ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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第七証明 絶対の一射

 

『わかった、それならサリナはそのまま先生指揮の下で事態の対処に当たっていて、私もゲヘナの生徒の受け渡しのためにそっちに向かうから』

 

「了解です、ミハネ院長が来るまでの間にターゲットは拘束しておきますので」

 

『ふふっ、頼もしいね。それじゃあ、私の右腕としての腕前……存分に見せつけてあげて』

 

端末越しに敬愛してやまない上司の声が響く。

本来ならこんな深夜に連絡をするのは憚られたが、事態が事態で司法院の生徒として戦闘行為を行うならばミハネに一報を入れるのが決まりでもあった。

普段の専用の装備でないことから若干の狙撃のしにくさはあるが先生の指揮下にあることでサリナは狙撃に最適解のポイントを見つけて位置取っていた。

 

「───先生、こちらサリナ。狙撃ポイントに付きました、ターゲットが視界に入り次第射撃を開始します」

 

『うん、私の方の予測では90秒後に北西方面1200mに現れるよ。カウントと予測ポイントは視界の方に現れるから目安にして射撃をお願いね』

 

「了解です。ミハネ院長がターゲットの引き渡しのためにこちらに向かってくるとのことなので20分以内に終わらせましょう」

 

『ミハネが来るんだ?それはいいところを見せないとだ。よし、私は他の子の指揮に手をつけるからサリナも狙撃頑張ってね』

 

「勿論、4人のうち1人は私が撃ち抜いて見せます」

 

先生との通信を切り、スコープを覗く。

爆発や銃撃の音が深夜の街並みに響き、商店街にある少なくない住宅の窓から何事かと顔を覗かせるものも多くなってきた。

 

「そういえば司法院に入ってからこんな真夜中の任務なんて一度もなかったかも。そう考えればなかなか出来ない体験もさせてもらってるなぁ」

 

狙撃の体勢に入り、トリガーに指を掛ける。

視界に映る情報の中で先生の言った通り、赤い矢印がミニマップの中に現れる。

 

「……銀の髪に黒コート、あの人が主犯の黒舘ハルナか。なんだか色合いがミハネ院長に似てて撃つの躊躇うかも」

 

そう1人で呟きながら、トリガーを引くタイミングを見極める。

視界に映し出される弾道予測線(バレットライン)を活用しながらターゲットに必ず命中させる事だけを頭に入れる。

 

「───神秘、装填(トリガー・オン)

 

司法院に於いて戦闘を行う者にミハネ院長から初めに教えられたのは体内にある不思議な力である“神秘”についてだった。

弾丸に自身に宿る神秘を込めて放つ事。

キヴォトスにおける強者と呼ばれる者たちは最低限それを無自覚で行なっていると語っていた。

だから、少数で事態の対応に当たらなければならない司法院ではそれを行える事で組織として少数運営を目指すというものだった。

体内に宿る神秘と呼ばれる謎の力。

それを自覚して同期の中で一番最初に弾丸に乗せることができたのが他でもないサリナであった。

今まで弾丸を撃つだけでは精々的を吹き飛ばすくらいが関の山だった。

だが、それを行えた瞬間……明らかに自身が放った弾丸の威力が変わった。

撃ち抜いた筈の的が吹き飛ぶのではなく消し飛んだのだ。

あれ以来、その威力の高さから使う時は選んできたが……ゲヘナのテロリスト相手なら使っても問題ないだろうと判断して、その力を弾丸に込めた。

 

「……一撃で昏倒させる為にヘッドショットを狙おうか」

 

トントンッと幾度かトリガーに指が触れる。

スコープの先に映る白銀のターゲットの額を狙う。

視界に映るレティクルが彼女を捉えた瞬間、狙撃のタイミングを測るカウントが視界の端に映る。

 

「……先生には悪いけど、私にカウントは要らないかも」

 

先生に告げられたターゲットを視認して狙撃する為の時間である90秒。

それは最も命中させやすい場所に彼女が現れる時間に違いない。

で、あるならば……

 

「……85……88……」

 

89……90と自身の中でカウントを刻み。

 

「───いま」

 

ドォンッと建物の屋上から大きな狙撃音が響く。

放たれた弾丸は夜の街を切り裂き、その狙い通りターゲット……ハルナの額に直撃したのだった。

 

「……狙い通り、昏倒も確認。先生、聞こえますか。こちらの狙撃は成功です……目標の黒舘ハルナの昏倒もスコープで確認しました」

 

『お疲れさま、噂に違わぬ腕前だね』

 

先生に通信を飛ばせばすぐに声が返ってくる。

労いの言葉と共に賛美の言葉が飛んできて、思わずサリナは鼻を鳴らした。

 

「当然です。さて、皆さんの方はどうですか?」

 

『うん、こっちの方もツルギが2人確保したね……あっ、最後の1人も今捕まえたって報告が上がってきたよ』

 

「任務完了ですね、それじゃあ合流地点を送ってください。私の位置はみんなより少し遠い場所ですから、そこで落ち合いましょう」

 

『了解、一応サリナの場所からも見えると思うんだけどその先に広場があるよね?そこで合流しよう』

 

「了解です、いまからそこに向かいます」

 

通信が切断されるのと同時に愛銃である【アストライア】を肩に担ぐ。

狙撃ポイントとして使用したビルの屋上からサリナは上機嫌のまま歩き去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

****

 

生ぬるい夜風が身体を撫でる。

サリナから連絡を受けて寮を飛び出して来てみれば現着したときには襲撃犯の4人は既にお縄についていた。

 

「やあ、ミハネ。こんな時間にすまないね」

 

「……先生、なぜこんな時間に外出しているのかという問いは敢えてしませんが、どうやらお手柄だったようですね」

 

「ま、まあ……そこは海よりも深くて広い理由があってね」

 

「そういうことにしておきます。引き渡しには私も同行しますからそれまでみんなのところで労ってあげてください」

 

「うん、そうさせてもらうね」

 

先生の背中を見送り、今度はミハネの瞳がハルナの瞳と交差する。

お互いに合うのはこれで初めてではないが、こんな時間にこんな場所でトラブルを起こされると流石にミハネとてため息の一つくらい出るというものだ。

 

「あら、久しぶりだというのに随分な対応じゃありませんこと?」

 

「ちゃんとした対応して欲しいなら明るい時間に普通に飲食店に行こうよ」

 

額に大きく赤いあざが出来ていることから、彼女を撃ち抜いたのはサリナであると確信を持つ。

 

「うちの子の弾丸は効いたでしょ」

 

「ええ、いい一撃でした。こちらは走っているのに正確に眉間を撃ち抜かれるとは」

 

痛かったんですよ?と戯けたように笑う。

いまだに気絶している他の3名を見るになかなかキツくやられたように思えて苦笑いをした。

 

「引き渡されるのは風紀委員でしょうか?」

 

「さあね、ヒナが来るのは間違いなさそうだけど……表向きは救急医学部が来てるって話だよ」

 

「そうですか。ところでミハネさん、トリニティで美味しいスイーツ店など……」

 

「教えない、また爆破されても困るでしょう?」

 

「あら、つれませんわね。百鬼夜行で鍋を共に食した仲ではないですか」

 

「それ私たちがまだ一年生の時の話でしょ。私はまだ司法院生じゃなかったしまだフットワークも軽かった頃だよ」

 

2年前に百鬼夜行の料亭に食事に行った時、たまたま隣に並んでいたのがハルナであったのだ。

店内は満席で2人とも1人客、どうせなら相席でどうか……と提案したのがミハネとハルナの出会いだった。

その後も何度か食事をしに行って偶然出会えば相席をしたりする仲ではあるものの、互いの連絡先も知らないし気軽に連絡するような仲でもない。

だが、彼女のおすすめしてくる飲食店で不味い店はないこともあってある程度の信頼は置いているという不思議な関係でもあった。

 

そうこうしているうちにトリニティの外へ繋がる橋の方から大きなエンジンの音とヘッドライトの明かりが見えてきた。

トリニティ内部であれば間違いなく法定速度違反ギリギリの速度で爆走してきたゲヘナの装甲車がミハネとハルナの少し先でターンして止まる。

車のヘッドライトの明かりとエンジン音を聞きつけて戻ってきていた先生と、装甲車の運転席から降りてきた白い髪の生徒……セナの視線が合う。

 

「お久しぶりですね、先生。時に、死体はどちらに?」

 

「うん、久しぶり。あと死体じゃなくて負傷者ね」

 

「失礼、そうでしたね。よく混同してしまって」

 

無表情とよく言われるセナの顔がほんの少しだけ緩む。

付き合いが短ければ、または観察しなければわからないがあの表情の緩み方からみるに結構機嫌が良く、尚且つ先生に会えて喜んでいることが伺えた。

 

「個人的には先生との関係を進展させておきたいところですが……リストに載っているのは新鮮なした……失礼、負傷者4名と人質1名とありましたが」

 

「そうだね、彼女たちはほら……ミハネの近くにいるよ」

 

「おや、司法院長も来ているんですね」

 

ミハネとハルナを視界にとらえるなりそちらの方へ駆け寄るセナを見送り先生は苦笑を溢す。

気絶しているハルナ以外の3人がセナの指示のもと正義実現委員会の子達に装甲車、もとい緊急車両に乗せられていくのを見てミハネはなんともいえぬ表情になる。

 

「ではミハネさん、それと先生も機会がありましたらいずれ」

 

そう言い残し、ハルナも車両の中へと消えていく。

胸ポケットから懐中時計を取り出して、現在時刻を確認したミハネは大きくため息をついた。

 

「引き渡しはこれで終了ですね。先生もお疲れ様でした」

 

「ミハネもお疲れ様。この後はすぐ寮に戻るのかい?」

 

「そうですね。……ああ、いえ少しだけ友人を会話をしてからになりますけど」

 

ミハネが向けた視線の先にはハスミと一緒にこちらへ向かってくるヒナの姿が見えた。

あの様子だとゲヘナの生徒が自治区内で問題行動をしたことに対しての謝罪をしに行っていたのだろう。

真面目なのが彼女の良いところだが、ゲヘナに於いて真面目すぎるのが欠点でもあるとはあまりにも皮肉すぎる話ではある。

そんなヒナも先生とミハネの姿を視界に入れればその表情も幾分か柔らかくなった。

ミハネが軽く手を振ってやればハスミとの会話を切り上げて足早に2人の方へと駆け寄ってくる。

 

「久しぶりね、ミハネも先生も」

 

「アビドスの一件以来だね、会えて嬉しいよヒナ」

 

「先生はまたそういうことを……でも確かに、こんな真夜中じゃなければお茶でもどう?って誘えたんだけどね」

 

軽い冗談を交えながら挨拶を交わす。

どちらにしてもこの3人がこうして顔を合わせるのは数ヶ月前のアビドスでの一件以来なのは間違いない。

 

「ところでミハネ、先生にエステの請求はあげたのに私に連絡してこないのは一体どういうこと?」

 

「あ、あー、まあちょっと、忙しくて……」

 

「……忙しいのは私も同じよ。それに貴女の予定に合わせると言った私も悪かったわ。ところで先生、ミハネのエステ代は幾らかかったの?」

 

「…………あまり言わないでくれると助かるかな」

 

バツの悪い顔をするミハネとミハネ御用達のエステから届いたシャーレ宛の請求書を思い出して引き攣った笑みを浮かべる先生。

そんな2人を見ながらヒナはほんの少しの笑みを浮かべる。

 

「ところで先生、ミハネがいるところで聞くのもなんだけれど……どうしてトリニティにいるの?」

 

「それは今、補習授業部ってところで担任の先生をしていてね」

 

「それは知ってる。私が聞きたいのはどうして“この時期”にトリニティにいるのって話」

 

「……横入りするようで悪いんだけど、私から説明させてもらっても良いかな」

 

「ええ、ミハネが話してくれるなら私は信用するわ」

 

「ありがとう、事の始まりは数週間前なんだけどね」

 

トリニティの内政に関わる部分はぼかしつつもミハネは先生が現状招かれている理由を、補習授業部が発足された理由を説明するのだった。

 




作中ではミハネが神秘という力の使い方を理解し、それを自身の後輩たちにも教え、扱えるようにすることで司法院の生徒たちは最低でもネームドキャラに迫る戦闘力を持ち合わせていることでたった50人という小数で組織を運営出来ているわけです。
その中でもミハネが司法院長として就任してから、一番早くそれを習熟したのがサリナであるわけですね。



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