ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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第十二証明 ゲヘナ自治区へ

 

街灯が照らす夜道を一台の車が疾走する。

その車両はトリニティの中でもなかなか走る姿を見ることがない漆黒のミニバン車だった。

司法院所属を意味する天秤のエンブレムが飾り付けられたその車は今、トリニティの街を走行していた。

 

「ゲヘナに向かうなら、必ずここの先の道は通るはず。補習部に貸していた合宿所にはいなかったから全力で走ってればもう少しで見えるはずだけど……」

 

ミハネの予想通り、そこからさらに数分走った先に夜の街を必死に駆け抜ける少女たちと白いコートを見に纏った男性の姿が見えた。

 

「よかった、まだゲヘナに入る前で……」

 

彼女たちよりも少し先に、ハザードを焚いて停車する。

走っていたサリナが車両に気がついて駆け寄ってきた。

 

「ミハネ院長……!どうしてこんなところに……?」

 

「いいからとりあえず乗って、試験会場まで送ってあげるから」

 

「……!ありがとうございます!みんな!車に乗って!」

 

サリナが補習授業部の面々に車に乗るように声をかけて、みんなが乗り始めたのを見て自身も助手席に乗り込む。

 

「ミハネ様……!試験会場と時間が変更になってしまって……!」

 

「わかってる、私もさっき見て飛び出してきたところだから。走ったらギリギリだけど、車なら30分前には着けるはずだから……」

 

「全員乗ったね?すいませんミハネ院長……運転変わります」

 

「いや、いいよ。それよりもサリナは何かあった時のために狙撃の準備をしておいて」

 

「……はい!」

 

シートにしっかりと座り込み、自身の狙撃銃である『アストライア』の手入れを始めたサリナから視線を逸らして再び車を走らせる。

 

「君たちも、よく諦めない選択をしたね。普通の子達ならゲヘナに行こうとは思わないよ」

 

「……アズサちゃんが、私たちの背を押してくれたんです。驚くのも嘆くのも、全部やった後でも遅くないって」

 

「私は思ったことを口にしただけ。襲いかかってくる理不尽に私たちが折れてやる必要なんてない」

 

「そ、そうよ……!私たちだって一生懸命頑張ったんだもん……!だったら、せめて最後まで……!」

 

「うふふ♡でも、ミハネさんが来てくれて助かりました……正直私たちよりも先生の方が持ちませんから」

 

「う、うん……みんな……足速いんだね……!」

 

息も絶え絶えの先生が座席にしっかりと背を預けて思いっきり深呼吸をしている。

……芳香剤はそれなりにいいものを使っているが、走ってきたこの子達の汗の香りは誤魔化せているだろうか。

ちょっとだけ、彼女たちに申し訳なく思いながらも目的地に向かって車を走らせ続ける。

 

「サリナ、ゲヘナの自治区に入る前に風紀委員に連絡して。……ヒナは忙しいだろうから天雨さんにでも」

 

「行政官ですか……私個人としては苦手なんですけど」

 

「でも、無意味な戦闘は避けたいでしょ?お願いね」

 

「……わかりました」

 

スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、何度かタップして耳元にスマホを当てた。

ほんの数コールも待たずに電話をかけた相手は出たようだ。

 

『蒼崎さんですか?珍しいですねこんな時間に……どうされました?』

 

「天雨さんに確認というか、許可というか。一応取っておきたくてね」

 

『私に許可……?どうやら周りの音的に今は車内のようですが?風紀委員も今は夜の哨戒中であまり時間は取れませんが』

 

「大丈夫、これから司法院の車両でゲヘナ自治区に入るからその許可をとっておきたくて」

 

『……なにやら面倒ごとのような気がしますが、この話はヒナ委員長には……?』

 

「伝えてたら天雨さんに連絡してないよ」

 

『……まあ、それはそうでしょうけど』

 

少しため息をついたような声が電話先から聞こえてくる。

そして、面倒ごとだとわかっているだろうにアコはサリナに言葉を返した。

 

『それで、行き先は何処ですか?学園の風紀委員棟に来るならこんな連絡はしてこないでしょう?』

 

「第十五エリア七十七番街の廃墟、そこでトリニティのとある子たちの試験が行われる事になってて……」

 

『はあ?第十五エリア七十七番街の廃墟?そんなところで試験……ですか?』

 

「信じられないけど事実なんだよね。トリニティの掲示板に正式に書き込まれた試験会場の指定場所」

 

司法院と風紀委員会のトップツー同士の会話であればとサリナはミハネからタブレット端末を借り受けてトリニティ掲示板にアクセスして補習授業部への正式な通知となった試験会場の変更のお知らせをスクリーンショットしてアコへと送りつける。

 

『確かに、送られてきた画像は確認しましたが……』

 

「そういうわけで、通行の許可とその場所への侵入の許可を貰いたいんだけど……貰えそう?」

 

『……他ならぬ蒼崎さんの言葉ですから許可を出したいところですが』

 

「……なにか問題が?」

 

『ちょうどその付近で温泉開発部の一斉取り締まりをしていまして』

 

「……だったら、私が取り締まりを手伝うと言えば?」

 

『それなら、願ったり叶ったりですが……朔月院長の許可はいただけるんですか?流石に風紀委員会としてもトリニティ司法院の副院長を勝手に使うわけにはいきませんし』

 

アコのその言葉が聞こえていたのか、サリナがミハネに視線を送ればミハネはそれに承諾するように頷く。

 

「……手伝うのは全然構わないけど、トリニティの司法院だとバレないようにしてね」

 

「了解しました。天雨さん、ミハネ院長からは許可取れました。これなら、問題ありませんね?」

 

『ええ、であれば建物周辺に部員を手配しておきますのでそこで作戦の概要をお伝えします。司法院一のスナイパーの腕前、期待していますね』

 

「任せて、それじゃあまた後で」

 

通話を切り、サリナは大きくため息を吐いた。

出来ればミハネのため以外に狙撃を行うことはしたくなかったが、大切な友人たちのためならば仕方ないと割り切って意識を切り替える。

 

「私はみんなが試験してる間は風紀委員のお手伝いに行くから、みんなは今のうちにしっかり復習して試験に挑んでね」

 

「す、すみませんサリナちゃん……面倒ごとを引き受けさせちゃって」

 

「気にしないで、私もみんなの友達でしょ?今は補習授業部でもあるんだからちゃんと巻き込ませてよ」

 

「……はい!本当にありがとうございます!」

 

「では私たちはお言葉に甘えて少しでも点を取れるように復習しましょうか」

 

ハナコのその言葉に頷いて、補習授業部の面々は少しでも点数を稼げるようにと教材に目を落とし始める。

現在の時刻は既に21:30を回っている、トリニティの外郭部分へ向かうのにあと数十分、ゲヘナの指定地点に入るまでにはまだ時間がかかるだろう。

 

「ミハネはどうしてここに?」

 

「試験会場の変更のお知らせを見たからです」

 

「そっか……でも良かったのかい?私たちを助けるようなことをして」

 

ぴくり、と先生のその言葉に車内にいた全員が耳を傾ける。

それもそうだろう、朔月ミハネはトリニティにおける最高権力者の一人。

補習授業部の設立に最終印を押したのは他でもない彼女なのだから。

 

「私の役割はトリニティに於ける公平性を保つこと。学園に必要なことであれば生徒を退学させることも選ばなければならない立場です」

 

「……それは、わかっているよ」

 

「だから、私はエデン条約に対する不安因子となる子たちが集められたこの補習授業部の設立をティーパーティーから打診された時に、この子たちが真にその不安因子となるかどうかを見極めるためにサリナを派遣しました」

 

そう語るミハネの視線はルームミラー越しに補習授業部の面々を見つめていた。

 

「確かに、私は補習授業部の設立を認め……そして試験に3回落ちれば退学にさせるという条件も承諾しました。現に、成績が振るわないならそれ相応の対応はしなければなりませんから」

 

「だったら、尚更どうして……」

 

「簡単な話です、ティーパーティーの介入によってそれが公平な条件とならなかったから。試験をしっかりと受けて落第点ならば文句のつけようもない、私とて退学の書類に判を押したでしょう。でも……」

 

日々、司法院の諜報課の子達がサリナの目を盗んでデータ化してきた模擬試験の結果を思い浮かべる。

日に日に向上していく成績、本来ならば此度のテストで合格できていたであろう可能性たち。

目的に向かって協力し、日々高めあうことができた子たちをミハネは誰よりも信じたかった。

 

「あなたたちの頑張りを、私も知っていました。だからこそ……こうして目の前の理不尽に立ち向かうキミたちの背中を押したいと、協力したいと思ったのです。表向きは、公平性を保つため……ですけどね。桐藤にもそれで押し通しますとも」

 

そう口にするミハネの表情はどこか柔らかかった。

それに先生も満足したのか、それ以上の言葉は口にしなかったのだ。

長い深夜のドライブはまだまだ続いていく。

 

 

 

***

 

時刻は午前2:20分

無事ゲヘナ地区へと侵入することができたミハネたちの乗る車は目的の廃墟に向かって走行を続けていた。

ゲヘナの救急車両のように速度無視で走れば半分くらいの時間でたどり着けたろうがミハネの立場や車両の特徴的にそういうわけにはいかない。

ここに辿り着くまでにハルナたちが風紀委員に追われているところを目撃したりもしたが、それは迂回することでなんとか回避したのだった。

 

目的地に近づくにつれて風紀委員のメンバーの数も増え始め中には幹部クラスのメンバーもちらほら見え始めていた。

そんなに厄介な連中なのか温泉開発部とやらはと思わず呆れてしまったが目的地の近くにヒナが立っていたことでその認識が正しいのだと悟った。

 

目的地の廃墟、その前に車を止める。

サリナはアコに言われていた通り廃墟の近くで立っていた風紀委員の子と作戦の打ち合わせを始め、補習授業部と先生が建物に入っていくのを見送っていた。

 

「まさかミハネがゲヘナにくるなんて思ってなかった」

 

「私こそこんな時間にヒナに会えるとは思ってなかったよ」

 

そしてミハネはというと、車から降りて風紀委員の子と一緒にこちらを待っていたヒナと話し合っていたのだった。 

 

「まさかこんなに早く会えるなんてね」

 

「本当なら調印式の少し前にお茶でも……とでも思ってたんだけどね」

 

「そんな時間取れたらいいんだけど。それよりもアコから聞いたわ、この間の……補習授業部の子たち、桐藤ナギサに色々やられているようだけど」

 

時計を見れば午前2:30分。

現場には余裕を持って辿り着いたから今は中でしっかり復習をやっているだろうと視線だけをそちらに向けた。

 

「……ティーパーティーの特定の生徒たちは向ける強権は、多少のことなら見て見ぬフリ……言い方は悪いけどそんなことに割くための時間なんてないから無視することが多い……んだけどね」

 

「エデン条約絡みであなたに直接申請してきたんだもの、司法を司り、公平で公正を謳う立場のあなたが介入しないわけないわよね」

 

「トリニティの交通機関の全封鎖、トリニティから他自治区への取り締まりの強化も含めて徹底してた。それも、正義実現委員会(取り締まる立場)司法院(私たち)を取り締まる権限を持ってないからどうにもならなかったけれど」

 

「ミハネが信用した子たちなら私だって協力してあげたいわ。試験、無事に終わるといいわね」

 

「本当に助かったよ、ヒナこそこの後の任務は取り締まりだったよね」

 

「……えぇ、こんな真夜中に騒ぎを起こすんだから少しキツめにするつもり。めんどうだけど、そうもいってられないから」

 

大きくついた溜め息、それがこの後起きるであろう一斉取り締まりの規模を物語っているようで、ミハネ自身もどうするかと思案する。

ミハネ個人としてはヒナに協力してさっさと終わらせてしまいたいところではあるが、司法院の院長としてこの場にいるということはゲヘナ生に対して無闇に攻撃するのは立場的に憚れる。

 

「……ミハネはあの子達のことを待っててあげて。できるだけこっちに被害は来ないように頑張るから」

 

「ありがとう、心配しなくても大丈夫だろうけどヒナも気をつけて」

 

「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってくるわ。あなたのところの副院長、存分に使わせて貰うから」

 

そう告げて、ヒナが歩いていく先にはゲヘナ風紀委員の制服に顔が見えないように深くフードを被ったサリナの姿があった。

 

「ではミハネ院長、私も少し行ってきます」

 

「うん、サリナも気をつけてきてね」

 

「はい!それではこれより空崎風紀委員長の指揮下に入ります。よろしくお願いします」

 

「ええ、よろしくお願いするわね」

 

手入れを完璧に済ませた『アストライア』を担いでサリナとヒナが暗闇の中に溶けていく。

そこから間も無くして遠くの方から銃撃や爆撃の音が響き始め。

 

 

 

 

 

 

午前3時を少し回った頃、目の前の廃墟が爆発を起こし補習授業部と先生を巻き込んで倒壊したのだった。

 




着実に2章も終わりが近づいて参りましたね。
それと同時に明確な戦闘描写が近づいてきている証でもありますが……
おそらく僕の作品に求められているのはミハネによるモルガンの能力を使った戦闘。
皆様を楽しませることができるか一抹の不安が残っていますが頑張っていきたいと思います。

作品への高評価と感想、とても心待ちにしております。






「……そっか、もうここまで来ちゃったんだ」
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