まだ触り程度ですが
目的地である柴関ラーメンには地図アプリを使用していたこともあって迷うことなくたどり着けた。
店構えは2年前に見た時と変わらず古き良きラーメン店とでも言わしめるような外観をしている。
前来た時には当時の院長と副院長に連れて来てもらったなと思い出してほんの少し笑みが溢れる。
今度来る時はサリナと他の院生の子達も連れてこようと心に決めて店の中に足を踏み入れた。
「こんにちは大将、今日は随分と賑やかみたいだね」
「いらっしゃい!こりゃ随分珍しいお客さんも来たもんだな、ほら好きな席に座りな!」
入り口付近に座っているゲヘナの生徒とその席に相席していた“連邦生徒会と同じコートを羽織った”大人の男性の横を通り過ぎ、カウンター席の真ん中に座る。
「少し見ない間に随分立派になったじゃないか」
「覚えていていただけて光栄です。今度来る時は後輩たちを連れて来ますね」
「ありがたいねぇ、その制服を見る限り今はミハネちゃんがトリニティの司法院長なんだろ?」
「ええ、あの時の副院長からその責務を受け継ぎました。私には少し重く感じますけどね」
2年前にたった一度会っただけの私の事でさえ覚えていて尚且つトークにまで花を咲かせてくれるとは、この店が何故先輩たちに愛されていたのかなんとなく理解できた気がした。
「注文は……先輩たちと同じでよかったかい?」
「はい、柴関ラーメン大盛りチャーシューと味玉トッピング……でしたよね?」
「ミハネちゃんこそ2年も前なのによく覚えてるな」
「私、記憶力はいいんです」
トントンと自分の頭をこづく仕草をすれば大将は気持ちよく笑った後「ちょっと待ってな」と言い残して厨房の方へと消えて行った。
大将がラーメン作りに勤しんでいる間、少しでも業務を減らしておこうと鞄からタブレットを取り出して再び電子書類へと視線を落とす。
「……やあ、隣いいかな」
「……座ってから確認するのはあまり礼儀がいいとは言えないのでは?」
「あはは、手厳しいね。でもその通りだ」
「向こうにいるゲヘナの生徒たちはいいんですか?風の噂に聞く“シャーレの先生”は生徒であれば見境なく声をかける方だとは思っていませんでしたけど」
タブレットから視線をずらすことはなく淡々と先生への対応をしていく。
正義実現委員会の羽川ハスミからは悪い評価は聞かなかったが、それでも司法院のトップである私が警戒をしない理由はないだろう。
「警戒されちゃってるみたいだね」
「むしろ警戒しない理由がありますか?連邦生徒会長が失踪前に作った連邦捜査部S.C.H.A.L.E……そこに与えられた権限とタイミングを考えればむしろ当然だと思いますけどね」
タブレットの電源を落として鞄の中に仕舞う。
頼んだ一杯を持って大将が近づいてくるのが見えたから近くにあった箸を一つ取り出し……
「はいよ、柴関ラーメンお待ち!」
「ありがとうございます、大将。それではシャーレの先生、私は食事をいただきますので……」
そこまで口にして遠くの方で大きな音が響いた。
それはよく執務中に聞こえる演習場での音に酷似していて───
「───みんな伏せて!!!!」
咄嗟に近くにいた大将と先生を翼で守るように囲んだその刹那。
柴関ラーメンの店の約半分が粉々に吹き飛んだ。
****
「着弾確認、効果アリです」
「よし、歩兵第二小隊まで突入」
迫撃砲を放った風紀委員の言葉に頷き、イオリはそのまま次の指揮を出す。
視認できる範囲では迫撃砲は的確に目標地点を撃ち抜き、あのラーメン屋にいた便利屋68の面々を襲ったはずだ。
「イオリ、こんな白昼にそれも営業中の店へ砲撃を行うなんて少しやりすぎでは?」
「ん?そもそもこの地区……えっとアビドスだっけ?」
イオリのやり方に一抹の不安を覚えたチナツの言葉にイオリは辺りを見回しながら言葉を続ける。
「見渡す限りの廃墟、どう見たってゴーストタウン以外の何者でもない……こんな場所で迫撃砲を使った爆発が起きても悲鳴の一つも上がらないじゃないか」
「そうですけど……限度っていうものが……」
「それに、砲撃を行う前に店内のスキャンも行った。便利屋の4人に加えて店の奥側に民間人が3人、そいつらには当たらないようにちゃんと撃ち込んだだろう?」
自身の得物、ライフルを担ぎ直して視線をチナツから砲撃を行ったラーメン屋を凝視する。
「それに誰であれ、公務を妨害する奴は全員敵だ」
「それなら穏便に済むようにまずは話し合いを……」
しましょう、そう言葉にすることは叶わずイオリとチナツの間をどう見ても客席の一つであったであろう椅子が高速で通り過ぎて行った。
「なんだ!」
「そんな……イオリ!今すぐ突撃させた部隊を止めてください!」
チナツの切迫した叫び声が響くのと同時に……迫撃砲が着弾した現場の爆煙が晴れる。
そこから現れた姿にチナツは……いや、イオリですら息を呑んだ。
黒衣の天使、全身を漆黒でまとめ上げた制服に純白の大翼……そしてなによりその銀の髪は爆煙の中から現れたにしては美しすぎた。
「こんな遠くまでわざわざ食事をしに来たっていうのに、私はなんで食事の前に迫撃砲の襲撃を受けてるんだ」
両手には彼女仕様にカスタマイズされたMP5Kが握られている。
その顔は如何にも怒っていますと一目でわかるほど眉間に皺が寄っていた。
「朔月……ミハネ……」
「だから限度があると……」
ゲヘナ風紀委員とトリニティ司法院長。
本来ならば出会うはずのないアビドスの地で最悪の邂逅を果たしてしまったのだった。
***
「まさかエデン条約を前にしてゲヘナの風紀委員に爆撃されるとは思ってなかったよ」
意識を失っている店内にいたゲヘナの生徒を先生と大将に任せて外に出てみれば、目に入ったのはまさかのゲヘナ風紀委員会。
そしてその陣頭指揮をとっているのは銀鏡イオリ。
思わず頭を抱えたくなるような光景だった。
何故こいつらがアビドスにいるのか、何故店内を偵察せずに迫撃砲など撃ち込んだのか。
わからないことは山ほど……いや、星ほどあるがひとまず“私”が奴らに攻撃するのは状況的には正解でも、立場的にはアウトだった。
どう対処するのがいいか、いくつか案は浮かんだが。
アビドスの子達が来る前にこいつらに一番効く方法を取ってやればいいんだ。
銃を一丁ホルスターに戻してその代わりスマホを取り出す。
連絡先から目的の人物を見つけてコールすれば相手はすぐに電話に出た。
「あっ、もしもしヒナ?」
『……?珍しいねミハネから電話してくるなんて、エデン条約のことで話したいことでもあった?』
「それは近いうちゆっくり話せればと思うんだけど。今アビドスで食事を取ろうとしてたらヒナのところの部隊に砲撃されたんだよね」
『………………はぁ。少し待ってて、近くまで来てるから今すぐ行く』
暴力は行わない、けれど言葉と立ち回りで相手に勝つことなんていくらでもできるわけ。
「銀鏡さん、ご立派な部隊を引き連れて来てくれてありがとう。いまヒナが来るみたいだからもう少し待っててね」
「はあっ!?委員長が来る!?そんなわけ……」
『そんな訳ありません!ヒナ委員長はいま遠方の方へ偵察へ出ていて……』
……釣られて今回の元凶みたいなやつも出て来た。
正直そんなことだろうと思ってはいたが……
「なんでも近くまで来てるってさ天雨さん」
『そんな訳ないでしょう!委員長はあと半日は戻ってこれないはず』
「……何してるのアコ、それにイオリもこんなところでこれだけの部隊を引き連れて何をするつもり?」
宣言通り、数分もしないで到着したゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナは自身の部下たちへ普段以上にドスの効いた声音で問いかけるのだった。
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作中人物紹介
プロフィール①
CV: 石川由依(FGOの救世主トネリコやモルガンのような声音)
年齢: 17歳
誕生日: 5/7
身長: 161cm
体重: 51kg
血液型: A
所属: トリニティ総合学園司法院