ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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憧れる、ということは決して悪いことではないと思います。
ええ、私もある人に憧れていた時期がありましたから。
だから、憧れは憧れでしかないというのを忘れてはいけませんよ?
その人になろうとしてはダメなのだと知ったのは随分後になってからでした。
今はですか?ふふっ……
今はその人のことを支えられる立場で働けていますし
当時の目的というか夢は果たせていますね。

          トリニティ総合学園副理事長 桐藤ナギサ


第十三証明 私にとって貴女は

 

第二次特別学力試験の翌日。

結局あの廃墟の倒壊が原因で試験用紙は紛失。

補習授業部は試験用紙の紛失が原因で全員が不合格となった。

原因は建物の中に仕込まれた数十に及ぶ爆弾の数々の爆破によるものだった。

 

それが原因でシャーレの先生を含む補習授業部の面々が負傷。

血相を変えたミハネの救出とゲヘナ風紀委員のチナツが緊急手当てをしたことによりことなきを得たが……

 

「……今通って行ったのってミハネ様よね?」

 

「まるで“あの頃”のような顔をしていらっしゃったわ……」

 

現場にいたミハネは使用された爆弾がトリニティ製のものであることを調べ上げ、その調達ルートを始めとした諸々を証拠としてまとめ上げた書類を手にティーパーティーのテラスへと足を向けていた。

 

「桐藤ナギサに用があります。すぐに取り次ぎなさい」

 

「は、はいっ!すぐに取り次ぎます!」

 

テラスへ続く扉、そこを守護するティーパーティー所属の生徒がミハネが振りまく圧力に耐えきれずに半泣きのままテラスへと走っていき、数分と待たずに戻ってくる。

 

「ど、どうぞ……!中でナギサ様とミカ様がお待ちです……!」

 

テラスへと続く扉を開き、ミハネがテラスへと消えていく。

無意識に振り撒いていたあの巨大な威圧感がテラスの奥へと消えていく。

扉を開いていた少女はそこでようやく自分の脚がカタカタと震えていることに気がついた。

“あの圧力”がかつてトリニティ総合学園中等部に君臨していた氷の女王かと震える脚とおぼつかない呼吸を整えながら少女は静かにテラスへと続く扉を閉じたのだった。

 

 

***

 

穏やかな日差しが差し込むティーパーティーのテラス。

そこで先ほど半泣きで走って来た少女が告げたように、どんどんと近づいてくる強大な威圧感に空気がひりつくような感覚を感じていた。

どんどん大きくなる足音に、思わずナギサは喉を鳴らした。

 

「やっほ、ミハネちゃん。ナギちゃんは見ての通り緊張しちゃってさ、代わりに私が挨拶させてもらうね」

 

「そう、緊張しているならなぜ私がここに来たかわかっているだろう。今日の昼までに昨日の件についての各種証拠も押さえて来た。さあ、弁明を聞かせてもらおうか?桐藤ナギサ」

 

ミハネの視線はミカに向かうことなく、まっすぐにナギサを射抜いていた。

ナギサが尊敬してやまなかったあの冷たい氷のような瞳が、今度はナギサに向けられている。

 

「あれ?ミハネちゃんってば私のことは無視?ナギちゃんにお熱なんて流石に妬いちゃうかなー?」

 

「ミカ、自分の懐を突かれたくなければ少し黙っていなさい」

 

「わ、わーお……これは私でもどうにもならないかなぁ〜」

 

なんとか場を柔らかいものにしようとしたミカも過去に一度本気でキレられた時と同じようなあんまりな対応に即座にこの場の空気をどうにかしようという考えは即諦めた。

今日は大人しく紅茶とロールケーキを食べていよう、と心に決めてまるっとみかんが入ったロールケーキを自分とミハネのお皿に取り分けてもぐもぐと現実逃避気味に食べ始めた。

 

「まず聞いておこうか、昨日のアレはどういうことか納得のいく説明をしなさい」

 

「昨日のアレ、とはどのことでしょうか?補習授業部の試験会場の変更のことですか?それとも“偶然にも廃墟が爆発して試験用紙が紛失した”ことでしょうか?」

 

「わかっていて答えているなら話は早い。そうまでしてあの子達を排斥したいか?」

 

「必要だから、やっているまでです。3回のチャンスなど初めから詭弁です、エデン条約……ひいてはトリニティ全体の癌になる可能性があるのなら2度目以降のチャンスなど与えるわけないではないですか」

 

「…………」

 

「…………」

 

いやな沈黙がテラスを支配する。

ミハネが手にしている資料は間違いなく昨夜の爆弾の調達ルートや設置するために使った人員、資金の流れの全てを纏めているとナギサは察している。

だからこそ、下手な言い逃れはしない。

背中に流れる冷たい汗に意識を向けることなく、平穏を装って目の前の冷たい瞳に相対する。

 

「では、昨日のアレが……先ほどの言葉がティーパーティーの総意と受け取っていいのだな?」

 

「それは……!」

 

「違うとでも……?3つの派閥に3人の生徒会長、その総意だからこそあの決定となったのではないのか?」

 

「……そうだね。アレはティーパーティーの決定。ミハネちゃんのいう通り、今はセイアちゃんがいないけど私とナギちゃんが決めたこと……ってことになるよね。普通はさ」

 

ミカが小さく口を開く。

だが、それにナギサが声を大きく反論した。

 

「違います……!ミカさんは関係ありません!昨夜の掲示板の更新の時だってミカさんはミハネさんの部屋にいたはず……!」

 

「だからなに?ナギちゃんのやったことは私のやったことでもあるよね?ティーパーティーってそういう組織でしょ?私だけが知りませんでした、なんて言い訳として通用しない……特に司法院長の前ではね」

 

「……それでも、ミカさんは関係ありません。あの判決は私一人で行って私が指示したことです。それ以上でもそれ以下でも……」

 

「だからどうした……?私はそんなことを聞きに来たわけでもお前たちの庇い合いを見に来た訳じゃない。納得のいく説明をしなさい、と言ったはずですが?それに……」

 

一際大きく、呆れ果てたようなため息がテラスに響く。

 

「お前たちでさえ意思の疎通が、方針の決定ができていないのにどのようにして学校の運営を……ひいてはエデン条約を成した後のキヴォトスを牽引していくと……?馬鹿馬鹿しい、どうやら今すぐにでもティーパーティーの解散を打診した方が賢明なようにも見えますが?」

 

「……っ!」

 

「このトリニティという古き歴史を持つ学園を、3つの意見、3つの理性、3つの意思で統治し一つの派閥の暴走を許さないことこそティーパーティーの役割だ。それすら成せないのであれば……すぐにでも新しい代に、いいや……トリニティの生徒会のあり方すら変えてしまう必要があるでしょう」

 

「それは……それは横暴です!司法院長にそれほどの権限はありません!」

 

「権限がない……?それはそうでしょう、だからこそ司法院がティーパーティーが行って来た強権の数々や揉み消した都合の悪い出来事を徹底的に洗い上げるのでしょう?それを踏まえて全生徒に問い掛ければいい、悪しきは強権を振るうティーパーティーか、改革を打ち出す司法員か……と」

 

ナギサもミカも、返す言葉を失う。

そう、トリニティの司法……それを一手に担う司法院。

その院長はティーパーティー、シスターフッド、救護騎士団の長から直々に任命されることで就くことのできるたった1人のみ。

それはティーパーティーへの不信任案を打ち出すだけではなくそれに伴う強制捜査の権限やその他の組織にも同じことを出来るだけの強大な権力を持つからこそ、トリニティで権力を持つ者たちからの指名を受けるのだ。

 

それに……トリニティ総合学園において、【朔月】の名前はあまりにも重い。

初代司法院長、その家系の言葉の重みはもはや魔法にも等しいほどの発言力を持つのだ。

だから、ミハネが本気で学園の改革を行うと口にすれば……残りの任期の間だけでもその骨子を確実なものにすることくらい容易いだろう。

ミハネには、それを出来るだけの力と能力があるのだ。

 

「……ミハネさんのいうことは、確かに正しいのかもしれません。ですが、ですが……!学園の運営を担うティーパーティー、そこに就くことができる能力がありながらその責任から逃れて派閥に参加しなかった貴女にそんなことを言う資格があるのですか?」

 

「…………」

 

ナギサの絞り出すような言葉に、今度はミハネが黙る番だった。

 

「私は……中等部の最後の年に貴女の隣にいて貴女の理想を叶えることが出来る立場にいたことが誇りでした……!何処の学園も成すことのできなかった完全平和を中等部のみではありましたが実現したことを何よりも誇りに思っていました!」

 

己の胸の内を、憧れへと吐き出すことはないと決めていたのに。

一度口にしてしまえば、それはどんどん溢れていってしまう。

 

「高等部になって、私はまた貴女の力になれると……貴女の力になれるならと努力をして来ました!だというのに……!ミハネさんは半年間もどこの派閥にも属さずに挙げ句の果てには司法院に身を置いて!」

 

ぽろぽろと、ナギサの瞳から大粒の雫がこぼれ落ちていく。

 

「せめて貴女に認めて欲しくて必死に努力しました!寝る間すら惜しくて貴女のような完璧な為政者になりたくて必死に努力したんです!でも……貴女は私を見てはくれなかった」

 

「……ナギちゃん」

 

「貴女の瞳には司法院の後輩たちとお茶会をするような仲であったサクラコさんとミネ団長……そしてミカさんしかいなかったんです」

 

普段の彼女からは想像もできない、感情に任せた一方的な言葉。

それでも……ミハネもミカもそんな言葉を一蹴することはできなかった。

 

「いつか、努力して学園を良きものにすれば貴女が私を見てくれるはず。エデン条約を完璧なものにすれば貴女の視線を向けてもらえる……私が誰よりも憧れた貴女に認めて貰える為には完全無欠な、無駄と悪意が一つも残らない完璧な為政者に……と、思っていたのに」

 

涙を溢していたその瞳が、徐々に再び決意の籠ったものに戻っていく。

ミハネもそれを察して泣いていた少女をしっかりと見つめた。

 

大切な友人(ヒフミさん)すら切り捨てて、もう引き返せないところまで来たんです。例えミハネさんに不信任案を提出されても……エデン条約の締結までにその手続きが終わることはありません」

 

「……納得できる話では、正直ありませんでした」

 

「そうでしょうね……私はただ泣きながら自分の感情をぶつけただけですから」

 

「だが……」「ですが……」

 

2人の声が重なった。

二つの意思が、ティーパーティーと司法院としての立場が……次の一言で決定的に分かれてしまうことをお互いに察していた。

 

「私は、例え貴女に認めてもらえなくても……エデン条約をなす為に【トリニティの裏切り者】を排斥します。それが、私が導き出した最善の手です」

 

「そう……なら立場は決まりましたね。私とお前はこの瞬間、決定的に相容れない立場ということだ」

 

ミハネとて、ナギサの言葉でなにも感じないわけではなかった。

中等部の時に行っていたミハネの政権は確かに完璧な政権と呼べるものでもあったし、それに憧れるという気持ちも自分なりに理解はした。

だが、憧れた結果があの少女たちの排斥であるならば……それは話が別だった。

 

「私たち司法院の裁定は『補習授業部』の少女たちに罪はない、で確定した。その彼女たちを公平ではない試験で振るい落とそうとするならば、天秤を掲げる私たちは彼女たちの為に動きます」

 

「……そうですか。本当なら先生ともミハネさんとも敵対はしたくありませんでした。エデン条約の締結を望むもの同士、その結末は同じなのにどうして相容れないんでしょうね」

 

ナギサのその言葉がテラスに吹き込んだ風に乗せて消えていく。

ミハネは結局用意されたテーブルにつくことはなく、手に持っていた書類をナギサの目の前に置いて背を向けた。

 

「ミハネさん、1週間後の試験……あの子達がどれだけ勉強しても無意味だということ、それだけは忘れないでください」

 

「……あの子たちのこと、みくびらない方がいい。ゲヘナに試験会場が変更になったからと迷うことなく走って行ける子達だ」

 

「そうですね、その点は……確かに評価しなければいけません。昨日の件は下手に学外にしたのが失敗でした……ですが、今度は絶対に失敗しません」

 

遠ざかっていくミハネの背中にそんな言葉を最後に投げかけて、ミハネの背中が扉の先に消えていくまで彼女から一切視線を逸らすことはなかった。

 

「ナギちゃん、こんなことになって良かったの?」

 

「……いいわけ、ないでしょう」

 

噛み締めるように、吐き出された言葉はナギサの心が限界を迎えていることを指し示していることをミカは理解していた。

 

「だったらあんなに強がらなければ良かったのに……」

 

「……ミカさんも、ミハネさんと同じ気持ちでしょう?」

 

「バカだなぁナギちゃんは、私だって私の目的があってティーパーティーをしてるんだよ?」

 

「そう、でしたね」

 

「私もミハネちゃんと敵対するってなれば怖いけどさ、それはナギちゃんも同じだよね。ましてや憧れなんでしょ?」

 

「はい……ミハネさんのようになりたい、と。ずっと……おもって……いたのに……」

 

ぐすっとテラスに再び小さな鳴き声が響く。

私の幼馴染はここまで泣き虫だっただろうかと考えながらもその原因がおそらく大好きな幼馴染なのが複雑な気分だった。

ここはひとまず、目の前の頑張り屋な幼馴染が泣き止むまでは胸でも貸してあげようとキャラでもないと思いながらそっとナギサを抱きしめることにしたのだった。




中学校3年生の時のミハネは先生とナギサとの会話で出て来た通り、冷徹な氷の女王と呼ぶべき政権を敷いていました。
初めのほんの数ヶ月をのぞいて、戦闘を含んだ問題ごとが一切起こらなかったその手腕にナギサは憧れ、それと同時にミハネのような為政者になりたいと思ってしまったのです。
それが結果として上手くいかないどころかその憧れにすら敵意を向けられてしまう結果になってしまいましたが。

がんばれナギちゃん、ミハネに負けるなナギちゃん。

皆様からの高評価や感想、喉から手が出るほどお待ちしています。
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