ここだけミカの幼少期に幼馴染が2人いた話。   作:今井綾菜

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第二話 司法院の日常

 

突然だが、幼い頃の記憶というのは大抵朧げな思い出となって高校生くらいになるとそれはもうぼんやりとした輪郭のないものに変わってしまう。

たとえそれが大切な思い出であったとしても、目まぐるしく様々な変化が訪れる学生の境遇では瞬く間に記憶の片隅に……『こんなことがあったな』程度の記録に変わってしまうのだ。

 

「……ミハネちゃんが探してる“あの子”ってどんな子だったっけ」

 

そして聖園ミカもまた……そのうちの一人だった。

 

「大切な子だったのは覚えてる。色違いの星型のアクセサリーをみんなで買ったのも覚えてる。でも……名前は?どんな顔だったかな?」

 

どんなに思い出したくとも彼女にとって12年前の記憶はとても遠い記憶になりつつあった。

それ程までに彼女を取り巻く環境は変わり、ナギサという幼馴染を得て、パテル分派の首長にまで押し上げられるまでに顔も名前も覚えきれないほどの人と出会って、過去の記憶はどんどん薄れていってしまっていた。

 

ましてや、まだ5歳になってすぐの頃の記憶などほぼ無いに等しかった。

 

「んー、ミハネちゃんに直接聞く?でもそんなこと聞いたら“あの子”のことを忘れたんだって悲しい顔をするよね」

 

ミカにとってミハネはとても大切な存在だ。

誇張なしに生まれた時から一緒に居る、小学校に上がってからずっと一緒のナギサも大切な幼馴染だが……ミハネは根本的に違うのだ。

親友であり幼馴染、だけどミカにとってはミハネは姉のような存在でもあった。

そんな人を悲しませるような事は基本的にはしたくはない。

例え自分がもう引き返すことができない事をしでかしていたとしても、最後には彼女を悲しませてしまうかもしれなくても、出来るだけ彼女を悲しませることだけはしたくなかった。

 

「……でもアリウスのあの子、錠前サオリだっけ?あの子はなんだか何処かで見たことあるような気がするんだよね。多分気のせいとかじゃなくて確実に何処かで会ってるんだけど……うーん、思い出せないや」

 

思い出せないと言う事は結局そこまでなのだろう。

それに、“あの子”を探す事はエデン条約を覆してからでいい。

 

「私は私のやり方で探してみせるよ」

 

普段からは想像もできないような暗い影を落として、彼女はティーパーティーの執務室へ向かう。

その表情には先ほど浮かべていた影は消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

****

 

「お疲れ様です、ミハネ院長」

 

「うん、サリナこそお疲れ様」

 

定期的に行われる司法院内での活動報告を終えて凝った体をほぐすように大きく伸びをする。

月に一度行われる司法院の活動報告は主に学園内で起きたゴタゴタや軽い事件、生徒間のトラブル等、日々無数に送られてくる有象無象の意見書に対しての対応など学業が終わる午後4時から約3時間程度報告しあい、それを書記官が纏めて私が翌日に改めて目を通す。

トリニティにおける政治に関わる部活や正義実現委員会、救護騎士団なんかは日々忙殺されているが、この司法院とて例外ではなかった。

 

だが、そんな19時近くまで行われた会議を終えても司法院の生徒たちはそれぞれ今後の対策やどのように連携していくかなど親しいものたち、はたまた数人の部員を巻き込んで話し合っている。

 

「ほんと、みんな帰らないよねぇ」

 

「ミハネ院長が普段から仕事ばかりして帰らないのが他の司法院の子達に感染ったのでは?」

 

「私を感染病かなんかみたいに言わないでくれる?よーし、みんなその辺りにしよう。隣の部屋にお弁当を用意してあるからみんなで食べて帰ろうか」

 

このまま放っておいたら平気で22時さえ超えてしまいそうだ。

その前にと思って切り上げるように会議前に作っておいた50人分のお弁当をみんなで食べて帰ろうとしたわけだが

 

「っ!?もしかしてミハネ院長の手作りですか!?」

 

「え?うん、そうだけど」

 

その一言がきっかけとなってまずは一番扉側にいた子たちが扉を勢いよく開いて弁当の中身を確認する。

 

「唐揚げ弁当だー!」

 

「やったあああああああああ!!!!」

 

我先にと隣の部屋に流れ込んでは何やら満足げに弁当を手にもどってくるを苦笑いで見つめてはこう言うところは年相応で何よりと満足げにミハネは頷いている。

その心はまさに食べ盛りの少年少女を見る母親のような視線だが……

 

(実質ミハネ院長ファンクラブのような今期の司法院の生徒たちが推しからのお弁当ではしゃいでるだけなんですけどね……)

 

サリナとてその一人だが敢えて顔には出すまい。

人が引いたのを見計らって自分の分とミハネの分を取ってくるのだ。

 

「はい、ミハネ院長の分です」

 

「うん、ありがとうサリナ」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

顔には出さないようにしてはいるが嬉しいものは嬉しいのだ。

さりげなく、あくまでもさりげなくミハネの横へと座り、お弁当を食べ始めた。

 

「ミハネ院長のお弁当食べるためだけに1ヶ月頑張ったって言っても過言じゃないよね」

 

「私はこのために生きてるわ」

 

「授業が終わったら即司法院の制服に着替えて活動だからね。正直結構しんどいけど司法院で良かったと思える瞬間はたくさんあるわ」

 

みんなで談笑しながら同じ弁当を食べる。

ミハネはこの時間がたまらなく好きだった。

普段は感情を抑えて学業と司法院としての仕事に励む彼女たちが、笑顔になって食事をしている光景が堪らなく愛おしいのだ。

 

「ふふっ、やっぱり好きだな。この仕事」

 

普段無表情を貫くサリナもこの時だけは頬を緩めるのだ。

 

「あっ!私のタケノコ盗ったわね!!!!楽しみにしてたのに!!」

 

「気のせいだよ気のせい」

 

ギャアギャアと騒いでいる子たちを見て笑う。

いくらこの学園の司法を担う生徒であっても、食べ物での争いは避けられないらしい。

 

「戦争よ!ミハネ院長の作ったお弁当のおかずを盗った罪は重たいわ!」

 

「はいはい、タケノコなら私のをあげるから大人しくご飯食べようねー」

 

椅子から立ち上がり銃を使うことも厭わない勢いの子を宥めるために怒り狂っているこの口にタケノコの煮付けを口に捩じ込んだ。

 

「おいしい?」

 

「おいひいれふ……」

 

「ならよし、君もだめだよ?欲しかったら私に言ってね」

 

「はーい」

 

大人しく椅子に座った子を見て私も元の席にもどってお弁当を食べ始める。

 

 

 

みんながお弁当を食べ終えた後、片付けを手伝ってくれて結局帰ったのは21時を回った頃だった。




組織解説
司法院(しほういん)
トリニティ総合学園設立前から存在する各分校から集まった聴聞会における最終裁決権を持った組織。
本来は各学園の生徒会長からの指名で司法院長を選出していたが、時間が流れ派閥が衰退し減少していったことで現在ではティーパーティー、シスターフッド、救護騎士団の使命によって選出されることになっている。

また、現在では聴聞会での裁決権の他に学園内における手続きの最終チェックや各派閥に対しての不信任案を叩きつける役割も担っている。

現在は朔月ミハネを院長として副院長の蒼崎サリナを始めとする約50名が在籍している。


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