 

「…………ふぅん?」

 

「えっと、リンネさん?」

 

そうなれば興味が湧くのは当然といえば当然のことだった。

徐に懐から取り出したのはいつも持ち歩いているサリナのへカートのマガジン(・・・・・・・・・・・・・)から弾丸を取り出してをピンと張っているピアノ線に向けて放り投げた。

まず最初に催涙爆弾が爆発し、次にワイヤートラップ、天井に吊るすタイプのトラップ。

次々と弾丸を指で弾いてトラップを起動させていく。

5分もすれば目の前の廊下は起動されたトラップの残骸まみれになっていてその光景の張本人であるリンネは満足気に笑った。

そして遅れてロビーにやってきた補習授業部の面々が数多のトラップの残骸とその奥で指でへカート用のNATO弾を弾いて遊んでいるリンネの姿を見て息を呑んだ。

 

「何してるのリンネ……」

 

「あっ!サリナちゃんじゃん!ミハネ院長からのお使いで……えぇ!?」

 

サリナを見つけるなり笑顔で駆け寄ろうとしたリンネは巧妙に隠されていた最後のトラップに引っかかり、その視界が一瞬で宙に舞う。

ぐるっと一周した視界で満足気に頷くアズサを視界に収めてニヤリと笑みを浮かべる。

 

「キミかあ、このトラップ仕掛けたのは」

 

「うん。ここに仕掛けた9割のトラップが見破られたけど一つかかれば私の勝ち。ここまでトラップを見破られたのは初めてだった。凄いね、司法院の生徒は」

 

「まあ、私ってサリナちゃんの専属オペレーターだからね。トラップを見抜くのはお手のものだったはずなんだけど……最後のこれは分からなかったや。キミこそいいトラップだった、完成度もそうだけど何より効率的な仕掛け方だったよ」

 

アズサのトラップ対しての褒め言葉を口にしながら太ももにくくり付けていたナイフを手に取ってそのまま脚を吊るしているロープを切り裂いてそのまま廊下に着地する。

 

「それにしても補習授業部かぁ、改めて見ると中々濃いメンバーだね。それに、貴方がシャーレの先生?」

 

ゆっくりと品定めをするようにサリナの視線が先生を見つめる。

困ったような表情の先生にリンネの瞳が向いた。

 

「……うーん、ミハネ院長から聞いてたような人には見えないなぁ。サリナちゃんを預けられるくらい信用できて頼りになる人って聞いてたんだけど」

 

「お眼鏡には適わなかったかな?」

 

「いえ、ミハネ院長やサリナちゃんが信頼するのなら私も信頼しますよ。それに、私はサリナちゃんのオペレーターですけど、先生の指揮下に入ることもあるかもなので」

 

「リンネ、あまり失礼なことは言わないで。それに自己紹介して無いでしょ貴女」

 

呆れています、と隠さずに表情に出しているサリナがリンネの隣に立つ。

“ああ、そっかぁ”となんとも微妙な反応を示したが、リンネは先生の瞳をまっすぐに見つめたと思ったらいつかサリナが行ったように胸に手を当てゆっくりとその頭を下げる。

 

「司法院諜報課兼司法院副院長、蒼崎サリナの専属オペレーター。篠崎リンネ。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生へ改めてご挨拶申し上げます」

 

「うん、よろしく。リンネ」

 

いつもと同じように笑顔で手を差し出す先生にリンネはほんの少しだけ顔を顰めてその手を取った。

 

「なるほど、声もいいし笑顔も爽やか、顔立ちも整っていますし……コミュニケーション能力も高いと。これで戦術指揮も一級品とは……連邦生徒会長が指名するだけの事はありますね」

 

「ちょっとアンタ、流石に先生に対して失礼じゃない!?」

 

「いいや、いいんだコハル。リンネもアズサのトラップをほぼ全部見破るなんて流石の観察眼だ。サリナのスナイパーとしての戦績はリンネのサポートもあってのことなのかな?」

 

「サリナちゃんの命中率はサリナちゃんの実力ですよ。私は戦況とターゲットの位置と狙撃の優先順位を仮想スコープに送信してるだけですから。移動するヘリの中から狙撃して命中させるのはサリナちゃんの実力以外の何者でもありません」

 

「リンネ、ほらもういいから。ミハネ院長から預かった荷物があるんでしょ?早くそれ渡して」

 

純粋にリンネの能力を誉めた先生に対してサリナの能力を貶められたと勘違いしたリンネが暗い影を落として話し始めたのを思わずサリナが仲裁に入る。

実際問題として、リンネは優秀だ。

狙撃を成功させるのはサリナとしては当然としてもターゲットの優先順位や位置を正確にスコープに表示してくれるのは非常にやり易いと感じている。

最も、ヘリの操縦技能は高いもののその操縦が荒いのは玉に瑕なのだが。

 

「……まあ、いっか。サリナちゃん何かあったらすぐ呼んでよね。相棒なんだから」

 

「わかってる。なに?私がいなくて寂しいの?」

 

「寂しいに決まってるじゃん」

 

軽く冗談のつもりで揶揄ってみただけなのだが、思いの外本気の声音で返されてほんの少しサリナは動揺する。

司法院で業務を行っている際は基本的にミハネと共に行動するサリナだが、それ以外の時はほとんどリンネが隣にいることが多い。

親友であり、同僚であり、相棒でもある彼女が補習授業部が発足してからというもの隣にいない時間は確かに多かったのだ。

 

「まあ、サリナちゃんがミハネ院長とティーパーティーの要請でこっちにきてるのは知ってるし、なんかきな臭い事になりそうだからいつでも出れる準備はしておく。部隊が出られなくても私と狙撃用ヘリはいつでもサリナちゃんのために出撃出来るからね」

 

「……ありがと」

 

「それはそれとしてあっちも話を纏ったみたいだね。これ、ミハネ院長からサリナちゃんに届け物ね。中身はノートとかだったと思うけど」

 

「ノート?なんだろう、後で中身見てみるね」

 

「そうしてみて、ほらマリーちゃん帰ろー」

 

「あっ、はい!それではみなさん、頑張ってくださいね!」

 

サリナに手に持っていたリュックサイズの鞄を手渡してそのままサリナに背を向けてマリーと共に合宿所を去っていく。

遠ざかっていく黒衣の2人の背中を見送りつつもヒフミはサリナが持っている鞄に興味を示すように隣に立った。

 

「サリナちゃん、その鞄の中って……?」

 

「ミハネ院長がノート入れてくれてるみたいだけど……」

 

鞄を開けてノートを一冊取り出す。

その表紙には『数学Ⅰ』の文字が書かれている。

軽くページを巡っていけば中にはミハネが授業で使っていたであろう板書が丁寧な解説付きで記されていた。

 

「わぁ……すごいですこれ!これがあればアズサちゃんもコハルちゃんも成績アップ間違いなしです!」

 

「流石はミハネさんですね。解説も大切な部分をしっかりと記載して余計な解説は一切入ってない。まさに無駄のない参考書といえるかと」

 

ヒフミが手に取っていたのは『経典Ⅱ』と記されたノートだった。

自分が今手に取っている数学のノートでさえこれ一冊あれば試験範囲を賄えるほどの完成度だった。

コハルがアズサが自分の苦手な教科のノートを開いて次々とページをめくっては感嘆の声を漏らしていた。

 

「これは、私よりも先生に向いてるんじゃないかな」

 

先生がノートの一冊を手に取ってそんなことを呟く程度には参考書としてはあまりにも完成しているノートだった。

 

「それじゃあ午後からはミハネ様のノートも使ってお勉強して行きましょう!」

 

ヒフミのその言葉に呼応するように、補習授業部の合宿所には大きな声が響いたのだった。

 




2023年も今日で最終日。
つまりは大晦日となる訳ですが、読者様にあられましては拙作を見つけていただきご愛読いただきまして本当にありがとうございました。
来年も作品完結に向かって走って参りますので今後とも変わらずに拝読していただけるとありがたい限りです。

ちなみに、ですが。
作品に対しての感想や高評価はいつでもお待ちいたしております。
作者がニヤつくかオットセイの鳴き真似して喜ぶので是非。
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