ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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第十一証明 それは嵐の前のような

 

陽も落ち、すっかり暗くなったなとサリナは手元の答案用紙から窓の外に視線を向けて独りごちる。

たった今採点を終えたばかりの答案用紙に記された点数は全員が合格ラインを大きく超えて余裕で合格できる点数だった。

 

「どうですかサリナちゃん?」

 

「うん、みんないい点数だね。これなら問題なく合格できると思う」

 

「よかった。なら今日は切り上げた方がいいだろうか?」

 

「そうですね、根を詰めすぎて明日に響いても嫌ですし。今日はここまでにしましょうか!」

 

「ちょっと待ってよ!まだ答え合わせしてないじゃない!それが終わってからでも遅くないでしょ!」

 

「ふふっ、それじゃあサリナちゃん。お願いしますね?」

 

「うん、任せて」

 

それぞれの答案を返却してその点数に各々の反応を示しているのを見て、サリナは黒板の前に立つ。

今回使った試験は応用問題が特に多く、ひっかけ問題や読解力を特に求められるものが多かった。

だが、それでもその問題の数々のなかで特に多かった間違いから答え合わせと解説を行なっていく。

……言うまでもなく、ハナコに関しては完璧な解答を叩き出してきていたわけだが。

そうして約1時間かけて全問題の答え合わせと間違いが多かったところの解説が終わったところで今日の補習は終わり、と言うことになった。

 

「これであとは第二次特別学力試験の……本番だけ、だよね?」

 

「はいっ!ですが私たちもここまでの合宿でサリナちゃんやミハネ様、先生のおかげで十分に合格できる学力は身につけたはずです!」

 

「うん」

 

「そうですね♡」

 

「そっ、そうよね!」

 

ほんの少しだけ、弱気になったコハルにはその言葉だけで自信を取り戻すのには十分だった。

なにより、彼女にとってここでの合宿は……仲間と共に確かな目的へと向かって努力するその時間は、今までの虚勢のような自信よりも確かな自信を持たせるのには十分すぎる時間だった。

 

「あとはみんなが明日の試験に合格して晴れて補習授業部から卒業出来るのを待つばかりだよ。これまでの努力が無駄じゃなかったって、ティーパーティーのお二人に証明してあげてよね!」

 

「最後にみんな笑ってお別れできるのが一番ですから!」

 

サリナの言葉に続いてヒフミが胸の前で両の手で握り拳を作る。

みんなが頑張れるように、明日への気持ちを明るく持てるようにとそんなつもりで告げた言葉だった。

 

「───そうか、試験が終わったら……合格したら、みんなとはお別れなのか」

 

1人だけ、ヒフミのそんな言葉に暗い影を落としていた。

ヒフミからもらった大切な人形、コハルとお互いに教え合い切磋琢磨した時間、ハナコから悪戯をされて笑っていられた時間、サリナと好きな戦術を語って夜更かしをした夜。

その全てが、アズサにとって大切な時間でこのまま続いてくれたらと心の底から思っていたことだった。

だからこそ、ヒフミのお別れという言葉が……アズサには深く突き刺さった。

 

「ちょっとアズサ!?どうしてそんなに急にしんみりしてるわけ!?」

 

「ふふっ、なんだかんだ楽しい合宿でしたもんね?」

 

「……うん、でも、でもやっぱり出会いがあれば別れもある。全ては、虚しいものだ」

 

「そうだね……でも、補習授業部が終わったら私たちが他人に戻るわけじゃないよ。みんな友達のまま、そうでしょ?私だって司法院まで来てくれれば会えるしさ」

 

まるでもう会えない、そんな雰囲気を纏うアズサに思わずサリナは微笑みながら声をかける。

 

「そうですね、私たちだって同じ学園に通っているわけですし。試験が終わったからと言ってどこかにいくわけではありませんからね。会おうと思えばいつだって会えますよ」

 

「そ、そうよ!私だって正義実現委員会の教室に普段はいるし……アズサさえ暇ならいつだって会いに来たらいいんじゃない!?」

 

「あはは……気持ちとしては私も同じなんですけど。でも皆さんのいうとおりです!所属する場所は違っても私たちは同じ学園にいるんですから、いつだって遊べますよ!ほら、この間のパフェ!アレのリベンジもみんなでしましょう!」

 

「……うん、そうだね。ありがとう、ヒフミ、コハル、ハナコ、サリナ」

 

友人たちの温かい言葉に思わずアズサの頬が緩む。

だけど、だけどその温かい感情に自分が本当は純粋なトリニティ生徒ではないということに暗い影を落とす。

それでも、まだ……この温かい場所で過ごしたいと暗い感情を払拭するようにアズサはヒフミに声をかける。

 

「そういえば明日の試験の場所は同じなのか?」

 

「あっ、ちょっと待ってくださいね。多分同じだとは思うんですけど……」

 

スマートフォンを手にしてヒフミがアクセスしたのはトリニティ学内の掲示板。

その中から補習授業部へのお知らせが記載されているページへとアクセスして明日の第二次試験の会場を確認するためにスクロールしていけば

 

「───え?」

 

思わず、ヒフミの手が止まった。

 

「ヒフミちゃん、どうしましたか?」

 

「何かあった?」

 

「え、嘘っ!?嘘ですよね!?」

 

そう口にしながら何度もページを更新し、目に映る文言は同じことにヒフミは体を大きく震わせた。

何かがおかしい、そう確信したみんなが慌ててヒフミに駆け寄る。

 

「ど、どうしたのヒフミ……そんな大きな声出して」

 

「こ、これ……見てください」

 

震える手で差し出されたヒフミのスマホ。

その画面に表示されている『補習授業部第二次特別学力試験に関する変更事項のお知らせ』の文字列。

 

「……普通のお知らせじゃないの?」

 

「…………違います。問題は」

 

「試験範囲を、事前に掲示した三倍に拡大……」

 

「は、はぁ!?」

 

サリナが読み上げたその文字列が……第二次特別学力試験の異常さの始まりだった。

 

「また、合格ラインを60点から90点に引き上げるものとする」

 

「きゅ、90点なんて……私もまだ越えたことないのに……」

 

「ど、どういうことなのよこれ!」

 

「掲載された時間はついさっき、試験の直前にこんな変更をかけるなんて」

 

ヒフミの端末を手にしたハナコがサリナの隣に立つ。

自分自身でも答えに辿り着けるという確信があったが、それよりもこの事態において1番情報を持っているのは自分の幼馴染であることに間違いはないという確信も持っていた。

 

「サリナちゃん、私たちの試験結果はどこかへ報告していましたか?」

 

「していたと思う?みんなの答案用紙の保管は私と先生で行っていたとも」

 

「では質問を変えます。私たちがここで授業をしている間、ティーパーティーの方々がここに立ち入ることはできましたか?」

 

「出来たでしょうね。なにより先生が外に出かける事情がある以上、この合宿所の鍵を閉めておくことはできないし……なにより私たちが食べていたものは誰が持ってきてくれたものだと思ってるの?」

 

その答えはハナコが想定していた通りだった。

自分たちが授業を受けている間、先生やサリナが別部屋で対応をしていないその時間なら……模擬試験の結果をナギサが知ることは容易であっただろう。

 

「待ってくださいハナコちゃん!私たちがやっていた模擬試験はサリナちゃんや先生と協力してみんな用に個別で作った問題なんですよ!?その問題が外に漏れるなんて……」

 

「この学園にいる以上、ティーパーティーと司法院の目から逃れることはできません」

 

ヒフミが抱いていた、そんなわけないという希望をサリナという司法院の副院長がここにいることでバッサリと切り捨てる。

 

「あまりにも露骨なやり方ですねぇ……どうあっても私たちを退学にしたい、と」

 

「───退学?」

 

「えっ!?退学!?ちょ、ちょっと待って、どういうこと……?」

 

「そのお話もそろそろ皆さんにしないと、とは思っていましたが……それよりも、それ以外にも変更された場所がありそうですね」

 

未だ手に持っていたヒフミの端末。

スクロールして肝心の試験会場を読み上げる。

 

「試験会場と時間。会場はゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街の廃墟一階、そして時間は……」

 

「深夜の三時、か」

 

ハナコとサリナの重苦しい声音から呟かれたその時間と場所は、あまりにも無理難題がすぎる場所でもあった。

 

 

 

 

 

***

 

「試験に3回落ちたら退学!?」

 

「か、隠していてごめんなさい。でも、まさかこんなことになるなんて」

 

「それは私も同じ。最近の勉強の状態からこのままいけばこの試験で終わるって確信してたから言ってなかった」

 

ヒフミとサリナ、二人から受けた説明に動揺するもの、確信を得るもの、未だ前を見るもの、それぞれの反応があったが、やはり1番動揺していたのはコハルだった。

 

「ど、どうしよう、どうしたらいいの?退学になんてなったら、正義実現委員会に復帰できない!」

 

「それは……」

 

今にも泣きそうな顔で目の前の現実に打ちひしがれそうなコハルの叫びはハナコの顔に影を落とす。

どうすればこの状況を解決できるか、思案しても会場がゲヘナである以上一介の生徒である自分たちにはどうにも出来ない。

そう、思っていたのに。

アズサが、机の上に背嚢を置いて次々と机の中から筆記用具をはじめとした道具を詰め込んでいく。

 

「状況は理解した、兎にも角にも今すぐ準備して現地に向かおう」

 

「えっ!今からですか!でも……」

 

「さっきサリナから言われてた試験の時間は深夜の三時、交通機関がどこまで使えるかわからないけど今から向かえばなんとかなるはず」

 

「で、でもゲヘナまでの距離なんて……」

 

「間に合うかどうかじゃない、私はみんなと一緒に頑張ったこの1週間を無駄にしたくない。ミハネだって言ってた、どれだけ虚しくて悲しくても、それが自分の意思や目的を諦める理由にはならないって、私も……私も心の底からそう思う」

 

あのプール清掃の時、アリウスで習った全ては虚しいというあの教え。

現実は虚しい、何もかもが虚飾で偽られ、何一つ真実がなく虚しい世界だというもの。

それでも、そんな理不尽は納得できなかった。

ずっと、そんな世界は……教えは間違っていると思っていた。

サオリに手を差し伸べられて、抗うための力を手に入れた。

サオリはそんな気持ちを持っていてもいいと口にしてくれた。

そして、サオリの幼馴染である朔月ミハネも……自分たちと同じ思想の持ち主であった。

 

「驚くのも嘆くのも、全部終わってからでも遅くない。障害物の多さに文句を言っていても何も変わらない。ここで受けなくてもどうせ次でも同じことが起きる。だったら、ここで諦める理由にはならない」

 

「う、うぅ……!」

 

「そう、ですね。アズサちゃんの言うとおり、今はとにかく動きましょう」

 

みんなが慌てて準備をし始め、サリナはすぐに使える車両がないかトリニティ中に検索をかけ始めた。

 

「そうだ、みんな装備の点検も忘れないで」

 

「そ、装備ってもしかして銃火器のことですか?」

 

「うん、行くのはゲヘナだ。私は行ったことないけどかなりの無法地帯だって聞いたことがある。それなら持って行って困ることはないはず」

 

「あ、あうぅ……どうしてこんなことに……」

 

ヒフミはそう呟きながらも愛銃に手を伸ばす。

以前のアビドスの一件から“もしも”が起きた時のために軽くメンテナンスを行なっていたが、ここ最近はアズサやサリナに教わって本格的な手入れをすることも増えていたこともあって彼女の銃は万全の状態を維持していた。

カバンの中に弾倉をいくつか放り込み、すぐに出られる準備を整えていると

 

「ごめんみんな、遅れた!」

 

「あっ、せ、先生!」

 

扉を大きく開いて息も絶え絶えのまま飛び込んできたのは先生だった。

補習授業部の面々が先生の姿を確認して顔を明るくするが、すぐに状況の説明をするために先生へと駆け寄る。

 

「先生、あの……明日の試験が」

 

「こっちでも状況は把握したよ。ごめんね、私がもっと早く気がついていれば!」

 

「いえ、それは向こうが意図的に行なったことでしょうし……それよりも先生は今までどこに?」

 

「掲示板を見て車両を手配しようと思ったんだけど」

 

「……トリニティ自治区内のすべての車両が使用不可になっています。そんな、あり得ません……!学内の車だけでなく公共交通機関の電車ですら運転の見通しが立っていない?そんなバカな話がありますか!」

 

先生の言葉に続くようにサリナが机を叩きつけるようにして立ち上がる。

そんなことが出来るのはティーパーティーの面々だけ、いや、場合によっては司法院だってその対応ができるがそこまでするかとサリナは大きくため息をつく。

 

「根回しは完璧、と言うことでしょうか」

 

「電車やタクシー、車も使えないなら……マラソンかな」

 

苦笑い気味にそう呟いた先生に思わずみんなの顔が引き攣る。

先生は先生でこれから始まる超長距離マラソンに向けて自分の足を確認していた。

アビドスの一件以降、シロコと一緒に1時間程度のマラソンなら何度か一緒にやったが、果たしてトリニティからゲヘナまで伸びフルマラソンも裸足で逃げ出す距離に自分の足が耐えられるか不安で仕方ない。

 

「そういうことなら時間が惜しい。今すぐにでも出よう!みんな準備は?」

 

「私はいつでも大丈夫」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「え、えっと、多分大丈夫!」

 

「問題ありませんよ」

 

「私も、すぐに出られる」

 

「じゃあ行こうか!」

 

自分の後に続くみんなの反応をしっかりと聞き届けて、シッテムの箱を手に取り、全員で教室を飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

***

 

一方、同刻。

───トリニティ総合学園本校舎司法院長室

19時を超え、仕事を終えたミハネはミカと少し遅めのティータイムを摂っていた。

 

「ミハネちゃんは今日の業務はもう終わり?」

 

「このまま何もなければ21時には寮に戻る予定だよ。ミカこそいつ寮に戻るの?」

 

「ええ?ミハネちゃんは私に帰ってほしいの?」

 

「冗談だよ。でも、私が帰る前には帰りなね?」

 

「ふふっ、はーい♪」

 

いつものように他愛のない会話。

ミハネとミカにとってはいつもの何も変わらない日常。

だが、ミハネの意識は補習授業部の明日の試験に向いていた。

 

「明日の試験は2回目か……順調なら明日の試験で補習授業部の勝ちで終わるはずだけどね」

 

「へぇー?アズサちゃんたちってそんなに優秀なんだ?」

 

「もともとしっかり目標に向かって努力できる子たちだ。3回目まで行かずに突破できるとは考えていたけどね」

 

「サリナちゃんもいるから?」

 

「それももちろんあるよ」

 

業務で使っているタブレットを手に取って学園の掲示板にアクセスする。

前回と同じなら試験は明日の午前中に本校舎で行われるはずだ。

 

「何日か前に第二回の告知って出してあるけど場所も時間も変わってなかったはずだよ?」

 

「まあそれならいいんだけど、一応確認しておかないとね」

 

そうして補習授業部へのお知らせを開こうとした手が止まる。

補習授業部へのお知らせ、その更新がほんの十数分前に行われていたのだ。

 

「……ミカ、補習授業部へのお知らせの更新って知ってる?」

 

「知らない、ちょっと見せて」

 

ミハネの持っていたタブレットを手に取り、すぐさま補習授業部へのお知らせをタップして内容を読み込むためにスクロールしていく。

そして、その内容を見て思わずミカはため息を漏らした。

隣にいるミハネにどうやって説明すればいいのか、自分の所属しているティーパーティーでしかこんな強権は使えないと言うのに、どうやってミハネを納得させられるのか。

しかし、それだってもう手遅れだ。

現にタブレットを彼女が手にすれば情報はすぐに手に入る。

自分が口にするか、彼女が自分で目視してしまうかの差でしかない。

だったら、自分で言ってしまっても変わらないだろうとミカは口を開いた。

 

「……はぁ。試験会場と時間、変更だって」

 

「なに……?」

 

瞬間、隣にいる幼馴染の空気が変わった。

直感的に理解する、“ああ、これはダメなやつだ”と。

中学最後の年、あの時の冷たい瞳が戻ってきた。

あの時の人を威圧する冷え切った声音が戻ってきた。

 

「試験開始は深夜の三時、場所はゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街の廃墟……それに点数を60点から90点に引き上げ、だって」

 

「…………」

 

“あーあ、やっちゃったねナギちゃん”ミカは心の底からそう思った。

幼馴染であり、司法院の院長として働いている姿はよく知っている。

彼女はこの役職についている以上、何事も公正に……不正のない学校を目指して日々奔走し、夜遅くまでデスクの前に張り付いていることも知っていた。

 

だが、試験が3回落ちれば退学。

そんな彼女たちに不利な状況で“試験に万全の状態で挑むためにサリナを派遣し”た。

ここまでならミハネだって看過できた。

ティーパーティーで問題の調整が行われるであろうことは理解していたし、点数の底上げ自体は予測の範囲内だった。

90点を超える点数は三度目の試験で絶対に突破できると確信していたからだ。

 

「……やってくれたな。桐藤……これがティーパーティーのやり方か」

 

「ミハネちゃんはどうするの?多分ここまできたらナギちゃんは止まらないよ?ミハネちゃんほど付き合いは長くないけど、幼馴染だもん。これくらいはわかるよ?」

 

「私は、点数の引き上げくらいは来るだろうと確信はしていた。そのくらいならば……まだ目を瞑るつもりだった」

 

ミハネのあまりにも静かな声に、彼女のことを世界で1番大切に思っているミカですら、ほんの少しの恐怖を覚える。

 

「だが、これはなんだ?こんな事までしてたった4人の生徒をトリニティから追放したいのか……?一体、彼女たちになんの非があって?」

 

たった1日、いいや半日。

ミハネが彼女たちと過ごした時間はそれだけだ。

だが、“人の真意を見抜くこと”に関しては誰にも劣らないと確信しているミハネは彼女たちが裏切り者ではないと。

“少なくともこのトリニティに害をなす存在ではない”と判断したのだ。

そう、あの中で1番怪しい“アリウスのワッペンを付けていた”白洲アズサですらミハネは害はないと判断した。

 

「ここまでするのか、だったら……公平を求める私たちは彼女たちに就くぞ」

 

「……なら、ミハネちゃんはどうするの?ゲヘナで試験するなんてあの子達じゃ絶対無理だよ?第一今から出たって間に合わないだろうし」

 

「交通機関はどうせ全て掌握しているでしょう。彼女のやることなど手に取るようにわかる。トリニティに於けるすべての公共機関やレンタルサービスは全て押さえているだろう。それに、場合によっては道路の封鎖だってあり得る」

 

しかし、トリニティでティーパーティーが抑えることができない組織がこの司法院だ。

なにせティーパーティーに唯一不信任案を叩きつけることができる組織だ。

どこの派閥にも属さない、どこの部活にも肩入れしない。

しかし、公平性が保たれる為ならば味方にもなる。

 

それが、今回は補習授業部という弱者に天秤が傾いたというだけの話だった。

 

「司法院の車両ならトリニティで止められるところはない。ミカ、今日は帰りなさい。私はこれからゲヘナに向かう」

 

ミカと隣り合っていた椅子から立ち上がり、司法院長の印であるコートを羽織る。

司法院の公用車の鍵をデスクの引き出しから取り出してその足取りのまま司法院長室を後にする。

残されたミカは大きく椅子の背もたれに背を預けて大きくため息を吐いた。

 

「ナギちゃん……バカだなぁ」

 

あの眼をしたミハネに憧れていた幼馴染を知っている。

“私はミハネさんのような為政者になりたいのです!”

彼女がティーパーティーとして顔を合わせた時に口にした言葉は本心だったというのはわかっていた。

だけど、だけどそれはミハネだから出来たことだ。

憧れは呪いになった、ミハネという為政者が彼女の中に居てしまうせいで……ミハネのようにありたいという願いがあるせいで。

全てを信用できなくなって、疑うことしかできなくなって。

そして、その憧れが自分へと牙を向けてしまったのだ。

 

「怒ったミハネちゃんに許してもらうの、大変なんだよ?」

 

そんな言葉が、ミカだけ残された司法院長室に響いた。

 




ミハネちゃん、怒っちゃった……
頑張れナギちゃん、負けるなナギちゃん……!

皆様からの高評価や感想、お待ちいたしております。
作者のモチベーションと更新速度に反映される可能性が高いので是非とも。
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